45 / 75
11-4
しおりを挟む
「……次の予定は?」
「今日はありません。明日はドクター・マクリーンが、眼球の再生と移植の実験と言ってましたね」
「ミスティの体の一部を移植しても、意味などないじゃないか」
「ラファエル総監やあなたにとっては、レスターク騎士団長の瞳の色までが大事ですしね」
「その名を出すな!」
低く唸るように言うタイドに、ドクター・アルドリックは肩をすくめる。
「ポーション販売から医療術開発まで、ドクター・マクリーンは資金集めによく尽力してくれています。研究、偽装、実行、そのどれにも莫大な金が掛かる。必要な実験です」
助手が、ミスティの体につけた電極パッドを取り外そうとしている。
指先が肌に触れた瞬間、ミスティの体が明らかに強張っているのが見て取れた。
「刺激の強度に、制限は設けなくていいのか?」
「医療行為ではありませんし。通常の医療行為であっても、麻酔の出来ない箇所はありますしね。……もっとも、彼の場合は痛みのショックで生命に別状があっても、再生しますから。可哀相だが、制限は出来ないでしょう」
「可哀相?」
「ええ、可哀想ですね」
「きみから、そんな言葉を聞くとはね」
タイドは、やや吐き捨てるように言った。
「……きみは現状、自分がしていることを客観的に理解していますか?」
「どういう意味だ?」
「人体実験、しかもかなり非人道的なね。私はその自覚があります。やっていることの罪も、なにもかも。だが、私は私の目的のために必要なので、やり遂げる覚悟があります。誤解から始まったこの泥沼の戦争は、一応の終結をみせてはいますが、危ういものだ。冷静沈着でカリスマ性と指導力を備えたレスターク騎士団長の存在は、必要なのです。ミスティの不死を解明することで……」
「そんなことは、きみからくどくど言われなくても、分かっている!」
苛立った口調で、タイドはドクター・アルドリックの話を遮った。
「分かっているなら、結構」
ドクター・アルドリックは立ち去りかけ、足を止める。
「ですがね、トラセナー。騎士団長が致命傷を負われなかったら、私たちの医療技術はここまで進みましたかね?」
「どういう意味だ?」
ドクター・アルドリックは、意味深な笑みを浮かべただけで、黙って去っていった。
舌打ちをしたタイドの傍に、助手たちに連れられたミスティが通りかかる。
「監房には、私が入れる。きみたちは行っていい」
タイドの命令に一礼し、皆、室内から去っていく。
拘束されたミスティは、タイドに促されると黙って歩き出した。
その横顔は、ひどく青白く見えた。
まるで──冷え切った死人のように。
「ダスクから、諜報活動時の拷問に対する精神耐性の訓練も、受けたんじゃないのか?」
「……あんなものは、神経伝達物質の反応に過ぎない」
ミスティは、わずかに視線を逸らした。
それはまるで、自分に言い聞かせる言葉のようだ……とタイドは思った。
「映像記録は、私が管理する。他の誰にも見せないようにしよう」
「……今更、誰が何を見ようが、構いやしないさ。……それより、そろそろきみの目的とやらを教えてくれないか? どうせ僕は虜の身だ。教えたところで構わんだろう」
「詳細は言えない。だが、私たちの最終目標は、きみが地下で見た、冷凍保存されている男を蘇らせることだ」
「あの人物の顔には、見覚えがある。……まだ思い出せないが、不死を望むなんて、ろくでもない思想だ」
ミスティの言葉に、タイドは一瞬、ひどく侮辱されたような顔をした。
だが怒りは表に出さず、顔をまっすぐ向けたまま、監房へと並んで歩いた。
「あの人が望んだわけじゃないが、あの人の復活を望むものが大勢いるんだ」
監房の扉を開き、タイドはミスティを促した。
「きみには悪いが、これはルミナリアの……人間のために絶対に必要なことなんだ」
返事をせず、ミスティは監房に入る。
扉が閉じて、施錠される音がした。
硬いベッドに倒れ込んだミスティは、そっと目を閉じた。
捕虜が人道的に扱われないことなど、戦場ではよくあることだ。
それは知識として理解していたつもりだった。
自分は "不死身" であるがゆえに、多少の非道な扱いなど、取るに足らないと思っていた。
──確かにこれは、 "次元の狭間に投げ出されるよりひどい" な……ダイアナ。
ダイアナだけではない。
グリントも、シェイドも、ダスクも──。
そして、クリスが命を賭してまで守ろうとしてくれていたものは、何だったのか。
ミスティは、改めてその意味を、静かに考えていた。
「今日はありません。明日はドクター・マクリーンが、眼球の再生と移植の実験と言ってましたね」
「ミスティの体の一部を移植しても、意味などないじゃないか」
「ラファエル総監やあなたにとっては、レスターク騎士団長の瞳の色までが大事ですしね」
「その名を出すな!」
低く唸るように言うタイドに、ドクター・アルドリックは肩をすくめる。
「ポーション販売から医療術開発まで、ドクター・マクリーンは資金集めによく尽力してくれています。研究、偽装、実行、そのどれにも莫大な金が掛かる。必要な実験です」
助手が、ミスティの体につけた電極パッドを取り外そうとしている。
指先が肌に触れた瞬間、ミスティの体が明らかに強張っているのが見て取れた。
「刺激の強度に、制限は設けなくていいのか?」
「医療行為ではありませんし。通常の医療行為であっても、麻酔の出来ない箇所はありますしね。……もっとも、彼の場合は痛みのショックで生命に別状があっても、再生しますから。可哀相だが、制限は出来ないでしょう」
「可哀相?」
「ええ、可哀想ですね」
「きみから、そんな言葉を聞くとはね」
タイドは、やや吐き捨てるように言った。
「……きみは現状、自分がしていることを客観的に理解していますか?」
「どういう意味だ?」
「人体実験、しかもかなり非人道的なね。私はその自覚があります。やっていることの罪も、なにもかも。だが、私は私の目的のために必要なので、やり遂げる覚悟があります。誤解から始まったこの泥沼の戦争は、一応の終結をみせてはいますが、危ういものだ。冷静沈着でカリスマ性と指導力を備えたレスターク騎士団長の存在は、必要なのです。ミスティの不死を解明することで……」
「そんなことは、きみからくどくど言われなくても、分かっている!」
