イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

10.落とし穴【1】

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 しばらくすると、マハトがフォークを置いて、呟くように言った。

「なんだろう…部屋がぐるぐるしている…」

 マハトはテーブルに肘をついたまま、視線を泳がせていた。

「酔ったのではないか? ほれ、無理せず横になれ」

 タクトは即座に立ち上がり、マハトを支える。

「……あー、すまん」

 ふらつきながら体を預けるマハトに、タクトは冷静な顔を保ちながらも、目元が微かに笑んでいた。

「想像以上に飲ませ過ぎたかもしれぬな。グラス半分で酔わせられると思うておったのに」
「何を言ってる……?」

 額をおさえよろめくマハトを、タクトは易々とベッドへ運んだ。
 体を横たえたところで、マハトはまるで頭の中が膨張するような感覚に襲われる。

「天井がぐるぐるしてるぞ……」
「では、目を閉じるが良い。これで少しは楽になるじゃろう」

 そう言いながらタクトはマハトの額に自分の指先をそっと当てた。彼の熱を帯びた肌に対し、タクトの指はひんやりと冷たかった。

「どうじゃ?」
「少し、スッとした…」

 床と天井の区別もなくなりかけていたマハトだったが、タクトに触れられたことで、上下の区別がつくようになった。

「これはどうじゃ?」

 タクトは、マハトのひたいに自分の唇を寄せる。

「ああ……こんなことが……前にもあった…」
「そうだ、思い出せ。おまえは既に、儂の物なのじゃからな」
「なんだか…すごく眠い」
「馬鹿者、寝るにはまだ早いわ」

 酔ったマハトをベッドに横たえ、タクトは顔がニヤけてしまうのが止められなかった。
 神耶族イルンの性質は、個人差はあるが基本的に非常に偏っている。
 それは、全員がリーダーシップを取れる能力があるが、だれかに従う能力には欠ける…もしくは協調性が無いとも言えた。
 個人主義という言葉でおおっているが、その苛烈な性質ゆえに同族で集落を形成することが出来ず、社会性に欠ける。
 しかしその反面、神耶族イルン人間リオンと大差無い精神をしていた。
 と言っても、独裁者や覇王になりたがるような傾向はなく、自由気ままに何にもしばられないことを望む。
 ではなにが "大差無い" のかと言えば、それはつまり孤独に対する耐性がさほど高くないという点だ。

 マハトに語った通り、能力値ステータスの高さゆえに衣食住に困ることもなく、そば精霊族エレメンツが出現したとしても、即座に影響は受けない。
 他種族から狙われる点を考えれば、神耶族イルンは他と関わること無く、どこかの秘境に引きこもっているのが安全だろう。
 だが、その環境に耐えられる精神を、彼らは持っていないのだ。
 故に契眷属フェストゥーカを侍らせ、強く惹きつけ合う相手を契金翼エヴンハールへと成し、おのれの元へと縛り付ける。
 神耶族イルン契金翼エヴンハールを、掌中の珠と呼ぶのはそれ故だ。

 そのために神耶族イルンは、自身の全てを契金翼エヴンハールに与える。
 与えられた契金翼エヴンハールは、あるじ神耶族イルンを超える能力値ステータスを得る。
 簡単な比較だけで言えば、契金翼エヴンハールはいつでもあるじを下剋上出来るだけのチカラを持つのだ。
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