暁闇の騎士

琉斗六

文字の大きさ
70 / 75

17-3

しおりを挟む
 あの頃──。
 作戦終了時にミスティが命を落とし、そして再生をした。
 そのあと、スヴェンはミスティを部屋に誘い、少し酒を飲んで、それから肌を重ね合わせた。

 ミスティが傷を受けた場所──その時にはもう再生して傷一つない場所に口づけをすると、彼は微かに痛みを思い出すかのように顔をしかめた。

 痛み、不快感、嫌悪感──正直、人間ならば普通に感じ、表し、総じて "人間らしさ" に繋がる感覚や感情であるならなんでも。
 それをミスティが見せてくれるなら──と思っていた。

 しかし、それも最初だけで。
 回数を重ねるにしたがって、ミスティはそれにすら反応を返さなくなった。

 快感に反応はするし、切ない声で啼きもする。
 だが、あくまでも「神経伝達物質に対する反応」といった様子で、むしろ割り切り感のほうが強くなっていった。

──俺のやり方が間違っていたのか?

 当時の自分は、微かな後悔と焦りを感じた。
 しかしそれ以外に、ミスティに "らしい" 反応をさせるすべがみつからなくて。

 それが、キスを一つ交わすだけで、これほどの戸惑いを見せるとは……。
 それを歓喜と言わずに、なんという。

 スヴェンはルーファの夜着をするりと脱がせ、その体をそっとベッドに横たわらせる。
 そして足を開かせ、熱の集まった場所をやんわりと唇と舌で愛撫した。

「……ん……」

 ルーファが、微かな吐息をく。
 顔を背け、羞恥に耐えかねるような顔で……。
 スヴェンは、取り出した小瓶からベルガモットの香りのクリームを手に取る。
 それを、そっと塗り拡げた。

「スヴェン……これ……」
「ラベンダーは、きみに合わないと思ってさ」

 ラベンダーのローションは、クリスがミスティを抱いた時に、ダイアナが残していったもので代用していたものだ。

「でも……いつから持ってたんだ?」
「最後の遠征命令の出る前……だな。……その直後にグリント様から、レフュージがきみを転送陣で攫おうとしてると聞かされて……」

 そうだ──、そしてミスティは、なんの予告もなく偽棺筐クレイドルに眠らされ、次に目覚めた時はダイアナによって竜腔鞘チェンバーに押し込められた。

「きみの体……再生するたびに、初めてみたいに痛むだろう? だから……香りくらいは、きみに似合うもので……優しくしたかったんだ」

 そのひとことが、心を打つ。
 今のルーファのために選ばれた、ルーファだけの香り。

 体の奥に指が入れられ、快感が高まり、ルーファの全身がのけぞる。
 熱に溺れそうになる。

「おいおい、これくらいでイッてたら、あとがもたないぞ」
「……ごめ……」
「謝るのは違うって、言っただろ?」

 クスクス笑いながら、スヴェンはいとおしげにルーファを見つめる。

「だから……、ジロジロ……見……見るな……って……!」

 その言葉は、今までに何度も聞かされた。
 しかし、今日のそれは今までのものと違って、ルーファが恥ずかしさに耐えきれずに発していることが、簡単に見て取れた。
 伏せられた睫毛は震え、視線は忙しなくさまよい、なにより耳朶まであかく染めた様子が、彼の羞恥を雄弁に物語っている。

 スヴェンはそっと、キスをした。
 ひたいに。まぶたに。頬に。喉元に。
 一つ一つ、確かめるように触れた。

「スヴェン……っ」

 消え入りそうな声。

「俺の部屋で、もっとすごいことしたじゃないか」
「あれは……、きみが……っ!」

──そう望んだからだ。

 最期の一言は、口に出せなかった。
 ただ、スヴェンの背中に腕を回しただけだった。

 それだけで、スヴェンはすべてを悟ったように、優しく笑った。
 その微かに戸惑うような仕草が、何よりの証だった。
 ミスティではなく、ルーファとして、スヴェンに全てを委ねてくれたことが理解できたから。

──ああ、もう大丈夫だ……。

 と、そう思えた。
 唇を重ねると、ルーファも応えるように唇を開き、ゆるゆると舌を絡めてくる。
 今までの、まるで決まり切った作業をこなすようなものとは違う。
 恥じらいと、戸惑いの混ざった、ぎこちない舌の動き……。
 スヴェンは、初めてルーファの心にも触れることが出来たのだ……と思った。

「俺の背中に、手を回せ」
「……ん……」

 おずおずと回された腕に、ぎゅっと力が込められる。
 そのまま、スヴェンがゆっくりと、ルーファの中に沈み込む。

 最初のひと突きに、ルーファの体が震えた。
 次第に息を乱しながらも、スヴェンの動きに呼応し、腰が浮く。

 もう、自分の意思で応えている。
 役割ではなく、感情が、欲が、彼を動かしている。

 スヴェンが囁くように言った。

「今度は、一緒に──な」

 ルーファの瞳が一瞬、揺れる。

「スヴェン……っ」

 ルーファの全身が、スヴェンを求めている。
 もはや形だけの人形ではない。
 この瞬間だけでも、自分の感情に素直でいる彼の様子が、スヴェンには嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。 巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。 時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。 しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。 どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。 そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ…… ★『小説家になろう』さんでも掲載しています。

【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。 顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。 「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」 これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。 ※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。

恋人ごっこはおしまい

秋臣
BL
「男同士で観たらヤっちゃうらしいよ」 そう言って大学の友達・曽川から渡されたDVD。 そんなことあるわけないと、俺と京佐は鼻で笑ってバカにしていたが、どうしてこうなった……俺は京佐を抱いていた。 それどころか嵌って抜け出せなくなった俺はどんどん拗らせいく。 ある日、そんな俺に京佐は予想外の提案をしてきた。 友達か、それ以上か、もしくは破綻か。二人が出した答えは…… 悩み多き大学生同士の拗らせBL。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎
BL
ヤンデレ執着攻め×鈍感強気受け ユハン・イーグラントには、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染みがいる。それは、天使のような美貌を持つミカイル・アイフォスターという男。 彼は公爵家の嫡男として、いつも穏やかな微笑みを浮かべ、凛とした立ち振舞いをしているが、ユハンの前では違う。というのも、ミカイルは実のところ我が儘で、傲慢な一面を併せ持ち、さらには時々様子がおかしくなって頬を赤らめたり、ユハンの行動を制限してこようとするときがあるのだ。 けれども、ユハンにとってミカイルは大切な友達。 だから彼のことを憎らしく思うときがあっても、なんだかんだこれまで許してきた。 だというのに、どうやらミカイルの気持ちはユハンとは違うようで‥‥‥‥? そんな中、偶然出会った第二王子や、学園の生徒達を巻き込んで、ミカイルの想いは暴走していく──── ※旧題「執着系幼馴染みの、絶対に叶えたい6つの願い事。」

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...