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馴れ初めの章
2.航空祭の後夜祭
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滑走路の向こうで、夕陽が金色に機体を染めていた。
祭りの熱気はとうに去り、格納庫の片隅だけが時間から切り離されたように静まり返っている。
背後から聞こえた足音に、若桐は振り返った。
「……教官、お久しぶりです」
「おお、真壁か……。一年ぶりか……?」
制服の上着越しでも分かる背筋の線は、相変わらず真っ直ぐで、影が長く伸びていた。
「休日出勤、御苦労様」
「ありがとうございます」
礼の所作すら無駄がなく、花のように柔らかい印象を纏っている。
「帰るのか?」
「いえ、振替で明日が休みなので。この機会に、教官にどうしてもお訊ねしたいことがあったので……」
「俺に? なんだよ?」
「……覚えていらっしゃるかどうか分かりませんが。訓練生時代に、体格の相談をした日のことです」
若桐の脳裏に、嫌でもあの光景が甦る。
均整の取れた背中。熱に呑まれた瞬間の口づけ。腿越しに伝わった、あの感触──。
「あの時、教官は "ナシ" とおっしゃいましたが……」
「ああ」
「……どうしても分からないことがあるんです。教官以外には訊けないので」
「はっきり言え」
若桐は、腹をくくった。
一年前だろうが、十年前だろうが、セクハラで訴えられたら反論の余地は無い……と思ったからだ。
「……僕、あれがなんだったのか、よく分からないんです」
「俺がおまえにキスした……そんだけだろ」
「キスはわかります。わからないのは……、教官にキスされたあと、下腹の辺りがもやもやして……。それで、夜具に入ったあとも落ち着かず。トイレにいったら少し収まったんですが……。あれ以来、あんな風になったことなくて……。あれがなんなのか、知りたいんです」
少し顔を赤らめながら、しどろもどろに説明をする真壁を、若桐は宇宙人を見るような目で見ていた。
「……え……っ?」
「あの……、教えて……いただけませんか……?」
「なにを……?」
「ですから、あの……もやもやした感じがなんだったのか……です」
真壁は必死に──。
そりゃあもう、切実に切羽詰まった顔で問いかけているが。
訊ねられた若桐は、答えに窮した。
夕陽が頬を赤く染めているのか、それとも違う熱のせいなのか。
若桐の胸の奥で、熱がじわりと広がった。
──マジか……。
若桐は、頭を抱え──。
次に髪を掻きむしった。
「あの……教官?」
「俺はもう、おまえの教官じゃねぇよ」
「あ、そうですね。では、若桐二等空佐……ですか?」
「そうじゃなくて。その……もやもやの理由……、本当に説明されたいのか?」
「はい。どうしても」
「つまり……もう一回、キスをしろ……と?」
「出来れば……ですが」
しばしの沈黙ののち、若桐は立ち上がった。
「じゃあ、こんな人目のある場所じゃあ駄目だ」
そう言い、肩越しに視線だけを送って、ゆっくり歩き出す。
真壁の足音が、迷いなくその背を追った。
§
格納庫を出て、基地内の道をしばらく無言で歩く。
薄く涼しい夜風が、航空祭の名残をさらっていくようだった。
若桐は、自分の寮の部屋に真壁を案内する。
教官の部屋は端にあり、向こうは非常階段、手前は──航空祭の夜に飲みに行かない者も少ないことを考えれば、今夜は戻らないだろう。
「ここ、空佐のお部屋ですか?」
「肩書きはいらん。入れ」
キーを差し込み、扉を開く。
真壁が中に進む間、若桐は廊下に人気がないことを確認していた。
そして、扉を閉める時も再度周囲を確認し、閉めたあとに施錠する。
「最後にもう一回確認するが、本当におまえは、俺にキスされたいんだな?」
「はい。そうです」
はっきりと答えたところで、若桐はぐいと、真壁の胸ぐらをつかんで引き寄せ、唇を重ね合わせる。
真壁は、やはりあの夜と同じように一瞬目を見開いて……、それからゆっくりまぶたを閉じた。
触れ合う吐息。
若桐の手が、あの晩と同じように真壁の後頭部に回される。
ゆっくり開いた真壁の唇の隙間に、若桐の舌がぬるりと差し込まれた。
「……んっ……っ……」
あの時よりも長く。
若桐は、真壁の唇を、舌を、やんわりと愛撫する。
真壁の手が、若桐の胸の生地を強く掴んでいた。
「んあ……っ」
若桐が体を離すと、真壁は微かに……酸素の足りない魚のように喘ぎ、肩で息をしている。
「なんか、分かったか?」
