それなら僕は骨を抱く

柚麗湯弓

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東雲

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 中学二年生の初日の半分は体育館で過ごした。新学期に向けてとか、新一年生へのお祝いの言葉。相変わらず校長の話は長々と語られお尻が痺れてヒリヒリする。
 そのまま部活動紹介に入り、運動部が気合を入れて掛け声をあげている横で僕は昼寝していた。次に起きた頃には体育館に居る人の数は三分の二程になっていた。
 グキッ
 固まった体に力を入れて立ち上がった瞬間、首が変な音を鳴らした。

           ✼

 「おーい」
 首を擦りながら渡り廊下を歩いていると、背後の方から誰かを呼ぶ声がした。渡り廊下を歩いているのは僕一人、おそらくこの「おーい」は僕に向けられたものだろうと推測して振り向く。
 振り向いたその先には見慣れない眼鏡女子が小走りでこちらに走ってきている。僕は自分の人差し指を自分の顔に向けて頭の上にハテナマークを浮かべると、眼鏡女子は小走りしながらコクリと頷いた。
 回転していた足の歯車をゆっくりと減速させて眼鏡女子が到着するのを待つ。
 そこまで長い距離を走っていない筈だが眼鏡女子は僕の横につくと膝に手を突いて息をあげていた。そこまで運動するようなタイプではなさそうだ。僕が言えないけれど。
 「はぁ、疲れる。あのさ、君、確か四組だよね」
 息を切らした眼鏡女子は僕に質問した。
 「うん。そうだけど」
 「じゃあ美嘉知ってる?」
 「みか?四組の人?」
 「そう、七瀬美嘉。あさ教室の前で話してたでしょ」
 あの子の事か。ふと自分がその七瀬の事を天使と思っていたことを思い出して、ほかの人に見られていたことを恥ずかしく思う。
 「話してはいたけど…友達じゃないよ」
 「えぇえっ!なんだー。友達じゃ無いのか…」
 眼鏡女子はかなりがっかりしているようだが、そもそも僕には友達と呼べる人は少なく、朝に話した彼女など以ての外だ。
 「何かその七瀬って人に用事でもあるの?」
 「うん。ちょっとね…あっ!そうだ」
 嫌な予感がする。
 「あんたが渡してよ」
 「何を?」
 眼鏡女子は右手に持った青い封筒を差し出した。
 「これなに?」
 「ラブレター」
 どうやら耳がおかしいらしい。耳鼻科に行こう。
 「え、なんて?」
 「だから、愛のラブレターだって」
 いや耳鼻科の前に精神科に行こう。どうやら僕は「人間アレルギー」による幻覚まで見え始めたようだ。
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