MAESTRO-K!

琉斗六

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S1:赤いビルヂングと白い幽霊

9.騒動の結末【3】

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「ティーンエイジの頃にゲイだとカミングアウトしたら、全寮制の神学校に入学させられた。その後は逃亡を図っては連れ戻されることを繰り返してきたが、色々手間も時間も掛けてようやく帰化の申請も通り、姓名も日本人名になり、改宗も済ませた。それを伝えるために連絡をしたところ、卒中で倒れたと言ってきた。そこで仏心を出したのが間違いだったのだが、一方的に家出をしたままなのも後味あとあじが悪いように思い、顔を見せに戻ったのだが。半身不随になったことを利用して、私の同情を引き、介護をさせることで家に繋ぎめ、意見の合わない性的嗜好を矯正させるための策略だと判明したので、きっぱりと親子の縁を切ると引導を渡してやった」
「おとっつぁん、背水の陣で敗北かぁ~。ま、なんでも自分の思うとーりにしたかったら、それなりに伏線張って、アタマ下げる相手には、下げとかなきゃイカンって話だな」

 シノさんはニシシと笑ってるが、俺がシロタエ氏の父親だったら "コイツには言われたくない" と反論するだろう。

「ところで柊一。戻ったら話そうと思っていたのだが、実は頼みがある」
「なんじゃい?」
「此処に入居をする際に、いつかあの窯を使わせて欲しいと頼んだことを覚えているか?」
「おうよ。でもセイちゃん、直ぐはムリつってたじゃん」
「実は、父が倒れたとの連絡を受け、取る物も取り敢えず実家に戻ったのだが。先日、長期休暇の申請をしようと勤め先に連絡したところ、既に私は離職していると言われた」
「えっ? それって無断欠勤とかで? いや、でも、親が倒れたって話したんだよねぇ?」
前述ぜんじゅつの通り、ジジイは私を跡継ぎにする気でいた。私が実家に戻ったタイミングで、弁護士らしき代理人を使って、勝手に離職手続きをされていた」
「それは酷い。でもそういう事情なら、職場の人事部に再雇用を願い出てみては? 上手くいかないようなら、役所やハローワークで対処の相談をするくらいのことは、手伝います」

 未だ現実の不合理さを知らぬ敬一クンは、腹を立てているようだ。

「大丈夫さ、ケイちゃん! セイちゃんにはもっといい就職先があんだから!」
「え?」
「セイちゃんはパティシエなんだぜ! 最初に部屋見に来た時、俺は丁度、窯に火を入れてキッシュ焼いてたんだ。そしたらセイちゃんが、窯をちっと使わせて欲しいちゅーから、そこで一緒にランチの準備したのさ。セイちゃんは部屋も窯もカフェも、み~んな気に入ってくれて、今の職場には義理があるから直ぐには辞められねェけど、片が付いたらマエストロ神楽坂でパティシエやりたいって言ってくれてんだ。セイちゃんのアップルパイ、絶品なんだぜ!」
「柊一のキッシュも絶品だ。それに、あの窯は実に素晴らしい。私は自分の店を持つのが夢だったが、あの窯を見てしまったら、店を持つことよりもあの窯でパイを焼くことのほうに、魅力を感じている。ジジイの振る舞いは業腹だが、結果的に全てリセットとなったのは好都合だ。心機一転して、ここで仕事をしたいと思っている」
「やったぁ! セイちゃんるの手ぐすね引いて待ってたんだぜ! あ、給料のこととかは、ケイちゃんと相談してくれな。営業はセイちゃんがしたい日にしてくれりゃいいからサッ!」

 アタマ下げるとか言っていた舌の根も乾かぬうちに、シノさんはまたしても、人生の当たりくじを引き当てたらしい。

「あの窯を使って、自由に仕事が出来るのならば、私も嬉しい」

 クセのある綺麗な笑顔を見合わせているシノさんとシロタエ氏は、全く似てないのに、同じ顔をしているように見えた。
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