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Scene.20
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車で処分場を出たあと、松原サンは近くの駅で降りていった。
俺は柊一を取り戻したのだから、多聞夫人とも白王華氏とも二度と会うつもりはないが、松原サンのほうはまだまだ問題が山積みで、忙しいのだろう。
運転席のマツヲさんは自分が青春時代に憧れたアイドルの変貌(または本性?)に失望したらしく、ずっと愚痴を垂れ続けている。
俺はその声に機械的な相づちを返しつつ、意識は柊一に奪われていた。
柊一はほとんど身動きもせず、外の景色だけをジッと眺めていて、車内の会話なんてまるで耳に入ってないみたいだ。
「マツヲさん、悪いけどスタジオ戻る前に、俺のマンションに寄ってって貰えませんか? 柊一サンを降ろしてあげたいんです」
「ああ? …ハルカ、オマエって時々底なしのダァホだな?」
「はいい?」
いきなりのド阿呆呼ばわりに俺がビックリしていると、マツヲさんはわざとらしい大きな溜息を吐いてみせる。
「寄り道もへったくれもないだろ~。おまえんちの真ん前につけてやるから、オマエも一緒に降りて、今日はそのまま帰れよ」
「ええ? だってあの、まだ仕事の途中だし…」
「どーせおまえ、これからそのマリオネットと『お話し合い』とかゆーのをしなきゃなんねェンだろ?」
マツヲさんの指摘に、俺はチラッと隣の柊一を見やった。
「はぁ……まぁ………」
「ならそっちを先に片付けちまえよ。明日はちゃんと出くるつもりなんだろ?」
「そりゃあ……」
「なら充分だ」
「スミマセン、ご迷惑を掛けて」
「ん、いいよ。俺も缶詰から解放されて息抜き出来たしナ。マイコちゃんにはまったくガッカリさせられちまったが、まぁ、人生には冒険が必要だしな! アドベンチャー&アクション! やっぱ男は刺激のある人生送らないと!」
うははははは! とか笑って、マツヲさんは一人で悦に入ったように頷いて見せた。
マンションの前に着けてもらって、俺はマツヲさんと別れ、柊一を連れて部屋に戻った。
スタジオに籠もりきりであまり家に戻ってなかったので、いつもみたいに徹底的にグチャグチャってワケじゃないけど、俺が暮らした日数分はしっかりと散らかっている。
「柊一サン、着替えてきなよ」
柊一は処理場で着せられたと思われる、まるで病院で検査を受けるヒトみたいな、ぺらっぺらの作務衣みたいな白っぽい布一枚なのだ。
なので気を使ってそう言ったのだが。
「ハルカ」
実はずっと柊一の顔を見る事が出来ずにいた俺は、呼び止められてギクリとしてしまった。
処理場で顔を見た時は、もし間に合わなかったらもう二度と会えないかもしれないって思っていたから、思わず夢中で抱きしめてしまったけど。
俺の手元に戻ってきた……って実感が湧いてきたら、俺が柊一にやらかしてしまったことをいっぺんに全部思い出して、引け目と気まずさがドッとのし掛かってきてる。
「……な、なに…?」
返事をして、振り返っても、柊一の顔を見る事が出来ず視線を泳がせてしまう。
「ハルカは、どうしてあそこに?」
「そりゃ……柊一サンは納得出来てないだろうけど、柊一サンは俺のモノだからね。勝手に処分されたくなかったのさ…」
「それだけ?」
「それだけ………って……」
チラとみやると、あのCG美少女のようなグラデーション・アイズが、ジイッと俺を見つめているのだ。
「……柊一サンは、俺といるよりは松原サン所にでも居た方がまだマシだったかもだけど……でも俺はやっぱりどうしても、柊一サンの事を手放す気になれなかったんだ……ゴメン」
柊一は俺を見つめたまま、何も言わない。
