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「続けて、ヴィクトリア」
ミスティの声を遮るように、ハーヴィが手を上げた。
「タイドはルミナリア出身で、その高い魔力と指導力を買われて、ラディアントに選ばれました。ですが彼の本当の出身地は、インフェリオンの辺境ですわ」
その一言に、ミスティは愕然となる。
ラディアントたちは、若くしてミステリーナイトの叙爵をされてしまったミスティに、厳しくも暖かく、細やかで正確な指導を与えてくれた、尊敬すべき先達である。
年齢も出身も関係なく、全員が平等であることを教えられ、円卓会議でも儀礼や敬語にとらわれない、自由な議論が交わされた。
その誰よりも信頼出来る彼らの中に、裏切り者がいるなどとは……。
「しかし、ミスティの話を聞く限り、浮遊城では定期的に浄化を行い、魔人の侵入を阻んでいたようだが……?」
「いいえ、おじさま。タイドは魔人ではなく、純粋な人間ですわ。ただし、50年前のルミナリア騎士団事件の、被害者リストに名前があるんです」
「ルミナリア騎士団事件……というと、人間と魔人の戦争のきっかけになった……あの?」
「そうです。インフェリオンとルミナリアの境界で起きた、魔導実験事故ですわね。あの時、魔人の研究所に収容された人間の一人です」
「裏切りの、証拠はあるのかね?」
「確証……と言うには、まだ不十分ですわね。行動が不審……程度ですわ」
「ふむ」
少し考えたハーヴィが何かを言う前に、ミスティが口を開く。
「タイドは……癒しの泉の管理官です。僕が任務中に死亡した時は、クリスが僕を浮遊城まで運んで、タイドが泉で再生の状態を診てくれていました……」
「なるほど」
ハーヴィは頷いた。
「ご苦労だったねヴィクトリア」
「いいえ、お力になれるなら、なんてことございませんのよ」
ヴィクトリアに笑みを向けたあと、ハーヴィは改めてミスティに向き直った。
「さて、ミスティ。ここで問題になるのは、ヴァルハラは政治問題には関与しないと言う、森の誓約がある……という点だ」
「……つまり、これは政治問題なので、不可侵だと……?」
「いや、本質はそこじゃない。つまり私が聞きたいのは、きみが困ってるかどうかだ」
「僕が……?」
「そうだ。きみがその体質ゆえに、一部の者から狙われていること。そして相手は同盟連邦評議会ではなく、レフュージという一民間団体だ。だが、きみ自身がその敵に立ち向かう意志がなければ、我々はこれ以上介入出来ない」
「しかし……、今の僕に、そんなことができると? 一兵卒ですらなくなった僕が、裁判でも起こす……って言うんですか?」
「起こしたとして、向こうがきみの特殊な体質の研究を、諦めるとも思えない。我々は、きみがきみ自身の問題と向き合うというなら、いつでも力になる」
ミスティは、ミーミルが言っていた「底の抜けたお人好し」という言葉を思い出していた。
「そうですわ、ミスティさん。そのサンプル、厳重に管理されていて、地下の専用保存庫に保管されているらしいですわ。……もしレフュージに忍び込んで、血液サンプルを盗み出すとおっしゃるなら、私、手引をしますわよ」
「ヴィクトリア、盗むと言ったのかね?」
「あら、いやだ。取り戻す……ですわね」
ヴィクトリアは、まるでティーカップを片手に談笑しているような調子で笑った。
「……ありがとうございます、ハーヴィさん。僕は、自分の問題から目を逸らしていたのかもしれません。ようやく、向き合う覚悟ができました。レフュージに、僕の一部があるというなら、それは僕のものだ。取り戻さなければなりません。すみませんが、シェイドと連絡を取りたいと思うのです。きっと、とても心配を掛けていると思うので。助けていただけますか?」
「もちろんだ」
ハーヴィは、落ち着いた声音で優しく微笑んだ。
