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不思議な小屋
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アイを探しに行く前に、何か役に立つものはないかと、月花とリョウはお互いの持ち物を確認することにした。
月花が持っていたのは腕時計と制服のポケットの中に携帯電話、ティッシュとハンカチ。リョウのほうも似たようなものだった。
「あれ……?」
そういえばと首元を探っていた月花が、首を傾げる。
「どうした?」
「いつもつけてるペンダントがない……」
小さなころに、アイからもらった月色の石がはまったペンダント。銀色とも黄色ともつかない不思議な色のそれを月花は気に入っていて、学校に行くとき以外はいつもつけていた。
高校になってからは自由な校風だったこともあり、学校にもペンダントをつけていっていた。今日も確かにそれをつけてきたはずなのに──ない。
「屋上から落ちたとき、落としたんじゃないか?」
リョウの言うとおりだとしたら、かなりショックだ。一気に落ち込む月花の頭をぽんぽんと撫で、リョウが慰めてくれる。
「とりあえず、滝水を探しながら雨をしのげそうな場所を探すか。降り出しそうだ」
がっかりしながらも空を見上げると、曇天はますます暗さを増している。
このあたりから見える一番背の高い木を目指して、二人は歩き始めた。木の上からあたりを見渡せば、民家があるかどうかも分かるだろうというのがリョウの言い分だ。
「リョウ、木なんて登れるの? 山に登ったほうが早いんじゃない?」
月花が心配したが、
「運動神経だけはいいんだぜ、俺。木登りなら小さいころによくやってたし。それに、山を登ってまた下りるんじゃ、二度手間だろ?」
とリョウ。
そういえばリョウは成績こそあまりよくないけれど、走るのは速かったんだっけ、と月花は思い出す。入学したてのころからアイと同じくひときわ目立っていたリョウのもとへ、よくあちこちの運動部が誘いにきていたっけ。本人はてんで興味がないらしくて、どの部活にも入らなかったけれど。
それから小一時間ほど、黙々と歩いた。
普段無口なリョウは、今日だけでもかなり話しているほうである。リョウなりに、心細い月花を気遣ってくれているのだろう。
リョウとは去年から同じクラスで、入学してひと月も経たないうちに告白された。
どうして誰からも好かれるリョウが、よりにもよって自分を選んでくれたのか不思議だったが、断る理由もなかったのでつきあうことを了承した。
リョウの人となりを知ったのは実際それからだったのだが、みんなの見る目は確かだなと思う。月花の誕生日が七月七日だと知っていたし、その日0時ぴったりにメールをくれた。クリスマスイブにはアイも一緒に、と言ったのにもかかわらず快く了承してくれたしバレンタインにぐしゃぐしゃに失敗した手作りチョコを、ごみ箱に捨てようとしたのを止めて、すすんで食べてくれた。
それに、キスもまだためらいがある月花の気持ちを尊重して、いまだに肉体関係は一切ない。せいぜいが手を繋ぐくらいだ。──いまさらながら、どうしてこんな自分とつきあってくれているのだろう。
「──ねえリョウ、」
尋ねようとしたところへ、それをかき消すほど大きな雷鳴が轟いた。悲鳴を上げる月花の手を、リョウが引っ張る。思わずリョウに抱きついていた。たちまち大粒の雨が降り出し、雷が襲ってくる。
しばらく守るように月花を抱きしめ返していたリョウは、ふと巡らせていた視線を止めた。
「小屋がある」
「え?」
「こっちだ」
再び手を引っ張られ、月花は走り出す。小屋って、こんな森の中にそんなものが?
