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馴れ初めの章
4.温泉旅行
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若桐から「休前日を教えて欲しい」と言われたのは、数日前のことだった。
だが真壁は、その "当日" に若桐が浜松基地へ現れるとは、夢にも思っていなかった。
「どうしたんですか?」
「どうもこうもねぇよ。たまにはサプラ~イズってのが、あったほうが面白いだろ」
駐車スペースには、若桐のSUVが停めてある。
「私用車で来たんですか?」
「そりゃ、仕事終わったら出かけるのに、足があったほうが便利だろ」
「許可取るの、大変だったんじゃ?」
「まあな。でも筋さえ通しときゃ、たいしたことねぇよ」
1泊分の着替えを持たされ、助手席に乗せられる。
「言ってくれれば、ちゃんと準備をしたのに……」
「それじゃサプラ~イズにならねぇじゃねぇか。そも、どうせ1泊分の用意ぐらい、常に準備してあんだろ?」
「それはそうですが……」
真壁の声にはわずかに不満が混じっていたが、シートベルトを締めるその頬は、すでに心を許した誰かのそれだった。
車は、すぐにも東名高速に乗った。
「どこに行くんです?」
「そりゃあ、着いてのお楽しみだ」
窓の外には、夕暮れの街。
だがそれもすぐに、浜名湖の湖面が輝く景色へと変わる。
移動は30分にも満たない、短いものだった。
「これって、リゾートホテル……ですか?」
「ちょっとおもしろいだろう?」
若桐は手慣れた様子でチェックインを済ませ、キョロキョロしていた真壁は、気づけば部屋に通されていた。
「うわ! 窓の外に風呂がある!」
「リゾート気分、上がるよなぁ」
「こんな部屋、高いんじゃないんですか?」
「だから、たまにはサプラ~イズって言ってんだろ」
窓の外の風呂を見つめている真壁の傍に寄った若桐は、ぼそっと囁く。
「今夜は、声、我慢しなくていいんだぞ」
振り返った真壁は、頬を赤く染めた。
「……でも……」
「なんだよ?」
「ま……守さんに聞こえちゃうから……」
「おまえなあ……」
一瞬の沈黙の後、若桐は吹き出し、真壁の頭をくしゃりと撫でた。
「聞かせてくれよ」
くいっと寄せた頬にキスをして、耳元に囁くと、真壁は首まで赤くした。
§
夕食は、部屋に運ばれてきた。
リゾートホテルで──まさか顔見知りに会うこともないだろう……とは思うが。
しかし、自分たちの付き合いは秘密にすると決めた。
そもそも真壁との時間を充実させるための小旅行だ。
観光も遊びも、必要ない。
「すごい、豪華な料理ですね」
「あんまり飲むなよ」
はしゃぐ真壁のコップに、若桐はビールを注ぐ。
静かな室内。
真壁はチラチラと若桐の顔を見ては、一人で百面相をしている。
「なんだよ?」
「なんか、こんな楽しいの、いいのかなって……」
「平素我慢の連続なんだろ? たまの息抜きは必要だ」
「だって……守さん、年金とか積立とかいつも言ってるのに」
「俺だって、百合緒と羽伸ばしたい……とも言ったろ?」
笑う若桐に、真壁は先日の自分の発言を思い出す。
隊を辞めたいと言った真壁を、若桐は淡々と叱ってくれた。
その一方で、寂しい気持ちも汲んで、こんな特別な日を用意してくれた。
今も、目が合えば穏やかに微笑んでくれる。
──守さんが、好きだ……。
そう考えると、胸の鼓動が早まるような気がした。
§
食事を終えると、部屋の中はしんと静まり返った。
係のスタッフが料理を片付け、座ったソファの隣には若桐がいる。
窓の外には、月。
ベランダの露天風呂は仕切られているが、それ以外の部分は浜名湖が一望出来る。
「静か……ですね」
「そうだな……」
若桐は、手に持っていたグラスをテーブルに置くと、すっと立ち上がった。
「風呂、入るか?」
「はい」
浴衣を脱いで、掃き出し窓を開ければ、そこに湯船がある。
「うわぁ~、なんか入ると開放感がすごい……」
湯に入ると、東屋風に屋根が付いているが、絶妙に月が見える。
そうしてはしゃぐ真壁を見やり、若桐は嘆息した。
──凶悪なほど、色っぽすぎんだろ……。
月を見るために、露天の縁から身を乗り出している真壁は、うなじから背中、腰から足まで、全く無防備だ。
室内の明かりと、月明かり。
両方の淡い光に照らし出されて、いつも以上に肌が白く見える。
──こりゃ、思考だけじゃなくて、存在そのものが "妖精" だな。
若桐は正反対の位置に身を置き、そこでぱしゃぱしゃと楽しげに喜んでいる真壁の姿を眺めていた。
「なんですか?」
「子供みたいだなって思って」
「ひどくないですか?」
「じゃあ、裸を堪能してたって言われたほうが良かったか?」
返された答えに、真壁は真っ赤になった。
「あ……えと……」
「莫迦。風呂でなんかする気なんか、ねぇよ」
ハハハと笑ってから、若桐はスイッと真壁の傍に泳ぎ寄った。
「でも、今夜は寝かせないかもな」