「はい……、やっぱり、下腹がもやもやします」
「もやもやもへったくれも、興奮してるだけだろう」
「興奮……?」
ぽやんとした顔で、顔を下に向け、真壁は自分の下腹部を見た。
「これ……、僕……勃起してるんですか?」
「自分の体のことを、他人に聞くな……」
呆れを含んだ若桐の言葉を、真壁は聞いているのかいないのか。
しばらく自分のそこを見つめたあとに、顔を上げて若桐を見た。
「それで、これはどうしたらいいんでしょう?」
「……は?」
真壁以上に、若桐は混乱の渦に巻き込まれた気分だった。
だが、こちらを見る真壁の顔は真剣そのものだ。
「どう……って、自分で処理すりゃいいだろう」
「処理……。……でも保健体育の授業で精通の話は聞きましたが、それが起きた時にどう対処するのかは、指導を受けていません」
若桐は、めまいを感じた。
目の前にいるのが、人間以外の "妖精さん" に見えてくる。
「……おまえな……」
言いかけて、若桐は深いため息を吐いた。
ある意味、セクハラで訴えられたほうが事態は簡単に収まったかもしれない。
「こっちこい……」
ベッドに座り、手招きをする。
そして真壁を、背中から抱くようにして、自分の前に座らせた。
「いいか……」
抱いた腰回りの細さと、触れる背中の体温。
肩口に顔を寄せれば、真壁の甘い体臭が鼻腔をくすぐる。
「緊張するな」
「はい」
言葉だけを聞けば、訓練生時代の会話と大差ない。
内容は、大幅に違っているが。
若桐は真壁の手を取ると、それを下腹部へと導いた。
「前開いて、自分のを握れ」
「はい」
言われるままに、真壁はベルトを外した。
若桐は、真壁の手に自分の手を添えて、動きを促す。
「ん……」
「ビビるな。……上下にこすって……、自分で自分の気持のいいポイントを探すんだ」
真壁の手を取ってはいるが、実際に刺激を与えているのは若桐だった。
「あ……っ!」
真壁の喉から、堪え切れないような吐息が漏れる。
その響きが若桐の胸を直撃し、理性の綱をさらに細く脆くしていった。
真壁の腰が、反射のようにわずかに前へ揺れた。
若桐の手の中で、熱と硬さが増していく。
「……そうだ、そのまま……力は入れすぎるな」
低く囁くと、真壁は素直に呼吸を合わせてくる。
背中越しに伝わる心拍は、まるで飛行訓練の急上昇のように速まっていた。
「んっ……若桐……さ……あ、っ……」
耳のすぐそばで吐かれた熱い息に、若桐の喉がひくりと鳴った。
手ほどきどころではない。
既に若桐は、真壁を感じさせることに夢中になっている。
「……ああ……っ、なんか、胸の奥が……」
「それでいい、もう少しだ……」
真壁は握られたまま、首をわずかに傾けて若桐の肩に後頭部を預ける。
その仕草が、妙に縋るようで、若桐の理性を最後まで削り取っていった。
若桐の指が、真壁の手を包んだまま上下を繰り返す。
熱が掌を満たし、その硬さが脈打つたび、指先まで微かに震えるのが分かる。
「……はっ……あ……っ」
真壁の喉から、途切れがちな吐息がこぼれる。
背中越しに感じる呼吸は浅く、速い。
腰はもう、自分の意思では止められないように若桐の動きに合わせて小刻みに揺れていた。
「……っ、若桐さん……なんか、もう……」
「いいから、そのまま感じてろ」
「……でも、……ああっ……!」
次の瞬間、真壁の全身がびくりと大きく震えた。
腹筋が硬く収縮し、膝がわずかに内側へすぼまる。
その瞬間、全身が跳ね、真壁の指がシーツを掴んだ。
若桐の掌の中で、何かが解放されたような、深い息が零れた。
「……っ……は……はぁ……」
肩を上下させ、真壁は完全に力を抜いて若桐の腕の中に凭れかかる。
まだ断続的に小さく震えるその体は、急降下から着陸したばかりの機体のように、余韻を残していた。
若桐はしばらく何も言えず、その背を支えたまま固まっていた。
──ああ、またしてもやっちまった……。
指先に残る温もりと滑りが、火種のように熱を煽る。
この距離で、この匂いで、さっきの声を聞かされたら──。
──いや、これ以上は不味い。
若桐は、心のなかで頭を振る。
「そっちに、バスルームがあるから、体流してけ」
最後に残った理性を振り絞って、若桐はそう言ったのだが。
ふっと顔を上げた真壁は、微かに紅潮したまま、ぽやんとした視線で若桐の顔を見たあとに、それをすっと下に落とした。
「あの……」
「なんだよ?」
「若桐さんのは、しなくていいんですか?」
腕の中で、あの匂い立つような背中から、甘い香りを放っている。
──俺がこうなってるのは、おまえが色っぽすぎるからなんだよっ!
