暁闇の騎士

琉斗六

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 あの頃──。
 作戦終了時にミスティが命を落とし、そして再生をした。
 そのあと、スヴェンはミスティを部屋に誘い、少し酒を飲んで、それから肌を重ね合わせた。

 ミスティが傷を受けた場所──その時にはもう再生して傷一つない場所に口づけをすると、彼は微かに痛みを思い出すかのように顔をしかめた。

 痛み、不快感、嫌悪感──正直、人間ならば普通に感じ、表し、総じて "人間らしさ" に繋がる感覚や感情であるならなんでも。
 それをミスティが見せてくれるなら──と思っていた。

 しかし、それも最初だけで。
 回数を重ねるにしたがって、ミスティはそれにすら反応を返さなくなった。

 快感に反応はするし、切ない声で啼きもする。
 だが、あくまでも「神経伝達物質に対する反応」といった様子で、むしろ割り切り感のほうが強くなっていった。

──俺のやり方が間違っていたのか?

 当時の自分は、微かな後悔と焦りを感じた。
 しかしそれ以外に、ミスティに "らしい" 反応をさせるすべがみつからなくて。

 それが、キスを一つ交わすだけで、これほどの戸惑いを見せるとは……。
 それを歓喜と言わずに、なんという。

 スヴェンはルーファの夜着をするりと脱がせ、その体をそっとベッドに横たわらせる。
 そして足を開かせ、熱の集まった場所をやんわりと唇と舌で愛撫した。

「……ん……」

 ルーファが、微かな吐息をく。
 顔を背け、羞恥に耐えかねるような顔で……。
 スヴェンは、取り出した小瓶からベルガモットの香りのクリームを手に取る。
 それを、そっと塗り拡げた。

「スヴェン……これ……」
「ラベンダーは、きみに合わないと思ってさ」

 ラベンダーのローションは、クリスがミスティを抱いた時に、ダイアナが残していったもので代用していたものだ。

「でも……いつから持ってたんだ?」
「最後の遠征命令の出る前……だな。……その直後にグリント様から、レフュージがきみを転送陣で攫おうとしてると聞かされて……」

 そうだ──、そしてミスティは、なんの予告もなく偽棺筐クレイドルに眠らされ、次に目覚めた時はダイアナによって竜腔鞘チェンバーに押し込められた。

「きみの体……再生するたびに、初めてみたいに痛むだろう? だから……香りくらいは、きみに似合うもので……優しくしたかったんだ」

 そのひとことが、心を打つ。
 今のルーファのために選ばれた、ルーファだけの香り。

 体の奥に指が入れられ、快感が高まり、ルーファの全身がのけぞる。
 熱に溺れそうになる。

「おいおい、これくらいでイッてたら、あとがもたないぞ」
「……ごめ……」
「謝るのは違うって、言っただろ?」

 クスクス笑いながら、スヴェンはいとおしげにルーファを見つめる。

「だから……、ジロジロ……見……見るな……って……!」

 その言葉は、今までに何度も聞かされた。
 しかし、今日のそれは今までのものと違って、ルーファが恥ずかしさに耐えきれずに発していることが、簡単に見て取れた。
 伏せられた睫毛は震え、視線は忙しなくさまよい、なにより耳朶まであかく染めた様子が、彼の羞恥を雄弁に物語っている。

 スヴェンはそっと、キスをした。
 ひたいに。まぶたに。頬に。喉元に。
 一つ一つ、確かめるように触れた。

「スヴェン……っ」

 消え入りそうな声。

「俺の部屋で、もっとすごいことしたじゃないか」
「あれは……、きみが……っ!」

──そう望んだからだ。

 最期の一言は、口に出せなかった。
 ただ、スヴェンの背中に腕を回しただけだった。

 それだけで、スヴェンはすべてを悟ったように、優しく笑った。
 その微かに戸惑うような仕草が、何よりの証だった。
 ミスティではなく、ルーファとして、スヴェンに全てを委ねてくれたことが理解できたから。

──ああ、もう大丈夫だ……。

 と、そう思えた。
 唇を重ねると、ルーファも応えるように唇を開き、ゆるゆると舌を絡めてくる。
 今までの、まるで決まり切った作業をこなすようなものとは違う。
 恥じらいと、戸惑いの混ざった、ぎこちない舌の動き……。
 スヴェンは、初めてルーファの心にも触れることが出来たのだ……と思った。

「俺の背中に、手を回せ」
「……ん……」

 おずおずと回された腕に、ぎゅっと力が込められる。
 そのまま、スヴェンがゆっくりと、ルーファの中に沈み込む。

 最初のひと突きに、ルーファの体が震えた。
 次第に息を乱しながらも、スヴェンの動きに呼応し、腰が浮く。

 もう、自分の意思で応えている。
 役割ではなく、感情が、欲が、彼を動かしている。

 スヴェンが囁くように言った。

「今度は、一緒に──な」

 ルーファの瞳が一瞬、揺れる。

「スヴェン……っ」

 ルーファの全身が、スヴェンを求めている。
 もはや形だけの人形ではない。
 この瞬間だけでも、自分の感情に素直でいる彼の様子が、スヴェンには嬉しかった。
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