気まずさが一気に加速して、俺はこの場が耐えられなくなり、わざとらしく話題を変えた。
「とにかく着替えてきなよ。マリオネットは風邪なんかひかないだろうけど、ソレ、あんまりカッコよくないから」
柊一は黙って頷くと、静かに俺の横を擦り抜けていった。
なんだかもうすっかり疲れてしまい、俺はキッチンに行って冷蔵庫を漁ると、ありあわせの残り物をリビングに持ってきて、そこで簡単に食事を済ませた。
そのままなんとなくテレビを眺めていたら、空になった食器がササッと俺の前からなくなっていく。
振り返ると、柊一は食器を持っていって、後片付けをしているようだ。
本当は柊一に訊ねたい事が、いっぱいあったけど。
でも俺は敢えてそれらを口には出さずに、柊一の後ろ姿から視線を引き剥がした。
柊一が、俺の望みを受け入れないことはわかってる。
でもそのことを改めて柊一の口から聞かされたら、俺はまたキレて酷い事をしてしまいそうだ。
今度あんな事をしたら、もう二度と柊一を取り戻せなくなる……。
俺の苦悩なんてまるで関知しない様子で、食器を片付け終えた柊一は着々と室内の片付けを始めた。
命令する必要もなく、グタグタと時間を過ごしてからバスルームに行くとちゃんと風呂が沸かしてあったし、風呂から上がってくるとリビングにはビールの用意までしてあった。
会話はなにもなく……俺が柊一を避けているせいか、それとも柊一が俺に無関心だからか、同じ部屋の中にいながら目線も合わせない時間を過ごし。
つけっぱなしのテレビが、夜のニュース番組になった。
ぼんやり眺めていたらカズヤが見たと言っていた、多聞氏の法要の様子がまた放映されていた。
マイクスタンドの前に立った多聞夫人が、マツヲさんの言葉通りの下手な歌を披露して、途中から彼女のヴォーカルに、画面には姿のない柊一の声が被ってくる。
『きびしい雪の下深くに埋まっている種は、太陽の慈愛を受けて春には大輪の薔薇になる』
俺はテレビを消すと、そのまま寝室にこもった。
多聞夫人の声で歌われても、それはただの虚飾に過ぎないけれど。
柊一が作られた理由を思うと、このバラードの一節一節があまりにも胸に突き刺さってくる。
多聞氏の死を知ってなお、あの声であの歌を奏でた柊一の気持ちを考えると、俺は俺の選択が正しかったのかどうかますます自信がなくなってくる。
夫人の思惑がどうあれ、柊一は半端な命を長らえる事よりも、綺麗にこの世界から消え去ってしまえる方を選びたかったんじゃないだろうか……?
微かなノックの音の後がした。
「…ハルカ」
声と共に、柊一が寝室に入ってくる気配がする。
「なに……どうしたの?」
廊下の明かりが差し込んだ一瞬だけ柊一のシルエットが見えたが、扉が閉まると部屋は真っ暗で、俺の目は柊一の姿を捉える事が出来ない。
ただ動く気配で柊一が傍にきている事だけが、なんとなく察する事が出来るだけだ。
「ハルカは、俺が必要か?」
間近から声がして、どうやら柊一はすぐ傍にいるらしい。
「なんだよ。突然………」
「それとも、俺は必要じゃないのか?」
「必要じゃなかったら、迎えになんか行かないよ」
柊一の思惑を図りかねて、俺は戸惑い気味に返事をした。
するとまた動く気配がして、俺の頬に、そうっと何かが触れてきた。
両手で俺の頬を挟むように触れてきた…と思ったら、唇に温かい体温を感じて。
柊一が俺にキスしてる。
たったそれだけの事を理解するのに、俺はたっぷり1分くらいかかってしまった。
突然の事にビックリして、俺が動かないでいると、頬に触れていた指先がスルスルッと下に移動して、俺の履いているジーパンのボタンが外されて、ジッパーが引き下ろされる。
「……柊一サ…………」
生暖かい粘膜が、やんわりと俺を包み込んで。
濡れた舌先が、丹念に丹念に愛撫を施してくる。
手を伸ばして髪を撫でても、振り払われる事もなく。
