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第一章 ー始まりー
面接スタート!
しおりを挟むノックをした後、門開きであろう扉は大きな軋み音をたててゆっくりと開いていく。
内心俺は、この大きな扉を自分の腕力で開けられるのか気が気じゃなかったので少しホッとしていた。
(いよいよか…やっぱ面接は緊張するな。)
しかし、俺の緊張はそれだけではなかった。
少しずつ広がる扉の隙間から見えたのは、今まで真っ白だった空間とは真逆に真っ黒な空間だったのだ。
(何も見えない…)
「…………。」
俺の緊張はどんどん膨らんでいく。
(しっかりしろ俺!腹は括ったはずだ!)
深く息を吸い込み、震え始める身体にグッと力を入れてゆっくりと息を吐く。
(軋む音は止んだ…)
俺は扉が完全に開いたのを確認して再度、背筋を伸ばした。
(行くぞ!!)
「失礼します!!!」
声が震えるのを隠すように強めに出した言葉は思ったよりもいい感じで、きっと元気よく聞こえただろう。
俺は白と黒の境界線で、これまでの社会生活で何度も鍛え続けてきた30°ドンピシャのお辞儀をしてから、真っ黒な空間へと歩いて行った……。
少し歩くと、後ろの方から扉の軋み音が鳴り始めた。
俺は歩みを止め、振り返る事もせずにただ真っ直ぐを見つめた。
扉の閉まる大きな音とともに、黒い空間の一点から眩い光が現れた。
(また…これか……。)
俺は眩しさに目を半分閉じて身構えた。
「…………。」
光が一瞬にして消えたかと思うと、俺は豪華な部屋にいた…。
(おぉー!!)
もう、色々なことがありすぎてこんなもんじゃ驚かなくなった。
と言うか、驚くことに疲れたのかもしれない…。
「誰もいないな…。」
床は赤いカーペットに金色の装飾…
天井にはお洒落なシャンデリア。
左右の壁には絵や壺などが飾られている…
(どれも凄く豪華だ…。)
俺の前にはアンティークな木の椅子、そしてその奥にこれまた品のある机に椅子、そして壁には縦長の豪華な窓があった。
(外が明るい…もう朝だったのか。)
真後ろの壁には品のある木製のツヤツヤしたドアがあり、左右にはビッシリに詰まった本棚もあった。
「なんか、落ち着く場所だ…。」
ガチャ…。
突然後ろのドアが開いた。
『そうかそうか、ここは落ち着くか。』
笑いながら嬉しそうに入って来たのは、白髪での神話に出て来るような服装のお爺さんだった。
(このお爺さんがあのお方か…。)
「はっ、初めまして!柏手 三木と申します!」
俺は少し驚きながらも、深く頭を下げ挨拶をした。
『ミツキ君か。わしは君の面接官じゃ、よろしくのぉ。』
凄く落ち着いた口調でお爺さんはそう言うと、窓側の椅子まで歩き腰を下ろした。
(なんだか、凄く優しい人な気がする。)
俺は、先程までの緊張や不安が全部飛んでいくのを感じた。
『さて、これよりわしと面接をするぞ。ミツキ君も座りなさい。』
「はい、失礼します。」
俺も目の前の椅子に座り、お爺さんの目をしっかりと見た。
『では、これより面接を始める。最初に…ミツキ君、友達は何人居るかのぉ?』
(な ん だ と)
まさかの質問に俺は固まってしまった。
俺は小さい頃から人当たりはいい方だったが、それは周りの大人達に対しての事で、同い年や学校のクラスメイト達との会話などは正直苦手だったのだ。
思い出してみれば、あの頃の俺は、両親の死もあって心の整理がなかなかできなかった。
そして、大切な人や大切な思いを失う事に恐れた俺は、極力関わらないようにしていたのである。
中学 高校 大学 と、片っ端から出来るバイトをやりくりしながら生活していた為か、時間が進むにつれ心は強くなり、勉強も頑張った甲斐もあって、卒業後は直ぐに就職出来た…。
普通の人に比べて早く社会に足を入れていたせいか、その頃にはもう1人で生きる事に慣れてしまっていた。
「はい。恥ずかしながら、友達と呼べる存在はおりません…。」
嘘をつくのも容易いはずだったのに、何故かこの人には見抜かれる気がした…。
『そうか…。苦労も多かったのじゃろう…。』
お爺さんは、親指と人差し指で顎を触りながら何か考えている様子だった。
『では、次の質問じゃ、もしも自分の命令を何でも聞く忠実な僕がおったら君はどうするかのぉ?』
今度は難しい質問が出てきた。
「えーっとですね…」
俺は前にクビになった会社の事を思い出していた。
確かに上司からすれば、何でも命令を聞く部下はとても重宝するだろう。
会社としてもとてもありがたいことは間違いない…。
だが、それはあくまでも自分より上の立場の考えに過ぎない。下にいる者達は常に上の機嫌を気にし、どんなに会社の為に案を出そうが身を粉にして走り回ろうが、手柄は持っていかれ上司が褒められ下の者は認められもしないのだ。
まだ足りないと自分を鼓舞しても、天狗になった上司は部下を無下に扱い、そして人は道具に成り下がって行く。
俺は何度も何度も人が堕ちていく瞬間を見てきた。だからこそ決してこうはならないと部下達に優しく、時には厳しく広い心を持って接してきた…。
しかし、俺の上司は部下が俺についていくのが気に食わなかったらしい。
上司の嫌がらせは日に日にどんどん増していき、何人もの人間が会社を去って行ったのだった…。
余りに人が辞めていくのを見兼ねた上層幹部どもは、とうとう俺の上司を呼び出した。
しかし、自分のクビを恐れた上司は、ことの一連を全て俺に擦りつけ、幹部達は俺をクビにすることで事態を揉み消したのだった。
「私は…。その人に私と対等な立場になれと命令します。」
俺がそう答えると、お爺さんは一瞬だけ驚いた表情をして言った。
『ほう……それは何故じゃ?』
俺は続けて話した。
「私が思うに…ただ従うだけの関係は、その人が持っている本来の性格や思考など、良し悪しが消えてしまうと考えています。」
お爺さんは目を瞑りただ黙って頷いていた。
「ひとりなら間違ってしまう事も、対等な立場で居てくれる人が隣にいたのなら、互いに間違いを正す事もできますし、共に間違い笑い合う事もできるのではないかと思います。」
お爺さんは、俺が答え終わるとゆっくりと目を開き微笑みを浮かべた。
『そうか……どうやらわしは間違っていたのかものぅ……。』
小さな声でつぶやいたお爺さんのその表情は、どこか寂しく、悲しい表情に見えた…。
『では、最後の質問じゃ。』
突然、部屋の雰囲気がガラッと変わった…。
俺は唾を飲み込んだ。
(ゴクリ……)
『己の人生に、悔いは無いか?』
急に口調が変わり、言葉に凄みが出た。
部屋中に禍々しい気配が漂いはじめる。
「あ……。」
俺はあまりの凄みに、咄嗟に ありません と答えそうになった。
『どうなんじゃ?』
お爺さんは追い討ちをかけるようにさらに凄みを増した。
俺の人生は完璧とは程遠い、それこそ悔いだらけの人生だった。
あのときああしておけば、こうしておけばと思い返したらキリがない。
だからと言って、過去に戻る事なんて出来ないじゃないか。
戻れるのであれば、どんなに救われるか…。
(人生の悔い……。)
「はいっ!あります!!」
俺はありのままの気持ちを言葉に乗せた…。
『ムムム………』
お爺さんは凄い表情で俺を睨み付けている。
(ひいぃーー!!)
このままでは気を失いそうだ……。
いや、それどころか…。
俺は心の中で死を覚悟していた…。
『合格じゃ!!!』
お爺さんは明るく大きな声で言った。
部屋中に充満していた禍々しい気配も一瞬で消え、お爺さんの表情も元の優しい顔に戻っていた。
「プハァ~~。」
もうダメかと思ってた俺は一気に力が抜けた…。
(あぶねーマジで死ぬかと思った…)
俺は崩れかけた体勢を元に戻しお爺さんの目を見た。
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