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「……次の予定は?」
「今日はありません。明日はドクター・マクリーンが、眼球の再生と移植の実験と言ってましたね」
「ミスティの体の一部を移植しても、意味などないじゃないか」
「ラファエル総監やあなたにとっては、レスターク騎士団長の瞳の色までが大事ですしね」
「その名を出すな!」
低く唸るように言うタイドに、ドクター・アルドリックは肩をすくめる。
「ポーション販売から医療術開発まで、ドクター・マクリーンは資金集めによく尽力してくれています。研究、偽装、実行、そのどれにも莫大な金が掛かる。必要な実験です」
助手が、ミスティの体につけた電極パッドを取り外そうとしている。
指先が肌に触れた瞬間、ミスティの体が明らかに強張っているのが見て取れた。
「刺激の強度に、制限は設けなくていいのか?」
「医療行為ではありませんし。通常の医療行為であっても、麻酔の出来ない箇所はありますしね。……もっとも、彼の場合は痛みのショックで生命に別状があっても、再生しますから。可哀相だが、制限は出来ないでしょう」
「可哀相?」
「ええ、可哀想ですね」
「きみから、そんな言葉を聞くとはね」
タイドは、やや吐き捨てるように言った。
「……きみは現状、自分がしていることを客観的に理解していますか?」
「どういう意味だ?」
「人体実験、しかもかなり非人道的なね。私はその自覚があります。やっていることの罪も、なにもかも。だが、私は私の目的のために必要なので、やり遂げる覚悟があります。誤解から始まったこの泥沼の戦争は、一応の終結をみせてはいますが、危ういものだ。冷静沈着でカリスマ性と指導力を備えたレスターク騎士団長の存在は、必要なのです。ミスティの不死を解明することで……」
「そんなことは、きみからくどくど言われなくても、分かっている!」
苛立った口調で、タイドはドクター・アルドリックの話を遮った。
「分かっているなら、結構」
ドクター・アルドリックは立ち去りかけ、足を止める。
「ですがね、トラセナー。騎士団長が致命傷を負われなかったら、私たちの医療技術はここまで進みましたかね?」
「どういう意味だ?」
ドクター・アルドリックは、意味深な笑みを浮かべただけで、黙って去っていった。
舌打ちをしたタイドの傍に、助手たちに連れられたミスティが通りかかる。
「監房には、私が入れる。きみたちは行っていい」
タイドの命令に一礼し、皆、室内から去っていく。
拘束されたミスティは、タイドに促されると黙って歩き出した。
その横顔は、ひどく青白く見えた。
まるで──冷え切った死人のように。
「ダスクから、諜報活動時の拷問に対する精神耐性の訓練も、受けたんじゃないのか?」
「……あんなものは、神経伝達物質の反応に過ぎない」
ミスティは、わずかに視線を逸らした。
それはまるで、自分に言い聞かせる言葉のようだ……とタイドは思った。
「映像記録は、私が管理する。他の誰にも見せないようにしよう」
「……今更、誰が何を見ようが、構いやしないさ。……それより、そろそろきみの目的とやらを教えてくれないか? どうせ僕は虜の身だ。教えたところで構わんだろう」
「詳細は言えない。だが、私たちの最終目標は、きみが地下で見た、冷凍保存されている男を蘇らせることだ」
「あの人物の顔には、見覚えがある。……まだ思い出せないが、不死を望むなんて、ろくでもない思想だ」
ミスティの言葉に、タイドは一瞬、ひどく侮辱されたような顔をした。
だが怒りは表に出さず、顔をまっすぐ向けたまま、監房へと並んで歩いた。
「あの人が望んだわけじゃないが、あの人の復活を望むものが大勢いるんだ」
監房の扉を開き、タイドはミスティを促した。
「きみには悪いが、これはルミナリアの……人間のために絶対に必要なことなんだ」
返事をせず、ミスティは監房に入る。
扉が閉じて、施錠される音がした。
硬いベッドに倒れ込んだミスティは、そっと目を閉じた。
捕虜が人道的に扱われないことなど、戦場ではよくあることだ。
それは知識として理解していたつもりだった。
自分は "不死身" であるがゆえに、多少の非道な扱いなど、取るに足らないと思っていた。
──確かにこれは、 "次元の狭間に投げ出されるよりひどい" な……ダイアナ。
ダイアナだけではない。
グリントも、シェイドも、ダスクも──。
そして、クリスが命を賭してまで守ろうとしてくれていたものは、何だったのか。
ミスティは、改めてその意味を、静かに考えていた。
