クロスオーバーKAGURAZAKA

琉斗六

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とある緊縛師の独白。

5.

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 翌週、私は不安を抱えてオフィスで彼を待っていた。
 場の勢いであんな事になってしまい、彼が正気を取り戻して時にうやむやにシャワーと着替えを促して、バタバタと帰らせたが。
 時間が経てば、彼とてアレが強姦以外のなにものでもないと気付くだろう。
 だからこそ、ゆっくり彼を調教し、ある程度こちらの言いなりになるように仕向けてから、ベッドに誘い込むつもりだったのだ。
 トラウマを刺激し、混乱させた時の子供のような泣き顔の無防備さは、最初に見た時からひどくそそられると感じていたが。
 あのキスの後の表情は ”そそられる” なんて、生易しいものでは無かった。
 今まで見たどんな相手よりも、彼のあの顔はその先の行為をねだっていて、それでいて神々しいほどに無垢でたおやかだった。
 何度思い直しても、あの瞬間に戻ったらどうしても自分を抑えるのは不可能だろうと思う。
 だからどう考えても、先走って彼を抱いた事を後悔しても、この状況を避ける事は出来ないだろうと痛感している。
 約束の時間の五分前になっても、扉が開く気配は無い。
 しばらく扉を見つめ、約束の時間を過ぎても事態は変わらず、やはりもう彼は現れないだろうと落胆したその時。
 慌ただしく扉が開いた。

「遅くなりまして、申し訳ありませんっ」

 息を切らせて、彼が室内に入ってきた。

「聖一クンが遅れるなんて、珍しいね」

 咄嗟にパッと表情を崩したが、ガッカリと顔を俯かせていたおかげで、その顔を彼に見られる事だけは回避出来た。

「ダイヤが乱れていました。ご連絡をしようと思ったのですが、先生の連絡先は住所以外判らない事に、電車の中で気付きました」
「ママにチラシを貰ったんじゃないのかい? あれにメールも電話も記載してあるよ」
「自宅に戻ったら、確認します。もう必要無いと思って、持ち歩いていませんでした」
「そうか。チラシはここにもあるから、なんなら持っていきなさい。それじゃあ、レッスンの準備をして」
「はい」

 彼は慌ただしく更衣室に駆け込んだ。
 大きく安堵の息を吐いて、そして自分がたかがちょっと気になった青年一人に、随分と振り回されていると思い、呆れた。
 そうだ、彼は確かに魅力的な要素を持っているが、固執するほどでは無いだろう。
 ハッキリ言って、緊縛術を習いたいと言ってくる人間は引きも切らないし、M調教を希望する個人レッスンの話も引く手数多だ。
 箸にも棒にも掛からない者がほとんどだが、時には自分好みの者もいる。
 正直、私は自分がサディストだとは思っていない。

 SM行為はセックスのスパイスに過ぎず、店でショーなど行っているが、私の見せるようなものはぶっちゃけソフトSMの域を出ないと思っている。
 緊縛したり、少々過激なアイテムを使う事もあるが、本当にハードなSMプレイを行ったらたぶん観客の方が引くだろう。
 私自身も、趣味から講じた商売だから、確かに楽しんでいるところは大いにある。
 バーの常連達は、私のショーを見たり、場合によってはアシスタント…つまりショーでM役を務めた者に、私の責めはキツイと言われる事がままあった。
 しかし、言わせて貰えば、私の行為は快感の延長に過ぎない。
 彼やそれ以外の生徒にも言っているが、痛みも快感も所詮は刺激だ。
 強烈な快感を得るために、少々過激な手段を取っているのがSMだと私は思っている。
 だから、少々過激な責め苦を加えているように見えても、それは相手をより強烈な快感に導くための手管に過ぎず、言ってしまえば好みの相手をキツ過ぎる快感で啼かせるのが好きなだけだ。
 更衣室で着替えた彼は、前回教えた通りに床に座ると、ペタリと頭を下げた。

「本日も、ご指導のほど、よろしくお願いします」

 そして、全くなんの躊躇もなく、私の靴にキスをする。
 だが、そんな風にしていても、彼の横にはノートと筆記用具が置かれていた。
 何気なくそれを手に取って、私は中を見た。

