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琉斗六

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第二部:ハリー

22

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 もうだいぶ遅い時間になっていたけれど、自宅の玄関にはハリーを迎える明かりが灯っていた。
 扉の向こうには、妻と娘の笑顔がある。

「リズ、パパにおめでとうを言ってあげなさい。大手柄をしたんですって」
「ぱぱ、おめでとう」
「はい、ありがとう」

 抱き上げた娘から贈られた、大きなあざのついた頬への祝福のキスを、ハリーは痛みに耐えるしかめっ面で受け取った。

「ただいま」
「お帰りなさい。事件解決おめでとう。遅いけど、お夕飯食べるでしょう?」
「うん。悪いけど、用意してもらえるかな」

 いつものように上着をリビングのソファに置くと、待ってましたとばかりにエリザベスが持って行ってしまった。
 その、自分よりも遥かに丈のある上着を運び去るエリザベスを見送り、ハリーはダイニングへと足を向ける。

「どうしたの? パーティでもするみたいじゃない」

 ダイニングには、リサの心づくしのごちそうが並べられていた。

「パーティとまではいかないけど、お祝いしたいでしょう? だから、電話を受けた後で大急ぎで用意したのよ」

 ニッコリと笑うリサに、ハリーも微かな笑みを返す。

「どうしたの? 浮かない顔をして」
「何か後味悪くってね。同じ警官として、やりきれないよ」

 ハリーの憂鬱の原因を知り、リサは少し困った顔をしてみせた。

「そうね。でも、あなたに出来る事は、自分がそうならないようにするだけでしょう?」
「部長がね、言ったんだよ。所詮、警官も人間だって。地位も名誉も金で買えるのに、その摂理が判らないヤツが莫迦なんだってさ」

 吐き捨てるように言ったハリーに、リサはクスッと笑った。

「じゃあ、そのオバカさんと一緒にいて、同じように考えている私もオバカさんって事よね。兄さんなんて、オバカさんの上をいく大バカさんになっちゃうでしょ?」
「リサ?」
「私、そういうオバカさんは大好きよ。あなただって、そうなんでしょう?」
「うん…、そうだね。リズにも、そういうオバカさんになって欲しいって、思ってるし…」

 二人は顔を見合わせて、クスクスと笑いあった。
 リサの一言で、不思議なほど心の中の憂鬱が拭い去られている。

「ああ、まったく。本当にキミはスゴイね、リサ。俺は今でも、キミが俺と結婚する事を許してくれた先輩に、感謝しているよ」
「あら、だって。許可しなかったら駆け落ちくらいしてみせるって、私、兄さんに言ったのよ」
「本気? 俺に、警官を辞めさせてかい?」
「じゃあハリーは、兄さんみたいに仕事を取るの? 結婚よりも」
「難しい事を訊くね。うん、でも…、俺ならキミを選ぶな。だってキミが居なかったら、俺はいつだってこうして直ぐに落ち込んじまうのに、誰が救い出してくれるんだい?」
「じゃあ、その女神様が作ったありがたい御馳走を、ちゃんと頂きなさい」
「はい、はい、解りました。それでは、頂きます」

 ハリーはフォークを手に取ると、リサの心尽くしの料理に手を付けた。

「それで、あの子はどうなったの?」

 食事を始めたハリーに、リサが問いかける。

「あの子? ああ、ロイか。ロイは今病院にいるよ。僕はついて行かなかったから、どれくらいで退院できるかは解らないけど。知りたいなら、聞いてきてあげるよ」
「そうね、でもいいわ。私、自分で行ってくる。どこの病院だか教えてちょうだい」

 リサの意外な発言に、ハリーは少し驚いた顔をした。

「どうしてそんなに驚くの? あの子に兄さんが迷惑をかけたんだもの、私が何とかするのは普通でしょ」
「いや、だって…、本気?」
「もちろんよ。それで、何処なの?」
「あ…のさ、一緒に行かないか? 僕も様子が見たいし、早くに帰れる日にでもさ。ねっ」

 モンテカルロがどんな薬をロイに使ったにしろ、麻薬である事ははっきりしている。どのくらいの量をどの程度うたれたかは知らないが、禁断症状の出ている人間など、リサの目には触れさせたくなかった。

「う~ん、まあ、良いわ。じゃあ、そういう日に電話をちょうだい。私、署まで迎えにいくわ」
「うん、解ったよ」

 ハリーは、リサに気づかれないように溜息をついた。
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