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第16話
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しばらくすると、扉にノックの音がする。
扉を開けると北沢氏が立っていた。
「早かったですね」
中に入るように促し、俺は廊下に誰もいない事を確認してから、扉を閉めた。
室内では柊一が「北沢氏」の変装を解き始めている。
「意外に俺、好かれてます?」
「なにが?」
「だってこんなに早く来てくれると思わなかったから」
「あんなメールを寄越されれば、来なきゃならないに決まってるだろう」
「だって俺、晩酌に付き合って下さいって書いただけですよ? 都合が悪かったら断っても良かったのに」
笑いかけると、思いっきり怒ったような顔をされる。
まぁ恐喝している相手から呼び出しのメールには、厭でも応じるのが普通だろうけど。
「余計なトラブルを避けたいだけだ」
「そんなカツラだのヒゲだのつけてて、暑くないンです?」
「贅沢言ってられる身の上じゃないからな」
俺は部屋に置かれている長椅子に腰を降ろすと、立ったままの柊一に手を差し伸べた。
「こちらへどうぞ」
隣に座るように促すと、柊一は一瞬躊躇したが、諦め顔で黙って腰を降ろす。
その素直さが、なんとも可愛かった。
「今日も新しい生傷が増えたンですか?」
「いきなり、なんだ?」
「俺、別にSM趣味はナイから。体位変えただけで悲鳴上げられるような傷が増えてると、萎えちゃうからね」
「それなら最初から、痛がらないヤツを抱けばいいだろう」
「俺は東雲柊一を征服したいンだもん」
「どうせ、ホンモノじゃないって、知ってるクセに…」
最後の台詞はそれまでの吐き捨てるような感じとは違う、投げ遣りな言葉だった。
なぜなのか考えてみたら、柊一は椿の身代わりにされた時点で、自分の姓名まで取り上げられているのだ。
世間の全てが椿を「東雲柊一」と認識し、柊一の存在は「東雲柊一の影武者」となっている。
俺が「東雲柊一を征服したい」と言った事を、柊一は「東雲柊一という名の椿」を服従する快感を味わうために、身代わりの柊一で擬似体験をしたがっている……と思っているのだ。
「俺が征服したいのは、柊一サンで、椿じゃないよ」
「東雲柊一を…と言ったじゃないか」
「だってそれ、アンタの名前でしょ? アッチが騙ってるだけで、本物はコッチじゃないか」
ビックリしたような顔で俺を見た柊一は、表情を困惑へと変えつつ頬を赤らめた。
解りやすいウィークポイントを見つけて、俺は心内でニヤリと笑う。
案の定、柊一は俺のキスを戸惑った顔をするだけで逃げもせずに受け入れたのだ。
俺はてっきり、柊一は椿の従順な下僕か、もしくは何かモノスゴイ弱みでも握られていて、全く身動きが出来ないのかと思っていた。
しかし、この様子から察するに、柊一は椿に対して少なからず反抗心を抱いている。
ごく当たり前に考えれば、自分の名前を取り上げられ、かつその名前で名声を得ている椿に対して、不満がない訳無いのだが。
弱み…と言うなら、柊一が言った通りの内容のみで、ちょっと無責任な人間ならば即座に放棄してしまうような理由しかないらしい。
だがそれは逆に、多聞氏の言う通り柊一が根っからの生真面目な長男気質を持った頑固者だという証明に他ならない。
けれど、目の前に立ちふさがっている障害がそれだけしか無いのだとしたら、コレは俺が思っていたよりも形勢は悪くないかもしれない。
少なくとも、柊一は優しくされる事に餓えている。
濃厚な口づけに、柊一は一度たりとも応えはしなかったが。