「あ……」
「なんだい、見られたら困るような事でも書いてあるのかな?」
「いえ、ただ乱雑なので……」

 道具や結び方の詳細な説明の他に、ところどころに自分の覚書のようなコメントが書き加えられている。

「この、縄の位置のメモは、どういう意味かな?」
「え…? あ、それは、後ろ手に縛った時に、女性の場合は乳房があるので位置が自ずと決まると先生が仰ったので、男性の場合はどこで縛るのが一番見栄えがするのかを、ちょっと考えてみただけです」
「ふむ。キミの考察は面白いね。ちょっと、こっちにきてくれるかな」

 ノートに書き込まれた彼の意見が面白くて、私はついそれを見ながら、彼の身体に縄を掛けた。

「キミのこの記載だと、縄の位置をもっと下げた方が見栄えがすると言うんだね?」
「そうです」
「だけど、この位置をもっと下げると……、こう、肘に負荷が掛かってしまうよ?」
「ああ、確かに! やっぱり、実際に縛ってみないと判らないものですね」

 そこでしばらく彼と縄の締め位置についての論議をしてしまい、気付いたら三十分以上も経過していた。

「おや、またキミの時間を削ってしまったようだ」
「いいえ、私は気になる事はとことん気になってしまう性質たちなので、こういう話をして頂けるのはむしろ嬉しいです」
「そうだ。それならバーで行っているショーの、アシスタントをやってみたらどうかな? ショーには演出が必要だから、ただのSMプレイと違って、見栄えの研究も出来るよ?」
「人前に立つのは、あまり得意では無いんですが……」
「ショーに出る時は、キミは目隠しをしてしまうから大丈夫だよ」
「目隠し、ですか?」
「そうだ。ショーは基本、私が主人役でアシスタントは奴隷の役をやってもらう。だからステージに立つ時は拘束された状態で、顔には目隠しをしてもらう事になる。もちろんステージで客に見せる物だから、普通のプレイと違って楽しむばかりでは無いが、その代わり普通では出来ない吊りみたいな大技も使うよ」

 普通なら、緊縛されて吊られると言われたら、怖気づくに決まっている。
 だが、彼は良く言えば好奇心と探究心のカタマリだし、このノートを見た感じからすると向上心と美観もかなり持ち合わせている。
 つまり、通常では出来ないと言う言葉を、普通なら ”危険が伴う” と解釈するところを、滅多に体験出来ない ”希少な” 状況と理解するだろう。

「吊りは、普通やらないんですか?」
「やらないね。そもそも少々緊縛術を知っていても、吊るとなったら縛り方はもちろん、吊り上げる体力も必要になる。天井の造りが甘かったら、大人の男の体重を支えきれずに落ちる可能性もあるから、場所も選ばなければならない。そう、体験出来る物じゃないよ」
「しかし、突然アシスタントなどと言っても、構わないのでしょうか?」
「それは構わないよ。と言うか、先方からそろそろ専属のアシスタントを使ってみてはどうかと、打診は来ているんだ。客席から候補が上がればいいが、誰も居なかった時は店のコに頼むのだけど、勤めているコはSの方が多いからね、M役のアシスタントを演るのは気が進まないと言われてしまっているから」
「私に、出来るでしょうか?」
「うーん、ショーの前に綿密な打ち合わせやリハーサルをするから、それを体験してから決めても良いよ。ステージとなるとキミの快感より、客席の盛り上がる行為を優先させなきゃならないし。キミもある程度は、M奴隷らしく振る舞わなければならないしね」
「そうですか。では、まずはその…打ち合わせと言うか、進行を教えて下さい」

 即座に引き受けはしなかったが、それでも興味を引く事には成功した。
 掴みは上々…と、言ったところだろう。

「あの店がSMショーを行うようになったのは、素人が生半可な知識でハードなプレイを行うと、大変危険だという啓発をしようとしたのがきっかけなんだ。先程の吊りの話なんかは顕著な例なんだけど、店側の意図としては、それを実行するのがどれほど危険かをハッキリ見える形で警告し、なおかつ簡単には出来ないプレイを見せてもらえる事で客が集まる事を狙っている。だから、M担当のアシスタントはショーの前に客から募るんだ」
「では、どうして専属のアシスタントが必要なんでしょう?」
「希望者が居なかったり、ショーを始めて直ぐにギブアップされてしまう場合もある。吊りは自身の体重を縛られた部分で支えなければならないから、見た目以上に身体への負担が大きいからね。もちろんこちらから見て危険だと思ったらやめるが、縛られて足が地面から離れる前に、もういやだと言い出す人も多いよ」
「吊りとは、具体的にどんな事をするんですか?」
「じゃあ、ちょっと体験してみるかい?」
「はい、お願いします」

