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●第六話
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これは災いだろうか。チャンスだろうか。
車の中で、和妃はいまだ決め兼ねていた。
「超能力が目醒めた」ということは、冷静に考えれば今までの生活が壊れるということで、災いともとれる。けれど、能力によってはそれが転機になって運が向いてくるかもしれない。
特に、和妃の場合は。
和妃は今までの生活に満足していなかったから。
どちらにしろ、能力がどんなものかは知りたい。あの数時間後にもう一度目が覚めてからそう言うと、ほのかは章地と一緒にタクシーを呼んだ。
「きみがそう言わなくても、いずれきみの能力を知るために連れていかなきゃならない場所だったから」
章地はそう言ったが、果たしてどこに向かっているのかは不明だ。知らされていないのだ。タクシーの運転手にメモを渡しただけで、あとは助手席でフンフン鼻歌なんぞ歌っている。
「でも、よく話を受け入れてくれたわね」
隣に座っているほのかが、運転手の耳を気にしながら小声で言った。
「この状況では……信じるしか、ないと思います」
和妃はおずおずと、答える。
「それに……確かにあたしの体、……どこか変わった感じがするし」
「あなた敏感だものね」
会ったばかりだというのに、自信たっぷりにそんなことを言う。自分のカンに絶大な自信を持っているのだろう。
「あの……あとでちゃんとしたことを聞きたいんです」
遠慮がちに、和妃は唇を開く。
「あなた達のこととか、……あなた達の言う敵、のこととか」
「じゃああたし達に関わってくれるってことねっ?」
ほのかが嬉しそうにボリュームを上げる。助手席から「ほのかちゃーん」と歌うように諌めの声がかかった。
「嬉しい、仲間になってくれるのね」
声を落として、ほのか。和妃は慌ててかぶりを振る。
「まだ決めてません、お話を聞いてからでないと……」
「着いたよ、おふたりさん」
章地の声と共に、タクシーが停車する。
いつのまにか、ずいぶんと山奥まで来ていた。
今は昼過ぎで、ちょうど太陽の光が強い時間だ。照らしつづける陽射しに、今が夏でなくて良かったと思う。
「おんぶしようか」
タクシーにお金を払って見送った章地が、振り向きざまそんなことを言った。別にからかっている様子はない。にこにこと、善意からのようだ。
「まだ熱が残っているだろう?」
「いいっ、いいですっ」
和妃はぶんぶん首を横に振る。レストランで望に抱き上げられたのを、思い出してしまった。
章地が先頭に立ち、和妃が真ん中、最後がほのかという順番になった。
「帰ったら、服を買いにいきましょうね」
うきうきした様子でほのかは山道を歩く。
「あと、靴もね。シュシュとかリボンとかも。ああ楽しみっ! なにしろうちはほら、男しかいないでしょ? つまらなくて」
そう。「うち」といえば、ほのか達は一軒の家に住んでいるのだ。それも普通の家より部屋数も間取りもあって、庭もかなり広大だ。
和妃が寝かされていたのは望の部屋だったのだけれど、そのベランダからは庭の大きな池が見下ろせた。
「さて。ここが目的地なんだが」
章地が足を止めた。顔を上げると、見渡す限りの竹薮が広がっている。
目的地? ここが?
眉をひそめている傍らで、章地はふっと苦笑した。
「奥村さん、分かっているでしょうに。この子の事情はちゃんと伝わっているんでしょう?」
すると、竹薮が一斉に消滅した。代わりに現れたのは純日本風の家。
家──というよりは、敷地がありすぎて「屋敷」のようだ。もっとも、それも庭を含めてではあるけれど。
その玄関に、誰かが立っていた。そこで初めて和妃は、この家には門がないと気付いた。
「今の幻の竹薮、あれが門の代わりなのよ」
察しよく、ほのかがささやく。
「用がなければ出向かないのか。お前も水臭いな」
腕組みをしていた青年が、憮然とそんなことを言った。
黒髪を背中まで垂らして、ひとつに縛っている。紺色のシャツに黒いジーンズという質素な格好をしていたが、見る者すべてを切り裂きそうな視線に強い印象があった。並ぶと、背は章地と同じくらいだ。
「何かと多忙でしてね。紹介しましょう、彼女は──」
「いい。父上から既に情報は入っている」
紹介をはねのけ、彼は冷たい視線を和妃に向けた。
「林和妃。普通の人間として暮らしていれば平穏に過ごせたのに。気の毒なことだ」
淡々とした口調にどこか刺がある。ふっと彼は口元に笑みを浮かべた。
「しかしお前の存在が我々にとって吉と出るならば、それはそれでいい駒になる。早く父上に見てもらうがいい」
そして腕組みをほどき、どこかに歩き去ってしまう。
車の中で、和妃はいまだ決め兼ねていた。
「超能力が目醒めた」ということは、冷静に考えれば今までの生活が壊れるということで、災いともとれる。けれど、能力によってはそれが転機になって運が向いてくるかもしれない。
特に、和妃の場合は。
和妃は今までの生活に満足していなかったから。
どちらにしろ、能力がどんなものかは知りたい。あの数時間後にもう一度目が覚めてからそう言うと、ほのかは章地と一緒にタクシーを呼んだ。
「きみがそう言わなくても、いずれきみの能力を知るために連れていかなきゃならない場所だったから」
章地はそう言ったが、果たしてどこに向かっているのかは不明だ。知らされていないのだ。タクシーの運転手にメモを渡しただけで、あとは助手席でフンフン鼻歌なんぞ歌っている。
「でも、よく話を受け入れてくれたわね」
隣に座っているほのかが、運転手の耳を気にしながら小声で言った。
「この状況では……信じるしか、ないと思います」
和妃はおずおずと、答える。
「それに……確かにあたしの体、……どこか変わった感じがするし」
「あなた敏感だものね」
会ったばかりだというのに、自信たっぷりにそんなことを言う。自分のカンに絶大な自信を持っているのだろう。
「あの……あとでちゃんとしたことを聞きたいんです」
遠慮がちに、和妃は唇を開く。
「あなた達のこととか、……あなた達の言う敵、のこととか」
「じゃああたし達に関わってくれるってことねっ?」
ほのかが嬉しそうにボリュームを上げる。助手席から「ほのかちゃーん」と歌うように諌めの声がかかった。
「嬉しい、仲間になってくれるのね」
声を落として、ほのか。和妃は慌ててかぶりを振る。
「まだ決めてません、お話を聞いてからでないと……」
「着いたよ、おふたりさん」
章地の声と共に、タクシーが停車する。
いつのまにか、ずいぶんと山奥まで来ていた。
今は昼過ぎで、ちょうど太陽の光が強い時間だ。照らしつづける陽射しに、今が夏でなくて良かったと思う。
「おんぶしようか」
タクシーにお金を払って見送った章地が、振り向きざまそんなことを言った。別にからかっている様子はない。にこにこと、善意からのようだ。
「まだ熱が残っているだろう?」
「いいっ、いいですっ」
和妃はぶんぶん首を横に振る。レストランで望に抱き上げられたのを、思い出してしまった。
章地が先頭に立ち、和妃が真ん中、最後がほのかという順番になった。
「帰ったら、服を買いにいきましょうね」
うきうきした様子でほのかは山道を歩く。
「あと、靴もね。シュシュとかリボンとかも。ああ楽しみっ! なにしろうちはほら、男しかいないでしょ? つまらなくて」
そう。「うち」といえば、ほのか達は一軒の家に住んでいるのだ。それも普通の家より部屋数も間取りもあって、庭もかなり広大だ。
和妃が寝かされていたのは望の部屋だったのだけれど、そのベランダからは庭の大きな池が見下ろせた。
「さて。ここが目的地なんだが」
章地が足を止めた。顔を上げると、見渡す限りの竹薮が広がっている。
目的地? ここが?
眉をひそめている傍らで、章地はふっと苦笑した。
「奥村さん、分かっているでしょうに。この子の事情はちゃんと伝わっているんでしょう?」
すると、竹薮が一斉に消滅した。代わりに現れたのは純日本風の家。
家──というよりは、敷地がありすぎて「屋敷」のようだ。もっとも、それも庭を含めてではあるけれど。
その玄関に、誰かが立っていた。そこで初めて和妃は、この家には門がないと気付いた。
「今の幻の竹薮、あれが門の代わりなのよ」
察しよく、ほのかがささやく。
「用がなければ出向かないのか。お前も水臭いな」
腕組みをしていた青年が、憮然とそんなことを言った。
黒髪を背中まで垂らして、ひとつに縛っている。紺色のシャツに黒いジーンズという質素な格好をしていたが、見る者すべてを切り裂きそうな視線に強い印象があった。並ぶと、背は章地と同じくらいだ。
「何かと多忙でしてね。紹介しましょう、彼女は──」
「いい。父上から既に情報は入っている」
紹介をはねのけ、彼は冷たい視線を和妃に向けた。
「林和妃。普通の人間として暮らしていれば平穏に過ごせたのに。気の毒なことだ」
淡々とした口調にどこか刺がある。ふっと彼は口元に笑みを浮かべた。
「しかしお前の存在が我々にとって吉と出るならば、それはそれでいい駒になる。早く父上に見てもらうがいい」
そして腕組みをほどき、どこかに歩き去ってしまう。
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