だが、ツッコミは言葉にならず、若桐はただ赤面しただけだった。
「それに……やっぱり若桐さんはすごいです。……僕、こんなの、知りませんでした」
「やめろ……それ以上は……、俺の理性が保たんっ!」
思わず叫んだ若桐を、真壁はきょとんとした顔で見ている。
「理性……?」
「これ以上は、駄目だ!」
「駄目……なんですか?」
「当たり前だろう! そもそもこんなことは、フツーは恋人とかそーいう関係にならなきゃ、しないんだっ!」
若桐の言葉に、真壁は──心底ショックを受けたような顔になった。
──あ、やっぱりセクハラで訴えられるコースか……?
だとしても、今更じゃない。
どうとでもなれ……といった気分で、若桐は真壁の目を見つめ返した。
「それって……僕が、若桐さんの恋人になればいいってことですか?」
「はあっ?」
とんでも理論に、若桐の思考は真っ白になる。
だが、真壁は真剣な顔で若桐の肩を掴んだ。
「僕……若桐さんに、こうしてまた触れてほしいです。これっきりになったら、嫌です」
若桐の中で、何かがぷつりと切れた。
胸の奥に残っていた細い糸が、熱に焼かれて弾け飛ぶ音が、耳の奥で聞こえた気がした。
「……どうなっても知らんぞ……」
低く、抑えた声。
真壁はきょとんとしたまま、しかしその黒い瞳だけは真剣に若桐を見つめ返している。
次の瞬間、若桐はその襟元をつかみ、強く引き寄せた。
唇がぶつかる音が、部屋に短く響く。
舌を押し込むと、真壁は驚きに息を呑んだが、すぐに受け入れ、喉の奥で甘い吐息を零した。
その声が、若桐の背筋をぞくりと駆け上がる。
もう完全に、止まる理由はなくなった。
§
若桐は、真壁の体をベッドに押し倒した。
「本当に、どうなっても知らんぞ……」
「若桐さん……」
見上げてくる真壁の瞳が、微かに濡れて揺れている。
若桐が真壁の服に手を掛け、ボタンを外すと、真壁はそれを見様見真似で若桐の服に手を掛けた。
きしむ音と同時に、制服の布地が擦れ、熱を孕んだ空気がふたりの間に閉じ込められる。
若桐は覆いかぶさり、再び口を塞ぐ。
腹筋の上を滑る指先に、体温がじわりと絡みつく。
「もう……止められないからな……」
「……はい……」
吐息が交わる距離で囁くと、真壁は小さく頷いた。
指が胸元を這い、乳首の上で軽く撫でる。
瞬間、真壁の体がびくりと跳ねる。
その反応が、たまらなかった。
「っ……!」
薄く笑いながら、若桐はその反応を確かめるように、何度も指先で弄んだ。
真壁の吐息が速まり、シーツを掴む指が強くなる。
真壁の腰のあたりは、先刻の講習の名残で無防備なままだった。
制服も、シャツも、真壁も、自分も──。
若桐は衣服のすべてをベッドの外に追い出して、不安と期待に揺れる真壁の瞳を見た。
じわりと、体温が上がった気がする。
もう、二人の間にためらいという言葉は存在しなかった。
若桐は真壁の上に覆いかぶさったまま、指先で胸を弄び、耳殻に吐息を残して、首筋にキスをする。
胸の突起をいたぶられるたびに、真壁の体にじんじんと言いしれない感覚が広がっていく。
「わ……若桐……さん……」
「どうした?」
「僕……なんか、……変です……」
すうっと、指先が胸から腹へと動き、それからまた胸へと辿る。
「んんっ!」
細い声がこぼれるたび、若桐の口元に笑みが浮かぶ。
指は迷いなく肌をなぞり、吐息は熱を帯びて重なる。
どこを触れても、真壁は甘く震え、名を呼んだ。
ただそれだけで、若桐の理性は削られていく。
「なん……?」
「莫迦。座学じゃねぇんだ、感覚を研ぎ澄ませ……」
再び腹へと撫でた手が、今度は腿へと落ちてゆく。
「……っ、あ……っ」
「……もっと、声出していいぞ」
吐息交じりの低い声に、真壁は戸惑いと羞恥で首を振るが、腰は正直に震えている。
若桐の手は内腿の付け根に回り、指先が敏感な箇所を探り当てると、わざと軽く撫で上げた。
「っ……!」
「……我慢するなよ」
「でも……」
「声が聞きたいから、あんまり我慢してると意地悪しちゃうぞ」
「えっ……いじ……?」
若桐の舌が、真壁の胸を吸った。
「ひうっ!」
「そうだ。感じたまんま、声にしろ。俺を、喜ばせたいならな」
目が合うと、若桐が微笑んでいる。
真壁は、その微笑みに安堵を覚えた。
若桐は、ベッドサイドに置かれたベビーオイルのポンプを押す。
仄かな香りに、真壁が気付いたようにそちらをみた。
「なん……ですか?」
「おまえに、痛い思いはさせたくないからな」
足を開かせ、その間に若桐の手が差し込まれる。
滑りを確かめるように、すぼまった場所の周りを円を描くように指先が動く。
「……あの……っ、そ……こ……。は……恥ずかしいです……」
「それだけ……じゃないだろ?」
「わ……かんな……」
真壁が落ち着くのを待って、若桐は指先を進めた。
「あ……っ」
「……痛いか?」
問いかけに、頭が左右に揺れる。
「辛かったら、言え」
「だい……じょうぶ……です」
強がっているのか、単に混乱しているのか。
指を受け入れようとしている真壁の様子が愛しくて、若桐はキスをした。
そのキスに、まるでなにかにすがりつくように、真壁が応える。
舌を差し入れ、まだ息の整わない口内を舐め回す。
「……ん……っ……」
指先が、更に奥に進む。
真壁はシーツをきつく掴んだ。
「無理はしなくていい」
「……して……ません……」
わずかな抵抗の先にある、柔らかな襞を押し開き、深い場所へ。
そこを指で触れた瞬間、真壁の体に電気が走ったようなショックがあった。
「ああっ!」
「ここが、いいのか?」
そこに、オイルを塗り込めるように指を動かすと、つま先を丸めた足がびくりびくりと戦慄いた。
「それ……なん……ですかっ?」
「おまえの "いいところ" さ」
指が奥へと入るたび、真壁の体がわずかに跳ねた。
喉を鳴らし、声を飲み込もうとする。
「……っ……や……」
小さく首を振る仕草が、むしろ欲望を訴えているようだった。
「やめてもいいんだぞ」
「だ……め……、もっと……」
その一言で、若桐の手がもう一段階深く滑り込んだ。
「素直でよろしい」
ふふっと笑って、若桐は真壁の肌にキスを落とす。
若桐の唇が触れた場所が、ジンッと痺れる気がした。
真壁の熱が再びたちあがり、全身に快感が行き渡った頃合いを見計らって、若桐は指を抜く。
「……っ!」
「莫迦、名残惜しそうな顔すんな……」
頬にキスをして、それから若桐は真壁の腰をしっかりと抱き上げた。
「力抜け……」
若桐の熱が、真壁に押し当てられる。
「ふあ……っ!」
「大丈夫だ……」
質量の違いに、真壁の腰が引く。
しかし若桐はそれを許さず、がっちりと抱いた腕に力を込めた。
「ああっ……あっ……っ!」
「全部、はいったぞ」
のけぞる姿まで、優美なラインを見せる体に、若桐は思わずため息を零す。
衝撃が収まるまで、若桐はそのままの姿勢を保った。
支える腕を背中に回すと、それが合図のように、真壁が若桐にしがみついてくる。
「そんなにしがみつかれちゃ、動けねぇよ」
よしよしと背中を撫で、真壁の腕が緩んだところでゆっくりと腰を引く。
中が、名残惜しむように絡みつき、若桐は思わず呻いた。
──なんだこれ、かわいすぎるだろ……。
突き上げれば快感に戦慄き、引けば追いすがるように収縮する。
先ほど確かめたポイントを狙って擦り上げると、快感に蕩けた声で若桐の名を呼ぶ。
眉は寄っているのに、その表情は苦しさではなく、確かに快感に染まっていた。
若桐は腰をゆるやかに回し、角度を変えて奥を探る。
その瞬間、真壁の体がびくりと跳ね、足先まで震えが走った。
「……いい子だ……、相変わらず勘は良いな」
若桐の腰の動きが、自然と深く速くなっていく。
真壁はもう、目を閉じたまま途切れた吐息を重ね、身体の奥まで熱を受け止めている。
その柔らかな締めつけに、若桐の理性は完全に溶け落ちていた。
「……百合緒……」
名前を呼ぶと、若桐の背に回されていた腕に力がこもった。
指先が背中を掴む感触に、胸の奥で何かが弾けた。
「……っ……!」
「ん……あぁっ!」
若桐は真壁を抱き締めたまま深く沈み込み、熱を吐き出す。
真壁も同時に身体を震わせ、短く甘い声を零した。
§
熱が引いていく感覚に、若桐はゆっくりと真壁から体を離した。
──ああ、全く……。
甘い余韻よりも先に来たのは、「やらかした」という後悔の念。
訓練生ではないが、教え子に手を出すことになるとは……。
「若桐さん……」
「待ってろ、今、ユニットバスに湯張ってやるから」
ベッドから離れようとした若桐の手を、真壁が握る。
「おい……」
「やっぱり、若桐さんじゃないと駄目です」
真壁は、へにゃりと笑った。
生真面目なこの男は、笑うとこんなにも少年のような顔をすることを、初めて知った。
「ああ、もう……」
若桐は、自分がもうどうしようもないほど、真壁にはまりこんでしまったことを、この瞬間に自覚した。
祭りの熱気はとうに去り、格納庫の片隅だけが時間から切り離されたように静まり返っている。
背後から聞こえた足音に、若桐は振り返った。
「……教官、お久しぶりです」
「おお、真壁か……。一年ぶりか……?」
制服の上着越しでも分かる背筋の線は、相変わらず真っ直ぐで、影が長く伸びていた。
「休日出勤、御苦労様」
「ありがとうございます」
礼の所作すら無駄がなく、花のように柔らかい印象を纏っている。
「帰るのか?」
「いえ、振替で明日が休みなので。この機会に、教官にどうしてもお訊ねしたいことがあったので……」
「俺に? なんだよ?」
「……覚えていらっしゃるかどうか分かりませんが。訓練生時代に、体格の相談をした日のことです」
若桐の脳裏に、嫌でもあの光景が甦る。
均整の取れた背中。熱に呑まれた瞬間の口づけ。腿越しに伝わった、あの感触──。
「あの時、教官は "ナシ" とおっしゃいましたが……」
「ああ」
「……どうしても分からないことがあるんです。教官以外には訊けないので」
「はっきり言え」
若桐は、腹をくくった。
一年前だろうが、十年前だろうが、セクハラで訴えられたら反論の余地は無い……と思ったからだ。
「……僕、あれがなんだったのか、よく分からないんです」
「俺がおまえにキスした……そんだけだろ」
「キスはわかります。わからないのは……、教官にキスされたあと、下腹の辺りがもやもやして……。それで、夜具に入ったあとも落ち着かず。トイレにいったら少し収まったんですが……。あれ以来、あんな風になったことなくて……。あれがなんなのか、知りたいんです」
少し顔を赤らめながら、しどろもどろに説明をする真壁を、若桐は宇宙人を見るような目で見ていた。
「……え……っ?」
「あの……、教えて……いただけませんか……?」
「なにを……?」
「ですから、あの……もやもやした感じがなんだったのか……です」
真壁は必死に──。
そりゃあもう、切実に切羽詰まった顔で問いかけているが。
訊ねられた若桐は、答えに窮した。
夕陽が頬を赤く染めているのか、それとも違う熱のせいなのか。
若桐の胸の奥で、熱がじわりと広がった。
──マジか……。
若桐は、頭を抱え──。
次に髪を掻きむしった。
「あの……教官?」
「俺はもう、おまえの教官じゃねぇよ」
「あ、そうですね。では、若桐二等空佐……ですか?」
「そうじゃなくて。その……もやもやの理由……、本当に説明されたいのか?」
「はい。どうしても」
「つまり……もう一回、キスをしろ……と?」
「出来れば……ですが」
しばしの沈黙ののち、若桐は立ち上がった。
「じゃあ、こんな人目のある場所じゃあ駄目だ」
そう言い、肩越しに視線だけを送って、ゆっくり歩き出す。
真壁の足音が、迷いなくその背を追った。
§
格納庫を出て、基地内の道をしばらく無言で歩く。
薄く涼しい夜風が、航空祭の名残をさらっていくようだった。
若桐は、自分の寮の部屋に真壁を案内する。
教官の部屋は端にあり、向こうは非常階段、手前は──航空祭の夜に飲みに行かない者も少ないことを考えれば、今夜は戻らないだろう。
「ここ、空佐のお部屋ですか?」
「肩書きはいらん。入れ」
キーを差し込み、扉を開く。
真壁が中に進む間、若桐は廊下に人気がないことを確認していた。
そして、扉を閉める時も再度周囲を確認し、閉めたあとに施錠する。
「最後にもう一回確認するが、本当におまえは、俺にキスされたいんだな?」
「はい。そうです」
はっきりと答えたところで、若桐はぐいと、真壁の胸ぐらをつかんで引き寄せ、唇を重ね合わせる。
真壁は、やはりあの夜と同じように一瞬目を見開いて……、それからゆっくりまぶたを閉じた。
触れ合う吐息。
若桐の手が、あの晩と同じように真壁の後頭部に回される。
ゆっくり開いた真壁の唇の隙間に、若桐の舌がぬるりと差し込まれた。
「……んっ……っ……」
あの時よりも長く。
若桐は、真壁の唇を、舌を、やんわりと愛撫する。
真壁の手が、若桐の胸の生地を強く掴んでいた。
「んあ……っ」
若桐が体を離すと、真壁は微かに……酸素の足りない魚のように喘ぎ、肩で息をしている。
「なんか、分かったか?」
「はい……、やっぱり、下腹がもやもやします」
「もやもやもへったくれも、興奮してるだけだろう」
「興奮……?」