 探究心と好奇心のカタマリである彼は、即座に頷いた。

「では、天井にフックがあるだろう。あの下に立ってくれ」

 私は縄を数本手にすると、フックの下に立った彼に縄を掛けた。

「先日から使っている基本の後ろ手で縛った後に……、左右の肩甲骨の丁度中心ぐらいの位置の結び目に、新しい縄をこう…ガッチリと絡める。ここが支点になって身体を支えてくれる部分だから、力を込めてしっかり縛っておかないといけないよ。きちんと拘束が出来たら、縄をフックに掛けて……では、引き上げるよ」

 グイグイと縄が引かれて、彼はたちまちつま先立ちになった。

「かなり痛いだろう?」
「そうですね、特に素肌に縄があたっているところは、かなり引きつっています」
「背中の支点の位置を正確に取っていれば、楽にバランスを取る事が出来る」

 私は彼のギリギリで床に届いている足を掴むと、予告もなく持ち上げた。

「あ…っ!」

 ほぼ身体が水平になるところで、ピタリと制止させる。

「ああ、こうなると重さが分散されて、先刻よりはむしろ楽ですね」
「ははは、吊りをされて楽と答えたのはキミが初めてだよ」
「比較して楽だと言っているだけで、痛いですよ」
「普通は、痛い方が先だろう」

 私は一度、彼を降ろした。

「どうかな?」
「確かに仰有る通り、見た目以上に負荷があると思います」
「今のは基本中の基本だよ。ショーで見せるとなったら、もっと恥ずかしい格好に縛られるし、鞭やロウソクで責められる事になる。それに、お客の前で見せるからには、あまりみっともなく叫んだりして欲しくないからね。だが、キミが慎みを覚えるには良い機会だとは思うよ。人目があると思えば、はしたない行動を理性で抑制出来るかもしれないし」

 学習意欲に燃える生徒のような顔が、一瞬にして強張った。

「そう……例えば…」

 私は新たな縄を手に取ると、彼の膝を曲げさせて太ももとふくらはぎをまとめてしまい、その縄を、後ろ手から胸に回されている縄の一部に絡めて止めた。
 トラウマを撫でる魔法のキーワードに凍りついていた彼は、気付いた時にはいわゆるM字開脚の格好でほぼ身動きが出来ない状態になっている。
 私はそのまま、もう一度彼を吊り上げた。

「あ……っ」
「ほら、恥ずかしいだろう? このボンデージだとキミの肌が映えるから、余計に視線が集まりやすいだろうね」

 黒い布の目隠しを手に取り、彼の顔に掛ける。

「ここは私しかいないから、こうして目隠しをされると、ただこの後、何をされるのかが判らないだけだけど。ステージだと、店内のお客の気配がするよ」

 ローションを手に取り、指先に塗り込める。
 それから全く無防備にされている彼の窄みに、そっと触れた。

「あ…あ……っ」
「ステージでM奴隷の役割を担うんだから、相応のルールは守ってもらうよ。そして、ルールが守れなかった場合は、鞭で打たれる。では、今からステージと同じルールに従ってみようか。簡単なリハーサルといこう。まず、返事をする時以外は、声を出してはいけないよ。叩かれても炙られても、キミは悲鳴を上げてはいけない。気持ちが良くなって先をねだるのもダメだ。ご主人様…つまり私の指示をきちんと守って、客から拍手喝采を貰えるようにしなければね」
「は……はい……」

 目隠しをされた不安感からか、彼の声音は少し怯えた様子だった。
 彼の窄みを撫でていた指を、ゆっくり彼の体内に押し進める。

「……ん……ぅ……」」

 ぎくりと全身を強張らせたが、彼はほとんど声を出さなかった。
 少なからず、私はその事に驚いていた。
 声を出すなと言われても、普通はそう簡単に従えるものでは無い。
 とはいえ、彼の場合トラウマを突かれて狼狽えている部分もあるから、単に声が出せないだけかもしれないと思い直し、指を更に奥に進める。
 先日見つけた彼のポイントを再び探り出そうと、無遠慮に彼の体内をかき回す。