しかし、俺を押し戻そうともしなかった。
って事は、柊一には「絆される」隙があるという事だ。
頬や耳の付け根、首筋に口唇を這わせ、ベルトを外してジーパンのファスナーを引き下ろす。
それでも抵抗らしい抵抗は、一切無い。
だが腰に手を回した瞬間、身体が反射的に跳ね上がった。
「…っ」
「痛かった?」
「そんなこと…ハルカには関係ないだろ…っ」
「関係あるってさっき言ったばっかでしょ?」
俺のえげつない発言を思い出したらしく、柊一が眉を顰める。
柊一にイヤな顔をされると、俺は無駄にワクワクする。
快楽に歪み痛みに喘ぐ様子は、性的な快感に近い衝動を俺にもたらすが、こうした他愛のない冷やかし行為にはもっと子供じみた面白さがあった。
俺は柊一を捕らえていた腕を解いて、ソファから立ち上がる。
「シャツ、脱いでください」
座ったままの柊一に指示を与えると、明らかに強張った顔をするが、それでも彼は黙ったままシャツを脱ぎ捨てた。
さらけ出された裸体には、昨日は無かった新しい打撲のアザが増えている。
俺が触れた辺りには、明らかに素手以外の物で殴られた形跡があった。
「こんな傷を、そのまま放ってあるんですか?」
「放ってあるワケじゃない。構っているヒマが無かったんだ」
まるっきり「オマエに呼び出されなかったら手当ぐらいしたさ」って顔で、柊一は俺を睨みつける。
だが柊一の身体の傷に、きちんとした手当がされている形跡はほとんど無い。
裂傷にはさすがに止血処置がしてあるが、打撲はまるで「手当をしたところで直ぐ次の痣が出来るだけだ」とばかりに放置されている。
「じゃあ、手当しても怒られないワケ?」
「どういう意味だ?」
「だって救急箱を使いに行った時、柊一サンってば椿にブン殴られてたじゃない?」
「アレは、……別に、そういうんじゃなくて……」
「アレは、柊一サンに構って欲しい椿が癇癪を起こしただけ、…って?」
恨めしげに俺を睨みつけて黙ったところをみると、どうやら図星だったらしい。
俺はホテルに戻る前に立ち寄ったドラッグストアの荷物を開くと、ビールの缶と一緒に購入した湿布剤と軟膏の箱を取りだし封を切る。
「なんだよそれ…?」
「必要品でしょ? はい、お腹出して」
「どういうおせっかい焼きだ、オマエはっ!」
「おせっかいとはちょっと違います~。私利私欲の為…って言ってるでしょ?」
俺の真意を柊一がちゃんと理解したとは思えない。
もっとも、理解して貰うつもりもないけどね。
とりだした湿布のシートを剥がし、痛々しい打撲痕の上にペタリと貼り付けると、柊一はその冷たさと、それを押さえる俺の指の感触に、眉を顰めた。
その表情にそそられて、俺は剥き出しになっている胸の突起に口唇を寄せる。
「やっ………、なにっ?」
前立てを開いて下着の中に指先を滑り込ませ、乳首を愛撫しながら股の間を探って。
「あ………っ、や…あ………っ」
身体を弄り回される事で、柊一の呼吸が乱れていく。
「腰、浮かせて」
俺の要求に、柊一は一瞬の躊躇をしたが。
それでも逆らうような事はしないで、ソファの肘掛けと背もたれに両腕を突いて、尻を持ち上げた。
その隙間を利用して、下着ごと下肢の着衣を引き下ろす。
「そのまま、座って………。足を開いて」
腰を落としたところで、有無を言わせずに膝に手をかけ足を大きく開かせる。
生半可に与えられた刺激で、半勃ち状態のソレが恥ずかしげに揺れた。
「やーらしい」
「な……にがっ!」
「おっ勃てちゃってるトコが、やーらしい。ホントは、他人にされるの好きなんでしょ?」
「そ…んなワケ、あるかっ!」
「どうだか?」
チュッと音を立てて尖端をしゃぶると、全身に電気が流れたみたいにビクッと竦み上がる。
