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架鞍の異変3
しおりを挟む「か、ぐ、らくん……?」
わたしは、引き裂かれた服のままようやく起き上がる。脱力していて、座り込むのがやっとだ。
霞と架鞍くんがハッと息を呑む気配がした。
「架鞍くん……どうして……? どうしてこんなことしたの……?」
霞と禾牙魅さんが歩み寄ってくる。
「架鞍な、【鬼精鬼】に操られてたんだ。バカだよな、許してやってくれ……なんて、言えねーよな……」
霞の声に、どこか安心する。
霞に対して、じゃなくて……架鞍くんが【鬼精鬼】に操られていたなら、本当の架鞍くんじゃなかったなら……まだよかった。自分のことよりも、架鞍くんのことが心配になる。
禾牙魅さんが、わたしの足の間から流れ出た血を発見する。
「横になっていろ」
禾牙魅さんはパチンと指を鳴らして柔らかな布を出現させ、手探りでその血の元を優しく拭う。同時に霞がわたしの額に手を当て、更に意識を朦朧とさせてきたのか、ぐらりと身体が傾いだ。
「架鞍、くん……」
霞が身体を支え、ずっと流れ続けていた涙を指で拭いとり、禾牙魅さんが血を拭い終わったのを見計らってベッドに横たえてくれる。
すうっとそのままわたしの意識は、完全に落ちた。
【鬼精王Side】
苺が意識を失ったのを確認して、霞は振り返る。
「中を焼け爛れさせるほどの痛みを与える必要なんてあったのか!?」
こんな架鞍は初めて見る。その戸惑いからきた怒りでもあったのだが、既にそこに架鞍の姿はなかった。
◇
【苺Side】
目を覚ますと、先ほどよりは痛みも少し引いていた。霞か禾牙魅さんが、力を使うか何かして少しでも状態をよくしてくれたのかもしれない。
それよりも、架鞍くんのことが気になった。
どうして急に、あんなことをしたのか。
霞に何か聞いた気も、あの時三人の会話が聞こえた気もしたけれど、あんまりよく覚えていない。
あんなあとだから、顔を合わせづらかったけれど──どうしても、本人から聞いておきたかった。わたしはこれからも、架鞍くんと仲良くしていきたかったから。
甘い考えだって思われるかもしれない。
あんなひどい仕打ちをした男の子に対して、わたしは甘すぎるのかもしれない。
でも……何か理由がある気がして仕方がなかった。
痛みをこらえながらベッドから降りて、架鞍くんの部屋へ向かう。何度もノックをしたけど、いつもどおり架鞍くんは返事もしない。
「架鞍くん……? いるんでしょ……? 開けて?」
そっと声をかけるとしばらく経って、
「嫌だ」
とドア越しに返事が返ってきた。
「じゃ、このままでいいから……教えて。さっき、わたしに……どうしてあんなこと、したの……? 【鬼精鬼】に操られてたの……?」
また、しばしの沈黙。
「違うよ」
そして、なんの抑揚もない声。
「俺の意志でやった。【鬼精虫】を鎮めるにはそれより強い痛みを与える方法もあるから、そうした」
でもあんな痛みの与え方しかなかったのか、とはわたしは聞かなかった。
架鞍くんは……何かを抱えてる。それはきっと簡単に話せることじゃなくて、架鞍くんが離してくれる時がくるまで待つしかないんだ。
そういえば霞が、架鞍くんは【鬼精鬼】に操られてるんだって言っていたことを思い出す。
あの時わたしは、そのほうがよかったと思ったけれど。
いくぶん落ち着いた今は……架鞍くんのことを考えている今は、気持ちも違う。
「……良かった」
安堵のため息をついて、わたしは言った。
「架鞍くんが操られちゃってたら、架鞍くんが壊されちゃうかもしれない……そんなの、わたしがイヤだから。わたしを助けてくれたんだね、ありがとう」
黙り込む気配がする扉の向こうに向けて、わたしはつとめて明るい声を出した。
「じゃ、気が向いたらまた部屋から出てきてね! それでまたみんなでリビングとかで話したり遊んだり、しよう!」
わだかまりができるのが、一番いやだった。
あんなことをされたのにそう思うのは、……わたしが……架鞍くんに、恋してるからなのかな……。
まだ自分の気持ちも、わたしは分からなくて、自分の部屋に戻った。
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