王子様、ごめんあそばせ！～聖女は騎士様と真実の愛を探す

境界の森にて

　アステリア王国を追われたエレナは、隣国ロズワール公国との国境にある小さな村に辿り着いた。そこは王国から見捨てられた辺境の地で、エレナの事情を知る者はいなかった。

「ここなら、私を探す者もいないでしょう」

　エレナは村はずれの小さな小屋に身を寄せ、持ち合わせの少ない金貨を頼りに生活を始めた。聖女としての力は依然として残っていたが、それを公にすれば身元がばれてしまう。彼女は森で薬草を採り、村の薬屋で細々と働きながら日々を送ることにした。

　ある日、エレナが森で薬草を探していると、うめき声が聞こえてきた。

　辿っていくと、血に染まった黒い装束の男性が倒れていた。彼の周りには倒れた山賊の姿もあり、激しい戦いがあったことが窺えた。

「大丈夫ですか？！」

　エレナは駆け寄り、男性の傷を確認した。腹部に深い切り傷があり、放っておけば命に関わる。本来なら聖女の力で瞬時に治せるが、それは身元を明かすことになる。

「少しの治癒魔法なら...」

　エレナは決断し、最小限の治癒魔法を使って応急処置を施した。彼女の手から放たれた淡い光が男の傷を覆い、少しずつ出血が止まった。

「これで命の危険は...」

「その力...」男は意識が朦朧としながらも、エレナを見上げた。「聖女の力だな？」

　エレナは凍りついた。この男は彼女の力を見抜いたのだ。

「心配しないで」男は痛みに耐えながら微笑んだ。「俺はお前を傷つけない」

　その言葉を最後に、男は意識を失った。

　エレナは迷ったが、彼を見捨てることはできなかった。村人に助けを求め、男を自分の小屋へと運んだ。

　数日間、エレナは男の看病を続けた。彼の名はライアン・ウォーフォード。ロズワール公国の騎士団に所属していたが、あることをきっかけに脱退し、今は一匹狼として活動しているという。

「なぜアステリアの聖女がこんな辺境の地にいる？」

　回復したライアンは、エレナに率直に尋ねた。

「あなたは私のことを...」

「アステリアの聖女エレナ・サクラ。癒しの力で知られた伝説の聖女だ。最近、反逆罪で追放されたと聞いたが...」

　エレナは沈黙した。すべてを話せば危険かもしれない。しかし、彼女を救ってくれたこの男に嘘をつくこともできなかった。

「私は冤罪です」エレナは静かに答えた。「国璽を盗んだという罪を着せられましたが、私はそのようなことはしていません」

　ライアンは彼女をじっと見つめた。「信じよう。俺も権力者の嘘には苦しめられてきたからな」

　彼の言葉にエレナは安堵した。久しぶりに自分の真実を理解してくれる人に出会えたのだ。

「それにしても、こんな所で会えるとは思わなかった」ライアンは笑った。「俺がずっと探していた人物と」

「私を探していたのですか？」

「ああ」ライアンは真剣な表情になった。「アステリアで何が起きているのか、調査するためにな」