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彼視点②
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――好きだからに決まってるじゃん。
聞こえた言葉に一瞬息が止まった。
「……」
吸い込んだ息で何度も噛み締めて、吐き出した息で響かせる。そうかな、と思ったけど。そうだろうな、と期待したけど。ハッキリと伝えられると嬉しさが溢れて止まらなくなる。
「そっか」
揺れ続ける心臓の隙間から声を絞り出す。じわじわと顔が熱くなり、繋いでいる手が汗ばんでいく。
じっと見上げられた瞳はまだ濡れていたけれど、拭った指先はもう乾いていた。一瞬だけ触れた肌の柔らかさを、顔の小ささを思い出して心臓がバクバクと音を立てる。
繋がったままの視線に何を言えばいいのかわからなくなった。顔を合わせれば当たり前に言葉を交わしていたのに、今だけは何も出てこない。頭はふわふわとして働かないし、嬉しいのに気恥ずかしくて胸は落ち着かない。彼女もきゅっと口を閉じたまま、俺を見上げている。
「えっと……」
何かを言わなければと開いた口へ冷たい温度が流れ込む。びゅわり、と唸りながら吹き付けてきた風に視界が狭まる。思わず指先に力が入った。ビクッと小さく震えた彼女の手。風になびく長い髪。鼻の先も目の下もまだ赤い。
「……」
自然と体が動く。頭で考える前に手を伸ばしていた。守らなくてはと思ってしまった。
きゅっと抱きしめれば「ふぇっ」と鳴き声みたいな音がこぼれた。こぼれた音に胸が反応する。くすぐったくてたまらなくなる。
「ふ、ふは、何その声」
思わず笑えば
「だ、だって」
といつもはスラスラと言葉を紡ぐ彼女が声を詰まらせた。
海の匂いよりも彼女の柔らかな香りでいっぱいになる。風の冷たさよりも彼女の体温を強く感じる。視線を向ければ俯いた彼女の小さな耳が赤く染まっていた。さらさらと流れる髪の上で太陽の光が揺れる。
――そんなって、どんな?
耳の奥で響いた彼女の声。
――かわいい?
まっすぐ向けられた視線。
――その髪型かわいいね。
俺が言えなかった言葉を口にした先輩。
今日の出来事が頭を一瞬で駆けていき、自然と唇が動く。
「好きだな」
「へ?」
目を丸くして顔を上げた彼女に俺は笑って言う。
「その髪型」
「なっ、え、髪って」
「あれ? 違う答えがよかった?」
「……っ」
ムッと口を閉じた彼女が視線を逸らす。そんなところが可愛くてたまらなくて、どうしても手に入れたくて仕方なかったのだと思い出す。
俺は誰かの想いに譲れるほど優しくはないし、彼女と他の誰かの恋を応援できるほど強くもない。
だからこそ手を伸ばすしかなくて、壊れないように抱きしめることしかできない。
――優しくも強くもないから言葉を探す。
「あのさ」
「……なに?」
腕の中で視線だけを向ける彼女の声はチクチクと尖っていた。
「俺と付き合って」
きゅっと力を込めれば、彼女の返事が俺の胸に押し潰される。
「ちょっと、苦しい、から」
息継ぎするよう上げられた顔が視界に咲く。たぶんあとで怒られるんだろうな、と思ったけど。もう止まらなかった。
――優しくも強くもない。意地悪で弱いから。
俺は触れた温度で答えを確かめた。
聞こえた言葉に一瞬息が止まった。
「……」
吸い込んだ息で何度も噛み締めて、吐き出した息で響かせる。そうかな、と思ったけど。そうだろうな、と期待したけど。ハッキリと伝えられると嬉しさが溢れて止まらなくなる。
「そっか」
揺れ続ける心臓の隙間から声を絞り出す。じわじわと顔が熱くなり、繋いでいる手が汗ばんでいく。
じっと見上げられた瞳はまだ濡れていたけれど、拭った指先はもう乾いていた。一瞬だけ触れた肌の柔らかさを、顔の小ささを思い出して心臓がバクバクと音を立てる。
繋がったままの視線に何を言えばいいのかわからなくなった。顔を合わせれば当たり前に言葉を交わしていたのに、今だけは何も出てこない。頭はふわふわとして働かないし、嬉しいのに気恥ずかしくて胸は落ち着かない。彼女もきゅっと口を閉じたまま、俺を見上げている。
「えっと……」
何かを言わなければと開いた口へ冷たい温度が流れ込む。びゅわり、と唸りながら吹き付けてきた風に視界が狭まる。思わず指先に力が入った。ビクッと小さく震えた彼女の手。風になびく長い髪。鼻の先も目の下もまだ赤い。
「……」
自然と体が動く。頭で考える前に手を伸ばしていた。守らなくてはと思ってしまった。
きゅっと抱きしめれば「ふぇっ」と鳴き声みたいな音がこぼれた。こぼれた音に胸が反応する。くすぐったくてたまらなくなる。
「ふ、ふは、何その声」
思わず笑えば
「だ、だって」
といつもはスラスラと言葉を紡ぐ彼女が声を詰まらせた。
海の匂いよりも彼女の柔らかな香りでいっぱいになる。風の冷たさよりも彼女の体温を強く感じる。視線を向ければ俯いた彼女の小さな耳が赤く染まっていた。さらさらと流れる髪の上で太陽の光が揺れる。
――そんなって、どんな?
耳の奥で響いた彼女の声。
――かわいい?
まっすぐ向けられた視線。
――その髪型かわいいね。
俺が言えなかった言葉を口にした先輩。
今日の出来事が頭を一瞬で駆けていき、自然と唇が動く。
「好きだな」
「へ?」
目を丸くして顔を上げた彼女に俺は笑って言う。
「その髪型」
「なっ、え、髪って」
「あれ? 違う答えがよかった?」
「……っ」
ムッと口を閉じた彼女が視線を逸らす。そんなところが可愛くてたまらなくて、どうしても手に入れたくて仕方なかったのだと思い出す。
俺は誰かの想いに譲れるほど優しくはないし、彼女と他の誰かの恋を応援できるほど強くもない。
だからこそ手を伸ばすしかなくて、壊れないように抱きしめることしかできない。
――優しくも強くもないから言葉を探す。
「あのさ」
「……なに?」
腕の中で視線だけを向ける彼女の声はチクチクと尖っていた。
「俺と付き合って」
きゅっと力を込めれば、彼女の返事が俺の胸に押し潰される。
「ちょっと、苦しい、から」
息継ぎするよう上げられた顔が視界に咲く。たぶんあとで怒られるんだろうな、と思ったけど。もう止まらなかった。
――優しくも強くもない。意地悪で弱いから。
俺は触れた温度で答えを確かめた。
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