「は……ぁ……」

 窄みを解すように指を動かし、ポイントを見つけようと奥を探る。
 彼は大きく、深呼吸をした。
 だが、その直後に私の指は、やや乱暴に引っ掻くように、彼のポイントに触れた。
 ビクリと彼の身体が反応したが、驚くべき事に彼は自分の唇を噛み締めて声を止めてみせた。
 一瞬信じられず、確認するようにソコを意図的に爪で引っ掻いてみたが、目隠しで見えない眉間に眉を寄せ、唇を噛み締めて衝撃をやり過ごした。
 彼が本当に、私に指示された通りに声を我慢している事を確認した事で、私は抑えきれない程の胸の高鳴りを覚える。
 店から専属のアシスタントを雇えと希望されたのは、実を言うとショーを始めて間もない頃からだ。
 それを敢えてスルーしていたのは、自分好みのアシスタントを探していなかった……正確には、そんな者は居ないと思っていたので、探すだけ無駄だと思っていたからだ。

 前述の通り、アシスタントはショーの前に客から候補を募る。
 ショーを始めて間もない頃は、それで完全にまかなえていた。
 だが、ネットなどで一部のマニアに知名度は上がったものの、店に来る常連はある程度の数が限られる。
 そうなると、候補に立つ者の顔ぶれも決まってくるし、その客がショーを行う日にちゃんと現れる訳でも無い。
 そして、客の候補がいない時は、店で接待をしている従業員を使うのだが、彼等に言わせると私の責めはキツ過ぎると言うのだ。
 簡単に言えば、私のショーそのものは好評で、店としては続けて欲しいと思っているが、従業員からは不満の声が上がっているので、客が候補に上がらない場合は自己調達をして欲しいのである。
 だが、もし本当に専属のアシスタントを使うとしたら……。
 たかが小さなバーの、常連が集まる場でのショーに過ぎないが、それでも私には私の理想があった。

 ショーを行うためのネタを考えたり、素人ではなかなか踏み切れない際どいプレイを披露したりするのは、それなりに面白い。
 そうした行為を行使するのに、技術を向上させるのは己の努力次第で済む。
 だが、緊縛ショーは自分とアシスタントの二人で観せるものだ。
 本当に自分の理想を形にしようと思うなら、アシスタントに私と同じ…もしくは私以上の努力を求めてしまう事を、私自身が誰より理解していた。
 それ故に、専属アシスタントを探す気は起きなかったのだ。
 私は真性のサディストでは無いが、ややその傾向が強い趣味をしている自覚はある。
 そして、その傾向を持ち合わせている自覚があるのと同程度に、好みもハッキリしていた。
 打たれてよがるような、いわゆるM奴隷はあまり好きでは無い。
 むしろ、快感に後ろめたさを覚え、責め苦に声を抑えて耐え抜き、けれど最後は刺激の快楽に泣きながら堕ちるような、そんな相手を求めていた。
 体内のポイントを良いように嬲られて、彼の性器は確実に熱を帯びている。

「聖一クン、満席のお客の前で、はしたなくイッてはいけないよ」

 与えられる刺激に身体を震わせ、その感覚に夢中になっていた彼は、その一言にハッとなる。
 二本目の指を穿たれた窄みは、近付いてくる熱の頂点への期待に、ヒクヒクと指を締め付けていた。

「返事は?」
「……は……はい、わかり……ました」

 彼の答えに、私はまたも驚かされる。
 拒絶や抗議の答えを予想していたからだ。
 穿った指を抜くと、彼は微かに安堵の息を吐いた。

「客には、やはり視覚的に強烈な行為の方がウケが良い。キミは見えないから、今は口頭で説明をしよう。だが、ステージではくどくどと説明は出来ない。一応のリハーサルはするが、客席の反応やリクエストによっては、使用する責め具が変わる場合もある。これから使うのは細身のバイブだ。細身と言っても、成人男子の勃起した陰茎程度の太さはあるがね。通常よりも長さがあって、キミの身体に穿っても、半分は尻からはみ出しているような格好になるだろうね。もちろんローションを塗ってから挿入するので、緊張を解した後なら楽に挿れられるはずだ」

 再びローションを手に取って、彼に説明したバイブレーターにたっぷりと塗りつける。
 そして指を抜かれた彼の窄みに、予告通りにそれを半分ほどはみ出させて穿つ。

「く……ぅ……っ」

 突然の行為にも、彼はやはり微かな悲鳴だけで耐え抜いている。

「苦しいかな?」
「だ……だいじょう…ぶ……です」
「あまり、頑張り過ぎないように。では、スイッチを入れるよ」
「ええっ?」

 彼の声を無視して、私はバイブレーターのスイッチを入れた。

「ひあっ!」
「声を上げてはダメだよ、聖一クン」

 わざと鞭を空振りして、空気を震わせるような音を立てる。
 彼が竦み上がった様子に得も言われぬ満足を感じながら、私は彼の尻を打った。

「あううっ!」
「聖一クン、言い忘れていたが、バイブを落としてはいけないよ。客はアシスタントの尻からバイブがはみ出している構図は好きだが、あくまで責められている様子を楽しんでいる。それが振動と共に尻から抜け落ちては、興醒めだからね」
「む…無理です……せんせぇ……」

