My Sweet Teddy bear

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 夕方、俺は浮かない顔して帰り支度をしていた。
 昼間掛かってきた電話はハルカからで、今日は帰れないと伝えてきたのだ。
 眠る為には、ドコゾで誰かを拾ってこなければならない。
 しかし…。
 実を言うと、以前にそんなコトをしていた時と今では、俺の状況が変わってしまっているのと、しばらくナンパなんてしていなかったのとで、すっかり面倒だと感じているのも事実で。
 知名度なんてモノは、本人が思うよりは低いが、しかし本人が考えているよりは広まっているに決まっていて、ヘタに街でナンパしていたら要らぬトラブルを巻き起こしてしまう可能性がある。
 だからといって、昨夜まともに眠っていない俺は、今夜はどうしてもぐっすり眠りたかった。

「シノさん、ちょっと待ってなよ。俺が車で送ってやるから」

 寝不足の頭でぼんやりと、これからどうしたモノとか考えていると、側に来たレンがそんなコトを言う。

「だってオマエ、飲んで帰るんじゃないの?」

 元々大勢で騒ぐコトが好きなレンは、酒好きも高じて、帰りにスタッフやらメンバーやらを誘って飲みに行くのが大好きだ。
 それに対して俺は、そういうコトが余り好きじゃない。
 皆と同席して、遊んだり騒いだりするのは嫌いじゃないし、ちやほやしてもらえるならむしろそういうところにいるのは好きなのだが、酒が飲めないので酒宴の席だけは苦手なのだ。
 ハルカが帰ってこないから、誰かと居たいのは山々だったが、だからといって飲み会に参加するのは気が進まない。

「送るつってんの。飲めないシノさんを、無理に誘うような野暮なコトするワケないじゃん」

 ニッと笑いながら、レンは手早く自分の身支度を整えた。
 俺達は、そのまま何となく並んで歩き出す。

「たまには良いだろう? どうせ、今日はいつものナイトがいないんだから」
「だからその、ナイトってのはなんなんだよ?」
「アイツのガード、すっげえ厳しいんだから。俺なんか、こうしてシノさんに声掛けるコトも出来なくて、いつもスゴスゴ尻尾を巻いて引っ込んでるんだぜ?」
「莫迦莫迦しい。俺は別に、アイツの持ちモンでもなんでもないんだぞ」
「じゃあ、いいじゃん。俺の車に乗ってよ。最近買い換えたばっかりの、自慢の車なんだぜ」

 そう言いながら、レンは何気なく俺の肩に手を置いた。

「そんじゃまぁ、折角だから乗せてってもらおうかな」

 俺は、肩に掛かっているレンの手を振り払わずに、駐車場に向かった。

 レンの車は、自慢をするだけあって本当にピカピカの新車だった。
 黒の、まだ誰も座った事のないジャガーの助手席は、座り心地も悪くない。

「良い車だな」
「そうだろ?」

 愛車を褒められて、レンは殊の外嬉しそうだった。

「このまま、オマエん家に行っちゃおうかな…」
「えっ?」

 吃驚したように俺を見るレンに、俺はニィッと笑ってみせる。

「なんてな、ウソだよ」

 そんな俺に、レンもまた意味深な笑みを返してきた。

「オマエ、ホントに今日はノらないのな」
「なにが?」
「いや、別に」

 レンはエンジンを掛けると、車を出した。

「あ、でも、家に帰る前にどっかでメシ食って帰りたい…」

 俺がそこまで言った時、地下の駐車場を出た車は俺のマンションに向かうのとは反対の方に曲がってスピードを上げ始めていた。

「レン?」
「メシなら、俺ン家で食わせてやるよ。一緒にディナーを楽しもうぜ?」
「なんだよ、急に…」

 唐突なレンの行動に俺はほんの少し不快な顔をして見せたけれど、でも敢えてそれ以上は何も言わなかった。
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