76 / 85
74、あの日の記憶
しおりを挟む
麻美は冷蔵庫から冷たいレモンティーをグラスに注いで持ってきた。
「うち、親の帰りがいつも遅くてさ」
麻美はたんまりとお菓子をテーブルの上に広げた。今思えば、スカートの丈は短く座っている角度によっては見えてはいけないものが見えそうだ。具視は目のやりばに困って無心で連次の耳を見ていた。
「お前、さっきから何見てる」
「いえ」
「2人も払霧師大学の学生なんだね。あそこって、資質がないと入れない所でしょう? 同級生のみんな、あなたたちの制服見ただけですごいって騒いでる。それが武器?」
麻美は前のめりになって、具視の腰にある紺碧双紅剣に近寄った。
「なんだか日本刀って感じだね! 昔はお侍さんがこういうの、腰に下げていたんだよね。へぇ、そっかぁ」
麻美が知りたいというので、具視は払霧師について自分の知っている程度のことを話した。その中で、守護影が見てみたいと言われたのだが、規則でそれはできないと言うしかなかった。それにしても、陽はいったい何時になったら帰ってくるのだろうか。戻ってくるのを待つとは言ったが、家に着いてからすでに40分以上はたっている。具視は心配になって立ち上がった。
「俺、その辺捜してきます。入れ違いにならないよう、連次さんはここで待っていてください。陽さんが戻ってきたら電話でも入れてくれれば助かります」
連次に呼び掛けたが、彼は眠たそうにうなずくだけだった。
(どうしたんだろう。眠たいのかな)
「そう遠くには行ってないと思うけど」
「その辺を見てくるだけです」
具視はそう言ってリビングを抜け外に出た。
2人だけになった途端、麻美は連次にそっと近寄って声を掛けた。
「三平連次くん」
「……ん」
「お姉ちゃんに会いたい?」
麻美は近寄りながら、彼の腰にある刀に指をからめた。そっとひもを解き、刀を外すと今度はポケットに手を入れて携帯を抜き取る。麻美は携帯を台所に持っていくと、沸かしていた熱湯の中に投げ入れ火を止めた。
「野田連太郎の子どもだって聞いていたから、少しは苦戦すると思っていたんだけどなぁ。残念。まぁ、私たちの妨げになる芽は摘んでおいた方がいい。そうすれば、きっと大王様も私のことを褒めてくれる」
そのころ、具視は声も出せずにいた。
何が起こっている?
足も、手も、言うことを聞かない。
麻美の家から一歩外に出ようとした、その境界線の内側で、つま先が止まった。聴具が外に出てくる気配もない。
早く、この状況を連次に伝えなくては。
(待て)
具視の脳裏に直前の連次が浮かんだ。彼は、なぜ眠そうにしていた。この家に入るまではそんな気配まるで感じなかったのに、本当に突然。嫌な予感がした。同時に、ガチャッとドアが開く音がした。ひやりと汗が流れ、振り返れないという状況に恐怖が倍増した。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
後ろから近づいてくる音がピタリとやみ、背中の真ん中を冷たい何かが触れた。具視は一瞬で10歳だった時のトラウマを思い出した。マンションが霧に包まれ、1人きりになった部屋の中で玄関のチャイムが鳴ったあの時。ドアアイをのぞいた先に浮かんでいた、紫色に浮かぶ二つの目――
「また会えたね、具視くん」
耳元でささやかれた。
全身が恐怖で震え、しめった息を感じた。自分ではどうしようもないくらい、体が覚えているのだ。恐怖、悲しみ、憎しみ。動けずにいる具視の腕をするりとツタのように冷たい手がからむ。
「こんなに震えて、よっぽど怖かったんだね。でも、あなたはすごいよ。それでも私たちを殺そうと、払霧師になろうとしているんだから」
(何を言ってるんだ?)
具視は頭の中がどうにかなりそうだった。
(何を、言っ――)
「もう会えないかと思ってた」
余韻を楽しむような声色。具視は心を鬼にして、なんとか歯をくいしばった。
「無理しないで。守護影対策に結界を張っているから、解かないと動けないし、ここから出られないよ」
目の前に黒い髪がさらりとたれる。
麻美だった。
(どうして……)
具視は力のない目で彼女を見返した。
「教えてあげよっか」
麻美は両手を後ろに組みながら目の前で笑っていた。どこか恥じらいつつ、でもうれしそうな感情をあらわにし、頬を桃色に染めて。
どうしてそんな顔をする?
具視は唇を震わせた。
「2019年6月24日。あなたはマンションで霧に襲われた。周りのみんなが溶けてなくなって1人ぼっちになった時、チャイムが鳴った」
(やめろ……)
心の声もむなしく、麻美は楽しそうに続ける。
「ドアから外をのぞくと、そこには紫色の目が二つ見えた。怖くて自分の部屋に逃げたんだけど、そいつは中まで入ってきた。ベランダに出て、下の階に移ろうとした時、誰かに背中を押されて、真っ逆さまに落ちた」
(やめてくれ)
麻美は具視の目を真正面から捉えた。
「私が押したの」
「うち、親の帰りがいつも遅くてさ」
麻美はたんまりとお菓子をテーブルの上に広げた。今思えば、スカートの丈は短く座っている角度によっては見えてはいけないものが見えそうだ。具視は目のやりばに困って無心で連次の耳を見ていた。
「お前、さっきから何見てる」
「いえ」
「2人も払霧師大学の学生なんだね。あそこって、資質がないと入れない所でしょう? 同級生のみんな、あなたたちの制服見ただけですごいって騒いでる。それが武器?」
麻美は前のめりになって、具視の腰にある紺碧双紅剣に近寄った。
「なんだか日本刀って感じだね! 昔はお侍さんがこういうの、腰に下げていたんだよね。へぇ、そっかぁ」
麻美が知りたいというので、具視は払霧師について自分の知っている程度のことを話した。その中で、守護影が見てみたいと言われたのだが、規則でそれはできないと言うしかなかった。それにしても、陽はいったい何時になったら帰ってくるのだろうか。戻ってくるのを待つとは言ったが、家に着いてからすでに40分以上はたっている。具視は心配になって立ち上がった。
「俺、その辺捜してきます。入れ違いにならないよう、連次さんはここで待っていてください。陽さんが戻ってきたら電話でも入れてくれれば助かります」
連次に呼び掛けたが、彼は眠たそうにうなずくだけだった。
(どうしたんだろう。眠たいのかな)
「そう遠くには行ってないと思うけど」
「その辺を見てくるだけです」
具視はそう言ってリビングを抜け外に出た。
2人だけになった途端、麻美は連次にそっと近寄って声を掛けた。
「三平連次くん」
「……ん」
「お姉ちゃんに会いたい?」
麻美は近寄りながら、彼の腰にある刀に指をからめた。そっとひもを解き、刀を外すと今度はポケットに手を入れて携帯を抜き取る。麻美は携帯を台所に持っていくと、沸かしていた熱湯の中に投げ入れ火を止めた。
「野田連太郎の子どもだって聞いていたから、少しは苦戦すると思っていたんだけどなぁ。残念。まぁ、私たちの妨げになる芽は摘んでおいた方がいい。そうすれば、きっと大王様も私のことを褒めてくれる」
そのころ、具視は声も出せずにいた。
何が起こっている?
足も、手も、言うことを聞かない。
麻美の家から一歩外に出ようとした、その境界線の内側で、つま先が止まった。聴具が外に出てくる気配もない。
早く、この状況を連次に伝えなくては。
(待て)
具視の脳裏に直前の連次が浮かんだ。彼は、なぜ眠そうにしていた。この家に入るまではそんな気配まるで感じなかったのに、本当に突然。嫌な予感がした。同時に、ガチャッとドアが開く音がした。ひやりと汗が流れ、振り返れないという状況に恐怖が倍増した。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
後ろから近づいてくる音がピタリとやみ、背中の真ん中を冷たい何かが触れた。具視は一瞬で10歳だった時のトラウマを思い出した。マンションが霧に包まれ、1人きりになった部屋の中で玄関のチャイムが鳴ったあの時。ドアアイをのぞいた先に浮かんでいた、紫色に浮かぶ二つの目――
「また会えたね、具視くん」
耳元でささやかれた。
全身が恐怖で震え、しめった息を感じた。自分ではどうしようもないくらい、体が覚えているのだ。恐怖、悲しみ、憎しみ。動けずにいる具視の腕をするりとツタのように冷たい手がからむ。
「こんなに震えて、よっぽど怖かったんだね。でも、あなたはすごいよ。それでも私たちを殺そうと、払霧師になろうとしているんだから」
(何を言ってるんだ?)
具視は頭の中がどうにかなりそうだった。
(何を、言っ――)
「もう会えないかと思ってた」
余韻を楽しむような声色。具視は心を鬼にして、なんとか歯をくいしばった。
「無理しないで。守護影対策に結界を張っているから、解かないと動けないし、ここから出られないよ」
目の前に黒い髪がさらりとたれる。
麻美だった。
(どうして……)
具視は力のない目で彼女を見返した。
「教えてあげよっか」
麻美は両手を後ろに組みながら目の前で笑っていた。どこか恥じらいつつ、でもうれしそうな感情をあらわにし、頬を桃色に染めて。
どうしてそんな顔をする?
具視は唇を震わせた。
「2019年6月24日。あなたはマンションで霧に襲われた。周りのみんなが溶けてなくなって1人ぼっちになった時、チャイムが鳴った」
(やめろ……)
心の声もむなしく、麻美は楽しそうに続ける。
「ドアから外をのぞくと、そこには紫色の目が二つ見えた。怖くて自分の部屋に逃げたんだけど、そいつは中まで入ってきた。ベランダに出て、下の階に移ろうとした時、誰かに背中を押されて、真っ逆さまに落ちた」
(やめてくれ)
麻美は具視の目を真正面から捉えた。
「私が押したの」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜
KeyBow
ファンタジー
1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。
各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。
ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。
その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。
彼らは通称カーヴァント。
カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。
カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。
しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。
また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。
探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。
つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。
数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。
月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。
彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。
そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。
勿論二世だ。
斗枡が持っている最大の能力はカード合成。
それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。
彼はその程度の認識だった。
実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。
単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。
つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。
また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。
斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?
女子が自然と彼の取り巻きに!
彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる