メビウスのトンネル

琉斗六

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第13話

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 近場のコンビニで買い物を済ませ、部屋に戻ると中は静まりかえっていた。
 柊一が椿に泣きつきに行ったとしたら、まったくガッカリだなと思いつつ奥に進むと、室内灯が半分くらいに落とされている。
 そしてベッドの縁には、柊一が座っていた。

「シャワー浴びて、バスローブ1枚ですか? イロッポイですね」

 傍に立つと、柊一は殉教者みたいな顔で俺を見上げてくる。
 俺は身を屈めて、その口唇に触れてみた。
 キスをすると、柊一が震えているのが解る。
 そのまま肩を押してベッドに仰向けに押し倒し、バスローブの腰ひもを解く。
 そして前をはだけさせて全裸にさせた瞬間、俺は息を呑んだ。

「………こんなものでも、抱きたいのか?」

 顔を逸らしたまま、柊一が呟くように言う。
 柊一の身体は、胸の辺りから膝の上辺りまで酷い痕が残っていた。
 特に腰から尻と、尻から太腿にかけては肌が紫色になっていない部分が無いほどで、素手や足だけの暴行とは思えないような、棒状の痕までがクッキリと残っている。
 部分によっては裂傷になっていて、まだ乾ききっていない傷に血が滲んでいた。
 それらの暴行の痕が、痩せこけて関節が浮き上がっているような子供の身体にあったならば、俺は純粋に、そんな暴行を加えたヤツへの憤りを感じたのだろうけれど。
 スラリと伸びた成人の肉体の上に、そうした暴行の痕があることに、俺は一種倒錯的な興奮を覚えてしまった。
 いかにも服からは見えない位置にばかり集中しているのも、禍々しくも妖しい秘密のニオイがする。

「これって、東雲氏の仕業?」
「椿には………兄なんて、必要なかったんだ」
「どういうコト? わざわざ兄貴の名前を名乗ってまて、柊一サンを探したのに?」
「…椿には、かなりの額の持参金を付けてやった…と、祖母が言っていた。忌み子などと言ってはいても、祖母だって孫が可愛かったんだろう。自分が持っていた金のほとんど全部を、椿の持参金にしたと話してくれた。だが逆にそれが徒になって、椿の養父母は持参金目当てに椿を貰い受け、椿自身は邪魔扱いで虐待を加えていたらしい」
「それと、この傷と、どう関係が?」
「アイツにとっては、自分を養父母に渡した両親と、その両親の元でぬくぬくと暮らしている俺が、憎くて仕方のない存在だったのさ」
「でもそれは、柊一サンが殴られる理由にはならないでしょ」
「椿は俺に、自分が残されて俺が養子に出されていたら、世を拗ねてグレていたのは俺で自分は人並みになっていた…と言ったよ」
「それもただの言い訳だと思うけど」
「そうだな。でも椿は、俺を恨む事でしか生きられなかった。今俺がいなくなったら、何をしでかすかも判らない。今の椿は社会的にも影響の大きな立場にいる。俺だけが逃げる事は出来ない」

 指先でスウッと裸体を撫でただけで、柊一は痛みに顔をしかめる。
 俺は指先を、柊一の足の付け根に滑らせた。

「ハルカ………っ!」
「こんな身体見せられたら、萎えてヤル気が失せると思ってた?」

 問い掛けに、柊一は明らかに図星を突かれた顔で表情を強張らせる。

「残念でしたね」

 指をまとわりつかせて、俺は柊一のペニスをやんわりと刺激した。

「あ………あっ!」

 俺は身体を屈めて、頬と口唇に触れるようなキスを繰り返す。

「い………やだ………っ!」

 感じさせられる事を拒むように顔を背けたところで、首筋にキスをして耳殻を柔らかく噛む。
 股間への刺激もさることながら、キスや愛撫で感じているらしい様子から、俺は柊一が既にこうした行為を強いられた過去があり、しかも快感を感じる程度にまで馴らされている事に気付く。

「痛い…ワケじゃないンでしょ? だって、感じてなきゃ勃つワケ無いモンね?」
「や………っ!」

 ビクッと震えた途端に、肢体が跳ねて飛沫が散る。
 同時に、まるで堰を切ったみたいに柊一の目から涙が溢れ出した。
 俺は傍のティッシュボックスからペーパーを何枚か乱暴に引き抜き、柊一の散らした飛沫を拭き取りながら、溢れ出す涙を舌と口唇で吸い取った。
 イク瞬間の、ちょっと怯えたような表情と震えた口唇に、こっちまでイキたくなるような色っぽさがあったけれど。
 同時に、突然泣き出した様子が今度は無性に加護欲を掻き立てる。
 このヒトの身体に暴行を加える椿氏の存在に、俺は目の前が真っ赤に染まりそうな程の嫉妬を感じていた。
 それは音楽的な才能を持つこのヒトの商品価値なんて、全く関係のないレベルの。
 追い詰めて、泣かせて、嗜虐心を満足させたい衝動。
 自分以外の者には、絶対に触れさせたくないとすら思う独占欲。
 まるで存在がエゴイズムを刺激する要素のカタマリみたいなヒトだ。

「今日はこれだけで許してあげる…」

 抱き寄せて、耳殻を愛撫しながら耳元に囁くと、柊一は驚きで目を見開き俺に振り返った。

「でも、終わったワケじゃないって、解ってるよね?」

 クギを刺す俺の一言に、瞳が見開かれたが、他に選択肢のない柊一はただ黙って頷いた。
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