異世界就職!?

pさん

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第一章 ー始まりー

それは謎の白い封筒

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今日も朝から就職活動。
この前ハロワで見つけた割といいお給料の職場達を片っ端から応募して、やっと書類通過した会社の面接を片っ端から受けに行っていた。
何枚も何枚も履歴書を書いては応募して、何度も何度も書類選考で落ち、やっと面接をOKしてくれた数少ない会社達。
次こそは、次こそは受からないと、正直もう心が折れそうだ…

(弱気になるんじゃない俺!!元気出すんだ俺!!!)


よし、気合い入れて行くぞ!




1社目 前の会社でクビになった為 ×
2社目 明らかにヤ◯ザの為 ×
3社目 業務内容が完全ブラックの為 ×
4社目 年齢を馬鹿にされた為 ×
5社目 海外長期出張の為 ×
6社目 ……×
7社目 「あらやだ良い男~」× × × ×

……………

(最後の会社もダメだった…。て言うか世の中にあんな恐ろしい会社があったなんて…。)

「………。」

(あのままあの場にいたら俺……。)


まずい、これ以上思い出したら吐きそうだ。



(少し落ち着いてから帰ろう。)



俺は今日、目にした出来事を完全に忘れようと心に決め少しでも落ち着こうと缶コーヒーを買いにコンビニへ入ったのだった。


~♪♫♬♬♫♪~

「あざっしたぁー」

コンビニから出だ俺は近くに公園を見つけ、空いてるベンチに座った。
昼食を取る時間もなく歩き疲れてしまっていた俺は、ここで少し休憩をとることにした。

缶コーヒーを飲みながらボォーっと空を眺め、公園で遊んでいる元気すぎる子供達の楽しそうな声をただただ聞き流していた……


………………………。



「おっと。もう、こんな時間か。」



おもむろに左手を上げ時計を見てため息をついた俺は重い腰をどうにか上げて立ち、ゆっくりと駅に向かって歩き始めた。

帰る途中、俺は色んな事を考えていた。
前の会社の事、過去の自分の事、何年も前に死んだ両親の事。学生時代の楽しかった事。そして、これからの就職の事…。
そんなことを考えていたらあっという間に自宅のアパートに着いた。



「今日もお疲れさん。」



そんな言葉で自分を褒め称えながら意味もなく階段を数え、歩数を数えたりしているうちに俺の部屋の前に着いた。
少し上がった息を整えながらお隣さん達のドアを横目に、やっと一日が終わると安心しながら部屋のカギを開けた。


帰ってすぐにスーツを脱ぎ部屋着に着替えた俺は、何年も前にめたはずだったタバコをくわえ、ついでに買ったパステルカラーのかわいい携帯灰皿を手に取りベランダに出た。



(ここに住んでもう10年以上経つんだっけな。)



一人暮らしが始まった頃の事を思い出しながら、冷んやりとしたコンクリートに右腕を乗せ外の景色を眺めた。

未だにここから見下ろせる大都会の高層ビルやタワーマンションを眺めているとなんとなく心が落ち着く。
俺はひとりじゃ無いと思わせてくれるような、寂しさが薄くなるような、なんとも言い表せない不思議な気持ちにさせてくれる。

夕日が落ちていく空と、少しずつ明かりがかる大都会を見ながら俺はタバコに火をつけた…


今日は色んな事があったし、色んな事を思い出したせいか、なんだか気分がモヤモヤする。
未来を背負う子供達は、あんなにも楽しくはしゃいでいたというのに…。


(あぁ。このモヤモヤも煙と一緒に吐き出せたらいいのにな…)


俺は少しだけ深く吸い込んで、大きなため息と一緒に空へ向かって吐き出してみた。
煙は勢いよく出てくれはしたけども、やっぱりモヤモヤは出て行ってはくれなかった。



「どうして俺はこうなったんだろう…。」



いつの間にか暗くキラキラと光だした空と短くなったタバコを見つめながら不意に出た言葉と細く揺らめくタバコの煙は、すっかり暗くなってしまったいつもの景色と、この季節にピッタリな涼しい夜風に乗って夜空へと消えていった…。





は一服も終わり腹も減ってきた俺が、晩飯は何にしようかと考えながら部屋に戻ろうとしたときだった。



キィー カタン…



(ん?なんだろ?)


あまり聞かない音が玄関から聞こえた。
ベランダから戻り、リビングの照明を付けながら玄関のドアへ向かい、音の正体であろう郵便受けを確認してみた。



(何だコレ??)



そこに入っていたのは表も裏も真っ白で少し大きめな封筒だった…


宛先もなければ差出人も記載されてない、ただただ白いだけの封筒。



(まさかイタズラ?それとも嫌がらせ?)



流石に社会人なので、様々な経験と常識や教養は身につけていると俺自身は思っているが、これは初めての経験だ。

こういう場合、開ける前に中身を予想したくなるのはきっと俺だけでは無いだろう。
しばらくその場で照明に透かしてみたり、耳元で振ってみたりしながら色々と考えてはみたけれど、やっぱり中身は想像出来なかった。


(まぁどちらにしても開けてみなければ分からないし後で確認しよう。)


玄関で突っ立ってても仕方がないのでとりあえずリビングのローテーブルに封筒を置き、キッチンで晩飯を作る事にした。

冷蔵庫を開け、残っている食材をとりあえず確認してみる。


(よし、この食材があれば今日は炒飯に決定だな。)


この中途半端に残っていた少ない食材達で、俺は学生時代によく作っていた特製オリジナル貧乏炒飯を作る事にした。

懐かしいなと思い出しながら手際よく鍋を取り出し火をつけ、必要な調味料を棚から出して食材を切っているとき、ふと白い封筒に目がいった。


(あれ?なんか今ぼんやり光ってたような。)


キッチンカウンターから見える封筒をまじまじと見つめてみたけれど、何の変化もなく白いままローテーブルの上にポツンと置かれている。


(照明の反射かな?まぁいいか、それよりも飯!飯!!)



俺はさっさと調理を済ませて、炒飯をローテーブルへと持って行った。


(あ、そうだ確かビールまだ残ってたよな。)


俺は冷蔵庫に向かいビールを取ろうとした。


(げっ、ラスト1本かぁ~)


俺はそっと扉を閉じて考えた。

今日はいつもより2倍は疲れた、だからビールは絶対に飲みたい。
しかし買い足すにしても近くで買えるのはコンビニしかない。
そしてそのコンビニと言うものがまぁまぁの距離にある。
うん、それにもう外に出るのは面倒臭いし今日はこれ以上歩きたくない。
ならば、これをこの世界の最後の1本だと認めよう。
後は、これを飯と一緒に飲むか風呂上がりに流し込むかだが…



(う~~む。)



俺は両腕を組み首をかしげ、悩みに悩んだ末に後者を選ぶ事にした。


(よし!そうと決まれば!)


俺はテレビをつけ、ローテーブルとソファーの間に座り両手を合わせた。


「いただきます!」


やっぱり俺の作る特製オリジナル貧乏炒飯は最高だ!
美味い!美味すぎるっ!!
熱々の湯気と一緒に立ち昇るスパイスの香り。
口に入れた瞬間の熱と食材達の旨味。
あぁ~これが幸せと言うものなのかぁ~
クソっ!ここにビールがっ!もしもビールがあったらのなら。
俺はきっと、きっと天国へと行けたのに…



(うん。早くたべよ。)


………………。


「ごちそうさまでした。」



俺はつまらないニュースを見ながら炒飯を食べ終えるとすぐに片付けを済ました。
もう頭の中ではビール達がお祭り騒ぎをしていて、白い封筒の事など何処かへと吹っ飛んでいたのだった。




(さてと、風呂でも入るか。)



ーしばらく後ー



「ふぅ~サッパリしたぁー!」


俺は首に掛けたタオルでまだ乾かない髪を右手で拭きながらビールがまだかまだかと待っている冷蔵庫へと向かった。


ビールを片手にソファーに座り、冷房のスイッチを入れる。
付けっぱなしだったテレビのチャンネルをテキトーに変えビールを開けた。

(この瞬間がたまらない!!!)

プシュっと言う音と共に少し張った缶がキュッと引き締まる感触。

左手で口に運びグッと流せばピリッと辛くそれでいてシュワシュワっと口内に広がっていくこの味。

そして、ゴクっと飲み込み喉を通せば、今日一日の辛かった事が頭から吹っ飛んで、明日もこの瞬間の為だけに頑張ろうと気持ちを切り替える事が出来るのだ。


「プッハァー!!」


(やっぱり一日のシメはこれに限るっ!)


ビールを飲み終えたときの俺の気分は一言で言うなれば 最高! だ。

冷房の冷たさと風呂上がりの予熱、そしてポカポカと体から溢れてくるこの高揚感!

あぁ、何という幸せ…
そうか、ここが天国だったのか……


(よっしゃー!)


「さーてと、そろそろこっちも開けますか!」


俺はさっきから見て見ぬふりをしていたあの白い封筒の中身を確認しようと手に取った。


「あれ??」


先程のあの白い封筒は確かに表も裏も何も無かった筈…。
たかが缶ビール1本で酔う訳もないし。
でも確かに表面だけ変化が現れていた…


「俺の名前だ……面接会場!?」


そこには『柏手 三木 様かしわで みつき   宛 面接会場へのご案内』と書かれていた。


(もしかして、片っ端から応募した内の一つが通ったのか??)


そう思いつつも、缶ビール1本の酔いが冷め切らない内に俺はこの謎の封筒の封を切ることにした。


「うわ!なんだこれ!」


俺が封を切った瞬間、ぼんやりと白く光ったかと思うと、あっという間に目を開いていられない程の光が部屋中を照らした。


「クソッ……。」


俺はすぐに左手に持っていた封筒を床に捨てて右腕で目を覆った。
数秒したのち、光は俺の全身を包み込むと、俺ごと封筒へ吸い込んだ。



「うわあぁぁーー!!!」


俺の体が半分吸い込まれたと同時に、俺の意識もこの眩しい光の中へと吸い込まれていった…







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