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スヴェンは、ルーファの唇を指先でたどった。
唇が微かに開くのを見て、そっと笑う。
──やっと、本当にきみがそこにいる気がする……。
言葉にはしなかったが、そんな想いが、指先から伝わるように──。
告白ののち、自分から唇を重ねるまでしたルーファは、バルコニーから屋内に戻り改めて向かい合うと、なぜか戸惑い顔になっていた。
すうっと、唇を辿った指先を広げ、てのひらで頬を包む。
そのまま顔を引き寄せられそうになると、ルーファは思わず一歩引いていた。
「ルーファ?」
「あ……いや……、ごめん……」
ルーファの様子に、スヴェンは微かに眉を寄せる。
「キスされるのは、いや?」
「……いや……、本当に……。きみに触れられるのが、いやなわけでは……ないんだ」
ぎこちなく、ルーファはそこに置き去りにしたスヴェンの手を取った。
視線は忙しなく、スヴェンの顔と手元を行き来している。
「本当を言うと、どうして避けたのか、よく……わからない。……きみとキスをするのなんて、別に初めてではないのにな……」
本当にわけがわからないという顔をしているルーファの様子に、スヴェンは微かな笑みを浮かべる。
怯えているわけではない。
しかし……。
以前に肌を重ね合った時と、自分の気持が変わっている自覚が全くないのだろう。
スヴェンはもう一度、ルーファの唇に指先を当てた。
「逃げずに、ちょっと我慢をして……」
「あ……」
スヴェンが顔を寄せると、ルーファは眉根を寄せて目を閉じた。
唇から手を離し、それをルーファの胸に当てる。
「ドキドキ、してる?」
「え……? あ、そう……だな。……ひどく、動悸がしてる……」
「動悸……とは違うと思うぜ」
スヴェンは顔を寄せ、そうっとルーファの下唇を吸った。
ルーファの体が強張る。
「怖いわけじゃ、ないんだろう?」
「……ああ」
「でも、ドキドキしてる?」
「……ああ」
「それは普通、恥じらいと言うと思うがね」
ルーファは最初、なんの反応もしめさなかった。
が、じわじわとなにかが理解出来たのか、目を見開き、それから顔を真赤に染めた。
「え……? え……? なん……」
「ははは……、なんて顔をしてるんだ。まるで初恋の少女のようだな」
「ばか! よせっ!」
ルーファは両腕で、自分の顔を隠した。
だが、そんなことをしたところで、耳どころか首まで染まっているのが隠せるわけもない。
「きみがそんなに、乙女気質だったとは、意外だな」
「いちいち指摘をするな!」
「顔を隠さず、見せてくれ。きみがそんな顔を出来るようになったのが、俺はとても嬉しい」
ぎこちなく、少しずつ、ルーファは腕を下ろす。
「意外に、素直だな」
「き……きみが腕を釣ってるから……」
チラチラとスヴェンの顔を見ていたルーファが、少し苛立ったように叫んだ。
「じ……ジロジロ見るな!」
「無理を言うなよ。きみがひどく愛おしくて、目が離せないんだ」
「本当にきみは! 口八丁だな!」
ますます顔を赤らめてうつむき、最期にルーファは「一体今まで、何人そうやって口説いてきたんだ?」と呟いた。
「きみ、恥ずかしいから話題をそらしたいだけだろう?」
「い……今更、こんな目に合わされるなんて……!」
クスリと笑って、スヴェンは手を伸ばし、ルーファの髪をすいた。
「……きみに、キスがしたい」
「え……、あ……、ああ……、うん……」
ルーファは許諾の意志を示したが。
「いや、やっぱり今はだめだ!」
全く呆れるほど情けない顔になって、ルーファはスヴェンの肩に手を掛けて押し返す。
「だめか?」
「だめだ! きみとのキスは、こ……困るから!」
俯いたルーファの頭から、湯気が上がって見えそうな気がする。
そんな恋人の様子に、スヴェンはむしろ喜びを覚えていた。
「でも、俺はしたい」
顎に手を当てて、クイッとこちらに向かせると、有無を言わせずに唇が重ねられる。
ルーファは、ぎゅうっと目をつぶった。
口を開くことすらできない。
しかしスヴェンは、そんなルーファを優しく見つめ、口元に穏やかな笑みすら浮かべていた。
ルーファのその反応が、むしろ嬉しかった。
なんでも従うだけの人形のようだったあの時の虚しさが、払拭されていく。
額に、頬に、首筋に、スヴェンはキスを落としていく。
触れるたびに、ルーファの体がひくりと反応する。
決して拒んでいるのではない。
ただ、感情と記憶と体が噛み合っていないだけだ。
「そんな顔、するなよ」
おかしくなって、スヴェンが言う。
「そんな顔って、どんな……?」
「テーブルの上の菓子を狙ってる猫みたいな顔」
驚いたように、ルーファが目を開いた。
スヴェンは楽しそうに笑っている。
「目を閉じてりゃ他のやつにも世界は見えてないって、そう思ってるみたいな顔だ」
首筋に、軽く噛むようなキスを落とされて、ビクリと体がすくむ。
ルーファは、そんな自分の反応に戸惑っていた。
──前は、どうしてた?
