人生8周目の悪役令嬢、今世は『推し(悪役宰相)』を救って死亡フラグごと燃やし尽くします!

白桃

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第十三話 八度目の人生で掴んだ未来

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 王宮騎士団観閲式での騒乱は、エルドラド王国の歴史に深く刻まれる大事件となった。
 しかしそれは同時に、国を蝕んでいた大きな膿を出し切り、新たな時代の幕開けを告げる出来事でもあった。
 宰相アシュター・フォン・ナイトレイを陥れようとした保守派貴族たちは断罪され、隣国ガレリア帝国との癒着も白日の下に晒された。
 アシュターの手腕によって、王国は混乱を乗り越え、より強固な国家へと生まれ変わろうとしていた。

 そして、その激動の中心には、常に二人の男女の姿があった。
 傷つきながらも国を守り抜いた冷徹な宰相アシュターと、その隣に静かに寄り添い、彼を支え続けた公爵令嬢スカーレット。
 彼らの関係は、もはや宮廷の誰もが知るところとなっていたが、その真実を知る者はいない。

 観閲式で負った傷の治療のため、アシュターはしばらくの間、宰相執務室に隣接する私室で静養することになった。
 その間、甲斐甲斐しく彼の世話を焼いたのは、他の誰でもない、スカーレットだった。
 侍女たちもいるにはいたが、アシュターが心を許して側に置きたがったのは、スカーレットだけだったのだ。

 スカーレットは、戸惑いながらも、彼の食事の世話をし、薬を準備し、時には怪我の状態を心配して眉をひそめた。
 アシュターも、普段の冷徹な仮面を外し、穏やかな表情で彼女の世話を受けていた。
 言葉数は少ないながらも、二人の間には温かく、そして確かな信頼と愛情が流れていた。
 スカーレットは、傷ついた彼のために何かできることが嬉しかったし、アシュターは、自分のために尽くしてくれる彼女の存在そのものに、深い安らぎを感じていた。

 やがてアシュターの傷が癒え、再び政務に復帰できるようになったある日。
 彼は、スカーレットを執務室に呼び出した。
 窓から柔らかな午後の光が差し込む室内で、アシュターは真剣な面持ちで彼女に向き直った。

「スカーレット嬢」

 彼は、ゆっくりと口を開いた。

「君には、どれだけ感謝してもしきれない。君がいなければ、私は……そして、この国は、間違いなく破滅していただろう」

 その瑠璃色の瞳には、深い感謝の色が浮かんでいる。

「いいえ、アシュター様。わたくしは、ただ……」

 スカーレットが謙遜しようとすると、アシュターはそれを手で制した。

「君が何者で、なぜ未来を知っていたのか……それを、今、私に話す必要はない」

 彼は、静かに言った。

「だが、一つだけ確かなことがある。君は、私の暗く凍てついていた人生に、光をもたらしてくれた。私の運命を変えてくれた、唯一無二の存在だ」

 アシュターは、スカーレットの前に進み出ると、その手を取った。
 彼の大きな手が、少しだけ震えている。

「だから……スカーレット。私の未来を、君と共に歩んでほしい。私の隣で、この国の未来を、共に創っていってくれないだろうか」

 それは、不器用だが、心の底からの告白だった。
 宰相としての彼ではなく、一人の男としてのアシュターの、偽らざる想い。

 スカーレットの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
 八度目の人生。
 何度も絶望し、諦めかけた運命。
 その果てに、こんなにも温かい言葉を、想いを寄せる人から告げられる日が来るなんて。

「……はい」

 スカーレットは、涙で濡れた顔で、しかし満面の笑みを浮かべて頷いた。

「喜んで、アシュター様。わたくしも、貴方と共に未来を歩みたいのです」

 彼を救いたいと思ったのは、最初は「推し」への一方的な感情だったかもしれない。
 でも、今は違う。
 彼の孤独も、強さも、弱さも、全てを知った上で、心から彼を愛しているのだ。

 アシュターは、安堵したように息をつくと、スカーレットを優しく抱きしめた。
 お互いの温もりを確かめ合うように、二人はしばらくの間、言葉もなく寄り添っていた。
 ループがこれで終わったのかどうかは、分からない。
 でも、もう死の運命を恐れる必要はない。
 この人の隣にいれば、どんな未来が待ち受けていようとも、きっと乗り越えていける。
 スカーレットは、そう確信していた。

 その後、宰相アシュター・フォン・ナイトレイと公爵令嬢スカーレット・アリア・ヴァーミリオンの婚約が正式に発表されると、王国中は驚きと祝福の声に包まれた。
 悪評高かった「氷の宰相」が、これほどまでに美しい令嬢を射止めたこと。
 そして、その宰相の隣に立つスカーレットの、以前とは比べ物にならないほどの輝きと聡明さ。
 人々は、二人が国の未来を明るく照らす存在となることを期待した。

 もちろん、アシュターの冷徹さが完全に消えたわけではない。
 彼は、宰相として国のために辣腕を振るい続けるだろう。
 スカーレットもまた、悪役令嬢としての(?)したたかさや、ループで得た知識を、今度は彼を支えるために使っていくのかもしれない。
 二人の前途には、まだ多くの課題が待ち受けているだろう。

 それでも、二人が手を取り合って歩む限り、その未来はきっと、希望に満ちているはずだ。
 八度目の人生で、悪役令嬢はようやく掴んだ、かけがえのない幸せ。
 それは、推しを救い、自らの運命をも変えた、最高のハッピーエンドだった。
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