言葉で責められると、羞恥に首まで赤くなるのがたまらない。
そして逃げるように顔を背けつつも、舌と口唇で屹立したソレを嬲られれば、身悶えながら甘く溶けた吐息を零すのだ。
俺は柊一の両膝に両手をかけて、ソレを存分にしゃぶった。
膝に手をかけたのは腰や太腿にやたらとアザがあったから、それに触れない様に避けたらそこしか手をかける場所がなかったからなんだが、半ば身を乗り出すようにしてしゃぶり付く物だから、必要以上に柊一の足を開かせるような形になる。
限界まで足を押し開かれて、蛍光灯の許に細部までさらけ出すような格好が羞恥に堪えなかったらしい。
気付けば柊一の吐息が、しゃくり上げるように乱れている。
明らかに、柊一は悔しさで泣いていた。
「気持ちいい?」
わざと無遠慮に訊ねると、柊一の身体がビクッと震えた。
俺を睨みつけてくる顔には、怒りと羞恥が滲み出ていたが。
しかし結局柊一は、一言もなにも答えなかった。
柊一が睨みつけている事には気付いていたが、俺は顔を上げずにわざと気付かぬフリをする。
「良かった。気持ちいいんだ?」
「だ……れがっ!」
さすがにカッとなったのか、柊一は反論するように口を開いた。
そこに至って初めて気付いたみたいな顔をして、俺は行為を中断する。
「だって、気持ち良くなきゃおっ勃たないでしょ? って、この間も教えてあげたよね?」
「それは、ハルカが……っ!」
口唇を戦慄かせる柊一に向かって、俺は意地の悪い笑みを向けた。
「そうだよ。俺に奉仕されて、柊一サンは感じてる。気持ちいいコトして貰ってるのに、そんな被害者みたいな顔される謂われないよね?」
「オマエは…………っ!」
「気持ちいいって認めて、もっと自分からねだってみせてくれてもイイと思うんだけどなぁ?」
俺にサディストの素質があるのか、それとも柊一がそれらを引き出すのか?
自分でも驚く程、故意に相手を傷つけるような言葉が、口からサラサラ出てくる。
「それにどんなに口で否定したところで、もうしばらくしたら俺の口の中にぶちまけるンでしょ?」
「なん…!」
今度は柊一を黙らせるようにして、俺は中断していた行為を再開する。
敏感になっている場所に根元までしゃぶりついて、俺は追い上げるようにねっとりとソレを愛撫した。
そのまま俺に反論し続けようとすれば、自分自身で耐えられないような嬌声をあげてしまう事を知っている柊一は、咄嗟に口を噤んで自分の口唇を強く噛みしめたけれど。
嬲られる事で感じる事を覚え込まされているらしい身体は、意地悪く追い立てると快感に戦慄いた。
「あぁっ! …………いや……だ……ぁっ!」
俺の予告通り、柊一はすぐにも四肢を突っ張らせて俺の口腔内に吐精する。
まるっきり俺の良いように弄ばれてしまっては、吐精の快感よりも羞恥と悔しさの方が大きいに違いない。
「ほら、言った通りでしょ?」
それを更に追い詰めるように、俺は柊一に向かって冷たく笑ってみせる。
「柊一サンのその顔、スゴク可愛い」
嫌がるように顔を背けるのを阻んで、赤い目許にキスと愛撫を繰り返した。
「俺、柊一サンの事を椿サンから奪い取りたいな」
隣に腰を降ろし、頑なに拒む柊一を無理矢理抱き寄せて目元や生え際にまでキスをする。
ギョッとした顔で振り返った柊一は、俺の顔を凝視した後に目を逸らした。
「なんですか、そのつれない反応は?」
「莫迦な事を考えるのはやめろ」
「莫迦な事?」
「昨日教えてやった通り、俺は椿の元から離れる気はないし。それに、椿が俺を所有しているワケじゃないんだ。取るとか言われる謂われはないぞ」
「こんな暴行受けて、それでも黙って影武者ゴッコに付き合ってあげてる柊一サンは、充分『いいように所有されてる』ように見えますけど?」
