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S1:赤いビルヂングと白い幽霊
5.白い幽霊【2】
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普段おしゃべりなシノさんは、機嫌が悪くなると急に何も言わなくなる。
シノさんがむっつりとしてるので俺も黙りこみ、ヤな感じの空気になった。
俺的にはすごく納得出来ないまま店を閉め、エレベーターで上がろうとしていたところへ、どんぴしゃタイミングでコグマが帰ってきた。
「あ、柊一サン!」
節操なしのメンクイ野郎はシノさんを見た途端に、こちらへ走り寄ってくる。
普段はそういうコグマを適当にあしらっているシノさんなのだが、今日はたぶんと言うか確実に俺へのアテツケで、やたら愛想良くコグマに挨拶した。
「お~、コグマおっかえり~。丁度良かったなぁ、ウチ来て一緒に夕飯食ってかね~?」
「え、いいんですか! 嬉しいなあ、ぜひお願いします! ああ、よかった、ホントよかった…」
妙なことにコグマは、シノさんに擦り寄りたいという以上に、俺らに擦り寄ってきたみたいだった。
今までは俺のことなど、シノさんにアピールするのに邪魔っけ! みたいなニュアンスがあったのに、急にどうしたんだろうコイツ?
とにかく俺とシノさんとコグマの三人で、シノさんの部屋がある五階へ上がった。
ホントは俺もシノさんへのアテツケで、今日は一緒の夕飯はパス! くらいのことを言いたかったが、惚れてる者にはそんなこととても言えないのだ。
ペントハウスの玄関をくぐったところで、ホクトの声が聞こえてきた。
「なるほど、そういうことだったのか~! ケイにお兄さんが出来たなんて面白いなあ! でも俺はおまえのことだから、実家から都内へ通学とか、ムチャしでかしてるんじゃないかと思ってたんだぞ! 神楽坂にいるって知ってたら、俺だってこっち方面で部屋探ししたのに、水臭いなぁもう~!」
ペントハウスの玄関は、リビングと壁一枚を隔てている。
広いリビングを突っ切って、一番奥に行くとキッチンがあるのだけど、あんまりハッキリとホクトの声が聞こえたので、敬一クンはホクトをソファにすら案内せずに、リビングに入ってすぐのシノさんの健康器具で遊びながら会話でもしているのかと思った。
もともと古い建物なので、防音みたいな効果は低く、広いペントハウスの中であっても、大声を出せば訪問を知らせる程度に反響するのだ。
だが、それはあくまで相手に知らせるつもりで大声を出せば…という、条件下の話であって、普通の会話の内容まで判るほどじゃない。
だから前述のような想像をしたのだけど、リビングに入る扉を開けてもそこには誰もいなくて、敬一クンとホクトは大きなガラス戸を隔てたキッチンに立っていた。
キッチンのガラス戸は真ん中の扉が開け放ってあったけど、全開になっているワケでも無く、正直そこで作業をしながら会話してるだけなのに、玄関まで声が聞こえるってどんだけはっちゃけてんだよ…ってテンションだ。
しかし考えてみたら最初のミュージカルの時点から、彼ちょっと…いや、かなりヘンだったから、これぐらいのはっちゃけは当然なのかもしれない。
「お客さんですか?」
俺達にくっついてリビングからキッチンを見たコグマが、シノさんに訊ねた。
「ん? ああ、アマホクはお客つーか、なんつーか。アマミーの従兄弟でケイちゃんの友達なんだってさ」
「えっ、敬一クンの友達!?」
コグマは困惑顔で、ギクっとしている。
同じ敬一クンの友人で、オマケにあんなケダモノみたいな目をしたエビセンを、わざわざ好きで部屋にシェアさせているクセに、何をそんなにビビッてるんだろう?