しかしその疑念は間もなく晴れた。木々に覆い隠されるようにして、本当に小屋があったのだ。
木だけでできた、かなり薄汚れた小屋だがなぜかどこか懐かしい感じがする。
そうだ、昔読んだ絵本の森の中にも同じような小屋が出てきた。見た目は薄汚れているけれど、中は魔法であたたまっていて疲れた旅人のために常にあたたかな毛布や非常食があって──。
「──いやにあったかいな、この中」
扉を開けたリョウは訝しんだが、ぶるぶると震えている月花に気づき、「入ろう」と背中を押してくれた。確かに小屋の中は、暖房でも効いているかのようにあたたまっている。
二十畳ちょっとほどの広さに、小さな窓と暖炉。その脇には薪が積んである。小屋の中央には小さなテーブルが置いてあり、丸い木の椅子が二脚。暖炉と反対側の壁には小さな貯蔵庫のようなものがあり、壁にぴったりくっつくようにして古びたベッドがあってその上に毛布が並べてあった。
「……誰か住んでるのか?」
リョウはまだ首を傾げながらも、二枚ある毛布のうち一枚をよこしてくれた。冬のこの時期、こんな雨に濡れたら風邪どころではすまないかもしれない。月花は怪しむ余裕すらなく、濡れた身体を制服の上から拭く。
「見ないから、ちゃんと脱いで拭いたほうがいい」
リョウの言葉に一瞬ためらったが、半端じゃなく身体が冷えている。いまさらリョウが月花を裏切るとも思えない。リョウが向こうを向いているのを確認して、月花は思い切って制服を脱いだ。ポニーテールにしておいた髪もほどくと、肩下までの黒髪は短い間にすっかりびしょ濡れになっていた。本当は下着も脱ぎたかったが、さすがにはばかられる。腕時計とブラジャーだけ外して、たたんだ制服の間に入れ、身体をすっぽり毛布でくるんだ。携帯電話は防水だからか無事だったが、ハンカチもびしょびしょ。ティッシュに至っては使い物にならなくなっている。
月花がそうしている間に、リョウのほうは上半身だけ脱いで毛布を頭からかぶり、貯蔵庫らしきものの中身をチェックをしていた。
「もうこっち向いてもいいよ。ありがとう」
おずおずと月花が歩み寄ると、黙ったまま何かを差し出してくる。受け取ると、干しイモのようだった。
「一口食べてみたけど、大丈夫そうだ」
合図にしたように、ぐうっとお腹が鳴る。そういえば、お弁当を食べる前だった。リョウを信じて、干しイモをかじる。見た目は地味なのに香ばしくて甘い。
「おいしいね」
月花の言葉に、リョウは少しだけ微笑んだ。
月花が持っていたのは腕時計と制服のポケットの中に携帯電話、ティッシュとハンカチ。リョウのほうも似たようなものだった。
「あれ……?」
そういえばと首元を探っていた月花が、首を傾げる。
「どうした?」
「いつもつけてるペンダントがない……」
小さなころに、アイからもらった月色の石がはまったペンダント。銀色とも黄色ともつかない不思議な色のそれを月花は気に入っていて、学校に行くとき以外はいつもつけていた。
高校になってからは自由な校風だったこともあり、学校にもペンダントをつけていっていた。今日も確かにそれをつけてきたはずなのに──ない。
「屋上から落ちたとき、落としたんじゃないか?」
リョウの言うとおりだとしたら、かなりショックだ。一気に落ち込む月花の頭をぽんぽんと撫で、リョウが慰めてくれる。
「とりあえず、滝水を探しながら雨をしのげそうな場所を探すか。降り出しそうだ」
がっかりしながらも空を見上げると、曇天はますます暗さを増している。
このあたりから見える一番背の高い木を目指して、二人は歩き始めた。木の上からあたりを見渡せば、民家があるかどうかも分かるだろうというのがリョウの言い分だ。
「リョウ、木なんて登れるの? 山に登ったほうが早いんじゃない?」
月花が心配したが、
「運動神経だけはいいんだぜ、俺。木登りなら小さいころによくやってたし。それに、山を登ってまた下りるんじゃ、二度手間だろ?」
とリョウ。
そういえばリョウは成績こそあまりよくないけれど、走るのは速かったんだっけ、と月花は思い出す。入学したてのころからアイと同じくひときわ目立っていたリョウのもとへ、よくあちこちの運動部が誘いにきていたっけ。本人はてんで興味がないらしくて、どの部活にも入らなかったけれど。
それから小一時間ほど、黙々と歩いた。
普段無口なリョウは、今日だけでもかなり話しているほうである。リョウなりに、心細い月花を気遣ってくれているのだろう。
リョウとは去年から同じクラスで、入学してひと月も経たないうちに告白された。
どうして誰からも好かれるリョウが、よりにもよって自分を選んでくれたのか不思議だったが、断る理由もなかったのでつきあうことを了承した。
リョウの人となりを知ったのは実際それからだったのだが、みんなの見る目は確かだなと思う。月花の誕生日が七月七日だと知っていたし、その日0時ぴったりにメールをくれた。クリスマスイブにはアイも一緒に、と言ったのにもかかわらず快く了承してくれたしバレンタインにぐしゃぐしゃに失敗した手作りチョコを、ごみ箱に捨てようとしたのを止めて、すすんで食べてくれた。
それに、キスもまだためらいがある月花の気持ちを尊重して、いまだに肉体関係は一切ない。せいぜいが手を繋ぐくらいだ。──いまさらながら、どうしてこんな自分とつきあってくれているのだろう。
「──ねえリョウ、」
尋ねようとしたところへ、それをかき消すほど大きな雷鳴が轟いた。悲鳴を上げる月花の手を、リョウが引っ張る。思わずリョウに抱きついていた。たちまち大粒の雨が降り出し、雷が襲ってくる。
しばらく守るように月花を抱きしめ返していたリョウは、ふと巡らせていた視線を止めた。
「小屋がある」
「え?」
「こっちだ」
再び手を引っ張られ、月花は走り出す。小屋って、こんな森の中にそんなものが?
しかしその疑念は間もなく晴れた。木々に覆い隠されるようにして、本当に小屋があったのだ。
木だけでできた、かなり薄汚れた小屋だがなぜかどこか懐かしい感じがする。
そうだ、昔読んだ絵本の森の中にも同じような小屋が出てきた。見た目は薄汚れているけれど、中は魔法であたたまっていて疲れた旅人のために常にあたたかな毛布や非常食があって──。
「──いやにあったかいな、この中」
扉を開けたリョウは訝しんだが、ぶるぶると震えている月花に気づき、「入ろう」と背中を押してくれた。確かに小屋の中は、暖房でも効いているかのようにあたたまっている。
二十畳ちょっとほどの広さに、小さな窓と暖炉。その脇には薪が積んである。小屋の中央には小さなテーブルが置いてあり、丸い木の椅子が二脚。暖炉と反対側の壁には小さな貯蔵庫のようなものがあり、壁にぴったりくっつくようにして古びたベッドがあってその上に毛布が並べてあった。
「……誰か住んでるのか?」
リョウはまだ首を傾げながらも、二枚ある毛布のうち一枚をよこしてくれた。冬のこの時期、こんな雨に濡れたら風邪どころではすまないかもしれない。月花は怪しむ余裕すらなく、濡れた身体を制服の上から拭く。
「見ないから、ちゃんと脱いで拭いたほうがいい」
リョウの言葉に一瞬ためらったが、半端じゃなく身体が冷えている。いまさらリョウが月花を裏切るとも思えない。リョウが向こうを向いているのを確認して、月花は思い切って制服を脱いだ。ポニーテールにしておいた髪もほどくと、肩下までの黒髪は短い間にすっかりびしょ濡れになっていた。本当は下着も脱ぎたかったが、さすがにはばかられる。腕時計とブラジャーだけ外して、たたんだ制服の間に入れ、身体をすっぽり毛布でくるんだ。携帯電話は防水だからか無事だったが、ハンカチもびしょびしょ。ティッシュに至っては使い物にならなくなっている。
月花がそうしている間に、リョウのほうは上半身だけ脱いで毛布を頭からかぶり、貯蔵庫らしきものの中身をチェックをしていた。
「もうこっち向いてもいいよ。ありがとう」
おずおずと月花が歩み寄ると、黙ったまま何かを差し出してくる。受け取ると、干しイモのようだった。
「一口食べてみたけど、大丈夫そうだ」
合図にしたように、ぐうっとお腹が鳴る。そういえば、お弁当を食べる前だった。リョウを信じて、干しイモをかじる。見た目は地味なのに香ばしくて甘い。
「おいしいね」
月花の言葉に、リョウは少しだけ微笑んだ。
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