 全く括れもなければ、たっぷり塗り込められたローションで滑りも良く、挙句に振動しているバイブレーターだ。
 そもそもが排出器官として出来ている身体の部位で、保持し続けるのは難しいだろう。

「もっと、尻に力を入れるんだ」
「はぅ……う……」

 バイブレーターの端を指で支えてやり、少し奥に戻してやる。

「ああっ!」

 力を込めて保持しようとすれば、バイブレーターの振動をより強く身体に感じるだろう。
 更に、なんの前置きもなく奥に戻されては、ポイントを振動するバイブレーターで強く刺激される形になる。
 彼の性器は、敢え無く陥落していた。
 私はバイブレーターのスイッチを切った。

「イッて良いと、許可してないよ」
「も…申し訳ありません」
「声をあげたのと、イッたのと、ルールを守れなかったのは二つだね。じゃあ、お仕置きは二回だ」

 鞭を手に取り、彼の白い尻を鋭い音を立てて二回叩く。

「くうっ……」
「うーん、バイブにこんなにすぐに感じてしまうんじゃ、なにか対策を講じなければダメだね。ああ、そうだ……」

 今思いついたような素振りをして、私はリングを手に取った。
 そして彼の性器を手に取ると、そのリングを萎えている彼の性器に填めた。

「なに……っ」
「金属が冷たいかね? これは男性用貞操具のバリエーションだよ。リング上の金属の一部が開くようになっていて、閉じたところを錠前で止めるんだ。鍵はもちろん、私が持っている。こうしておけば、いくら感じてもイケないだろう? キミの心配が一つ減る訳だ。お礼を言っても良いよ」

 彼は返事をしなかった。

「…聖一クン、ご主人様がお礼を言っても良いと言ったら、キミはお礼を言わなきゃダメだよ。客はそれを、望んでいるからね」
「……あ……ありがとうございます」

 微かに震えた声で告げられた言葉に、私は思わず微笑みを浮かべる。
 彼の怯えに彩られた声は、なんと甘美に響くのだろう。

「じゃあ、ではもう一度」

 私はバイブレーターの振動メモリを強く設定してから、具合を確かめるように無造作にグリグリと動かして、彼のポイントを突きまくりながらスイッチを入れた。

「んあっ……っ! あっ!」
「やっぱりキミの身体は淫乱だね。こんなオモチャで後ろを責められて、イッた後にこんなにすぐ、堅くなってる」
「んふ……っ」

 身動きがままならぬ程に拘束されていても、痛みや唐突な刺激への反応までは止めようが無い。
 強すぎる快感にビクビク震えている彼の肢体を眺めている自分が、その妖艶さすら感じる様にすっかり悦に入っている事に気付き、私は苦笑した。
 こんなに素晴らしい素材は、そう滅多に見つかるものでは無いだろう。
 容姿の美しさもさる事ながら、彼の…飾った言葉で表現するなら ”強靭な精神” には感服する。
 そもそも、あそこまで責められるまで、射精を我慢していた事も驚きだ。
 彼ならばきっと、このえげつないリングカフとセットになっている、男性用の貞操帯を装着したまま、SMショーのラストまで持ちこたえる事が出来るだろう。
 バーでのショーは正味三十分程度だが、私が理想のステージを仕上げるには、やはりウォーミングアップも行っておきたい。
 そうしたら、全ての準備を始めてから、完全に終わらせるまでは優に一時間以上は掛かるだろう。
 その間、アシスタントは熱を開放する事を許されず、うち三十分はたっぷり責められ続ける。
 だが、彼ならばそれらを完全にやり通す事が出来る。
 バイブレーターの刺激に、彼の身体がビクンと震えた。

「せき止めていなかったら、今、イッてたね」
「ち……違います……っ!
「本当に? おや、バイブを落としてないね。やっぱりいやらしい身体をしているだけあって、一度咥え込んだモノは離さないんだ。ステージでも、同じくらい上手に咥え込んで、お客にキミがどれほどはしたないのか、良く見て知ってもらおうね」
「せ…せぇ…」
「では、そろそろ降ろしてあげよう」

 責め具をそのままに、彼の目隠しを外して、彼の身体を降ろす。
 M字開脚をしている状態で、窄みに責め具を挿れたままでは、床に降ろす事は出来ない。
 吊らずに責めを客に披露するための、専用の椅子があるのだ。
 全体にゆったりと寄りかかる事が可能で、人間工学に基づいたくぼみが付いている。
 だが完全に開脚させられた足を受け止め、胯間周辺には座面が無く、責め具を装着していても邪魔にならないようになっているのだ。
 顔を覗き込むと、彼は涙ぐんだ顔で私を見上げてきた。
 目隠しをしていてはこの泣き顔が見えないな…と思いながら、あの店の下衆な客達にこの彼の表情を見せるのは、むしろもったいないと感じている。
 私は彼の髪を撫でると、そうっと唇にキスをした。
 与えられたキスに、彼は先日指導をされた術を思い出したかのように、控えめで慎ましやかに、それでいて情熱的なキスを返してきた。
 前回のぎこちなさとは比べ物にならない上達ぶりに、一体こんな事をどうやって練習してきたのだろうと不思議に感じた。
 キスを続けながら、彼に穿たれているバイブレーターを抜き差しし、彼の身体を更に追い詰める。
 苦悩に眉根を寄せる顔は、酷く嗜虐心をそそってくれた。

「こんなにしっかり緊縛されているのに、欲しがって腰を振ってるのかい? いやらしいな」
「せんせぇ……」

 何かを言いかけて、彼はグッと唇を噛み、辛そうに目を閉じた。

「イキたいかい?」

 彼はハッと目を開き、それから頬をパアッと赤らめて、戸惑うように目を伏せた後に首を横に降った。

「ねだってはいけない…ってルールを、ちゃんと守れたね」

 目を伏せたまま、ジッと耐えている彼に、私は笑みを向けた。

「これなら、アシスタントとして、充分やっていけそうだ。では、リハーサルはここまでにしよう」

 そう言って、彼の性器に付けていたリングカフを外す。

「あ…あの……」
「合格だよ、聖一クン。堰き止められて辛かっただろう。ほら、見ていてあげるからイッて良いよ」
「せんせ……あの……」
「遠慮しないで、ほら……」

 彼を犯し続けているバイブレーターを掴み、乱暴にグイグイと体内をかき回す。

「ああっ! み…見ないで…くださいっ!」
「どうして? キミ、恥ずかしい方が興奮するんだろう? 存分に眺めてあげるよ」
「く……ふぅ…!」

 限界まで追いつめられていた身体は、それでもただ捩じ込まれたままのバイブレーターの振動には耐えられたが、それで乱暴に体内をかき回されては、さすがに持たない。
 緊縛されて、身動きがままならず、開脚された姿を視姦されながら、彼は熱を放った。

「後ろをバイブで責められて、そんなに気持ちが良いのかい? ああ、また勃ってきたね。いやらしい身体だ……」
「お…お願い…、見な…見ないで…くださ……」

 彼の感じやすい場所を見つけては、そこをしつこいほどに突いて、振動の強弱も付けながら、たっぷり時間を掛けて責め上げる。

「イキまくってるねぇ、はしたないな。遠慮はしないで良いと言ったけど、ここまでとは。可愛い顔をして、本当に淫乱だよキミは。もう何度目か、解っているかい?」
「ご…ごめんなさ…あっ! ああっ!」

 身体を仰け反らし、彼はバイブレーターの刺激以上に、私に見られている羞恥心で感じているようだった。

「や…ぁっ! せ…せんせぇ…見ないでぇ…」

 羞恥に真っ赤になりながら、彼はとうとう泣き出した。
 少し童顔の彼の泣き顔は、実に可愛らしく、思わずもっと泣かせたくなる。
 バイブレーターのスイッチを切ると、彼はガクンと全身の力を抜いた。
 体内から責め具を抜き、私はもう一度、彼の髪を撫でた。

「大丈夫だよ。キミの身体がどれほどいやらしくてはしたなくても、私はちゃんとキミが慎みを覚えるまで、面倒を見てあげるからね」

 怯えた瞳が、探るように私を見上げてくる。
 この美しい青年を、ほとんど手中に収めた満足感に、私はこの時満たされていた。
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赤林檎
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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

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