暁闇の騎士

琉斗六

文字の大きさ
14 / 75

4-5

しおりを挟む
「ああ、最悪なことを思い出したな」

 スヴェンは片手をひたいに当てて、自嘲気味に笑った。
 成人したばかりの "子供" に対して、自分は何をしてしまったのか。
 今さらながら、おのれに呆れ返る。

「だがきみは……、謝らせてすらくれなかった……」

 シャワールームの一件から数日後、やはりミスティは一人で死地に立った。
 敵が放った大規模魔法攻撃を、彼は一人で受け、後方への被害をめたのだ。
 クリスはその様子を見ているしかなかった。なすすべもなく、何もできなかった。
 焼け跡からクリスは一人でミスティを探し出し、浮遊城に戻った。

 ミスティの再生を促す癒しの泉は、浮遊城の医療室の中に設けられている。
 運び込まれてから数時間。
 ミスティの再生を、クリスは扉の前で黙って、祈るように待ち続けた。

 きっと、いつものように。
 また何事もなかったかのように。

 ……その期待は、皮肉なほどに裏切られなかった。

 予告もなく、音もなく、扉が開く。
 病衣びょういを身にまとい、素足のまま、ミスティはそこに立っていた。

 傷は──どこにもなかった。

「ミスティ」

 呼びかけると、彼はいつものように立ち止まり、軽く顎を上げる。

「ああ、クリス。あのあと、どうなった?」

 開口一番、飛び出した話題は任務のこと。
 クリスは言葉に詰まりかけたが、どうにか声を返した。

「覚えてないのか?」
「途中から、なにがなんだかわからなくなったからな」
「後方部隊は傷一つついてない」
「そうか。僕じゃなければ、死んでるな」

 呟くような口調は、冗談とも、事実確認ともつかない。
 クリスは、それにうなずくしかなかった。

「……報告書は、書いて出しておいた。グリント様から、休めと命令が出てる」
「休め……か。そんな必要ないのに……」
「……服は?」
「全焼さ。服も一緒に、再生すればいいのに……」

 その肩をすくめる仕草は、軽さの演出か、それとも本心から来るものなのか。
 クリスには、わからなかった。

「部屋に戻れば、あるんだろう?」

 ラディアント騎士団に所属している騎士クラスのものは、浮遊城内に個別の部屋が与えられている。
 家族を持つものはともかく、独身者はそれで住まいが事足りるのだ。

「その部屋が、今ちょうど定期の浄化でね。あと2時間は立ち入り禁止らしい」

 ミスティは、肩を竦める。

「そうか……、きみは浄化を浴びると死ぬんだったな」

 そう言いながら、クリスはわずかに眉を寄せた。

「浮遊城内に瘴気を持ち込まれても困るものな。仕方がないさ」

 無頓着に、ミスティは言った。
 笑ってはいたが、目の奥に何も浮かんでいない。
 それが、クリスにはいちばんこたえた。

──まだ、謝ってすらいないのに。

 あの夜のことを、彼は一言も触れない。
 記憶からすっかり抜け落ちたように、当たり前の顔で立っている。
 何も変わらないことが、こんなにも胸を締めつけるとは思わなかった。

 病衣びょういは薄く、膝丈よりも短いものだった。
 紐で結んであるだけの横合わせの布一枚が、辛うじて肩に引っかかっているだけだ。

 脇が開くたび、白く滑らかな皮膚が見えた。

「……確認なんだが、下は……?」
「これ一枚だ。まいった、これじゃあラウンジにも行けやしない」
「どうするつもりだったんだ?」
「うん。……それが、困ってる」

 クリスは、少しだけ考えてから言った。

「……俺の部屋に来るか?」

 ミスティは、一瞬クリスを見た。
 何かを計算しているような間を置いてから静かに頷く。

「……そうだな。他に選択肢もなさそうだ。お言葉に甘えさせてもらうよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。 巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。 時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。 しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。 どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。 そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ…… ★『小説家になろう』さんでも掲載しています。

【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。 顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。 「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」 これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。 ※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。

恋人ごっこはおしまい

秋臣
BL
「男同士で観たらヤっちゃうらしいよ」 そう言って大学の友達・曽川から渡されたDVD。 そんなことあるわけないと、俺と京佐は鼻で笑ってバカにしていたが、どうしてこうなった……俺は京佐を抱いていた。 それどころか嵌って抜け出せなくなった俺はどんどん拗らせいく。 ある日、そんな俺に京佐は予想外の提案をしてきた。 友達か、それ以上か、もしくは破綻か。二人が出した答えは…… 悩み多き大学生同士の拗らせBL。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎
BL
ヤンデレ執着攻め×鈍感強気受け ユハン・イーグラントには、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染みがいる。それは、天使のような美貌を持つミカイル・アイフォスターという男。 彼は公爵家の嫡男として、いつも穏やかな微笑みを浮かべ、凛とした立ち振舞いをしているが、ユハンの前では違う。というのも、ミカイルは実のところ我が儘で、傲慢な一面を併せ持ち、さらには時々様子がおかしくなって頬を赤らめたり、ユハンの行動を制限してこようとするときがあるのだ。 けれども、ユハンにとってミカイルは大切な友達。 だから彼のことを憎らしく思うときがあっても、なんだかんだこれまで許してきた。 だというのに、どうやらミカイルの気持ちはユハンとは違うようで‥‥‥‥? そんな中、偶然出会った第二王子や、学園の生徒達を巻き込んで、ミカイルの想いは暴走していく──── ※旧題「執着系幼馴染みの、絶対に叶えたい6つの願い事。」

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...