「そういう言い方をするなら、俺はオマエに所有されるのなんか真っ平だ」
「そりゃそうでしょうねェ? 俺が柊一サンだったとしても、きっと俺のコトが嫌いですから」
呆れ果てたような顔で俺を見る柊一に、俺はニイッと笑ってみせる。
「でも俺、すっかり柊一サンにハマッちゃったから。是が非にも手に入れたいんですよ」
「冗談じゃない。第一、椿は俺にセックスを強要したりしないぞ」
「セックスより暴行が好きなんだ」
俺の台詞に、柊一はうんざりしたみたいな顔になる。
「どっちも好きじゃない!」
「残念だなぁ。俺はセックスが好きなのに!」
「そりゃオマエが男に犯されてないからだろっ!」
「昨日はマスかきの手伝いしただけだし、今日だってフェラしただけじゃないですか? 俺、自分がイイ思いなんにもしてないウチから、そんなコト言われたら心外だなぁ!」
「同意もしてない行為に付き合わされたら、それは強姦だ! 俺はハルカに所有されたくなんかないし、くだらない事を思いつくのもやめろ! 騒ぎを起こせば、ワリを食うのはハルカだぞ?」
「あ、意外に心配されてる、俺?」
「迷惑だと言ってるんだ」
突き放すように言って、柊一はソファから立ち上がる。
「まだ、帰ってイイって言ってない」
手を掴むと、柊一は怯えたような顔で振り返った。
俺が立ち上がると、ますます竦み上がったような顔で俺の動きをジイッと目で追っている。
立ち止まった格好のままの柊一を待たせて、俺は先刻テーブルに散らかした薬の中から、軟膏を手に取る。
「背中と足に出来たての傷発見」
容器を開けて指先にすくい取り、白っぽい軟膏を傷に塗り込めた。
手当を終えると、俺は柊一が脱ぎ捨てたシャツを拾い上げて肩にかけてやる。
「それじゃあ、今日はもう戻ってイイですよ」
ニイッと笑うと、柊一は戸惑った顔をして見せた。
「やっぱりハルカは、おせっかいだ」
「なんとでも言って下さい。俺は自分の人生を楽しむ主義だから、やりたいようにやらせてもらうだけで~す」
笑いかけると、柊一は呆れたように肩を竦めてみせる。
その様子からは、少しだけ俺に打ち解けたような気配が感じられた。
扉を開けると北沢氏が立っていた。
「早かったですね」
中に入るように促し、俺は廊下に誰もいない事を確認してから、扉を閉めた。
室内では柊一が「北沢氏」の変装を解き始めている。
「意外に俺、好かれてます?」
「なにが?」
「だってこんなに早く来てくれると思わなかったから」
「あんなメールを寄越されれば、来なきゃならないに決まってるだろう」
「だって俺、晩酌に付き合って下さいって書いただけですよ? 都合が悪かったら断っても良かったのに」
笑いかけると、思いっきり怒ったような顔をされる。
まぁ恐喝している相手から呼び出しのメールには、厭でも応じるのが普通だろうけど。
「余計なトラブルを避けたいだけだ」
「そんなカツラだのヒゲだのつけてて、暑くないンです?」
「贅沢言ってられる身の上じゃないからな」
俺は部屋に置かれている長椅子に腰を降ろすと、立ったままの柊一に手を差し伸べた。
「こちらへどうぞ」
隣に座るように促すと、柊一は一瞬躊躇したが、諦め顔で黙って腰を降ろす。
その素直さが、なんとも可愛かった。
「今日も新しい生傷が増えたンですか?」
「いきなり、なんだ?」
「俺、別にSM趣味はナイから。体位変えただけで悲鳴上げられるような傷が増えてると、萎えちゃうからね」
「それなら最初から、痛がらないヤツを抱けばいいだろう」
「俺は東雲柊一を征服したいンだもん」
「どうせ、ホンモノじゃないって、知ってるクセに…」
最後の台詞はそれまでの吐き捨てるような感じとは違う、投げ遣りな言葉だった。