闇の中に、淫猥で粘着質の音と、俺の乱れた息づかいだけが聞こえている。
「柊一サ………も、ヤバ………っ!」
言った時には、心地の良い刺激に導かれて吐精した後だった。
「ご、ごめ……っ」
慌てて身体を起こした時には、柊一は既にそれを溜飲してしまっている。
「あの………柊一サン?」
「…………………………」
無言のまま、柊一は両腕を俺の背中に回してきて。
芳しい柊一の甘い体臭に誘われて、思わず抱き返してしまっても、抵抗はない。
それどころか柊一の纏っている着衣はいつも通りのスウェットだったけれど、それを脱がせると下着すら身につけてはいなかった。
「………………ハルカ……」
それだけ言うのが精一杯みたいな声で俺の名を呼び、柊一はねだるみたいに俺の肩に頭を乗せて首筋から鎖骨にかけて愛撫するみたいに口唇を寄せてくる。
俺はそのまま柊一を抱き寄せ、同じように首筋に口唇を寄せた。
柔らかな肌を吸うと、それだけで感じてしまうみたいに柊一の身体がヒクンと震える。
滑らかな感触を楽しむように掌を這わせて、俺は柊一の身体を仰向けに組み敷き、黙って愛撫した。
「あ…………、ハル……カ………」
感じやすい場所に触れると、柊一はそこを責め上げて欲しいみたいに甘えた声で俺を呼ぶ。
俺は柊一の望むままに、同じ場所を何度も何度も触れて柊一を追い立てた。
どういうつもりなのか? とか、どうしてなのか? なんて訊くつもりはない。
どんな理由であれ柊一が俺を欲しがってくれるなら、俺にはそれだけで嬉しかった。
柊一は最愛のヒト(つまり元・オーナーの多聞氏)を失ってしまって傷心しているのだ。一時の激情にせよ、その悲しみややりきれなさを紛らわせるのにこうした方法を選ぶのが悪い事だとは思わない。
そんな気遣いをマリオネットにしてやるなんて無意味だってマツヲさんは言うかもしれないけど、かまいやしない、どうせ俺はマリオネットを人並みに扱ってしまう変人で、このマリオネットのことを誰より甘やかしてやりたいと思ってしまうイカレた男なんだから。
己の満足の為にマリオネットを必要とするのなら、俺の場合はこうするのが術なのだ。
足を開かせて、蕩けているその場所に指先をあてがう。
「…ハルカ……」
闇に慣れた目が、イヤイヤをするように頭を振る柊一の様子に気付いた。
「どうしたの?」
抱き寄せて耳元で囁くと、柊一は両腕を伸ばして俺の首に絡めてくる。
「………挿れて」
「だって、まだ前戯も途中なのに?」
「…………………」
俺の問いに、返事はない。
けれど、抱きついているだけの柊一の様子は、なんだか焦っているというか一瞬一秒も早くして欲しい…みたいな空気が濃厚で。
俺は柊一を抱いたまま、コロンッと自分が仰向けになって、柊一を俺の上に座らせるような格好にさせる。
「……ハルカ?」
「自分で、やってごらん?」
促すと、さすがに戸惑ったように柊一の動きが止まった。
部屋が明るかったら、きっとすごくカワイイ顔が見られたのになぁ……とか、少し悔やまれたり。
しばしの沈黙の後、柊一が動きだす気配がする。
「ああっ!」
「焦らないで、ゆっくり…………ね」
片手で柊一の腰を支えてやりながら、俺は右手でベッドサイドのスイッチ探り、サイドランプを灯す。
「やっ………」
仄かな光だったが、闇の中では明るすぎるほどに感じられたのだろう。俺の上に自分から跨っている姿を照らし出され、柊一は恥じらうように顔を背けた。
「柊一サン……」
声を掛けると、柊一はおずおずと俺を見る。
「見てるから、動いて」
上体を起こして、上目遣いに俺を見ながら噛みしめている口唇をそっと吸う。
何回かソフトな触れるだけのキスを繰り返すと、柊一は微かに口唇を開いてキスに応え始める。
「全部、見ててあげるから。ね?」
腰に腕を回し、俺は柊一の身体を少しだけ突き上げた。