キッチンでは敬一クンが鍋で何かを茹でていて、並んだアマホクはフライパンでせっせと何かを炒めていた。
「ああ兄さん、勝手に決めてしまいましたが、天宮に夕食を一緒に食べてってもらおうと思ってます」
「うん、いーよ。つか俺もアマホクの話聞きたいから、そのつもりだったし。あと飛び入り参加で、コグマもいっから」
「こんばんわ、小熊さん。料理多めに作ってるから、大丈夫です」
「なぁ、何作ってんの?」
「兄さんが仕込んでた塩レモンがあったんで、茹で鶏に掛けようかと思ってます」
「ほうほう、アマホクも料理出来るんだ」
「やぁ~、出来るってほどでもないんですけど、まあちょっとくらいなら」
本人は謙遜しているが、フライパンを振る手つきはかなり手慣れていてサマになってる。
ルックスがイケてるから、そういう作業が割増で決まって見えるワケだが、それを差っ引いても料理出来るんだろうな、って感じだ。
「それ、トマト炒めてるん?」
「トマトとナスと豚バラのマヨネーズ炒めです。仕上げの味付けはチーズとカレー、どっちがいいですか?」
「ん、チーズ!」
「じゃあチーズでいきます」
シノさんはそのままキッチンに留まって、二人と言うかホクトとお喋りをはじめてしまった。
仕方がないので、俺はダイニングテーブルにカトラリーや箸を並べたり、グラスや湯呑みを揃えたりしていたが、コグマはそのまま椅子に座った。
コグマはいわゆる "男子厨房に立たず" ってやつの典型なところがあるから、俺みたいになんとも居心地悪げにフラフラと手伝ってんだか落ち着きがないんだか…みたいなことはせず、シノさんにドヤされでもしない限りはお客様状態で座ってしまうのが常だ。
だが、いつもならそこでシノさんが放り出したままにしておいたマンガ雑誌を呼んだり、自分のスマホをいじったりしているのだが、今日はなんだか落ち着かない様子で、チラチラとキッチンの方を伺ったり、目線をキョドキョドとさまよわせたりしていて、なんだか様子が変だ。
と言うか、考えてみたら今朝出勤して行く時から、少し様子がおかしかったってことを、俺は今頃になって思い出した。
シノさんがむっつりとしてるので俺も黙りこみ、ヤな感じの空気になった。
俺的にはすごく納得出来ないまま店を閉め、エレベーターで上がろうとしていたところへ、どんぴしゃタイミングでコグマが帰ってきた。
「あ、柊一サン!」
節操なしのメンクイ野郎はシノさんを見た途端に、こちらへ走り寄ってくる。
普段はそういうコグマを適当にあしらっているシノさんなのだが、今日はたぶんと言うか確実に俺へのアテツケで、やたら愛想良くコグマに挨拶した。
「お~、コグマおっかえり~。丁度良かったなぁ、ウチ来て一緒に夕飯食ってかね~?」
「え、いいんですか! 嬉しいなあ、ぜひお願いします! ああ、よかった、ホントよかった…」
妙なことにコグマは、シノさんに擦り寄りたいという以上に、俺らに擦り寄ってきたみたいだった。
今までは俺のことなど、シノさんにアピールするのに邪魔っけ! みたいなニュアンスがあったのに、急にどうしたんだろうコイツ?