なぜなのか考えてみたら、柊一は椿の身代わりにされた時点で、自分の姓名まで取り上げられているのだ。
世間の全てが椿を「東雲柊一」と認識し、柊一の存在は「東雲柊一の影武者」となっている。
俺が「東雲柊一を征服したい」と言った事を、柊一は「東雲柊一という名の椿」を服従する快感を味わうために、身代わりの柊一で擬似体験をしたがっている……と思っているのだ。
「俺が征服したいのは、柊一サンで、椿じゃないよ」
「東雲柊一を…と言ったじゃないか」
「だってそれ、アンタの名前でしょ? アッチが騙ってるだけで、本物はコッチじゃないか」
ビックリしたような顔で俺を見た柊一は、表情を困惑へと変えつつ頬を赤らめた。
解りやすいウィークポイントを見つけて、俺は心内でニヤリと笑う。
案の定、柊一は俺のキスを戸惑った顔をするだけで逃げもせずに受け入れたのだ。
俺はてっきり、柊一は椿の従順な下僕か、もしくは何かモノスゴイ弱みでも握られていて、全く身動きが出来ないのかと思っていた。
しかし、この様子から察するに、柊一は椿に対して少なからず反抗心を抱いている。
ごく当たり前に考えれば、自分の名前を取り上げられ、かつその名前で名声を得ている椿に対して、不満がない訳無いのだが。
弱み…と言うなら、柊一が言った通りの内容のみで、ちょっと無責任な人間ならば即座に放棄してしまうような理由しかないらしい。
だがそれは逆に、多聞氏の言う通り柊一が根っからの生真面目な長男気質を持った頑固者だという証明に他ならない。
けれど、目の前に立ちふさがっている障害がそれだけしか無いのだとしたら、コレは俺が思っていたよりも形勢は悪くないかもしれない。
少なくとも、柊一は優しくされる事に餓えている。
濃厚な口づけに、柊一は一度たりとも応えはしなかったが。
しかし、俺を押し戻そうともしなかった。
って事は、柊一には「絆される」隙があるという事だ。
頬や耳の付け根、首筋に口唇を這わせ、ベルトを外してジーパンのファスナーを引き下ろす。
それでも抵抗らしい抵抗は、一切無い。
だが腰に手を回した瞬間、身体が反射的に跳ね上がった。
「…っ」
「痛かった?」
「そんなこと…ハルカには関係ないだろ…っ」
「関係あるってさっき言ったばっかでしょ?」
俺のえげつない発言を思い出したらしく、柊一が眉を顰める。
柊一にイヤな顔をされると、俺は無駄にワクワクする。
快楽に歪み痛みに喘ぐ様子は、性的な快感に近い衝動を俺にもたらすが、こうした他愛のない冷やかし行為にはもっと子供じみた面白さがあった。
俺は柊一を捕らえていた腕を解いて、ソファから立ち上がる。
「シャツ、脱いでください」
座ったままの柊一に指示を与えると、明らかに強張った顔をするが、それでも彼は黙ったままシャツを脱ぎ捨てた。
さらけ出された裸体には、昨日は無かった新しい打撲のアザが増えている。
俺が触れた辺りには、明らかに素手以外の物で殴られた形跡があった。
「こんな傷を、そのまま放ってあるんですか?」
「放ってあるワケじゃない。構っているヒマが無かったんだ」
まるっきり「オマエに呼び出されなかったら手当ぐらいしたさ」って顔で、柊一は俺を睨みつける。
だが柊一の身体の傷に、きちんとした手当がされている形跡はほとんど無い。
裂傷にはさすがに止血処置がしてあるが、打撲はまるで「手当をしたところで直ぐ次の痣が出来るだけだ」とばかりに放置されている。
「じゃあ、手当しても怒られないワケ?」
「どういう意味だ?」
「だって救急箱を使いに行った時、柊一サンってば椿にブン殴られてたじゃない?」
「アレは、……別に、そういうんじゃなくて……」
「アレは、柊一サンに構って欲しい椿が癇癪を起こしただけ、…って?」
恨めしげに俺を睨みつけて黙ったところをみると、どうやら図星だったらしい。
俺はホテルに戻る前に立ち寄ったドラッグストアの荷物を開くと、ビールの缶と一緒に購入した湿布剤と軟膏の箱を取りだし封を切る。
「なんだよそれ…?」
「必要品でしょ? はい、お腹出して」
「どういうおせっかい焼きだ、オマエはっ!」
「おせっかいとはちょっと違います~。私利私欲の為…って言ってるでしょ?」
俺の真意を柊一がちゃんと理解したとは思えない。
もっとも、理解して貰うつもりもないけどね。
とりだした湿布のシートを剥がし、痛々しい打撲痕の上にペタリと貼り付けると、柊一はその冷たさと、それを押さえる俺の指の感触に、眉を顰めた。
その表情にそそられて、俺は剥き出しになっている胸の突起に口唇を寄せる。
「やっ………、なにっ?」
前立てを開いて下着の中に指先を滑り込ませ、乳首を愛撫しながら股の間を探って。
「あ………っ、や…あ………っ」
身体を弄り回される事で、柊一の呼吸が乱れていく。
「腰、浮かせて」
俺の要求に、柊一は一瞬の躊躇をしたが。
それでも逆らうような事はしないで、ソファの肘掛けと背もたれに両腕を突いて、尻を持ち上げた。
その隙間を利用して、下着ごと下肢の着衣を引き下ろす。
「そのまま、座って………。足を開いて」
腰を落としたところで、有無を言わせずに膝に手をかけ足を大きく開かせる。
生半可に与えられた刺激で、半勃ち状態のソレが恥ずかしげに揺れた。
「やーらしい」
「な……にがっ!」
「おっ勃てちゃってるトコが、やーらしい。ホントは、他人にされるの好きなんでしょ?」
「そ…んなワケ、あるかっ!」
「どうだか?」
チュッと音を立てて尖端をしゃぶると、全身に電気が流れたみたいにビクッと竦み上がる。
言葉で責められると、羞恥に首まで赤くなるのがたまらない。
そして逃げるように顔を背けつつも、舌と口唇で屹立したソレを嬲られれば、身悶えながら甘く溶けた吐息を零すのだ。
俺は柊一の両膝に両手をかけて、ソレを存分にしゃぶった。
膝に手をかけたのは腰や太腿にやたらとアザがあったから、それに触れない様に避けたらそこしか手をかける場所がなかったからなんだが、半ば身を乗り出すようにしてしゃぶり付く物だから、必要以上に柊一の足を開かせるような形になる。
限界まで足を押し開かれて、蛍光灯の許に細部までさらけ出すような格好が羞恥に堪えなかったらしい。
気付けば柊一の吐息が、しゃくり上げるように乱れている。
明らかに、柊一は悔しさで泣いていた。
「気持ちいい?」
わざと無遠慮に訊ねると、柊一の身体がビクッと震えた。
俺を睨みつけてくる顔には、怒りと羞恥が滲み出ていたが。
しかし結局柊一は、一言もなにも答えなかった。
柊一が睨みつけている事には気付いていたが、俺は顔を上げずにわざと気付かぬフリをする。
「良かった。気持ちいいんだ?」
「だ……れがっ!」
さすがにカッとなったのか、柊一は反論するように口を開いた。
そこに至って初めて気付いたみたいな顔をして、俺は行為を中断する。
「だって、気持ち良くなきゃおっ勃たないでしょ? って、この間も教えてあげたよね?」
「それは、ハルカが……っ!」
口唇を戦慄かせる柊一に向かって、俺は意地の悪い笑みを向けた。
「そうだよ。俺に奉仕されて、柊一サンは感じてる。気持ちいいコトして貰ってるのに、そんな被害者みたいな顔される謂われないよね?」
「オマエは…………っ!」
「気持ちいいって認めて、もっと自分からねだってみせてくれてもイイと思うんだけどなぁ?」
俺にサディストの素質があるのか、それとも柊一がそれらを引き出すのか?
自分でも驚く程、故意に相手を傷つけるような言葉が、口からサラサラ出てくる。
「それにどんなに口で否定したところで、もうしばらくしたら俺の口の中にぶちまけるンでしょ?」
「なん…!」
今度は柊一を黙らせるようにして、俺は中断していた行為を再開する。
敏感になっている場所に根元までしゃぶりついて、俺は追い上げるようにねっとりとソレを愛撫した。
そのまま俺に反論し続けようとすれば、自分自身で耐えられないような嬌声をあげてしまう事を知っている柊一は、咄嗟に口を噤んで自分の口唇を強く噛みしめたけれど。
嬲られる事で感じる事を覚え込まされているらしい身体は、意地悪く追い立てると快感に戦慄いた。
「あぁっ! …………いや……だ……ぁっ!」
俺の予告通り、柊一はすぐにも四肢を突っ張らせて俺の口腔内に吐精する。
まるっきり俺の良いように弄ばれてしまっては、吐精の快感よりも羞恥と悔しさの方が大きいに違いない。
「ほら、言った通りでしょ?」
それを更に追い詰めるように、俺は柊一に向かって冷たく笑ってみせる。
「柊一サンのその顔、スゴク可愛い」
嫌がるように顔を背けるのを阻んで、赤い目許にキスと愛撫を繰り返した。
「俺、柊一サンの事を椿サンから奪い取りたいな」
隣に腰を降ろし、頑なに拒む柊一を無理矢理抱き寄せて目元や生え際にまでキスをする。
ギョッとした顔で振り返った柊一は、俺の顔を凝視した後に目を逸らした。
「なんですか、そのつれない反応は?」
「莫迦な事を考えるのはやめろ」
「莫迦な事?」
「昨日教えてやった通り、俺は椿の元から離れる気はないし。それに、椿が俺を所有しているワケじゃないんだ。取るとか言われる謂われはないぞ」
「こんな暴行受けて、それでも黙って影武者ゴッコに付き合ってあげてる柊一サンは、充分『いいように所有されてる』ように見えますけど?」
「そういう言い方をするなら、俺はオマエに所有されるのなんか真っ平だ」
「そりゃそうでしょうねェ? 俺が柊一サンだったとしても、きっと俺のコトが嫌いですから」
呆れ果てたような顔で俺を見る柊一に、俺はニイッと笑ってみせる。
「でも俺、すっかり柊一サンにハマッちゃったから。是が非にも手に入れたいんですよ」
「冗談じゃない。第一、椿は俺にセックスを強要したりしないぞ」
「セックスより暴行が好きなんだ」
俺の台詞に、柊一はうんざりしたみたいな顔になる。
「どっちも好きじゃない!」
「残念だなぁ。俺はセックスが好きなのに!」
「そりゃオマエが男に犯されてないからだろっ!」
「昨日はマスかきの手伝いしただけだし、今日だってフェラしただけじゃないですか? 俺、自分がイイ思いなんにもしてないウチから、そんなコト言われたら心外だなぁ!」
「同意もしてない行為に付き合わされたら、それは強姦だ! 俺はハルカに所有されたくなんかないし、くだらない事を思いつくのもやめろ! 騒ぎを起こせば、ワリを食うのはハルカだぞ?」
「あ、意外に心配されてる、俺?」
「迷惑だと言ってるんだ」
突き放すように言って、柊一はソファから立ち上がる。
「まだ、帰ってイイって言ってない」
手を掴むと、柊一は怯えたような顔で振り返った。
俺が立ち上がると、ますます竦み上がったような顔で俺の動きをジイッと目で追っている。
立ち止まった格好のままの柊一を待たせて、俺は先刻テーブルに散らかした薬の中から、軟膏を手に取る。
「背中と足に出来たての傷発見」
容器を開けて指先にすくい取り、白っぽい軟膏を傷に塗り込めた。
手当を終えると、俺は柊一が脱ぎ捨てたシャツを拾い上げて肩にかけてやる。
「それじゃあ、今日はもう戻ってイイですよ」
ニイッと笑うと、柊一は戸惑った顔をして見せた。
「やっぱりハルカは、おせっかいだ」
「なんとでも言って下さい。俺は自分の人生を楽しむ主義だから、やりたいようにやらせてもらうだけで~す」
笑いかけると、柊一は呆れたように肩を竦めてみせる。
その様子からは、少しだけ俺に打ち解けたような気配が感じられた。
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