婚約破棄された伯爵令嬢の元に謎の恋文が届きました

彩伊 

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第二章

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 グレースとの昼食が終わり、私は店への帰り道を歩いていた。
 店の通り道まで戻り顔を上げたその時、店の前に何やら大きな馬車が停まっているのが見えた。
 普通の庶民が使うような馬車ではない。
 華美な装飾が施されていて、一瞬で貴族が乗っているものだと推測できる。
 その中から、人が出てきたのが見えた瞬間………私は思い切り顔をしかめてしまった。


 輝くようなプラチナブロンドの髪と透き通るような翠色の瞳、そしてはっきりと通った鼻筋は彼の優雅な雰囲気を引き立てている。
 相変わらず、外見だけは素晴らしく美しいロベルトがそこには立っていた。
 ………………中身は完全に空っぽなのが残念な男よね…………。

 ロベルトは私に気がつくと、すぐに近くに駆け寄ってきた。
 ……………こんな平民街に、侯爵家の嫡男が何の用で会いにきたというのだろう。
 私は不安になって、後ずさったがロベルトはすぐに私に追いついた。
 私は久しぶりに見たロベルトの表情を見て少し首を傾げた。
 彼の顔にはいつも余裕そうに浮かべている笑顔はなく、眉を寄せて苦悶としていたのだ。
 ………何かあったのね………???


 「やあ、マリー。久しぶりだね。」

 「何の用ですか。」

 せっかくの誕生日パーティーで、私のことを盛大にフったくせに、普通に話しかけて来ることにまずムカついた。
 そもそも、婚約破棄をした相手の元にのこのこ現れることがまず理解不能だ。
 私は小さくため息をついた。

 「君と話したいことがあってきたんだ。少し時間をくれないか???」

 「私、今働いているんです。仕事が忙しいので時間はありません。申し訳ないですが失礼いたします。(アンタとは一言も言葉を交わしたくない。というか関わりたくもない。さっさと屋敷に帰ってください)」

 心の中の声は我慢し、笑顔を浮かべながら私はそう言った。
 そして、唖然とするロベルトの横を素通りして、店に向かって歩いた。

 しかし相手はあの自己中心男のロベルトだ。
 彼は私の腕を掴み、その場に引き止めた。

 「離してください」

 「君が怒っているのはわかっている。だけど少しだけでいいから、話がしたい」

 ロベルトが私の腕を掴む力は強くて、簡単には手を離してはくれないであろうことを察した私は今度は普通にため息をついてしまった。
 彼の話には心底興味がないけれど、聞いてあげることにしましょう。
 どうせ何を言ってもロベルトには無駄だわ。
 それならさっさと話を聞いた方がマシ。


 「わかりました。でも少しだけです。 私は今、生活費を自分一人で稼いでいるんです。仕事をクビになったら生きてはいけません。だから早くしてください」

 「では、私がお金を払えば君はもっと私と話してくれるのかい???」

 「……………ロベルト様。確か私は貴方に”婚約破棄”をされたと思うのですが.........そんな相手と会っていることが知られたら、貴方の評判にも差し支えるのでは???」

 「……………っ!!そのことで話があるのだ!!」


 ロベルトは必死な顔で私を見つめている。
 一体全体、その用とは何なのだろうか。


 「聞いてくれ、マリー。私は騙されたんだ!!!!!」

 「………………はあ、どういうことですか???」

 「君の姉、ミラに騙されていたんだ!!!」

 「………………あぁ……………」


 ……思ったより早く気がついたんですね。
 ということは、ミラはもう王族を手玉にとって、ロベルトを捨てた後なのだろうか。
 それで、この男は私に泣きついてきてると……………???


 「私は、君がミラに嫌がらせをしていて、両親もミラを愛していないという話を聞いて気の毒に思ってしまったんだ。私がどうにかしてあげないといけないと........!!!」

 「それで....貴方は証拠もなく、私を責めて婚約破棄をしたのですね」

 「そ、それは..............本当に申し訳ない。私が................全部悪いのだ...............。」


 そのロベルトの言葉に、私は目を丸くした。
 プライドの塊のようなロベルトが素直に私に謝った!?!?!?
 明日は大雪でも降るのかしら............。
 とにかくミラに裏切られたことが相当効いていることは確かだ。
 そうでなくちゃ短期間でこんなにも人が変わったようになることはない。

 ただこれで私の心の靄が晴れる訳はない。
 ”貴方が気の毒と思った話はで、そんな私を貴方は苦しめたのよ”
 と言ってしまいたかった。
 だけどやめた。
 八つ当たりみたいだからだ。

 私は今の生活が楽しい。
 ………幸せだ。
 きっとロベルトやミラよりも…………ずっと。
 だから私を陥れたことについては、忘れてあげよう。


 「それで、”騙されていた”ということをわざわざ伝えに来たのですか???」

 私の言葉にロベルトは首を振った。
 彼の表情は不安そうで、目を左右にキョロキョロと泳がせている。

 「………………ロベルト様、私そろそろ時間なのです。言いたいことがあるのなら、急ぐか…また今度にしていただけませんか???」

 「っ!!!今、伝える!!私は…………私は!!!
                      ……………君との婚約をもう一度結び直したいのだっ!!!」




 
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