「あふっ」
「カワイイ、柊一サン。………スゲー綺麗だし」
再び俺の肩に両腕を回し、柊一は促されるままに腰を上下させ始める。
「気持ちイイの?」
問い掛けると、頬を赤く染めながら柊一は「うん」と頷いた。
「じゃあ、もっとヨクしてあげる」
細い腰に腕を回し、俺は柊一の動きに合わせて律動を始める。
「ふ…………あぁっ」
ビクンッと上体を仰け反らして、俺を飲み込んでいる場所が震えて花弁の合間から透明な雫が溢れた。
「あぁ…………ハルカァ……」
甘えた声で、柊一はイケないもう一つの性の解放をねだる。
「ダメ。まだだよ」
涙を一杯に溜めている目許にキスして、俺は再び柊一の身体をベッドの上に仰向けに寝かせた。
細い身体を二つ折りにするような形にして、足を大きく開かせる。
腰を激しく動かしながら、俺は指先で胸の小さな突端を捏ねた。
「あ………んんっ!」
激しく突き上げられれば、柊一の体内に埋め込まれているビー玉は柊一の快感を限界まで刺激する。
もう途中から快感は苦痛にすらなりそうなほど、柊一の身体を責め苛むのだ。
あげくに敏感な突端を徹底的に弄り回されては、何かを思考する事など不可能なほどの感覚が襲いかかる。
言葉にならない嗚咽のような嬌声をあげ、柊一は乱れまくった。
花弁からは絶え間なく愛液が溢れ、イケないソレが苦しげにビクビクと震えている。
さすがに柊一の内部の心地よさに、俺自身も限界まで来た所で、俺は柊一の金環に手を伸ばした。
「あああっ!」
二つ折りにされている身体が、それすらも関係ないみたいに跳ね上がり。
柊一は己の胸を熱い飛沫で汚しながら、快楽の頂点に達していった。
俺は柊一を取り戻したのだから、多聞夫人とも白王華氏とも二度と会うつもりはないが、松原サンのほうはまだまだ問題が山積みで、忙しいのだろう。
運転席のマツヲさんは自分が青春時代に憧れたアイドルの変貌(または本性?)に失望したらしく、ずっと愚痴を垂れ続けている。
俺はその声に機械的な相づちを返しつつ、意識は柊一に奪われていた。
柊一はほとんど身動きもせず、外の景色だけをジッと眺めていて、車内の会話なんてまるで耳に入ってないみたいだ。
「マツヲさん、悪いけどスタジオ戻る前に、俺のマンションに寄ってって貰えませんか? 柊一サンを降ろしてあげたいんです」
「ああ? …ハルカ、オマエって時々底なしのダァホだな?」
「はいい?」
いきなりのド阿呆呼ばわりに俺がビックリしていると、マツヲさんはわざとらしい大きな溜息を吐いてみせる。
「寄り道もへったくれもないだろ~。おまえんちの真ん前につけてやるから、オマエも一緒に降りて、今日はそのまま帰れよ」
「ええ? だってあの、まだ仕事の途中だし…」
「どーせおまえ、これからそのマリオネットと『お話し合い』とかゆーのをしなきゃなんねェンだろ?」
マツヲさんの指摘に、俺はチラッと隣の柊一を見やった。
「はぁ……まぁ………」
「ならそっちを先に片付けちまえよ。明日はちゃんと出くるつもりなんだろ?」
「そりゃあ……」
「なら充分だ」
「スミマセン、ご迷惑を掛けて」
「ん、いいよ。俺も缶詰から解放されて息抜き出来たしナ。マイコちゃんにはまったくガッカリさせられちまったが、まぁ、人生には冒険が必要だしな! アドベンチャー&アクション! やっぱ男は刺激のある人生送らないと!」
うははははは! とか笑って、マツヲさんは一人で悦に入ったように頷いて見せた。
マンションの前に着けてもらって、俺はマツヲさんと別れ、柊一を連れて部屋に戻った。
スタジオに籠もりきりであまり家に戻ってなかったので、いつもみたいに徹底的にグチャグチャってワケじゃないけど、俺が暮らした日数分はしっかりと散らかっている。
「柊一サン、着替えてきなよ」