ミスティの声を遮るように、ハーヴィが手を上げた。
「タイドはルミナリア出身で、その高い魔力と指導力を買われて、ラディアントに選ばれました。ですが彼の本当の出身地は、インフェリオンの辺境ですわ」
その一言に、ミスティは愕然となる。
ラディアントたちは、若くしてミステリーナイトの叙爵をされてしまったミスティに、厳しくも暖かく、細やかで正確な指導を与えてくれた、尊敬すべき先達である。
年齢も出身も関係なく、全員が平等であることを教えられ、円卓会議でも儀礼や敬語にとらわれない、自由な議論が交わされた。
その誰よりも信頼出来る彼らの中に、裏切り者がいるなどとは……。
「しかし、ミスティの話を聞く限り、浮遊城では定期的に浄化を行い、魔人の侵入を阻んでいたようだが……?」
「いいえ、おじさま。タイドは魔人ではなく、純粋な人間ですわ。ただし、50年前のルミナリア騎士団事件の、被害者リストに名前があるんです」
「ルミナリア騎士団事件……というと、人間と魔人の戦争のきっかけになった……あの?」
「そうです。インフェリオンとルミナリアの境界で起きた、魔導実験事故ですわね。あの時、魔人の研究所に収容された人間の一人です」
「裏切りの、証拠はあるのかね?」
「確証……と言うには、まだ不十分ですわね。行動が不審……程度ですわ」
「ふむ」
少し考えたハーヴィが何かを言う前に、ミスティが口を開く。
「タイドは……癒しの泉の管理官です。僕が任務中に死亡した時は、クリスが僕を浮遊城まで運んで、タイドが泉で再生の状態を診てくれていました……」
「なるほど」
ハーヴィは頷いた。
「ご苦労だったねヴィクトリア」
「いいえ、お力になれるなら、なんてことございませんのよ」
ヴィクトリアに笑みを向けたあと、ハーヴィは改めてミスティに向き直った。
「さて、ミスティ。ここで問題になるのは、ヴァルハラは政治問題には関与しないと言う、森の誓約がある……という点だ」
「……つまり、これは政治問題なので、不可侵だと……?」
「いや、本質はそこじゃない。つまり私が聞きたいのは、きみが困ってるかどうかだ」
「僕が……?」
「そうだ。きみがその体質ゆえに、一部の者から狙われていること。そして相手は同盟連邦評議会ではなく、レフュージという一民間団体だ。だが、きみ自身がその敵に立ち向かう意志がなければ、我々はこれ以上介入出来ない」
「しかし……、今の僕に、そんなことができると? 一兵卒ですらなくなった僕が、裁判でも起こす……って言うんですか?」
「起こしたとして、向こうがきみの特殊な体質の研究を、諦めるとも思えない。我々は、きみがきみ自身の問題と向き合うというなら、いつでも力になる」
ミスティは、ミーミルが言っていた「底の抜けたお人好し」という言葉を思い出していた。
「そうですわ、ミスティさん。そのサンプル、厳重に管理されていて、地下の専用保存庫に保管されているらしいですわ。……もしレフュージに忍び込んで、血液サンプルを盗み出すとおっしゃるなら、私、手引をしますわよ」
「ヴィクトリア、盗むと言ったのかね?」
「あら、いやだ。取り戻す……ですわね」
ヴィクトリアは、まるでティーカップを片手に談笑しているような調子で笑った。
「……ありがとうございます、ハーヴィさん。僕は、自分の問題から目を逸らしていたのかもしれません。ようやく、向き合う覚悟ができました。レフュージに、僕の一部があるというなら、それは僕のものだ。取り戻さなければなりません。すみませんが、シェイドと連絡を取りたいと思うのです。きっと、とても心配を掛けていると思うので。助けていただけますか?」
「もちろんだ」
ハーヴィは、落ち着いた声音で優しく微笑んだ。
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