MAESTRO-K!

琉斗六

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S3:猫と盗聴器

33.白砂サンの探索

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 店の戸締りを速攻で済ませ、俺と白砂サンはミナトを連れて、急いでシノさんのペントハウスに向かった。
 ほぼ蚊帳の外状態のコグマは、バタバタと階上に向かう俺達に、どさくさ紛れで着いて来た。

「シノさん!」

 シノさんはいつもカウチポテトに使っているソファで、テレビを見ていた。
 さすがに夕食まえなのでポテチは食べていなかったが、それでもやっぱり体勢はだらだらしていて、俺に声を掛けられて面倒臭そうにこっちを見た。

「なんじゃい、やかましい。オンボロビルなんじゃけん、もちぃと静かに上がり下りせえ」
「そんな場合じゃないよ! これ見てよ!」

 ビビリの俺が血相変えて訴えても、そうそう対応なんてしちゃくれないが、俺の後ろに白砂サンまで着いてきていたのを見て、さすがのシノさんものっぴきならない事態になっていることを察し、テレビを消してソファから立ち上がった。
 そして俺が差し出しているiPadを受け取り、その画面を見る。

「ありゃま」

 ミナミのクラウドには、白砂サンがイベント会場で敬一クンとコスプレ姿を披露している盗撮画像の他に、シノさんの住まいの画像がわんさか保存されていた。
 俺はなんとなく、ミナミはホクトのストーキングをしていて、ホクトの想い人の敬一クンからシノさんに辿り着き、言い寄っているのかと思っていた。
 だが実態はそんなヌルい話ではなく、ヤツはイベント会場に出掛ける敬一クンに尾行を付けたり、身の回りに隠しカメラや盗聴器を仕掛けまくっていたのだ。
 キッチンで夕食の支度をしていた敬一クンが、騒ぎに気付いてこちらにやってきて、画像を見て首を傾げた。

「なんですかそれ? なんでうちの風呂場の画像が?」

 そうなのだ、恐るべき盗撮画像はシノさんの住まいの居室のみならず、風呂場やトイレにまで及んでいた。

「あ~、アマミーってば、やらかしたなぁ」
「なんでそんなに、落ち着き払ってんだよっ!」
「じゃって、アマミーみたいなタイプは、直ぐに監禁とかって発想に走るタイプだって、俺は最初に言ったじゃん。公衆無線LANとかゆーの設置したの、ビルに隠しカメラ仕込みたいからだろうな~って思ってたし。それにしても、アマミーも油断したモンだナ……」
「柊一、それは少しおかしな表現ではないか?」
「何が?」
「油断をしていたのは、柊一及び私達だろう。ミナミでは無い」
「うんにゃ、油断してたのはアマミーのほうだよ」
「なぜ?」
「アマミーの想定外なババアがミナトを連れて来て、ミナトにクラウドサーバのパスワードを見られたのは、アマミーの油断じゃろ?」
「ミナミがどうかしたんですか?」

 話しているところへ、ホクトがハイってきた。

「お邪魔します」
「おう、アマホク。今日も食べてくンかい?」
「はい、お願いします。それとこれ、実家から味噌を送ってきたので、おすそ分けしようと思って……」

 ニコニコしながらハイってきたホクトは、シノさんの手元のiPadに目をやって、ギョッとしたような顔になった。

「うわ、なんですかそれっ!?」
「何って、アマミーの盗撮の証拠?」
「なんだってっ!」

 ホクトはシノさんから奪い取るような勢いでiPadを手に取ると、そこに映し出された画像を右に左にクリックしては、強張った顔で凝視した。

「ちょっと、シノさん! なんで知っててめないんだよっ!」
「知ってねェし」
「だって今、仕込みに来たって言ったよねェ?!」
「それぐらいのこたぁやらかすだろうなって予想してただけで、仕込んでるのをカクニンしたワケじゃねェもん。知るかよ」
「それって、つまり、知ってたってコトだよねェ!?」

 俺がテンパってるのも当然至極で、クラウドサーバの画像にはシノさんの住まいだけではなく、赤ビルの他のフロアや廊下や階段も写っていて、そこに自分の姿を見つけてしまったからだ。

「気にすんなって。他人に見られて困るよーな生活、してねェし。アマミーがキョーミあんの、アマホク苛めのネタだけじゃし。オマエが部屋でマスかいてたって、見てねェよ」
「そんなコト言われて気にしないでいられる人、いないから!」

 自分がテンパるほうが忙しくて、俺は白砂サンがいつの間にかペントハウスから消えていることに気付いて無かった。

「それはなんですか?」

 敬一クンの落ち着き払った声と、リビングの入口方向に向けられた顔から、俺達もそちらに振り返る。

「セイちゃん、そのカッコなに?」

 部屋にハイってきた白砂サンは、モノスゴク大きなライトの付いてるヘルメットを被り、背中になにやら大きな荷物を背負っていて、まるで炭鉱夫がゴーストバスターズになったみたいな格好をしていた。
 敬一クンとシノさんの問いかけに返事をせず、白砂サンはバルコニーに面した窓に向かうとカーテンを閉め、更に順番に部屋のカーテンを閉めてまわり、それからコーヒーテーブルに置いてある照明のリモコンを手に取った。

「部屋の灯りを消すぞ」

 言った時にはもう明かりが消されていて、白砂サンは最後に残った明かりを発しているiPadを、驚きのあまり固まっているホクトの手から取り上げて、画面をササッと操作した。
 そして白砂サンは、手に持ったiPadを腕を伸ばしてかざしながら、室内を見渡すみたいにその場でグルグル回り、先刻までシノさんがだらだらしていたテレビのまえにあるソファの方角でピタッと動きを止める。

「なにしてるん?」

 シノさんの問いにやっぱり返事をしないで、白砂サンはツカツカと歩き出した。
 なんとなく一緒になって皆が白砂サンに付いていくと、テレビのまえでピタッと止まる。

「セイちゃん?」
「赤外線は目視出来ないが、カメラには写る。スマホやタブレットのカメラは、簡易の赤外線レーザー探知機になる」
「それって、スマホがあれば充分なんだよねェ? そのカッコ、必要?」

 シノさんに顔を向けたまま、白砂サンはいきなりヘルメットのライトを点灯した。

「うお! 眩しい!」

 ようやく暗い室内に目が慣れてきたところに、いきなりモノスゴク明るいLEDライトを点灯されて、シノさん以外の俺達も眩しさに目がクラクラした。
 皆がいきなりのフラッシュ攻撃で目をチカチカさせている間に、白砂サンは薄型うすがたテレビの置いてあるボードの後ろをガサガサと探り始めた。

「ここの配線は、少し整理をしないと危険だな。タコ足配線だけならともかく、こんなにホコリを溜めていては、発火の危険がある……」

 白砂サンは独り言のような、お説教のような言葉を呟きながら、ゴチャゴチャに絡んでいる配線コードをかき分けて、その中のコンセントを一つ抜いた。

「それ、なんのコンセント?」
「ACアダプターに似せた形をしているが、これは小型の集音マイク付きのワイヤレスカメラだ。Wi-Fiの電波は赤外線なので、違和感のある場所から出ている赤外線を辿れば、容易に発見出来るだろう。簡単に見ただけで、この部屋に複数設置されている」

 暗闇の中、俺達の背後でドタンと何かが倒れる音がした。
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