「……守さん……」
身を縮こませる真壁の頬に、若桐は笑いながらキスをした。
終わり。
だが真壁は、その "当日" に若桐が浜松基地へ現れるとは、夢にも思っていなかった。
「どうしたんですか?」
「どうもこうもねぇよ。たまにはサプラ~イズってのが、あったほうが面白いだろ」
駐車スペースには、若桐のSUVが停めてある。
「私用車で来たんですか?」
「そりゃ、仕事終わったら出かけるのに、足があったほうが便利だろ」
「許可取るの、大変だったんじゃ?」
「まあな。でも筋さえ通しときゃ、たいしたことねぇよ」
1泊分の着替えを持たされ、助手席に乗せられる。
「言ってくれれば、ちゃんと準備をしたのに……」
「それじゃサプラ~イズにならねぇじゃねぇか。そも、どうせ1泊分の用意ぐらい、常に準備してあんだろ?」
「それはそうですが……」
真壁の声にはわずかに不満が混じっていたが、シートベルトを締めるその頬は、すでに心を許した誰かのそれだった。
車は、すぐにも東名高速に乗った。
「どこに行くんです?」
「そりゃあ、着いてのお楽しみだ」
窓の外には、夕暮れの街。
だがそれもすぐに、浜名湖の湖面が輝く景色へと変わる。
移動は30分にも満たない、短いものだった。
「これって、リゾートホテル……ですか?」
「ちょっとおもしろいだろう?」
若桐は手慣れた様子でチェックインを済ませ、キョロキョロしていた真壁は、気づけば部屋に通されていた。
「うわ! 窓の外に風呂がある!」
「リゾート気分、上がるよなぁ」
「こんな部屋、高いんじゃないんですか?」
「だから、たまにはサプラ~イズって言ってんだろ」
窓の外の風呂を見つめている真壁の傍に寄った若桐は、ぼそっと囁く。
「今夜は、声、我慢しなくていいんだぞ」
振り返った真壁は、頬を赤く染めた。
「……でも……」
「なんだよ?」
「ま……守さんに聞こえちゃうから……」
「おまえなあ……」
一瞬の沈黙の後、若桐は吹き出し、真壁の頭をくしゃりと撫でた。
「聞かせてくれよ」
くいっと寄せた頬にキスをして、耳元に囁くと、真壁は首まで赤くした。
§
夕食は、部屋に運ばれてきた。
リゾートホテルで──まさか顔見知りに会うこともないだろう……とは思うが。
しかし、自分たちの付き合いは秘密にすると決めた。
そもそも真壁との時間を充実させるための小旅行だ。
観光も遊びも、必要ない。
「すごい、豪華な料理ですね」
「あんまり飲むなよ」
はしゃぐ真壁のコップに、若桐はビールを注ぐ。
静かな室内。
真壁はチラチラと若桐の顔を見ては、一人で百面相をしている。
「なんだよ?」
「なんか、こんな楽しいの、いいのかなって……」
「平素我慢の連続なんだろ? たまの息抜きは必要だ」
「だって……守さん、年金とか積立とかいつも言ってるのに」
「俺だって、百合緒と羽伸ばしたい……とも言ったろ?」
笑う若桐に、真壁は先日の自分の発言を思い出す。
隊を辞めたいと言った真壁を、若桐は淡々と叱ってくれた。
その一方で、寂しい気持ちも汲んで、こんな特別な日を用意してくれた。
今も、目が合えば穏やかに微笑んでくれる。
──守さんが、好きだ……。
そう考えると、胸の鼓動が早まるような気がした。
§
食事を終えると、部屋の中はしんと静まり返った。
係のスタッフが料理を片付け、座ったソファの隣には若桐がいる。
窓の外には、月。
ベランダの露天風呂は仕切られているが、それ以外の部分は浜名湖が一望出来る。
「静か……ですね」
「そうだな……」
若桐は、手に持っていたグラスをテーブルに置くと、すっと立ち上がった。
「風呂、入るか?」
「はい」
浴衣を脱いで、掃き出し窓を開ければ、そこに湯船がある。
「うわぁ~、なんか入ると開放感がすごい……」
湯に入ると、東屋風に屋根が付いているが、絶妙に月が見える。
そうしてはしゃぐ真壁を見やり、若桐は嘆息した。
──凶悪なほど、色っぽすぎんだろ……。
月を見るために、露天の縁から身を乗り出している真壁は、うなじから背中、腰から足まで、全く無防備だ。
室内の明かりと、月明かり。
両方の淡い光に照らし出されて、いつも以上に肌が白く見える。
──こりゃ、思考だけじゃなくて、存在そのものが "妖精" だな。
若桐は正反対の位置に身を置き、そこでぱしゃぱしゃと楽しげに喜んでいる真壁の姿を眺めていた。
「なんですか?」
「子供みたいだなって思って」
「ひどくないですか?」
「じゃあ、裸を堪能してたって言われたほうが良かったか?」
返された答えに、真壁は真っ赤になった。
「あ……えと……」
「莫迦。風呂でなんかする気なんか、ねぇよ」
ハハハと笑ってから、若桐はスイッと真壁の傍に泳ぎ寄った。
「でも、今夜は寝かせないかもな」
「……守さん……」
身を縮こませる真壁の頬に、若桐は笑いながらキスをした。
終わり。
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