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●第十一話
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「──説明してもらおうか」
山と積み上げられた空の皿を見た神也が、じろりと章地を見る。
恥ずかしくてうつむいている和妃の隣で、望も同意見だというように視線をやった。
心配そうなほのかに小さく頷いてみせ、章地は口を開いた。
「昼間、お父さんのところに行ってきた。彼女の能力を教えてもらいにね。ついでにその能力を少し使わせてもらったので、エネルギー補給のために一時こういうふうになったわけなんだが、率直に言おう。彼女の能力は他人の能力の増幅能力と」
望と神也の注意を充分に引きつけるくらいの間を置いて、彼は言った。
「リアライズだ」
望が驚きに息を呑む。
「リアライザー……!」
「黙れっ!」
椅子を蹴って立ち上がった神也が、つぶやいた望を怒鳴りつけた。
ぎっと睨みつけられた和妃は、その強い怒りを感じ取ってびくりと肩を震わせる。
今まで以上に激しくて強い、怒り──。
「名前だけじゃなくて能力まで盗むのかお前はっ!? お前なんかが『あいつ』の、ナギサの名前を語る資格はないんだ! ましてや同じ能力まで持つ資格なんか絶対にない! 偶然だとしてもあってたまるかっ! 絶対に許さない!」
「いい加減にしてよあんたはっ」
ほのかがテーブルを叩き、身を乗り出す。
「和妃ちゃんがナギサの名前の一文字を持ってるから真似したって、あんた馬鹿じゃないの? そんな馬鹿なこと幼稚園児だって思わないわよ。第一能力なんて真似したり盗んだりして身につくものでもないでしょう! 資格だのなんだの、そんなもの以前の問題よ!」
「うるさいっ! うるさいうるさいうるさいっ!」
「ガキなのあんたって!? 和妃ちゃんのことは認めなくちゃなんないでしょう仲間として必要なんだからっ!」
「ふたりともやめてくれないか」
和妃の小さな肩を守るように抱いてくれながら、望の静かな声。
「諍いなら外でやってほしい。彼女に害にならない場所で」
「……随分と執心してるじゃねえか」
神也の勢いは止まらない。どころか、望に注意されたせいでますます勢いづいたように感じられた。
「ナギサもどきのその女がそんなに気に入ったんなら、ずっとお前が面倒見ろよ。風呂もベッドも一緒にさ!」
和妃の肩を抱く望の手が、わずかに硬直する。それでもそこで我慢したのは、これ以上負の感情を撒き散らして和妃を害するのを避けるための、見上げた努力だった。
「神也。落ち着いてくれないか」
見守っていた章地が、穏やかに口を挟む。
どうしたことか、神也の怒りが倍増した。
振り返り、思い切りそれをぶつけた。
「そんなことがよく言えるよなあ! お前こそいいのかよ章地、リアライザーなんて傍に置いたらまた殺しちまうんじゃないのか!?」
ばちんと派手な音がした。
目にいっぱい涙を溜めたほのかが、神也の頬を叩いたところだった。
──禁句。
それを、神也は口にしてしまったのだ。雰囲気でそれが分かる。
壊すような勢いで扉を開け、神也が出て行く。玄関の扉がバタンと閉まる音がした。
「あたしは間違ってないわ」
泣きそうな顔でほのかがつぶやく。
「いつまでもナギサを引きずってるんだもの、和妃ちゃんも章地も可哀想だわ」
章地はしばらく目を伏せていたが、ひとり胸の中で解決をつけたように、いつもの軽い調子で立ち上がった。
「困ったものだな。説得には時間がかかりそうだ。望は数日でいいから和妃ちゃんについててやってくれ。お前は人の精神を安定させることが出来るからな。神也を和妃ちゃんに近づけないように」
「元よりそのつもりです」
圧し殺したような声で、望は返答する。
「和妃ちゃんはほのかから説明を受けなくちゃいけないな。ただし、明日だ。今日はもう眠ること」
和妃はコクンと頷く。
神也から伝わった痛いほどの怒りが、まだ胸の中に痺れを残していた。
どうしてあれほどまでに彼が怒るのか、ナギサというのは誰なのか。
分からなかった。
まだ、──なにも。
山と積み上げられた空の皿を見た神也が、じろりと章地を見る。
恥ずかしくてうつむいている和妃の隣で、望も同意見だというように視線をやった。
心配そうなほのかに小さく頷いてみせ、章地は口を開いた。
「昼間、お父さんのところに行ってきた。彼女の能力を教えてもらいにね。ついでにその能力を少し使わせてもらったので、エネルギー補給のために一時こういうふうになったわけなんだが、率直に言おう。彼女の能力は他人の能力の増幅能力と」
望と神也の注意を充分に引きつけるくらいの間を置いて、彼は言った。
「リアライズだ」
望が驚きに息を呑む。
「リアライザー……!」
「黙れっ!」
椅子を蹴って立ち上がった神也が、つぶやいた望を怒鳴りつけた。
ぎっと睨みつけられた和妃は、その強い怒りを感じ取ってびくりと肩を震わせる。
今まで以上に激しくて強い、怒り──。
「名前だけじゃなくて能力まで盗むのかお前はっ!? お前なんかが『あいつ』の、ナギサの名前を語る資格はないんだ! ましてや同じ能力まで持つ資格なんか絶対にない! 偶然だとしてもあってたまるかっ! 絶対に許さない!」
「いい加減にしてよあんたはっ」
ほのかがテーブルを叩き、身を乗り出す。
「和妃ちゃんがナギサの名前の一文字を持ってるから真似したって、あんた馬鹿じゃないの? そんな馬鹿なこと幼稚園児だって思わないわよ。第一能力なんて真似したり盗んだりして身につくものでもないでしょう! 資格だのなんだの、そんなもの以前の問題よ!」
「うるさいっ! うるさいうるさいうるさいっ!」
「ガキなのあんたって!? 和妃ちゃんのことは認めなくちゃなんないでしょう仲間として必要なんだからっ!」
「ふたりともやめてくれないか」
和妃の小さな肩を守るように抱いてくれながら、望の静かな声。
「諍いなら外でやってほしい。彼女に害にならない場所で」
「……随分と執心してるじゃねえか」
神也の勢いは止まらない。どころか、望に注意されたせいでますます勢いづいたように感じられた。
「ナギサもどきのその女がそんなに気に入ったんなら、ずっとお前が面倒見ろよ。風呂もベッドも一緒にさ!」
和妃の肩を抱く望の手が、わずかに硬直する。それでもそこで我慢したのは、これ以上負の感情を撒き散らして和妃を害するのを避けるための、見上げた努力だった。
「神也。落ち着いてくれないか」
見守っていた章地が、穏やかに口を挟む。
どうしたことか、神也の怒りが倍増した。
振り返り、思い切りそれをぶつけた。
「そんなことがよく言えるよなあ! お前こそいいのかよ章地、リアライザーなんて傍に置いたらまた殺しちまうんじゃないのか!?」
ばちんと派手な音がした。
目にいっぱい涙を溜めたほのかが、神也の頬を叩いたところだった。
──禁句。
それを、神也は口にしてしまったのだ。雰囲気でそれが分かる。
壊すような勢いで扉を開け、神也が出て行く。玄関の扉がバタンと閉まる音がした。
「あたしは間違ってないわ」
泣きそうな顔でほのかがつぶやく。
「いつまでもナギサを引きずってるんだもの、和妃ちゃんも章地も可哀想だわ」
章地はしばらく目を伏せていたが、ひとり胸の中で解決をつけたように、いつもの軽い調子で立ち上がった。
「困ったものだな。説得には時間がかかりそうだ。望は数日でいいから和妃ちゃんについててやってくれ。お前は人の精神を安定させることが出来るからな。神也を和妃ちゃんに近づけないように」
「元よりそのつもりです」
圧し殺したような声で、望は返答する。
「和妃ちゃんはほのかから説明を受けなくちゃいけないな。ただし、明日だ。今日はもう眠ること」
和妃はコクンと頷く。
神也から伝わった痛いほどの怒りが、まだ胸の中に痺れを残していた。
どうしてあれほどまでに彼が怒るのか、ナギサというのは誰なのか。
分からなかった。
まだ、──なにも。
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