その自問への答えは、分かっている。
ただ "役割を果たすだけだ" と思って、感情を切り離し体を差し出した。
──あの時の僕は、痛みも、快楽も、ただ義務の記号だった。
──でも、今は違う。
そうされることに羞恥を覚えながらも、自分はスヴェンからの行為を受け入れたいと思っていることに、ルーファはようやく気がついた。
唇が微かに開くのを見て、そっと笑う。
──やっと、本当にきみがそこにいる気がする……。
言葉にはしなかったが、そんな想いが、指先から伝わるように──。
告白ののち、自分から唇を重ねるまでしたルーファは、バルコニーから屋内に戻り改めて向かい合うと、なぜか戸惑い顔になっていた。
すうっと、唇を辿った指先を広げ、てのひらで頬を包む。
そのまま顔を引き寄せられそうになると、ルーファは思わず一歩引いていた。
「ルーファ?」
「あ……いや……、ごめん……」
ルーファの様子に、スヴェンは微かに眉を寄せる。
「キスされるのは、いや?」
「……いや……、本当に……。きみに触れられるのが、いやなわけでは……ないんだ」
ぎこちなく、ルーファはそこに置き去りにしたスヴェンの手を取った。
視線は忙しなく、スヴェンの顔と手元を行き来している。
「本当を言うと、どうして避けたのか、よく……わからない。……きみとキスをするのなんて、別に初めてではないのにな……」
本当にわけがわからないという顔をしているルーファの様子に、スヴェンは微かな笑みを浮かべる。
怯えているわけではない。
しかし……。
以前に肌を重ね合った時と、自分の気持が変わっている自覚が全くないのだろう。
スヴェンはもう一度、ルーファの唇に指先を当てた。
「逃げずに、ちょっと我慢をして……」
「あ……」
スヴェンが顔を寄せると、ルーファは眉根を寄せて目を閉じた。
唇から手を離し、それをルーファの胸に当てる。
「ドキドキ、してる?」
「え……? あ、そう……だな。……ひどく、動悸がしてる……」
「動悸……とは違うと思うぜ」
スヴェンは顔を寄せ、そうっとルーファの下唇を吸った。
ルーファの体が強張る。
「怖いわけじゃ、ないんだろう?」
「……ああ」
「でも、ドキドキしてる?」
「……ああ」
「それは普通、恥じらいと言うと思うがね」
ルーファは最初、なんの反応もしめさなかった。
が、じわじわとなにかが理解出来たのか、目を見開き、それから顔を真赤に染めた。
「え……? え……? なん……」
「ははは……、なんて顔をしてるんだ。まるで初恋の少女のようだな」
「ばか! よせっ!」
ルーファは両腕で、自分の顔を隠した。
だが、そんなことをしたところで、耳どころか首まで染まっているのが隠せるわけもない。
「きみがそんなに、乙女気質だったとは、意外だな」
「いちいち指摘をするな!」
「顔を隠さず、見せてくれ。きみがそんな顔を出来るようになったのが、俺はとても嬉しい」
ぎこちなく、少しずつ、ルーファは腕を下ろす。
「意外に、素直だな」
「き……きみが腕を釣ってるから……」
チラチラとスヴェンの顔を見ていたルーファが、少し苛立ったように叫んだ。
「じ……ジロジロ見るな!」
「無理を言うなよ。きみがひどく愛おしくて、目が離せないんだ」
「本当にきみは! 口八丁だな!」
ますます顔を赤らめてうつむき、最期にルーファは「一体今まで、何人そうやって口説いてきたんだ?」と呟いた。
「きみ、恥ずかしいから話題をそらしたいだけだろう?」
「い……今更、こんな目に合わされるなんて……!」
クスリと笑って、スヴェンは手を伸ばし、ルーファの髪をすいた。
「……きみに、キスがしたい」
「え……、あ……、ああ……、うん……」
ルーファは許諾の意志を示したが。
「いや、やっぱり今はだめだ!」
全く呆れるほど情けない顔になって、ルーファはスヴェンの肩に手を掛けて押し返す。
「だめか?」
「だめだ! きみとのキスは、こ……困るから!」
俯いたルーファの頭から、湯気が上がって見えそうな気がする。
そんな恋人の様子に、スヴェンはむしろ喜びを覚えていた。
「でも、俺はしたい」
顎に手を当てて、クイッとこちらに向かせると、有無を言わせずに唇が重ねられる。
ルーファは、ぎゅうっと目をつぶった。
口を開くことすらできない。
しかしスヴェンは、そんなルーファを優しく見つめ、口元に穏やかな笑みすら浮かべていた。
ルーファのその反応が、むしろ嬉しかった。
なんでも従うだけの人形のようだったあの時の虚しさが、払拭されていく。
額に、頬に、首筋に、スヴェンはキスを落としていく。
触れるたびに、ルーファの体がひくりと反応する。
決して拒んでいるのではない。
ただ、感情と記憶と体が噛み合っていないだけだ。
「そんな顔、するなよ」
おかしくなって、スヴェンが言う。
「そんな顔って、どんな……?」
「テーブルの上の菓子を狙ってる猫みたいな顔」
驚いたように、ルーファが目を開いた。
スヴェンは楽しそうに笑っている。
「目を閉じてりゃ他のやつにも世界は見えてないって、そう思ってるみたいな顔だ」
首筋に、軽く噛むようなキスを落とされて、ビクリと体がすくむ。
ルーファは、そんな自分の反応に戸惑っていた。
──前は、どうしてた?
その自問への答えは、分かっている。
ただ "役割を果たすだけだ" と思って、感情を切り離し体を差し出した。
──あの時の僕は、痛みも、快楽も、ただ義務の記号だった。
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