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ヴァルハラの代表──ハーヴィから、正式な呼び出しを受けたのは、それからさらに数日が過ぎた頃だった。
もちろん、まったく顔を合わせていなかった訳ではない。
ユグドラシルに招かれた際、一度は謁見し、ミスティは丁重に礼を述べている。
その後も、食事の席で顔を合わせる機会は何度かあったが、こうして改めて呼ばれるのは初めてだった。
森人たちは、常時数名の精鋭が世界各地の災害や事故による "命の声" に耳を傾け、即座に出動している。
ミスティを救った飛空艇ブリュンヒルデも、その活動のために作られたワルキューレシリーズの一艇である。
彼らはレヴィアタン号が発した微弱な魔導信号すらも正確に探知できる高度な技術を持ち、日々即応態勢を維持していた。
そんな彼らの在り方は、ミスティにとって非常に新鮮だった。
「やあ、ミスティ。少しは慣れたかな?」
「同じことを、ミーミルにも言われましたが……まだ、なんというか、慣れません」
「環境が変わると、落ち着かないものだろう。とりあえず、座りなさい。立ったままでは、話がしにくい」
「ありがとうございます」
ミスティが柔らかなソファに落ち着く間に、ハーヴィの机の上で着信音が鳴り、なにかのスイッチが点灯する。
それを聞いたミスティは、重要な私用かと察し、自分が居ては無作法かもしれないと思い立って、席を立とうとした。
だが、ハーヴィは手を軽く上げてそれを制した。
その仕草だけで、ミスティは "ここにいてくれ" という意思を感じ取った。
「ヴィクトリア、呼び出して悪かったね」
「いいえ、おじさま。こちらも報告があったので、ちょうどよかったですわ」
今の今まで、豊かな葉に覆われていた壁が、スッとスクリーンに切り替わった。
そして、そこに金髪の美しい女性が映し出される。
ほほ笑みを浮かべた彼女は、しかし猫のような緑の瞳に一切の油断を許さぬ鋭い光を湛えていた。
「ヴィクトリア、こちらが暁闇の騎士だ。ミスティ、彼女は……きみたちの言葉で言うなら "諜報部員" のレディ・ヴィクトリアだ。私は彼女に、同盟連邦評議会の上層部が、本当にきみの身柄を拘束する意志があるのかを調べてもらった」
「同盟連邦評議会でなければ、一体誰が仕向けたと言うんです?」
「そこだよ。本当に同盟連邦評議会が不死身の軍隊を作ろうとしているのかどうか、私はそこが疑問に感じた。きみ一人のことなら、いくらでも誤魔化しようはある。例えば "黒髪と緋眼を持つ者が継ぐ" といった建前を立てれば、君の再生能力だって秘匿できる。だが、それが軍の規模になれば、隠し通すのは不可能だ」
「しかし、公的に不死身の軍を作るとは、どうしたって言えないでしょう?」
「もちろんだ。しかし、不死身の軍を隠すための下地は必要になる。例えば、同盟連邦評議会のような組織が無かった時代、各国が暗部の機関を持っていることを公言していたことは知っているね? 内容までは公開しないが、全く隠してあったわけじゃない」
「なるほど」
そこでハーヴィは、改めてヴィクトリアの写っている画面に目を向けた。
「では、報告をお願いしようか」
「はい、おじさま。ご指摘された通り、今回の事件、本当に動いているのはルミナリア騎士修道会ですわね」
「レフュージか。ルミナリア王国の引退した騎士たちを引き受けている、非営利団体だったはずだ。最近、画期的な治癒魔法薬を開発したと聞いている」
「ええ。私、感心していたんですけれど。正直申し上げて、今回の調査で、背筋が寒くなりましたわ。その "画期的" なポーション。どうやらミスティさんの血液サンプルを使って開発されたようですわ」
「なんだって!」
思わず、ミスティは驚きのあまり反射的に立ち上がっていた。
「きみの健康管理は?」
「基本は浮遊城内です。帰還に手間が掛かる場合も、傍でクリスが見張っていたので、外部漏れは無いと思っていました」
「クリスが情報を漏洩したと考える可能性は?」
「ありえません。彼ほど信頼できるラディアントはいません」
「おじさま。疑うべきは、魔導騎士だと思いますわ」
ヴィクトリアが言った。
「ほう、なぜかね?」
「私の調査で、少し挙動がおかしい人物が浮かび上がりましたの。黄昏の騎士ですわ」
「タイドがっ? まさかっ!」