柊一は処理場で着せられたと思われる、まるで病院で検査を受けるヒトみたいな、ぺらっぺらの作務衣みたいな白っぽい布一枚なのだ。
なので気を使ってそう言ったのだが。
「ハルカ」
実はずっと柊一の顔を見る事が出来ずにいた俺は、呼び止められてギクリとしてしまった。
処理場で顔を見た時は、もし間に合わなかったらもう二度と会えないかもしれないって思っていたから、思わず夢中で抱きしめてしまったけど。
俺の手元に戻ってきた……って実感が湧いてきたら、俺が柊一にやらかしてしまったことをいっぺんに全部思い出して、引け目と気まずさがドッとのし掛かってきてる。
「……な、なに…?」
返事をして、振り返っても、柊一の顔を見る事が出来ず視線を泳がせてしまう。
「ハルカは、どうしてあそこに?」
「そりゃ……柊一サンは納得出来てないだろうけど、柊一サンは俺のモノだからね。勝手に処分されたくなかったのさ…」
「それだけ?」
「それだけ………って……」
チラとみやると、あのCG美少女のようなグラデーション・アイズが、ジイッと俺を見つめているのだ。
「……柊一サンは、俺といるよりは松原サン所にでも居た方がまだマシだったかもだけど……でも俺はやっぱりどうしても、柊一サンの事を手放す気になれなかったんだ……ゴメン」
柊一は俺を見つめたまま、何も言わない。
気まずさが一気に加速して、俺はこの場が耐えられなくなり、わざとらしく話題を変えた。
「とにかく着替えてきなよ。マリオネットは風邪なんかひかないだろうけど、ソレ、あんまりカッコよくないから」
柊一は黙って頷くと、静かに俺の横を擦り抜けていった。
なんだかもうすっかり疲れてしまい、俺はキッチンに行って冷蔵庫を漁ると、ありあわせの残り物をリビングに持ってきて、そこで簡単に食事を済ませた。
そのままなんとなくテレビを眺めていたら、空になった食器がササッと俺の前からなくなっていく。
振り返ると、柊一は食器を持っていって、後片付けをしているようだ。
本当は柊一に訊ねたい事が、いっぱいあったけど。
でも俺は敢えてそれらを口には出さずに、柊一の後ろ姿から視線を引き剥がした。
柊一が、俺の望みを受け入れないことはわかってる。
でもそのことを改めて柊一の口から聞かされたら、俺はまたキレて酷い事をしてしまいそうだ。
今度あんな事をしたら、もう二度と柊一を取り戻せなくなる……。
俺の苦悩なんてまるで関知しない様子で、食器を片付け終えた柊一は着々と室内の片付けを始めた。
命令する必要もなく、グタグタと時間を過ごしてからバスルームに行くとちゃんと風呂が沸かしてあったし、風呂から上がってくるとリビングにはビールの用意までしてあった。
会話はなにもなく……俺が柊一を避けているせいか、それとも柊一が俺に無関心だからか、同じ部屋の中にいながら目線も合わせない時間を過ごし。
つけっぱなしのテレビが、夜のニュース番組になった。
ぼんやり眺めていたらカズヤが見たと言っていた、多聞氏の法要の様子がまた放映されていた。
マイクスタンドの前に立った多聞夫人が、マツヲさんの言葉通りの下手な歌を披露して、途中から彼女のヴォーカルに、画面には姿のない柊一の声が被ってくる。
『きびしい雪の下深くに埋まっている種は、太陽の慈愛を受けて春には大輪の薔薇になる』
俺はテレビを消すと、そのまま寝室にこもった。
多聞夫人の声で歌われても、それはただの虚飾に過ぎないけれど。
柊一が作られた理由を思うと、このバラードの一節一節があまりにも胸に突き刺さってくる。
多聞氏の死を知ってなお、あの声であの歌を奏でた柊一の気持ちを考えると、俺は俺の選択が正しかったのかどうかますます自信がなくなってくる。
夫人の思惑がどうあれ、柊一は半端な命を長らえる事よりも、綺麗にこの世界から消え去ってしまえる方を選びたかったんじゃないだろうか……?