ぽやんとした顔で、顔を下に向け、真壁は自分の下腹部を見た。
「これ……、僕……勃起してるんですか?」
「自分の体のことを、他人に聞くな……」
呆れを含んだ若桐の言葉を、真壁は聞いているのかいないのか。
しばらく自分のそこを見つめたあとに、顔を上げて若桐を見た。
「それで、これはどうしたらいいんでしょう?」
「……は?」
真壁以上に、若桐は混乱の渦に巻き込まれた気分だった。
だが、こちらを見る真壁の顔は真剣そのものだ。
「どう……って、自分で処理すりゃいいだろう」
「処理……。……でも保健体育の授業で精通の話は聞きましたが、それが起きた時にどう対処するのかは、指導を受けていません」
若桐は、めまいを感じた。
目の前にいるのが、人間以外の "妖精さん" に見えてくる。
「……おまえな……」
言いかけて、若桐は深いため息を吐いた。
ある意味、セクハラで訴えられたほうが事態は簡単に収まったかもしれない。
「こっちこい……」
ベッドに座り、手招きをする。
そして真壁を、背中から抱くようにして、自分の前に座らせた。
「いいか……」
抱いた腰回りの細さと、触れる背中の体温。
肩口に顔を寄せれば、真壁の甘い体臭が鼻腔をくすぐる。
「緊張するな」
「はい」
言葉だけを聞けば、訓練生時代の会話と大差ない。
内容は、大幅に違っているが。
若桐は真壁の手を取ると、それを下腹部へと導いた。
「前開いて、自分のを握れ」
「はい」
言われるままに、真壁はベルトを外した。
若桐は、真壁の手に自分の手を添えて、動きを促す。
「ん……」
「ビビるな。……上下にこすって……、自分で自分の気持のいいポイントを探すんだ」
真壁の手を取ってはいるが、実際に刺激を与えているのは若桐だった。
「あ……っ!」
真壁の喉から、堪え切れないような吐息が漏れる。
その響きが若桐の胸を直撃し、理性の綱をさらに細く脆くしていった。
真壁の腰が、反射のようにわずかに前へ揺れた。
若桐の手の中で、熱と硬さが増していく。
「……そうだ、そのまま……力は入れすぎるな」
低く囁くと、真壁は素直に呼吸を合わせてくる。
背中越しに伝わる心拍は、まるで飛行訓練の急上昇のように速まっていた。
「んっ……若桐……さ……あ、っ……」
耳のすぐそばで吐かれた熱い息に、若桐の喉がひくりと鳴った。
手ほどきどころではない。
既に若桐は、真壁を感じさせることに夢中になっている。
「……ああ……っ、なんか、胸の奥が……」
「それでいい、もう少しだ……」
真壁は握られたまま、首をわずかに傾けて若桐の肩に後頭部を預ける。
その仕草が、妙に縋るようで、若桐の理性を最後まで削り取っていった。
若桐の指が、真壁の手を包んだまま上下を繰り返す。
熱が掌を満たし、その硬さが脈打つたび、指先まで微かに震えるのが分かる。
「……はっ……あ……っ」
真壁の喉から、途切れがちな吐息がこぼれる。
背中越しに感じる呼吸は浅く、速い。
腰はもう、自分の意思では止められないように若桐の動きに合わせて小刻みに揺れていた。
「……っ、若桐さん……なんか、もう……」
「いいから、そのまま感じてろ」
「……でも、……ああっ……!」
次の瞬間、真壁の全身がびくりと大きく震えた。
腹筋が硬く収縮し、膝がわずかに内側へすぼまる。
その瞬間、全身が跳ね、真壁の指がシーツを掴んだ。
若桐の掌の中で、何かが解放されたような、深い息が零れた。
「……っ……は……はぁ……」
肩を上下させ、真壁は完全に力を抜いて若桐の腕の中に凭れかかる。
まだ断続的に小さく震えるその体は、急降下から着陸したばかりの機体のように、余韻を残していた。
若桐はしばらく何も言えず、その背を支えたまま固まっていた。
──ああ、またしてもやっちまった……。
指先に残る温もりと滑りが、火種のように熱を煽る。
この距離で、この匂いで、さっきの声を聞かされたら──。
──いや、これ以上は不味い。
若桐は、心のなかで頭を振る。
「そっちに、バスルームがあるから、体流してけ」
最後に残った理性を振り絞って、若桐はそう言ったのだが。
ふっと顔を上げた真壁は、微かに紅潮したまま、ぽやんとした視線で若桐の顔を見たあとに、それをすっと下に落とした。
「あの……」
「なんだよ?」
「若桐さんのは、しなくていいんですか?」
腕の中で、あの匂い立つような背中から、甘い香りを放っている。
──俺がこうなってるのは、おまえが色っぽすぎるからなんだよっ!