信じがたい報告に、ミスティは思わず取り乱した。
もちろん、まったく顔を合わせていなかった訳ではない。
ユグドラシルに招かれた際、一度は謁見し、ミスティは丁重に礼を述べている。
その後も、食事の席で顔を合わせる機会は何度かあったが、こうして改めて呼ばれるのは初めてだった。
森人たちは、常時数名の精鋭が世界各地の災害や事故による "命の声" に耳を傾け、即座に出動している。
ミスティを救った飛空艇ブリュンヒルデも、その活動のために作られたワルキューレシリーズの一艇である。
彼らはレヴィアタン号が発した微弱な魔導信号すらも正確に探知できる高度な技術を持ち、日々即応態勢を維持していた。
そんな彼らの在り方は、ミスティにとって非常に新鮮だった。
「やあ、ミスティ。少しは慣れたかな?」
「同じことを、ミーミルにも言われましたが……まだ、なんというか、慣れません」
「環境が変わると、落ち着かないものだろう。とりあえず、座りなさい。立ったままでは、話がしにくい」
「ありがとうございます」
ミスティが柔らかなソファに落ち着く間に、ハーヴィの机の上で着信音が鳴り、なにかのスイッチが点灯する。
それを聞いたミスティは、重要な私用かと察し、自分が居ては無作法かもしれないと思い立って、席を立とうとした。
だが、ハーヴィは手を軽く上げてそれを制した。
その仕草だけで、ミスティは "ここにいてくれ" という意思を感じ取った。
「ヴィクトリア、呼び出して悪かったね」
「いいえ、おじさま。こちらも報告があったので、ちょうどよかったですわ」
今の今まで、豊かな葉に覆われていた壁が、スッとスクリーンに切り替わった。
そして、そこに金髪の美しい女性が映し出される。
ほほ笑みを浮かべた彼女は、しかし猫のような緑の瞳に一切の油断を許さぬ鋭い光を湛えていた。
「ヴィクトリア、こちらが暁闇の騎士だ。ミスティ、彼女は……きみたちの言葉で言うなら "諜報部員" のレディ・ヴィクトリアだ。私は彼女に、同盟連邦評議会の上層部が、本当にきみの身柄を拘束する意志があるのかを調べてもらった」
「同盟連邦評議会でなければ、一体誰が仕向けたと言うんです?」
「そこだよ。本当に同盟連邦評議会が不死身の軍隊を作ろうとしているのかどうか、私はそこが疑問に感じた。きみ一人のことなら、いくらでも誤魔化しようはある。例えば "黒髪と緋眼を持つ者が継ぐ" といった建前を立てれば、君の再生能力だって秘匿できる。だが、それが軍の規模になれば、隠し通すのは不可能だ」
「しかし、公的に不死身の軍を作るとは、どうしたって言えないでしょう?」
「もちろんだ。しかし、不死身の軍を隠すための下地は必要になる。例えば、同盟連邦評議会のような組織が無かった時代、各国が暗部の機関を持っていることを公言していたことは知っているね? 内容までは公開しないが、全く隠してあったわけじゃない」
「なるほど」
そこでハーヴィは、改めてヴィクトリアの写っている画面に目を向けた。
「では、報告をお願いしようか」
「はい、おじさま。ご指摘された通り、今回の事件、本当に動いているのはルミナリア騎士修道会ですわね」
「レフュージか。ルミナリア王国の引退した騎士たちを引き受けている、非営利団体だったはずだ。最近、画期的な治癒魔法薬を開発したと聞いている」
「ええ。私、感心していたんですけれど。正直申し上げて、今回の調査で、背筋が寒くなりましたわ。その "画期的" なポーション。どうやらミスティさんの血液サンプルを使って開発されたようですわ」
「なんだって!」
思わず、ミスティは驚きのあまり反射的に立ち上がっていた。
「きみの健康管理は?」
「基本は浮遊城内です。帰還に手間が掛かる場合も、傍でクリスが見張っていたので、外部漏れは無いと思っていました」
「クリスが情報を漏洩したと考える可能性は?」
「ありえません。彼ほど信頼できるラディアントはいません」
「おじさま。疑うべきは、魔導騎士だと思いますわ」
ヴィクトリアが言った。
「ほう、なぜかね?」
「私の調査で、少し挙動がおかしい人物が浮かび上がりましたの。黄昏の騎士ですわ」
「タイドがっ? まさかっ!」
信じがたい報告に、ミスティは思わず取り乱した。
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