視聴の払霧師

秋長 豊

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73、陽の友達

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 連次の携帯に電話がかかってきた。
「母上――」

 少し離れた場所に立ち、連次は話した。電話の相手は母親の三平雪華だろう。彼女も今、自分の娘を必死になって捜している。具視がベンチに腰掛けて話が終わるのを待っていると、人の流れの中にアルファ生の制服を着た人影が見えた。

 具視は話が途中の連次の肩を勢いよく引っ張り遠くを指さした。

「なにするんだ!」

「連次さん、今お姉さんの後ろ姿が見えました」

「なに? ――もしもし、母上。姉上が見つかったかもしれない。後で折り返す」

 突っ走る具視に続いて連次も後を追った。この時間帯はサラリーマンであふれているので真っすぐ走るのも容易ではない。

「どこにいる」

「あの角を曲がりました。追い掛けましょう」

 もどかしくも信号が赤に。具視が足踏みをして待っていると、連次が具視の腰に手を回し、足を踏み込んだ。

「連次さ――」

 言うよりも早く視界がビュッ! と横に伸びて体が軽くなっていた。

 気付くと横断歩道の向かい側にいて、連次が数メートル先を走っていた。

「待ってください!」

 今のは間違いない。守護影の移動だ。具視が壁に顔面から突っ込んで鼻血を出した激難しい払霧師の払霧三技。あまりの早さに後ろにいた人は目の前から人が消えたと思っただろう。しかし、これが払霧師の普通。なんとも常識を外れている。

「横断歩道をショートカットなんてしていいんですか」

「飛んだから問題ない」

 2人は人波をかきわけて走った。陽の後ろ姿は遠くに見えた。

「姉上はなぜあんなところにいる」

「さぁ! 追いつかない限り確かめようがありません」

 あともう少しで追いつくという所まで来て、陽は右に曲がって見えなくなった。

「姉上!」

 連次の呼び掛けも聞こえていないようだ。角を曲がると、人通りの少ない閑静なマンション通りまで来た。

「おかしいですね、確かにここを曲がったはずなのに」

「あの後ろ姿は姉上だった」

「参りましたね。連次さん、念のためもう一度お姉さんに電話をかけてみてください」

 連次が電話をかけている間、具視は近くのチェーンポールに寄り掛かった。

「陽ちゃーん!」

 いきなり女の子の声が聞こえて具視は何ごとかと振り返った。それに今、陽ちゃんって。そこには、息を切らした女子高生らしき黒髪の女の子が立っていた。

「待ってよ……陽ちゃん」

「すみません、陽ちゃんってもしかして三平陽さんのことですか?」

 具視は戸惑う女子高校生に尋ねた。

「えっと、あなた誰?」

「えぇっと、俺は陽さんの弟の知り合いで……」

「えっ! どうしよう、見つかっちゃった」

 そこへ電話を切った連次が怖ろしい形相で近寄ってきた。

「知ってるのか。お前こそ誰だよ」

「わ、私は陽ちゃんのお友達で!」

「姉の友達? お前みたいな女知らない」

(いやいや、連次さん。さすがにお姉さんだって、あなたの知らないことくらいあるでしょうが)

 具視は内心突っ込みながら、白い目で見ていた。

「私、麻美。陽ちゃんとはネットで知り合って、お悩みを相談できるいい友達っていうか。それで――」

「それで?」

「嫌なことがあって、家出したいっていうから。私の家に泊めてあげてたの。連絡しなかったのは心配かけたけど……」

「姉上は何の連絡もなしに、こんなことする人じゃない」

 これは手に負えないと具視は間に入ることにした。

「まぁまぁ、落ち着いてください。これで事件に巻き込まれたわけじゃないって分かったんですから、よかったじゃないですか」

「さっき、2人で話してたらあなたたちを見つけて、それで陽ちゃんは走って逃げちゃったの。それで追い掛けてきたらここでばったりと」

「そういうわけでしたか」

「きっと、しばらくすれば私の家に戻ってくると思う。よかったら、寄って行かない? そこで一緒に待とうよ。陽ちゃんが戻ってきたら、私も話すから」

 連次は納得のいかない顔をしていたが、仕方ないとばかりにうなずいた。

「分かった。姉上が戻れば問題は解決だ。具視、お前はもう帰っていいぞ」

「え? いいんですか?」

「あぁ。巻き込んで悪かったな」

「戻ってくるまで一緒にいますよ」

「いいと言っているだろう」

 そんなやりとりを続けるうちに、麻美という女の子の家に着いてしまった。車も止まっていない。

「家族は?」

「うち、いつもこんな感じなんだ。気にしないで。さぁ、入って」

 気さくな笑顔で手を招く麻美を前に、具視は家の敷地内に入ろうとした足を止めた。

「どうした」

「いえ、なんでも」

 具視は深いことを考えずに家の中に入った。
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