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イケメン同級生との再会
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ゆさゆさと、誰かが身体を揺さぶっている。
うーん……いい気持ちなんだから、邪魔しないで……。
羽根布団のふわふわに頬ずりをしていると、
「りんごちゃん。そんなに可愛い顔して寝てたら、襲っちゃうよ?」
とんでもない台詞が降ってきて、わたしはパチリと目を開けた。
これって、夢なんだろうか。
昨日まさに夢に見ていたイケメン旦那さまが、目の前にいる。
だけど夢じゃない証拠に、このイケメン旦那さまはわたしをこう呼ぶんだ。
「りんごちゃん。おはようのキスは?」
なんだか、夢と現実がごっちゃになったような気分。
「しないと、こっちからするよ?」
相変わらずなんて横暴なんだ、椛さんは!
泣く泣くふかふかの布団から起き上がり、わたしはそーっと椛さんの顔に自分の顔を近づける。
だって、せっかく結婚までしたんだから仲良くなりたいって思ったし……
それに、椛さんとキスするの……どうしてか、イヤじゃないし……。
でも、自分からキスするのってやっぱり恥ずかしい。
ミリ単位で顔を近づけていくわたしの耳に、遠くノックの音が聞こえてきた。
寝室の向こう、リビングのさらに向こうのほうから水口夏斗の声がする。
「椛さま、りんご……りん子さま。朝食の準備ができてますよー」
天の助け!
毎度グッドタイミングだ、水口夏斗!
助かった、と思うってことはわたし、まだ椛さんに心をすっかり許せたわけじゃないんだなあ。
昨日の今日だから、当たり前といえば当たり前だけど。
チッとちいさく舌打ちの音が聞こえる。
え、椛さん?
もしかして、いま舌打ちしたのって椛さんですか?
そんな穏やかで優しくてきれいな容姿で舌打ちとか、イメージとまるっきり違ってびっくりなんですけど。
だけど椛さんは、笑顔のまま。
「残念、時間切れ。食事して会社に行く支度をしようか」
「あ……はい」
そうだ、そうだった。
今日からわたし、会社で働くことになったんだった。
それもこれも、水口夏斗が提案してくれたおかげだ。
心の中で再度感謝しながら、わたしは荷物の中から着替えを引っ張り出す。
昨日のうちにわたしの持っている服は、あらかた水口夏斗が洗濯をして、乾燥機で乾かしておいてくれたから問題なしだ。
なんとなくまだ臭いにおいは取れないけど、汚れはきれいに落ちている。
あ、でも会社にはスーツで行かなくちゃいけないのかな?
なんて思いながら着替えようとすると、視線を感じて振り向いた。
「着替えないの?」
にこにこと、さも当然とばかりに椛さんがベッドの中から、わたしが着替えはじめるのを待っている。
「見られてたら着替えられません!」
「りんごちゃんて、ほんとにかわいいね」
くすくす笑って、椛さんはようやく起き上がってベッドから降りた。
「ぼくは洗面所で着替えてくるよ。ああ、それからゆうべのうちに夏斗にスーツをそろえさせたから、会社にはそれを着ていくんだよ」
「あ……はい! ありがとうございます!」
椛さん、ちゃんとそんなことまでしてくれていたんだ。
うれしいなあ。
わたしは部屋着に、椛さんはスーツのズボンに上は白シャツ、セーターといった格好で食堂で朝食をとる。
全館暖房が効いているから、ぬくくてぬくくて……朝食もおいしいし、幸せ。
ちなみに今朝は豪華な盛りつけのされた、パンケーキ主体の食事だった。
こんなにお洒落なパンケーキ食べたのって、初めてかもしれない。
部屋に戻ろうとすると、水口夏斗に呼び止められた。
「りんご! じゃねぇや。りん子さま、これ」
「ん? なんですか?」
いや、もう別にりんごでもいいけどね、呼び方。
椛さんもさんざんりんごちゃんって呼んでるし、もういちいち訂正するのもめんどくさいし。
彼は大きな紙袋をわたしに渡しながら言った。
「スーツです。あとメイクもちゃんとしてってくださいよ。椛さまの専属秘書なんだから、見た目がきちんとしてねぇとサマにならねぇから」
「あ、ありがとうございます……って、メイク?」
わたしは、慌てた。
だってメイクだなんて、色つきリップくらいしかしたことがない!
化粧品って、お金かかるんだもん。
「化粧品なんて、持ってませんよ」
「おまえ、それでも女か!?」
呆れたような水口夏斗を、椛さんが宥めた。
「まあまあ夏斗。こんなこともあろうかと、スーツと一緒にそろえさせただろう?」
「……ですね。マジ、椛さまの言うとおりですよ」
ん? 何の話?