「今日はありません。明日はドクター・マクリーンが、眼球の再生と移植の実験と言ってましたね」
「ミスティの体の一部を移植しても、意味などないじゃないか」
「ラファエル総監やあなたにとっては、レスターク騎士団長の瞳の色までが大事ですしね」
「その名を出すな!」
低く唸るように言うタイドに、ドクター・アルドリックは肩をすくめる。
「ポーション販売から医療術開発まで、ドクター・マクリーンは資金集めによく尽力してくれています。研究、偽装、実行、そのどれにも莫大な金が掛かる。必要な実験です」
助手が、ミスティの体につけた電極パッドを取り外そうとしている。
指先が肌に触れた瞬間、ミスティの体が明らかに強張っているのが見て取れた。
「刺激の強度に、制限は設けなくていいのか?」
「医療行為ではありませんし。通常の医療行為であっても、麻酔の出来ない箇所はありますしね。……もっとも、彼の場合は痛みのショックで生命に別状があっても、再生しますから。可哀相だが、制限は出来ないでしょう」
「可哀相?」
「ええ、可哀想ですね」
「きみから、そんな言葉を聞くとはね」
タイドは、やや吐き捨てるように言った。
「……きみは現状、自分がしていることを客観的に理解していますか?」
「どういう意味だ?」
「人体実験、しかもかなり非人道的なね。私はその自覚があります。やっていることの罪も、なにもかも。だが、私は私の目的のために必要なので、やり遂げる覚悟があります。誤解から始まったこの泥沼の戦争は、一応の終結をみせてはいますが、危ういものだ。冷静沈着でカリスマ性と指導力を備えたレスターク騎士団長の存在は、必要なのです。ミスティの不死を解明することで……」
「そんなことは、きみからくどくど言われなくても、分かっている!」
苛立った口調で、タイドはドクター・アルドリックの話を遮った。
「分かっているなら、結構」
ドクター・アルドリックは立ち去りかけ、足を止める。
「ですがね、トラセナー。騎士団長が致命傷を負われなかったら、私たちの医療技術はここまで進みましたかね?」
「どういう意味だ?」
ドクター・アルドリックは、意味深な笑みを浮かべただけで、黙って去っていった。
舌打ちをしたタイドの傍に、助手たちに連れられたミスティが通りかかる。
「監房には、私が入れる。きみたちは行っていい」
タイドの命令に一礼し、皆、室内から去っていく。
拘束されたミスティは、タイドに促されると黙って歩き出した。
その横顔は、ひどく青白く見えた。
まるで──冷え切った死人のように。
「ダスクから、諜報活動時の拷問に対する精神耐性の訓練も、受けたんじゃないのか?」
「……あんなものは、神経伝達物質の反応に過ぎない」
ミスティは、わずかに視線を逸らした。
それはまるで、自分に言い聞かせる言葉のようだ……とタイドは思った。
「映像記録は、私が管理する。他の誰にも見せないようにしよう」
「……今更、誰が何を見ようが、構いやしないさ。……それより、そろそろきみの目的とやらを教えてくれないか? どうせ僕は虜の身だ。教えたところで構わんだろう」
「詳細は言えない。だが、私たちの最終目標は、きみが地下で見た、冷凍保存されている男を蘇らせることだ」
「あの人物の顔には、見覚えがある。……まだ思い出せないが、不死を望むなんて、ろくでもない思想だ」
ミスティの言葉に、タイドは一瞬、ひどく侮辱されたような顔をした。
だが怒りは表に出さず、顔をまっすぐ向けたまま、監房へと並んで歩いた。
「あの人が望んだわけじゃないが、あの人の復活を望むものが大勢いるんだ」
監房の扉を開き、タイドはミスティを促した。
「きみには悪いが、これはルミナリアの……人間のために絶対に必要なことなんだ」
返事をせず、ミスティは監房に入る。
扉が閉じて、施錠される音がした。
硬いベッドに倒れ込んだミスティは、そっと目を閉じた。
捕虜が人道的に扱われないことなど、戦場ではよくあることだ。
それは知識として理解していたつもりだった。
自分は "不死身" であるがゆえに、多少の非道な扱いなど、取るに足らないと思っていた。
──確かにこれは、 "次元の狭間に投げ出されるよりひどい" な……ダイアナ。
ダイアナだけではない。
グリントも、シェイドも、ダスクも──。
そして、クリスが命を賭してまで守ろうとしてくれていたものは、何だったのか。
ミスティは、改めてその意味を、静かに考えていた。
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