婚約破棄で覚醒したポンコツ令嬢は、最強聖女として愛されます

白桃

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真実の愛

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晩餐会の日、クラリスは王宮の庭園を散策していた。輝く星空の下、彼女は自分の決断について思いを巡らせていた。

「クラリス」

突然、背後から聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこにはロランが立っていた。

「何の用?」

クラリスの声は冷静だった。かつての自分なら、ロランを見ただけで胸が痛くなっただろう。しかし今は、不思議なほど平静でいられた。

「話がしたい…二人だけで」

ロランの表情には、これまで見たことのない切迫感があった。

「私たちの間に、もう話すことはないわ」

「頼む、クラリス。少しだけでいい」

クラリスはため息をついた。

「分かったわ。でも、短く済ませて」

二人は庭園の小さな東屋に入った。月明かりだけが二人を照らしている。

「クラリス、君は…本当に変わった」

「ええ。でも、それは自分自身が変わったというより、自分の本当の姿に気づいただけよ」

ロランは目を伏せた。

「あの日…婚約破棄を言い渡したとき、私は大きな間違いを犯した」

クラリスは黙って聞いていた。

「君が聖女としての力を持っていたなんて…もし知っていたら…」

「もし知っていたら?」クラリスの声には皮肉が滲んでいた。「私の力が分かっていたら、婚約破棄なんてしなかった?」

「そうだ…いや、違う…」ロランは混乱していた。「私が言いたいのは…」

「あなたの言いたいことは分かるわ、ロラン」クラリスは静かに言った。「私が『ポンコツ令嬢』ではなく、『光の聖女』と呼ばれるようになったから、価値が出てきたと?」

ロランは答えられなかった。

「あなたが私を捨てたのは、私の本質を見抜けなかったからよ。私自身も気づいていなかったけれど、それでも…あなたは私を愛していなかった」

「違う、クラリス!私は…」

「いいえ、ロラン。あなたが愛していたのは、伯爵令嬢という私の肩書きだけ。そして今は、聖女という肩書きに惹かれているだけ」

ロランの表情が歪んだ。

「クラリス…私たちの婚約を元に戻そう。今からでも遅くない。パトリシアとの婚約は解消する。君さえ良ければ…」

クラリスは静かに微笑んだ。その笑みには、かつての傷つきやすい少女の面影はなかった。

「遅いわ、ロラン。いつまでも愛されてると思うのは間違いよ」

「クラリス…」

「私には新しい道があるの。そして、その道にあなたの居場所はないわ」

クラリスは立ち上がり、東屋を後にしようとした。

「待ってくれ!」ロランは必死にクラリスの腕を掴んだ。「もう一度だけチャンスをくれないか?私は本当に後悔している。君を失って初めて、君の価値に気づいたんだ」

クラリスは静かにロランの手を振り払った。

「あなたが気づいたのは、私の価値ではなく、聖女という地位の価値よ」彼女の声は冷たかったが、憎しみはなかった。「ごめんなさい、ロラン。でも私の答えは変わらないわ」

クラリスが東屋を出ようとしたとき、彼女はパトリシアが近くの木陰に立っているのに気づいた。

「パトリシア…」

侯爵令嬢は苦々しい表情で彼女を見つめていた。

「どうして…」パトリシアの声は震えていた。「どうしてあなたなの?ポンコツだったはずなのに…なぜ聖女に?なぜ王子様に選ばれるの?」

クラリスはパトリシアに近づき、静かに言った。

「あなたが求めていたものは、本当に愛だった?それとも、地位と権力?」

パトリシアは答えられなかった。その沈黙が全てを語っていた。

「生まれて初めてのザマァ、ふぅ…、胸がスッとするわぁ…」クラリスは小さく呟いた。

「何ですって?」パトリシアは顔を上げた。

「何でもないわ」クラリスは微笑んだ。「あなたとロランには幸せになってほしい。お互いを本当に理解できるなら」

そう言って、クラリスは二人を後にした。後ろで二人が言い争う声が聞こえたが、もはや彼女の心には響かなかった。

晩餐会は華やかに始まった。クラリスは純白のドレスに身を包み、会場に入ると、すべての視線が彼女に注がれた。

「クラリス」

アレス王子が彼女に近づいてきた。その瞳には、純粋な愛情が宿っていた。

「王子様」

「アレスと呼んでくれないか?少なくとも二人きりのときは」

クラリスは微笑んだ。

「アレス…私、決めたわ」

王子の瞳が期待に輝いた。

「求婚、受けさせていただくわ。ただし、一つ条件があります」

「なんでも言ってくれ」

「私は聖女として、これからも旅をして人々を助けたい。あなたの妃になっても、その使命は続けさせてほしいの」

アレスは真剣な表情でクラリスの手を取った。

「もちろんだ。それどころか、王国の力をもって、君の聖女としての活動を支援したい。共に民を守り、幸せにしよう」

クラリスの目に涙が浮かんだ。彼女を本当に理解し、受け入れてくれる人に出会えたのだ。

「ありがとう…アレス」

晩餐会の途中、アレス王子は全員の前でクラリスとの婚約を正式に発表した。会場からは歓声が上がり、祝福の言葉が飛び交った。

ロランとパトリシアは、会場の隅で複雑な表情を浮かべていた。特にロランの顔には、後悔の色が濃く出ていた。

それから一年後、クラリスとアレス王子の結婚式が行われた。

「我が妻、クラリス・アレスフォード・ロイヤルを、聖女として、また王国の守護者として任命する」

アレスは式の中で宣言した。そして、クラリスに美しい杖を授けた。

「この『精霊の杖』は、古来より伝わる聖遺物。真の聖女にのみ力を発揮すると言われている」

クラリスが杖を手に取ると、鮮やかな光が広がり、会場を包み込んだ。

「見えるわ…」クラリスは微笑んだ。「精霊たちが祝福してくれているわ」

結婚式の後、クラリスとアレスは約束通り、共に国境の村々を訪れ、魔物と戦い、人々を癒し続けた。クラリスの聖女としての力は日に日に強くなり、アレスの軍事的知識と合わさることで、王国の安全は急速に高まっていった。

「あなたのおかげで、本当に変われたわ」

ある晩、二人きりになったとき、クラリスはアレスに告げた。

「いいや、君は最初から特別だった。ただ、それに気づいていなかっただけだ」アレスは優しく彼女の頬に触れた。

「君がポンコツだと思われていたのは、聖女としての力が強すぎて、普通の生活に集中できなかっただけだ」

クラリスは嬉しそうに笑った。

「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、あのとき婚約破棄されなかったら、私は自分の力に気づかなかったかもしれない」

「つまり、カーライル子爵には感謝すべきかな?」アレスは冗談めかして言った。

「まあね」クラリスは肩をすくめた。「でも、二度と彼とパトリシアのような人たちには騙されないわ。私の我慢にも限界があるもの」

「その必要はない」アレスは彼女を抱きしめた。「これからは、君の側にいる。どんなときも」

クラリスは夫の腕の中で安らぎを感じながら、窓の外を見た。星空に浮かぶ精霊の光が、彼女たちの未来を祝福するように瞬いていた。

「これからは、本当の私として生きていくわ。聖女として、そしてあなたの妻として」

アレスの唇が彼女の額に触れた。

「永遠に共に」

こうして、かつて「ポンコツ令嬢」と嘲笑された少女は、「光の聖女」として、そして王国の守護者として、真の幸せを見つけたのだった。
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