きょとんとするわたしに、水口夏斗が足元に置いてあった紙袋を渡してくる。
「化粧品。おまえが持ってないんじゃないかって、スーツと一緒にそろえるように椛さまに言われてたんだ」
椛さんて、頭の回転もいい人なんだなあ。
でもですね、ほんとに申し訳ないんだけども……。
「ええと、わたし……ちゃんとしたメイクができるかイマイチ自信が……」
「それも予想済み。りんごちゃんのメイクは、ぼくがやるからだいじょうぶ」
「えっ……社長が?」
なんで椛さんがそんなことできるの?
そんなわたしの疑問を読み取ったのか、水口夏斗が自慢げに言った。
「モテる男の常識だろ。椛さまは女のイロハ、なんでもできるんだぜ」
いやいや、全然常識じゃないと思いますけどっ!?
「それなりの数の女性とつきあってきて、自然とできるようになったんだよ」
瞬間、セレブなお姉さま方にいろいろと仕込まれる椛さんの姿を想像してしまい、わたしは慌てて頭を振って打ち消した。なにを考えているんだ、わたしってば!
で、部屋に戻ってスーツに着替えたわたしを、椛さんはさっそく洗面所に連れていった。
椅子を持ち込んで、そこにわたしを座らせる。
「目を閉じていて」
「あ、はい」
「明日からはもっとメイクがしやすいように、今日中に部屋に化粧台も設置させておくからね」
「そんな、もったいないです!」
「ぼくが自分の奥さんのためにお金をかけるのは、いけないことかな?」
と言われてしまえば、反対なんてできるはずもなく……。
ものの5分としないうちに、「目を開けていいよ」と肩を叩かれた。
洗面所の鏡に映っているのは、どこの美人?と目を疑ってしまうほど。
メイクの力って、恐い。
いや、椛さんのメイクの腕が恐い。
だけど椛さんは、わたしの肩下あたりまでぼさぼさにのびた髪をひと房手に取って、首をひねっている。
「しまったなあ。昨日のうちに、りんごちゃんに美容院に行ってもらうんだった」
確かにね。
わたしの髪の毛、汚れは落ちているけども毛先がぼさぼさだし、美容院なんて何年も行ってなくて自分でそろえてただけだから、おさまりが悪い。
「髪、ひっつめちゃいましょうか? 前にスーパーで働いてたときは、そうしてました」
「うーん、なんとか見られるようにやってみようか。ピンとか持ってる?」
「あ、はい。一応」
わたしは一度部屋に戻って、荷物の中からクローバーの髪留めやらピンやらが入った巾着袋を持ってくる。
「髪留めはこれだけ?」
「はい」
椛さんはピンで器用にわたしの髪をまとめながら、うーんとうなる。
椛さんの指先って、どうなっているんだろう。ものすごく早く、かつ丁寧にわたしの髪をまとめていく。まるで、プロの美容師みたい。
あっという間にわたしの髪はアップにされ、どこから見ても「デキる女」と言える容姿になっていた。
ちょこんと、クローバーの髪留めだけが子供っぽいのが玉にキズ。
椛さんがうなっていた理由が、わかったかもしれない。
「髪留めもそろえさせよう。可愛い系のだけじゃなくて、大人っぽいのもね」
「すみません」
申し訳なくなって頭を下げると、椛さんはにっこり微笑んだ。
「可愛いから、許す。さ、行こうか」
スーツと一緒に入っていた高級でお洒落な仕事鞄を持って、椛さんと一緒に昨日の黒塗りの車に乗り込む。
「すげぇ、椛さまにかかるとどんな女でも美人に変わるんですね。さすがだわ」
見送りにきた水口夏斗が、わたしに見惚れるようにそうつぶやいていた。
誉められてるんだかけなされてるんだかわからないけど、ちょっとうれしいかも。
車に乗ってしばらく行くと、オフィス街に着いた。
大きなオフィスビルのひとつで、椛さんと一緒に車を降りる。
玄関前に、すでに出迎えの人影があった。
「社長、おはようございます」
「おはよう、寝屋川くん」
寝屋川くん……?
って、もしかして。
「寝屋川静夜!?」
思わず声を上げてしまったのは、そこにいた出迎えのイケメン男が、あのイジメっ子同級生と同一人物だと知ってしまったから。
そういえば面影がある!
最後に会ったのは大学生のとき、同窓会に行ったときだから……
髪をきちんとセットしてるし眼鏡をかけていたからわからなかったけど、よくよく見たら、イジワルげな目元とかそのまんまだ。
一方、突然名前を呼ばれた寝屋川静夜のほうも、しげしげとわたしを見つめて驚きの声を上げた。
「おまえ……もしかして、りん子か?」
そういえば椛さん、静夜は自分の秘書をしているって言っていたっけ。
まさかこういう形で再会することになろうとは。
その椛さんはといえば、わたしの肩を抱き寄せて静夜に向けて微笑んだ。
「そうそう、寝屋川くん、紹介しておくよ。彼女は結木りん子、ぼくの奥さんだ。今日から専属秘書として働いてもらうから、ここに来てもらった。きみとはおなじ職場になるわけだけど、くれぐれもいじめたりしないであげてね」
「奥さん……? 専属秘書……?」
ぽかんと口を開けている、静夜。
彼にとっては、寝耳に水なことばかりだろう。
張本人であるわたしでさえも、この状況に若干ついていけてないし慣れてもいないわけだから、当然かもしれない。
だけど静夜は、すぐに持ち前のクールさを取り戻したように姿勢を正し、わたしに向けて一礼した。
「失礼しました、奥さま。本日からよろしくお願いいたします。──ですが、私が敬語でいるのはいまだけ。これからは仕事仲間としての態度を取らせていただきますので、あしからず」
だけど、眼鏡の奥の瞳は冷たいままで……
思わずわたしは、イジメられていた過去を思い出して背筋がゾッとしてしまった。
わたしには、わかる。
彼のこれは……
なにかを企んでいるときの、目だ。
わたしをイジメる直前の、眼差しだ。
「ふたりとも、行こうか。朝礼に遅れちゃうよ」
それを知ってか知らずか椛さんは、まるで静夜から守るかのようにわたしの肩を抱いたままビルの中に入っていく。
なんだか波乱の幕開けのような気がするのは……わたしだけ?
うーん……いい気持ちなんだから、邪魔しないで……。
羽根布団のふわふわに頬ずりをしていると、
「りんごちゃん。そんなに可愛い顔して寝てたら、襲っちゃうよ?」
とんでもない台詞が降ってきて、わたしはパチリと目を開けた。
これって、夢なんだろうか。
昨日まさに夢に見ていたイケメン旦那さまが、目の前にいる。
だけど夢じゃない証拠に、このイケメン旦那さまはわたしをこう呼ぶんだ。
「りんごちゃん。おはようのキスは?」
なんだか、夢と現実がごっちゃになったような気分。
「しないと、こっちからするよ?」
相変わらずなんて横暴なんだ、椛さんは!
泣く泣くふかふかの布団から起き上がり、わたしはそーっと椛さんの顔に自分の顔を近づける。
だって、せっかく結婚までしたんだから仲良くなりたいって思ったし……
それに、椛さんとキスするの……どうしてか、イヤじゃないし……。
でも、自分からキスするのってやっぱり恥ずかしい。
ミリ単位で顔を近づけていくわたしの耳に、遠くノックの音が聞こえてきた。
寝室の向こう、リビングのさらに向こうのほうから水口夏斗の声がする。
「椛さま、りんご……りん子さま。朝食の準備ができてますよー」
天の助け!
毎度グッドタイミングだ、水口夏斗!
助かった、と思うってことはわたし、まだ椛さんに心をすっかり許せたわけじゃないんだなあ。
昨日の今日だから、当たり前といえば当たり前だけど。
チッとちいさく舌打ちの音が聞こえる。
え、椛さん?
もしかして、いま舌打ちしたのって椛さんですか?
そんな穏やかで優しくてきれいな容姿で舌打ちとか、イメージとまるっきり違ってびっくりなんですけど。
だけど椛さんは、笑顔のまま。
「残念、時間切れ。食事して会社に行く支度をしようか」
「あ……はい」
そうだ、そうだった。
今日からわたし、会社で働くことになったんだった。
それもこれも、水口夏斗が提案してくれたおかげだ。
心の中で再度感謝しながら、わたしは荷物の中から着替えを引っ張り出す。
昨日のうちにわたしの持っている服は、あらかた水口夏斗が洗濯をして、乾燥機で乾かしておいてくれたから問題なしだ。
なんとなくまだ臭いにおいは取れないけど、汚れはきれいに落ちている。
あ、でも会社にはスーツで行かなくちゃいけないのかな?