微かなノックの音の後がした。
「…ハルカ」
声と共に、柊一が寝室に入ってくる気配がする。
「なに……どうしたの?」
廊下の明かりが差し込んだ一瞬だけ柊一のシルエットが見えたが、扉が閉まると部屋は真っ暗で、俺の目は柊一の姿を捉える事が出来ない。
ただ動く気配で柊一が傍にきている事だけが、なんとなく察する事が出来るだけだ。
「ハルカは、俺が必要か?」
間近から声がして、どうやら柊一はすぐ傍にいるらしい。
「なんだよ。突然………」
「それとも、俺は必要じゃないのか?」
「必要じゃなかったら、迎えになんか行かないよ」
柊一の思惑を図りかねて、俺は戸惑い気味に返事をした。
するとまた動く気配がして、俺の頬に、そうっと何かが触れてきた。
両手で俺の頬を挟むように触れてきた…と思ったら、唇に温かい体温を感じて。
柊一が俺にキスしてる。
たったそれだけの事を理解するのに、俺はたっぷり1分くらいかかってしまった。
突然の事にビックリして、俺が動かないでいると、頬に触れていた指先がスルスルッと下に移動して、俺の履いているジーパンのボタンが外されて、ジッパーが引き下ろされる。
「……柊一サ…………」
生暖かい粘膜が、やんわりと俺を包み込んで。
濡れた舌先が、丹念に丹念に愛撫を施してくる。
手を伸ばして髪を撫でても、振り払われる事もなく。
闇の中に、淫猥で粘着質の音と、俺の乱れた息づかいだけが聞こえている。
「柊一サ………も、ヤバ………っ!」
言った時には、心地の良い刺激に導かれて吐精した後だった。
「ご、ごめ……っ」
慌てて身体を起こした時には、柊一は既にそれを溜飲してしまっている。
「あの………柊一サン?」
「…………………………」
無言のまま、柊一は両腕を俺の背中に回してきて。
芳しい柊一の甘い体臭に誘われて、思わず抱き返してしまっても、抵抗はない。
それどころか柊一の纏っている着衣はいつも通りのスウェットだったけれど、それを脱がせると下着すら身につけてはいなかった。
「………………ハルカ……」
それだけ言うのが精一杯みたいな声で俺の名を呼び、柊一はねだるみたいに俺の肩に頭を乗せて首筋から鎖骨にかけて愛撫するみたいに口唇を寄せてくる。
俺はそのまま柊一を抱き寄せ、同じように首筋に口唇を寄せた。
柔らかな肌を吸うと、それだけで感じてしまうみたいに柊一の身体がヒクンと震える。
滑らかな感触を楽しむように掌を這わせて、俺は柊一の身体を仰向けに組み敷き、黙って愛撫した。
「あ…………、ハル……カ………」
感じやすい場所に触れると、柊一はそこを責め上げて欲しいみたいに甘えた声で俺を呼ぶ。
俺は柊一の望むままに、同じ場所を何度も何度も触れて柊一を追い立てた。
どういうつもりなのか? とか、どうしてなのか? なんて訊くつもりはない。
どんな理由であれ柊一が俺を欲しがってくれるなら、俺にはそれだけで嬉しかった。
柊一は最愛のヒト(つまり元・オーナーの多聞氏)を失ってしまって傷心しているのだ。一時の激情にせよ、その悲しみややりきれなさを紛らわせるのにこうした方法を選ぶのが悪い事だとは思わない。
そんな気遣いをマリオネットにしてやるなんて無意味だってマツヲさんは言うかもしれないけど、かまいやしない、どうせ俺はマリオネットを人並みに扱ってしまう変人で、このマリオネットのことを誰より甘やかしてやりたいと思ってしまうイカレた男なんだから。
己の満足の為にマリオネットを必要とするのなら、俺の場合はこうするのが術なのだ。
