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おしおきが必要ですわね

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「それで、犯人はわかりましたの?」

 私は自室で優雅にお茶をしながら執事のハインズにそう尋ねます。
 ハインズは今でこそ我が家の執事をしていますが、かつては別の国の暗部の仕事をしていました。
 かなりの実力者でしたが、それ故に恐れられ国に裏切られ殺され掛けた所を我が家の祖父が助けたのです。
 それ以来彼はその恩を返すためと、我が家の力となってくれているのでした。

「はい。どうやらエンハンス帝国が裏で手を引いているようです」
「エンハンス帝国……遂にこの国に手を出してきましたか」

 この国の隣国の中で一番やっかいで強力な軍事国家であるエンハンス帝国。
 ですが、我が国との間は高く連なる連峰でへだたれているために、狭くかなりの難所の道しか存在しない。
 そのために今まで、彼らに比べれば遙かに小国の我が国は攻められることも無く生きながらえてきました。
 ですが、彼らの野心は止まることは無いのは確実で、いつ、どんな手を使いこの国に攻めてくるのかと常日頃から皆警戒していたものです。

「でも不思議ですわね。王位継承権の高い王子に手を出すならともかく、ほぼ王位を継ぐ可能性の無い第四王子であるガートをたぶらかしてどうするのでしょう」

 私が首をひねっていると、ハインズが口を開きます。

「実は最近になってから第一王子、第二王子の近くでも怪しい動きがございます」
「怪しい動き?」
「はい。私の情報網によれば、かなりの数の暗殺者が送り込まれているようでして」
「何それ。大変じゃない」

 私は思わず立ち上がって叫びました。
 まったくこの国の軍は何をしているのでしょうか。
 前々からハインズ個人以下でしか無いとは思っていましたが、それにしても酷すぎるのでは。

「その事は他の人たちや軍ももちろん気がついているのよね?」
「何人かについては諜報部が張り付いて捕まえる準備はしているようですが……」

 つまり、それ以外は軍の諜報部の手を逃れて自由に活動しているということでしょう。
 私は少しだけ思考の海へ沈みます。

「わかりました。可愛い可愛いガート様を害されてはたまりませんし、私の計画にも差し障りそうですから帝国を……潰しましょう」

 そう告げると、私はハインズに指示を矢継ぎ早に伝えていきます。
 田舎の弱小国と侮ったことを帝国が後悔するのはそれから一月後のことでした。

 エンハンス皇帝を初めとした全ての帝位継承権を持つ者たちが暗殺されるという前代未聞の事件が世界を震撼させたのでした。
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