だが、ツッコミは言葉にならず、若桐はただ赤面しただけだった。
「それに……やっぱり若桐さんはすごいです。……僕、こんなの、知りませんでした」
「やめろ……それ以上は……、俺の理性が保たんっ!」
思わず叫んだ若桐を、真壁はきょとんとした顔で見ている。
「理性……?」
「これ以上は、駄目だ!」
「駄目……なんですか?」
「当たり前だろう! そもそもこんなことは、フツーは恋人とかそーいう関係にならなきゃ、しないんだっ!」
若桐の言葉に、真壁は──心底ショックを受けたような顔になった。
──あ、やっぱりセクハラで訴えられるコースか……?
だとしても、今更じゃない。
どうとでもなれ……といった気分で、若桐は真壁の目を見つめ返した。
「それって……僕が、若桐さんの恋人になればいいってことですか?」
「はあっ?」
とんでも理論に、若桐の思考は真っ白になる。
だが、真壁は真剣な顔で若桐の肩を掴んだ。
「僕……若桐さんに、こうしてまた触れてほしいです。これっきりになったら、嫌です」
若桐の中で、何かがぷつりと切れた。
胸の奥に残っていた細い糸が、熱に焼かれて弾け飛ぶ音が、耳の奥で聞こえた気がした。
「……どうなっても知らんぞ……」
低く、抑えた声。
真壁はきょとんとしたまま、しかしその黒い瞳だけは真剣に若桐を見つめ返している。
次の瞬間、若桐はその襟元をつかみ、強く引き寄せた。
唇がぶつかる音が、部屋に短く響く。
舌を押し込むと、真壁は驚きに息を呑んだが、すぐに受け入れ、喉の奥で甘い吐息を零した。
その声が、若桐の背筋をぞくりと駆け上がる。
もう完全に、止まる理由はなくなった。
§
若桐は、真壁の体をベッドに押し倒した。
「本当に、どうなっても知らんぞ……」
「若桐さん……」
見上げてくる真壁の瞳が、微かに濡れて揺れている。
若桐が真壁の服に手を掛け、ボタンを外すと、真壁はそれを見様見真似で若桐の服に手を掛けた。
きしむ音と同時に、制服の布地が擦れ、熱を孕んだ空気がふたりの間に閉じ込められる。
若桐は覆いかぶさり、再び口を塞ぐ。
腹筋の上を滑る指先に、体温がじわりと絡みつく。
「もう……止められないからな……」
「……はい……」
吐息が交わる距離で囁くと、真壁は小さく頷いた。
指が胸元を這い、乳首の上で軽く撫でる。
瞬間、真壁の体がびくりと跳ねる。
その反応が、たまらなかった。
「っ……!」
薄く笑いながら、若桐はその反応を確かめるように、何度も指先で弄んだ。
真壁の吐息が速まり、シーツを掴む指が強くなる。
真壁の腰のあたりは、先刻の講習の名残で無防備なままだった。
制服も、シャツも、真壁も、自分も──。
若桐は衣服のすべてをベッドの外に追い出して、不安と期待に揺れる真壁の瞳を見た。
じわりと、体温が上がった気がする。
もう、二人の間にためらいという言葉は存在しなかった。
若桐は真壁の上に覆いかぶさったまま、指先で胸を弄び、耳殻に吐息を残して、首筋にキスをする。
胸の突起をいたぶられるたびに、真壁の体にじんじんと言いしれない感覚が広がっていく。
「わ……若桐……さん……」
「どうした?」
「僕……なんか、……変です……」
すうっと、指先が胸から腹へと動き、それからまた胸へと辿る。
「んんっ!」
細い声がこぼれるたび、若桐の口元に笑みが浮かぶ。
指は迷いなく肌をなぞり、吐息は熱を帯びて重なる。
どこを触れても、真壁は甘く震え、名を呼んだ。
ただそれだけで、若桐の理性は削られていく。
「なん……?」
「莫迦。座学じゃねぇんだ、感覚を研ぎ澄ませ……」
再び腹へと撫でた手が、今度は腿へと落ちてゆく。
「……っ、あ……っ」
「……もっと、声出していいぞ」
吐息交じりの低い声に、真壁は戸惑いと羞恥で首を振るが、腰は正直に震えている。
若桐の手は内腿の付け根に回り、指先が敏感な箇所を探り当てると、わざと軽く撫で上げた。
「っ……!」
「……我慢するなよ」
「でも……」
「声が聞きたいから、あんまり我慢してると意地悪しちゃうぞ」
「えっ……いじ……?」
若桐の舌が、真壁の胸を吸った。
「ひうっ!」
「そうだ。感じたまんま、声にしろ。俺を、喜ばせたいならな」
目が合うと、若桐が微笑んでいる。
真壁は、その微笑みに安堵を覚えた。
若桐は、ベッドサイドに置かれたベビーオイルのポンプを押す。
仄かな香りに、真壁が気付いたようにそちらをみた。
「なん……ですか?」
「おまえに、痛い思いはさせたくないからな」
足を開かせ、その間に若桐の手が差し込まれる。
滑りを確かめるように、すぼまった場所の周りを円を描くように指先が動く。
「……あの……っ、そ……こ……。は……恥ずかしいです……」
「それだけ……じゃないだろ?」
「わ……かんな……」
真壁が落ち着くのを待って、若桐は指先を進めた。
「あ……っ」
「……痛いか?」
問いかけに、頭が左右に揺れる。
「辛かったら、言え」
「だい……じょうぶ……です」
強がっているのか、単に混乱しているのか。
指を受け入れようとしている真壁の様子が愛しくて、若桐はキスをした。
そのキスに、まるでなにかにすがりつくように、真壁が応える。
舌を差し入れ、まだ息の整わない口内を舐め回す。
「……ん……っ……」
指先が、更に奥に進む。
真壁はシーツをきつく掴んだ。
「無理はしなくていい」
「……して……ません……」
わずかな抵抗の先にある、柔らかな襞を押し開き、深い場所へ。
そこを指で触れた瞬間、真壁の体に電気が走ったようなショックがあった。
「ああっ!」
「ここが、いいのか?」
そこに、オイルを塗り込めるように指を動かすと、つま先を丸めた足がびくりびくりと戦慄いた。
「それ……なん……ですかっ?」
「おまえの "いいところ" さ」
指が奥へと入るたび、真壁の体がわずかに跳ねた。
喉を鳴らし、声を飲み込もうとする。
「……っ……や……」
小さく首を振る仕草が、むしろ欲望を訴えているようだった。
「やめてもいいんだぞ」
「だ……め……、もっと……」
その一言で、若桐の手がもう一段階深く滑り込んだ。
「素直でよろしい」
ふふっと笑って、若桐は真壁の肌にキスを落とす。
若桐の唇が触れた場所が、ジンッと痺れる気がした。
真壁の熱が再びたちあがり、全身に快感が行き渡った頃合いを見計らって、若桐は指を抜く。
「……っ!」
「莫迦、名残惜しそうな顔すんな……」
頬にキスをして、それから若桐は真壁の腰をしっかりと抱き上げた。
「力抜け……」
若桐の熱が、真壁に押し当てられる。
「ふあ……っ!」
「大丈夫だ……」
質量の違いに、真壁の腰が引く。
しかし若桐はそれを許さず、がっちりと抱いた腕に力を込めた。
「ああっ……あっ……っ!」
「全部、はいったぞ」
のけぞる姿まで、優美なラインを見せる体に、若桐は思わずため息を零す。
衝撃が収まるまで、若桐はそのままの姿勢を保った。
支える腕を背中に回すと、それが合図のように、真壁が若桐にしがみついてくる。
「そんなにしがみつかれちゃ、動けねぇよ」
よしよしと背中を撫で、真壁の腕が緩んだところでゆっくりと腰を引く。
中が、名残惜しむように絡みつき、若桐は思わず呻いた。
──なんだこれ、かわいすぎるだろ……。
突き上げれば快感に戦慄き、引けば追いすがるように収縮する。
先ほど確かめたポイントを狙って擦り上げると、快感に蕩けた声で若桐の名を呼ぶ。
眉は寄っているのに、その表情は苦しさではなく、確かに快感に染まっていた。
若桐は腰をゆるやかに回し、角度を変えて奥を探る。
その瞬間、真壁の体がびくりと跳ね、足先まで震えが走った。
「……いい子だ……、相変わらず勘は良いな」
若桐の腰の動きが、自然と深く速くなっていく。
真壁はもう、目を閉じたまま途切れた吐息を重ね、身体の奥まで熱を受け止めている。
その柔らかな締めつけに、若桐の理性は完全に溶け落ちていた。
「……百合緒……」
名前を呼ぶと、若桐の背に回されていた腕に力がこもった。
指先が背中を掴む感触に、胸の奥で何かが弾けた。
「……っ……!」
「ん……あぁっ!」
若桐は真壁を抱き締めたまま深く沈み込み、熱を吐き出す。
真壁も同時に身体を震わせ、短く甘い声を零した。
§
熱が引いていく感覚に、若桐はゆっくりと真壁から体を離した。
──ああ、全く……。
甘い余韻よりも先に来たのは、「やらかした」という後悔の念。
訓練生ではないが、教え子に手を出すことになるとは……。
「若桐さん……」
「待ってろ、今、ユニットバスに湯張ってやるから」
ベッドから離れようとした若桐の手を、真壁が握る。
「おい……」
「やっぱり、若桐さんじゃないと駄目です」
真壁は、へにゃりと笑った。
生真面目なこの男は、笑うとこんなにも少年のような顔をすることを、初めて知った。
「ああ、もう……」
若桐は、自分がもうどうしようもないほど、真壁にはまりこんでしまったことを、この瞬間に自覚した。
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