とにかく俺とシノさんとコグマの三人で、シノさんの部屋がある五階へ上がった。
ホントは俺もシノさんへのアテツケで、今日は一緒の夕飯はパス! くらいのことを言いたかったが、惚れてる者にはそんなこととても言えないのだ。
ペントハウスの玄関をくぐったところで、ホクトの声が聞こえてきた。
「なるほど、そういうことだったのか~! ケイにお兄さんが出来たなんて面白いなあ! でも俺はおまえのことだから、実家から都内へ通学とか、ムチャしでかしてるんじゃないかと思ってたんだぞ! 神楽坂にいるって知ってたら、俺だってこっち方面で部屋探ししたのに、水臭いなぁもう~!」
ペントハウスの玄関は、リビングと壁一枚を隔てている。
広いリビングを突っ切って、一番奥に行くとキッチンがあるのだけど、あんまりハッキリとホクトの声が聞こえたので、敬一クンはホクトをソファにすら案内せずに、リビングに入ってすぐのシノさんの健康器具で遊びながら会話でもしているのかと思った。
もともと古い建物なので、防音みたいな効果は低く、広いペントハウスの中であっても、大声を出せば訪問を知らせる程度に反響するのだ。
だが、それはあくまで相手に知らせるつもりで大声を出せば…という、条件下の話であって、普通の会話の内容まで判るほどじゃない。
だから前述のような想像をしたのだけど、リビングに入る扉を開けてもそこには誰もいなくて、敬一クンとホクトは大きなガラス戸を隔てたキッチンに立っていた。
キッチンのガラス戸は真ん中の扉が開け放ってあったけど、全開になっているワケでも無く、正直そこで作業をしながら会話してるだけなのに、玄関まで声が聞こえるってどんだけはっちゃけてんだよ…ってテンションだ。
しかし考えてみたら最初のミュージカルの時点から、彼ちょっと…いや、かなりヘンだったから、これぐらいのはっちゃけは当然なのかもしれない。
「お客さんですか?」
俺達にくっついてリビングからキッチンを見たコグマが、シノさんに訊ねた。
「ん? ああ、アマホクはお客つーか、なんつーか。アマミーの従兄弟でケイちゃんの友達なんだってさ」
「えっ、敬一クンの友達!?」
コグマは困惑顔で、ギクっとしている。
同じ敬一クンの友人で、オマケにあんなケダモノみたいな目をしたエビセンを、わざわざ好きで部屋にシェアさせているクセに、何をそんなにビビッてるんだろう?
キッチンでは敬一クンが鍋で何かを茹でていて、並んだアマホクはフライパンでせっせと何かを炒めていた。
「ああ兄さん、勝手に決めてしまいましたが、天宮に夕食を一緒に食べてってもらおうと思ってます」
「うん、いーよ。つか俺もアマホクの話聞きたいから、そのつもりだったし。あと飛び入り参加で、コグマもいっから」
「こんばんわ、小熊さん。料理多めに作ってるから、大丈夫です」
「なぁ、何作ってんの?」
「兄さんが仕込んでた塩レモンがあったんで、茹で鶏に掛けようかと思ってます」
「ほうほう、アマホクも料理出来るんだ」
「やぁ~、出来るってほどでもないんですけど、まあちょっとくらいなら」
本人は謙遜しているが、フライパンを振る手つきはかなり手慣れていてサマになってる。
ルックスがイケてるから、そういう作業が割増で決まって見えるワケだが、それを差っ引いても料理出来るんだろうな、って感じだ。
「それ、トマト炒めてるん?」
「トマトとナスと豚バラのマヨネーズ炒めです。仕上げの味付けはチーズとカレー、どっちがいいですか?」
「ん、チーズ!」
「じゃあチーズでいきます」
シノさんはそのままキッチンに留まって、二人と言うかホクトとお喋りをはじめてしまった。
仕方がないので、俺はダイニングテーブルにカトラリーや箸を並べたり、グラスや湯呑みを揃えたりしていたが、コグマはそのまま椅子に座った。
コグマはいわゆる "男子厨房に立たず" ってやつの典型なところがあるから、俺みたいになんとも居心地悪げにフラフラと手伝ってんだか落ち着きがないんだか…みたいなことはせず、シノさんにドヤされでもしない限りはお客様状態で座ってしまうのが常だ。
だが、いつもならそこでシノさんが放り出したままにしておいたマンガ雑誌を呼んだり、自分のスマホをいじったりしているのだが、今日はなんだか落ち着かない様子で、チラチラとキッチンの方を伺ったり、目線をキョドキョドとさまよわせたりしていて、なんだか様子が変だ。
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