苛立った口調で、タイドはドクター・アルドリックの話を遮った。
「分かっているなら、結構」
ドクター・アルドリックは立ち去りかけ、足を止める。
「ですがね、トラセナー。騎士団長が致命傷を負われなかったら、私たちの医療技術はここまで進みましたかね?」
「どういう意味だ?」
ドクター・アルドリックは、意味深な笑みを浮かべただけで、黙って去っていった。
舌打ちをしたタイドの傍に、助手たちに連れられたミスティが通りかかる。
「監房には、私が入れる。きみたちは行っていい」
タイドの命令に一礼し、皆、室内から去っていく。
拘束されたミスティは、タイドに促されると黙って歩き出した。
その横顔は、ひどく青白く見えた。
まるで──冷え切った死人のように。
「ダスクから、諜報活動時の拷問に対する精神耐性の訓練も、受けたんじゃないのか?」
「……あんなものは、神経伝達物質の反応に過ぎない」
ミスティは、わずかに視線を逸らした。
それはまるで、自分に言い聞かせる言葉のようだ……とタイドは思った。
「映像記録は、私が管理する。他の誰にも見せないようにしよう」
「……今更、誰が何を見ようが、構いやしないさ。……それより、そろそろきみの目的とやらを教えてくれないか? どうせ僕は虜の身だ。教えたところで構わんだろう」
「詳細は言えない。だが、私たちの最終目標は、きみが地下で見た、冷凍保存されている男を蘇らせることだ」
「あの人物の顔には、見覚えがある。……まだ思い出せないが、不死を望むなんて、ろくでもない思想だ」
ミスティの言葉に、タイドは一瞬、ひどく侮辱されたような顔をした。
だが怒りは表に出さず、顔をまっすぐ向けたまま、監房へと並んで歩いた。
「あの人が望んだわけじゃないが、あの人の復活を望むものが大勢いるんだ」
監房の扉を開き、タイドはミスティを促した。
「きみには悪いが、これはルミナリアの……人間のために絶対に必要なことなんだ」
返事をせず、ミスティは監房に入る。
扉が閉じて、施錠される音がした。
硬いベッドに倒れ込んだミスティは、そっと目を閉じた。
捕虜が人道的に扱われないことなど、戦場ではよくあることだ。
それは知識として理解していたつもりだった。
自分は "不死身" であるがゆえに、多少の非道な扱いなど、取るに足らないと思っていた。
──確かにこれは、 "次元の狭間に投げ出されるよりひどい" な……ダイアナ。
ダイアナだけではない。
グリントも、シェイドも、ダスクも──。
そして、クリスが命を賭してまで守ろうとしてくれていたものは、何だったのか。
ミスティは、改めてその意味を、静かに考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末
竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。
巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。
時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。
しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。
どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。
そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ……
★『小説家になろう』さんでも掲載しています。
【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!
天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。
顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。
「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」
これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。
※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。
恋人ごっこはおしまい
秋臣
BL
「男同士で観たらヤっちゃうらしいよ」
そう言って大学の友達・曽川から渡されたDVD。
そんなことあるわけないと、俺と京佐は鼻で笑ってバカにしていたが、どうしてこうなった……俺は京佐を抱いていた。
それどころか嵌って抜け出せなくなった俺はどんどん拗らせいく。
ある日、そんな俺に京佐は予想外の提案をしてきた。
友達か、それ以上か、もしくは破綻か。二人が出した答えは……
悩み多き大学生同士の拗らせBL。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。
髙槻 壬黎
BL
ヤンデレ執着攻め×鈍感強気受け
ユハン・イーグラントには、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染みがいる。それは、天使のような美貌を持つミカイル・アイフォスターという男。
彼は公爵家の嫡男として、いつも穏やかな微笑みを浮かべ、凛とした立ち振舞いをしているが、ユハンの前では違う。というのも、ミカイルは実のところ我が儘で、傲慢な一面を併せ持ち、さらには時々様子がおかしくなって頬を赤らめたり、ユハンの行動を制限してこようとするときがあるのだ。
けれども、ユハンにとってミカイルは大切な友達。
だから彼のことを憎らしく思うときがあっても、なんだかんだこれまで許してきた。
だというのに、どうやらミカイルの気持ちはユハンとは違うようで‥‥‥‥?
そんな中、偶然出会った第二王子や、学園の生徒達を巻き込んで、ミカイルの想いは暴走していく────
※旧題「執着系幼馴染みの、絶対に叶えたい6つの願い事。」
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる