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プール
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そして室内プールにきたわけ、なんだけど。
「なにそんなとこでもじもじしてんの?」
プールサイドの隅でお腹を隠すようにして立っているわたしに、もう着替え終わったかと待っていた架鞍くんが、出てきて声をかけてくる。
「だ、だって……用意してきたハズのわたしの水着のかわりにこれ……こんなお腹出た水着しかなかったから……」
「当然でしょ? 俺がすりかえたんだから。それ、俺が選んだ水着だから脱いで帰るなんて言わないでよ?」
「えっ……じゃ、さっきデパートで買ってたのって」
驚くわたしに、架鞍くんはあたりを見渡す。
「けっこう人、いるね。夏休みだからかな」
「……架鞍くんはどうして水着じゃないの?」
恨めしそうに尋ねると、
「【鬼精王】は必要以上に露出度の高い服を人の前では着ちゃいけないから」
さらりと返事が返ってくる。
「【鬼精王】って規律厳しいんだ」
「……それにしてもその髪型……ホント中学生みたい」
「だってわたし、ツインテールが出来るの限界……」
「……わいいけど」
「え?」
何かつぶやいた架鞍くんに聞き返しても、またはぐらかされる。
「せっかく来たんだから泳いできなよ。俺、なんかジュースでも買ってくるから」
「う、うん」
ちょっとは架鞍くんのことも、分かってきたつもりなんだけどな。
わたしはとととっと小走りに水際へ行き、飛び込んだ。
水の感触が身体を包む。一年ぶり、くらいだろうか。この身体を包んでくれる感じが好きなんだよね。
わたしは水着のことなどすっかり忘れ、ある程度泳いでしまうと再びプールサイドに上がる。
途端、狙い済ましたように男が三人、取り囲んできた。
「彼女一人? さっきから一人で泳いでたけど」
「高校生ギリギリくらい? でもその水着、泳いでるとこのミニスカートがめくれて下のパンツが見えてそそるんだよねェ」
二人目の男がそう言って、ミニスカートの部分をめくる。
「きゃっ!」
男達の視線が露出したお腹や太股の付け根に絡みついているのが分かる。ぞっとした。
「か~わいい。ねえ、ちょっと俺達とつきあおうよ。大人の世界っての教えてあげるからさ」
恐い……恐いよ、架鞍くん早く戻ってきて!
泣き出しかけたわたしの視界に、トロピカルジュースを持った架鞍くんの姿が入ってきた。
「架鞍くん……っ!」
「あんた達、人の連れに何しようとしてんの?」
てんで恐れを知らないふうの架鞍くんに、男達がたかる。
「なんだァ? このガキ」
「水着着てないってことは体育系ダメってことか?」
「ツラのキレイなだけのお坊ちゃんはあっち行ってな。この子は俺達がちゃあんと可愛がってやるからよォ」
架鞍くんはひとつ、ため息をついた。
「クソブタがここにも三匹……面倒だねまったく」
つぶやいたかと思うと、
「ンだとォ!?」
と掴みかかってくる男ひとりの攻撃をかわし、軽く腕をねじり上げた。骨が砕ける、鈍い音がする。
「ぎゃああっ!!」
悲鳴を上げる男に、仲間たちがうろたえる。
「お、おい」
「どうしたんだよ!?」
わたしから離れ、仲間を助け起こす男達。その背後から、ふたりめの男の喉仏に指を当てる架鞍くん。
「あんただよね? 俺のものに触ってたの」
そして架鞍くんは、凄味のある笑みを浮かべた。
「甲状軟骨って脆いの知ってるよね? 【お坊ちゃん】の俺でもちょっと力を入れれば簡単に砕ける。あんたにはそのくらい重い罪があるんだよ?」
「だ、ダメ架鞍くんっ……!」
わたしの制止の言葉に、架鞍くんはぱっと男から離れる。その隙に男達は逃げて行った。いつのまにか泣いていたわたしのそばに、架鞍くんが歩み寄ってくる。
「泣くなよ。大体人間界で人を殺すにも一応規制があるからね」
「わたし、わたし恐くて……っ」
きゅ、と架鞍くんが手を握ってきた。もう片方の手に、あの騒動の中でもまだ持っていたらしいトロピカルジュースを、わたしに差し出す。
「架鞍くん……」
「言っとくけど、【俺のもの】ってのはその水着のことだから」
「へ?」
「勘違いしないでね」
ばっちり勘違いしちゃったよ……恥ずかしい……。
架鞍くんはわたしのこと、ホントに……好きでいてくれるのかな?
それとも……あの花火大会の時だけの、わたしの錯覚……?
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