52 / 75
12-4
しおりを挟む
レスタークの訃報は、唐突に届けられた。
デュロンはその時、学生寮で卒業試験のための論文を書いていた。
ルミナリア王国が誇る、魔導騎士養成学園。
そこは全寮制で、レスタークも在学した学び舎であり、卒業すれば騎士団に見習いとして所属できる予定だった。
だが、届いた知らせは騎士団の壊滅と、レスターク死亡の知らせ。
戻ってきた副団長のラファエルは、満身創痍だった。
砕けた鎧には乾いた血糊がこびりつき、裂けたマントで折れた腕を吊っていた。
盛大な国葬で送られるべき高潔な騎士は、騎士団全滅の責を一身に負わされ、名誉を剥奪された。
レスタークは、政治的な決定の場には立ち入れぬ騎士団長──つまりは "中間管理職" に過ぎなかった。
インフェリオンとの戦争勃発や、王族・貴族にとって厄介な政争の責任を押し付けるには、死して沈黙を守る騎士団長は、あまりにも "好都合" だった。
名誉も、遺志も、無残に踏みにじられ、国家は彼を── "使い捨て" たのだ。
葬儀は内々に、簡素すぎるほどに行われ、参列者もまばらだった。
何の説明もないまま──気がつけばデュロンは、ラファエルに引き取られていた。
ラファエルは、かつてレスタークの右腕と呼ばれた男。
騎士としての実力は、折り紙付きだった。
だが、彼の眼差しが注がれていたのは、ただ一人──レスタークだけだった。
レスタークがいたからこそ、彼は騎士として存在できたのだ。
戦場から戻ったラファエルは、極秘裏にレスタークの遺体を、死の直後のままの状態で持ち帰っていた。
彼は……つまり、レスタークを全身全霊で愛していたのだ。
その "愛" の正体が、崇高な憧れだったのか、あるいはどこか欲望を孕んだ執着だったのか……。
デュロンには、分からなかった。
ただ一つ言えるのは、その想いは、決して報われていなかったということだ。
レスタークは、任務と理想に人生を捧げた男。
私情を切り捨て、愛する者すら拒んでしまうほどに──。
それは、ある意味デュロンにも当てはまる。
どれほどデュロンが焦がれ、追い求めても、レスタークはデュロンを "養子" にはしなかったことからも、それははっきりしていた。
そういう意味では、デュロンとラファエルは似ているのかもしれない。
ラファエルがレスタークの遺体を保存し、時を止めるがごとくに保とうとすることに関して、デュロンは進んで協力した。
それ以外では、全く気の合わない二人だったが、唯一その目的だけは共通だった。
悲劇の騎士団長の処遇に、腹を立てている者は少なからず存在した。
騎士団所属の魔導研究員だったドクター・アルドリックもその一人だ。
レスタークの体の保存と、蘇らせるための方法。
それを模索することは、同時にバイオテクノロジーを発展させるために大きな貢献を果たした。
ドクター・アルドリックの「騎士団長が致命傷を負われなかったら、私たちの医療技術はここまで進みましたかね?」という言葉は、間違いなく真実なのだ。
正気と狂気の狭間のような日々。
だが、そうした一歩向こう側の飛び抜けた才能たちに囲まれた生活は、デュロンの知識を広げ、煌環騎士団に選出されるまでの才能を開花させたのだ。
デュロンはその時、学生寮で卒業試験のための論文を書いていた。
ルミナリア王国が誇る、魔導騎士養成学園。
そこは全寮制で、レスタークも在学した学び舎であり、卒業すれば騎士団に見習いとして所属できる予定だった。
だが、届いた知らせは騎士団の壊滅と、レスターク死亡の知らせ。
戻ってきた副団長のラファエルは、満身創痍だった。
砕けた鎧には乾いた血糊がこびりつき、裂けたマントで折れた腕を吊っていた。
盛大な国葬で送られるべき高潔な騎士は、騎士団全滅の責を一身に負わされ、名誉を剥奪された。
レスタークは、政治的な決定の場には立ち入れぬ騎士団長──つまりは "中間管理職" に過ぎなかった。
インフェリオンとの戦争勃発や、王族・貴族にとって厄介な政争の責任を押し付けるには、死して沈黙を守る騎士団長は、あまりにも "好都合" だった。
名誉も、遺志も、無残に踏みにじられ、国家は彼を── "使い捨て" たのだ。
葬儀は内々に、簡素すぎるほどに行われ、参列者もまばらだった。
何の説明もないまま──気がつけばデュロンは、ラファエルに引き取られていた。
ラファエルは、かつてレスタークの右腕と呼ばれた男。
騎士としての実力は、折り紙付きだった。
だが、彼の眼差しが注がれていたのは、ただ一人──レスタークだけだった。
レスタークがいたからこそ、彼は騎士として存在できたのだ。
戦場から戻ったラファエルは、極秘裏にレスタークの遺体を、死の直後のままの状態で持ち帰っていた。
彼は……つまり、レスタークを全身全霊で愛していたのだ。
その "愛" の正体が、崇高な憧れだったのか、あるいはどこか欲望を孕んだ執着だったのか……。
デュロンには、分からなかった。
ただ一つ言えるのは、その想いは、決して報われていなかったということだ。
レスタークは、任務と理想に人生を捧げた男。
私情を切り捨て、愛する者すら拒んでしまうほどに──。
それは、ある意味デュロンにも当てはまる。
どれほどデュロンが焦がれ、追い求めても、レスタークはデュロンを "養子" にはしなかったことからも、それははっきりしていた。
そういう意味では、デュロンとラファエルは似ているのかもしれない。
ラファエルがレスタークの遺体を保存し、時を止めるがごとくに保とうとすることに関して、デュロンは進んで協力した。
それ以外では、全く気の合わない二人だったが、唯一その目的だけは共通だった。
悲劇の騎士団長の処遇に、腹を立てている者は少なからず存在した。
騎士団所属の魔導研究員だったドクター・アルドリックもその一人だ。
レスタークの体の保存と、蘇らせるための方法。
それを模索することは、同時にバイオテクノロジーを発展させるために大きな貢献を果たした。
ドクター・アルドリックの「騎士団長が致命傷を負われなかったら、私たちの医療技術はここまで進みましたかね?」という言葉は、間違いなく真実なのだ。
正気と狂気の狭間のような日々。
だが、そうした一歩向こう側の飛び抜けた才能たちに囲まれた生活は、デュロンの知識を広げ、煌環騎士団に選出されるまでの才能を開花させたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる