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●第二話 しゃべる壺、ノーラ・ウィンストン その2
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「いや、生まれ変わったっていうかなんていうか」
壺──ノーラは教えてくれた。
竜剣の材料をそろえ、いざ携帯していた専用の壺のサイズを魔法で大きくし、さて作ろうとしたところ、背後から誰かに近づかれた。
振り向こうとしたところ、つんと鼻を突く刺激臭がし、ノーラの意識はなくなった。
気がつけば自分は携帯していた専用の壺になっており、いままで意識も朦朧としていたのだという。
「壺は元のサイズに戻っていたし、壺になっていたっていうよりもわたしがこの壺に憑りついているっていう感じかしら。さっきまであんまり意識もなかったんだけど、ようやく頭がはっきりしてきた気がして、しゃべろうと思ったらしゃべることができたのよ」
「え、でもそれってどういうこと?」
リーシアは、考えてみた。
「お姉ちゃん、誰かにこの壺に封印されたとか、そういうこと?」
「たぶん、そんな感じなんだと思うわ。壺になったときわたしの身体は見えなかったから、もしかしたらその『誰か』がどこかに持って行ったのかもしれない」
「お姉ちゃんの魂だけこの壺に封印したか、本当にお姉ちゃんを殺しちゃって魂だけこの壺に乗り移っちゃったのか──」
「わたしもそのどっちかだと思うわ。とにかく、このことはその犯人しかわからないことよ」
錬金術を邪魔に思う誰かか、わたしを恨む誰かかわからないけどね、とノーラは続ける。
「どっちにしても、このままだとわからないままわたしは壺の状態で生きなくちゃいけない。そんなのまっぴらごめんよ。でもリーシア。あなたがこのアトリエを続けてくれるなら、いずれその犯人が姿を現すかもしれない。ことの真相がわかるかもしれないし、わたしが元の姿に戻ることもできるかもしれない」
「そうか!」
リーシアは、ぽんと手を打った。
「アトリエを続ければ、もしかしたらお姉ちゃんもほんとの姿に戻れるかもしれないんだ!」
「確実なことではないけれど、可能性はあるわ。だからリーシア、あなたがアトリエを続けてくれることはわたしにとってもとてもうれしいことなの」
「うん! うん、わかった! お姉ちゃん、わたし絶対アトリエ継いでみせるよ! それには錬金術を成功させなくちゃいけないんだけど、まずはやっぱり目玉焼きからかな?」
失ったと思っていたノーラが、こんな姿だけれど戻ってきた。というか、最初からそばにいてくれたのだ。ただ意識が朦朧としていただけで。
俄然やる気と喜びにわくわくし始めるリーシアに、けれどノーラは静かにさとした。
「うんうん、リーシア、そのことなんだけどね。その前にすることあるわよね?」
にこにこと声は笑っているようだが、絶対に目は笑っていない。そんな雰囲気を漂わせる口調だ。
「すること?」
「あなた、わたしとの四つの約束覚えてる?」
「約束?」
そこで、リーシアははたと気がついた。
姉の言う「四つの約束」とはもちろん、最後の手紙に書いてきたことだろう。旅に出る前から、そして出たあとも手紙でつねづね言われていたことでもある。
だけど、姉が死んだと聞かされてからそんなこと、すっかり頭から吹き飛んでしまっていた。
壺は叫んだ。
「あなた、もう一週間も薬湯飲んでないでしょ! 工房(ここ)に置いてある薬湯がぜんぜん減ってないもの! すぐわかるのよ! いますぐ飲みなさーい!!」
今度はさっきよりもはるかに大きな声で。
壺──ノーラは教えてくれた。
竜剣の材料をそろえ、いざ携帯していた専用の壺のサイズを魔法で大きくし、さて作ろうとしたところ、背後から誰かに近づかれた。
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気がつけば自分は携帯していた専用の壺になっており、いままで意識も朦朧としていたのだという。
「壺は元のサイズに戻っていたし、壺になっていたっていうよりもわたしがこの壺に憑りついているっていう感じかしら。さっきまであんまり意識もなかったんだけど、ようやく頭がはっきりしてきた気がして、しゃべろうと思ったらしゃべることができたのよ」
「え、でもそれってどういうこと?」
リーシアは、考えてみた。
「お姉ちゃん、誰かにこの壺に封印されたとか、そういうこと?」
「たぶん、そんな感じなんだと思うわ。壺になったときわたしの身体は見えなかったから、もしかしたらその『誰か』がどこかに持って行ったのかもしれない」
「お姉ちゃんの魂だけこの壺に封印したか、本当にお姉ちゃんを殺しちゃって魂だけこの壺に乗り移っちゃったのか──」
「わたしもそのどっちかだと思うわ。とにかく、このことはその犯人しかわからないことよ」
錬金術を邪魔に思う誰かか、わたしを恨む誰かかわからないけどね、とノーラは続ける。
「どっちにしても、このままだとわからないままわたしは壺の状態で生きなくちゃいけない。そんなのまっぴらごめんよ。でもリーシア。あなたがこのアトリエを続けてくれるなら、いずれその犯人が姿を現すかもしれない。ことの真相がわかるかもしれないし、わたしが元の姿に戻ることもできるかもしれない」
「そうか!」
リーシアは、ぽんと手を打った。
「アトリエを続ければ、もしかしたらお姉ちゃんもほんとの姿に戻れるかもしれないんだ!」
「確実なことではないけれど、可能性はあるわ。だからリーシア、あなたがアトリエを続けてくれることはわたしにとってもとてもうれしいことなの」
「うん! うん、わかった! お姉ちゃん、わたし絶対アトリエ継いでみせるよ! それには錬金術を成功させなくちゃいけないんだけど、まずはやっぱり目玉焼きからかな?」
失ったと思っていたノーラが、こんな姿だけれど戻ってきた。というか、最初からそばにいてくれたのだ。ただ意識が朦朧としていただけで。
俄然やる気と喜びにわくわくし始めるリーシアに、けれどノーラは静かにさとした。
「うんうん、リーシア、そのことなんだけどね。その前にすることあるわよね?」
にこにこと声は笑っているようだが、絶対に目は笑っていない。そんな雰囲気を漂わせる口調だ。
「すること?」
「あなた、わたしとの四つの約束覚えてる?」
「約束?」
そこで、リーシアははたと気がついた。
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だけど、姉が死んだと聞かされてからそんなこと、すっかり頭から吹き飛んでしまっていた。
壺は叫んだ。
「あなた、もう一週間も薬湯飲んでないでしょ! 工房(ここ)に置いてある薬湯がぜんぜん減ってないもの! すぐわかるのよ! いますぐ飲みなさーい!!」
今度はさっきよりもはるかに大きな声で。
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