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「なんだよシノさん、調子悪いなぁ」
同じテイクばかりを繰り返している所為で、さすがに呆れた新田サンがぼやく。
「ゴメン」
「気になるコトでもあるの? 集中出来ないみたいじゃん」
ギターを降ろして、レンが言った。
「別に、なんにも。…今日は、なんかノらないだけ」
「ハルカがいないから、だろ」
半ば本気で、ショーゴが嫌みっぽく言う。
「そんなの、関係ねェよ。俺は別に、ハルカが好きなワケじゃないンだから」
この場にいる三人は、俺の性癖…つまり『手の早い、尻軽』ってヤツ…を知っている。
彼らも知りたくて知っている訳ではない。
ただバンドのメンバーなんて年中一緒にいるモンだから、知りたくなくてもだんだんそれぞれの癖とか趣味とか解ってしまうって、だけの事だ。
特に俺の場合、事が事だけにトラブルも多い。
女のコが親を連れて楽屋に踏み込んできたり、手に果物ナイフを握りしめて死ぬの死なないの喚いてみたり、子供が出来たから結婚しろとか言われたり。
そりゃあもう、数え上げたらキリがない。
だからハルカが俺と付き合おうとした時、メンバーが揃ってハルカを諌めようとした。
それは当然と言えば当然だし、もしあっち側の立場だったら俺だってそうする。
誰が誰と付き合おうが、そんな事には一切なんの興味もないが、バンドのメンバーがどう考えてもトラブルの原因になるだろうってヤツと付き合うというなら、それは大問題だ。
イザとなったら、俺がそういう態度をとるであろう事を知っている新田サンが、少し呆れた顔をしてみせる。
「相変わらずだねェ、シノさん。それ、ハルカが聞いたら泣くんじゃないの?」
「知るかよ。俺はアイツが便利だから一緒にいるだけで、あっちが一方的にまとわりついてるだけだぜ」
やれやれと言った表情で肩を竦めて、新田サンはそれ以上は何も言わなかった。
「でも、こうノらないんじゃ仕方がないから、少し休もうか?」
いつ部屋から出たのか、廊下にある自販機で買ってきたとおぼしき紅茶の入った紙コップを、レンが俺に差し出してくる。
「甘やかすなよ、レン。そいつはスグにつけあがるんだから」
ウンザリしたような口調でそう言ったショーゴは、俺が受け取る前にその紙コップをレンの手から取り上げた。
「あ、ショーゴさんそれ…」
不快な顔を向ける俺を態と無視して、ショーゴはその紙コップに口を付ける。
途端にショーゴは、奇妙な表情を浮かべてからレンを見た。
「…だから今、シノさん用に砂糖増しで買ってきたって、言おうとしたのに…」
ショーゴは黙って、紙コップを俺の手に押し付けると、尻のポケットから財布をとりだし無言で廊下に出ていった。
俺とレンが顔を見合わせていると、不意に調整室にいるスタッフが扉を開けた。
「東雲さん、携帯鳴ってますよ」
「あ、悪ィ」
当然の事ながら、スタジオ内には携帯電話を持ち込む訳にはいかない。
荷物も含めて、メンバーのそういった物は全て調整室の方に置いてある。
とはいえ、まともな知り合いの数が絶対的に少ない俺の携帯に、電話が掛かってくる事なんて滅多に無い筈で。
俺は、少しばかり嫌な予感を抱きつつ調整室に行った。
同じテイクばかりを繰り返している所為で、さすがに呆れた新田サンがぼやく。
「ゴメン」
「気になるコトでもあるの? 集中出来ないみたいじゃん」
ギターを降ろして、レンが言った。
「別に、なんにも。…今日は、なんかノらないだけ」
「ハルカがいないから、だろ」
半ば本気で、ショーゴが嫌みっぽく言う。
「そんなの、関係ねェよ。俺は別に、ハルカが好きなワケじゃないンだから」
この場にいる三人は、俺の性癖…つまり『手の早い、尻軽』ってヤツ…を知っている。
彼らも知りたくて知っている訳ではない。
ただバンドのメンバーなんて年中一緒にいるモンだから、知りたくなくてもだんだんそれぞれの癖とか趣味とか解ってしまうって、だけの事だ。
特に俺の場合、事が事だけにトラブルも多い。
女のコが親を連れて楽屋に踏み込んできたり、手に果物ナイフを握りしめて死ぬの死なないの喚いてみたり、子供が出来たから結婚しろとか言われたり。
そりゃあもう、数え上げたらキリがない。
だからハルカが俺と付き合おうとした時、メンバーが揃ってハルカを諌めようとした。
それは当然と言えば当然だし、もしあっち側の立場だったら俺だってそうする。
誰が誰と付き合おうが、そんな事には一切なんの興味もないが、バンドのメンバーがどう考えてもトラブルの原因になるだろうってヤツと付き合うというなら、それは大問題だ。
イザとなったら、俺がそういう態度をとるであろう事を知っている新田サンが、少し呆れた顔をしてみせる。
「相変わらずだねェ、シノさん。それ、ハルカが聞いたら泣くんじゃないの?」
「知るかよ。俺はアイツが便利だから一緒にいるだけで、あっちが一方的にまとわりついてるだけだぜ」
やれやれと言った表情で肩を竦めて、新田サンはそれ以上は何も言わなかった。
「でも、こうノらないんじゃ仕方がないから、少し休もうか?」
いつ部屋から出たのか、廊下にある自販機で買ってきたとおぼしき紅茶の入った紙コップを、レンが俺に差し出してくる。
「甘やかすなよ、レン。そいつはスグにつけあがるんだから」
ウンザリしたような口調でそう言ったショーゴは、俺が受け取る前にその紙コップをレンの手から取り上げた。
「あ、ショーゴさんそれ…」
不快な顔を向ける俺を態と無視して、ショーゴはその紙コップに口を付ける。
途端にショーゴは、奇妙な表情を浮かべてからレンを見た。
「…だから今、シノさん用に砂糖増しで買ってきたって、言おうとしたのに…」
ショーゴは黙って、紙コップを俺の手に押し付けると、尻のポケットから財布をとりだし無言で廊下に出ていった。
俺とレンが顔を見合わせていると、不意に調整室にいるスタッフが扉を開けた。
「東雲さん、携帯鳴ってますよ」
「あ、悪ィ」
当然の事ながら、スタジオ内には携帯電話を持ち込む訳にはいかない。
荷物も含めて、メンバーのそういった物は全て調整室の方に置いてある。
とはいえ、まともな知り合いの数が絶対的に少ない俺の携帯に、電話が掛かってくる事なんて滅多に無い筈で。
俺は、少しばかり嫌な予感を抱きつつ調整室に行った。
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