王子様、ごめんあそばせ！～聖女は騎士様と真実の愛を探す

揺れる心

　エレナとライアンは、山小屋で潜伏生活を送りながら、ローゼンブルト家の陰謀を暴くための証拠集めを始めた。

　ライアンはロズワール公国の特務隊に接触し、情報を集めるための協力を得た。エレナは自分の力を隠しながらも、村人たちの信頼を得て、アステリアからの情報を得るための橋渡しとなった。

「エレナ」ある夜、ライアンが彼女を呼んだ。「明日、俺はアステリアに潜入する。ローゼンブルト家の屋敷に証拠があるはずだ」

「でも、危険すぎます！」エレナは心配そうに言った。

「他に方法がない」ライアンは彼女の肩に手を置いた。「安心しろ、必ず戻ってくる」

　エレナは彼の手を握りしめた。「約束してください。必ず戻ってくると」

　ライアンの顔に優しい笑みが広がった。「約束する」

　彼が出発した後、エレナは不安で眠れなかった。窓辺に座り、星空を見上げながら祈った。

「どうか、ライアンの無事を...」

　彼との生活の中で、エレナは自分の心の変化に気づいていた。カレルへの思いは、裏切りの痛みとともに薄れつつあった。代わりに、ライアンへの感情が日に日に強くなっていた。

　彼の強さ、優しさ、そして何より、彼女を信じる力。

「私は彼を...」言葉にするのは恥ずかしく、エレナは顔を赤らめた。

　三日後、ライアンは約束通り戻ってきた。だが、その姿は血に染まっていた。

「ライアン！」エレナは駆け寄り、彼を支えた。

「大丈夫だ、かすり傷だ」彼は笑おうとしたが、痛みで顔をしかめた。

　エレナはためらうことなく聖女の力を使い、彼の傷を癒やした。光に包まれるライアンの体から、傷が消えていった。

「これで痛みは...」

　言葉を終える前に、ライアンはエレナを強く抱きしめた。

「危なかった」彼はエレナの髪に顔をうずめながら言った。「もう少しで捕まるところだった。だが、これを見つけた」

　彼が取り出したのは、ローゼンブルト家当主の書いた手紙だった。そこには国璽の盗難計画と、カレル王子への接近方法が詳細に記されていた。

「これで証拠は揃った」ライアンは言った。「だが、まだ一つ問題がある」

「何でしょう？」

「この証拠を王に届けるには、宮廷に潜入する必要がある。そして、明後日はカレル王子とカティア・ローゼンブルトの婚約式だ」

　エレナの心が痛んだ。カレルはすでに新しい婚約者を得ていたのだ。

「タイミングとしては最適だ」ライアンは続けた。「だが、宮廷に入るには...」

「私が行きます」エレナは決意を固めて言った。

「危険すぎる！お前は追放された身だ」

「だからこそ、私が行くべきです」エレナは彼の目をまっすぐ見つめた。「私には聖女の力がある。そして...真実を王に伝えるのは、私の責任です」

　ライアンは長い間エレナを見つめていた。「分かった」彼は最後にため息をついた。「だが、俺も一緒に行く。お前を守るために」

　エレナは感謝の笑みを浮かべた。そして、思わず彼の頬に唇を寄せた。

「ありがとう...愛しているわ」

　ライアンは驚いた表情をしたが、すぐに柔らかな笑みに変わった。「俺もだ」

　二人は抱き合い、明日からの危険な旅に備えた。