足を開かせて、蕩けているその場所に指先をあてがう。
「…ハルカ……」
闇に慣れた目が、イヤイヤをするように頭を振る柊一の様子に気付いた。
「どうしたの?」
抱き寄せて耳元で囁くと、柊一は両腕を伸ばして俺の首に絡めてくる。
「………挿れて」
「だって、まだ前戯も途中なのに?」
「…………………」
俺の問いに、返事はない。
けれど、抱きついているだけの柊一の様子は、なんだか焦っているというか一瞬一秒も早くして欲しい…みたいな空気が濃厚で。
俺は柊一を抱いたまま、コロンッと自分が仰向けになって、柊一を俺の上に座らせるような格好にさせる。
「……ハルカ?」
「自分で、やってごらん?」
促すと、さすがに戸惑ったように柊一の動きが止まった。
部屋が明るかったら、きっとすごくカワイイ顔が見られたのになぁ……とか、少し悔やまれたり。
しばしの沈黙の後、柊一が動きだす気配がする。
「ああっ!」
「焦らないで、ゆっくり…………ね」
片手で柊一の腰を支えてやりながら、俺は右手でベッドサイドのスイッチ探り、サイドランプを灯す。
「やっ………」
仄かな光だったが、闇の中では明るすぎるほどに感じられたのだろう。俺の上に自分から跨っている姿を照らし出され、柊一は恥じらうように顔を背けた。
「柊一サン……」
声を掛けると、柊一はおずおずと俺を見る。
「見てるから、動いて」
上体を起こして、上目遣いに俺を見ながら噛みしめている口唇をそっと吸う。
何回かソフトな触れるだけのキスを繰り返すと、柊一は微かに口唇を開いてキスに応え始める。
「全部、見ててあげるから。ね?」
腰に腕を回し、俺は柊一の身体を少しだけ突き上げた。
「あふっ」
「カワイイ、柊一サン。………スゲー綺麗だし」
再び俺の肩に両腕を回し、柊一は促されるままに腰を上下させ始める。
「気持ちイイの?」
問い掛けると、頬を赤く染めながら柊一は「うん」と頷いた。
「じゃあ、もっとヨクしてあげる」
細い腰に腕を回し、俺は柊一の動きに合わせて律動を始める。
「ふ…………あぁっ」
ビクンッと上体を仰け反らして、俺を飲み込んでいる場所が震えて花弁の合間から透明な雫が溢れた。
「あぁ…………ハルカァ……」
甘えた声で、柊一はイケないもう一つの性の解放をねだる。
「ダメ。まだだよ」
涙を一杯に溜めている目許にキスして、俺は再び柊一の身体をベッドの上に仰向けに寝かせた。
細い身体を二つ折りにするような形にして、足を大きく開かせる。
腰を激しく動かしながら、俺は指先で胸の小さな突端を捏ねた。
「あ………んんっ!」
激しく突き上げられれば、柊一の体内に埋め込まれているビー玉は柊一の快感を限界まで刺激する。
もう途中から快感は苦痛にすらなりそうなほど、柊一の身体を責め苛むのだ。
あげくに敏感な突端を徹底的に弄り回されては、何かを思考する事など不可能なほどの感覚が襲いかかる。
言葉にならない嗚咽のような嬌声をあげ、柊一は乱れまくった。
花弁からは絶え間なく愛液が溢れ、イケないソレが苦しげにビクビクと震えている。
さすがに柊一の内部の心地よさに、俺自身も限界まで来た所で、俺は柊一の金環に手を伸ばした。
「あああっ!」
二つ折りにされている身体が、それすらも関係ないみたいに跳ね上がり。
柊一は己の胸を熱い飛沫で汚しながら、快楽の頂点に達していった。
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