なんて思いながら着替えようとすると、視線を感じて振り向いた。
「着替えないの?」
にこにこと、さも当然とばかりに椛さんがベッドの中から、わたしが着替えはじめるのを待っている。
「見られてたら着替えられません!」
「りんごちゃんて、ほんとにかわいいね」
くすくす笑って、椛さんはようやく起き上がってベッドから降りた。
「ぼくは洗面所で着替えてくるよ。ああ、それからゆうべのうちに夏斗にスーツをそろえさせたから、会社にはそれを着ていくんだよ」
「あ……はい! ありがとうございます!」
椛さん、ちゃんとそんなことまでしてくれていたんだ。
うれしいなあ。
わたしは部屋着に、椛さんはスーツのズボンに上は白シャツ、セーターといった格好で食堂で朝食をとる。
全館暖房が効いているから、ぬくくてぬくくて……朝食もおいしいし、幸せ。
ちなみに今朝は豪華な盛りつけのされた、パンケーキ主体の食事だった。
こんなにお洒落なパンケーキ食べたのって、初めてかもしれない。
部屋に戻ろうとすると、水口夏斗に呼び止められた。
「りんご! じゃねぇや。りん子さま、これ」
「ん? なんですか?」
いや、もう別にりんごでもいいけどね、呼び方。
椛さんもさんざんりんごちゃんって呼んでるし、もういちいち訂正するのもめんどくさいし。
彼は大きな紙袋をわたしに渡しながら言った。
「スーツです。あとメイクもちゃんとしてってくださいよ。椛さまの専属秘書なんだから、見た目がきちんとしてねぇとサマにならねぇから」
「あ、ありがとうございます……って、メイク?」
わたしは、慌てた。
だってメイクだなんて、色つきリップくらいしかしたことがない!
化粧品って、お金かかるんだもん。
「化粧品なんて、持ってませんよ」
「おまえ、それでも女か!?」
呆れたような水口夏斗を、椛さんが宥めた。
「まあまあ夏斗。こんなこともあろうかと、スーツと一緒にそろえさせただろう?」
「……ですね。マジ、椛さまの言うとおりですよ」
ん? 何の話?
きょとんとするわたしに、水口夏斗が足元に置いてあった紙袋を渡してくる。
「化粧品。おまえが持ってないんじゃないかって、スーツと一緒にそろえるように椛さまに言われてたんだ」
椛さんて、頭の回転もいい人なんだなあ。
でもですね、ほんとに申し訳ないんだけども……。
「ええと、わたし……ちゃんとしたメイクができるかイマイチ自信が……」
「それも予想済み。りんごちゃんのメイクは、ぼくがやるからだいじょうぶ」
「えっ……社長が?」
なんで椛さんがそんなことできるの?
そんなわたしの疑問を読み取ったのか、水口夏斗が自慢げに言った。
「モテる男の常識だろ。椛さまは女のイロハ、なんでもできるんだぜ」
いやいや、全然常識じゃないと思いますけどっ!?
「それなりの数の女性とつきあってきて、自然とできるようになったんだよ」
瞬間、セレブなお姉さま方にいろいろと仕込まれる椛さんの姿を想像してしまい、わたしは慌てて頭を振って打ち消した。なにを考えているんだ、わたしってば!
で、部屋に戻ってスーツに着替えたわたしを、椛さんはさっそく洗面所に連れていった。
椅子を持ち込んで、そこにわたしを座らせる。
「目を閉じていて」
「あ、はい」
「明日からはもっとメイクがしやすいように、今日中に部屋に化粧台も設置させておくからね」
「そんな、もったいないです!」
「ぼくが自分の奥さんのためにお金をかけるのは、いけないことかな?」
と言われてしまえば、反対なんてできるはずもなく……。
ものの5分としないうちに、「目を開けていいよ」と肩を叩かれた。
洗面所の鏡に映っているのは、どこの美人?と目を疑ってしまうほど。
メイクの力って、恐い。
いや、椛さんのメイクの腕が恐い。
だけど椛さんは、わたしの肩下あたりまでぼさぼさにのびた髪をひと房手に取って、首をひねっている。
「しまったなあ。昨日のうちに、りんごちゃんに美容院に行ってもらうんだった」
確かにね。
わたしの髪の毛、汚れは落ちているけども毛先がぼさぼさだし、美容院なんて何年も行ってなくて自分でそろえてただけだから、おさまりが悪い。
「髪、ひっつめちゃいましょうか? 前にスーパーで働いてたときは、そうしてました」
「うーん、なんとか見られるようにやってみようか。ピンとか持ってる?」
「あ、はい。一応」
わたしは一度部屋に戻って、荷物の中からクローバーの髪留めやらピンやらが入った巾着袋を持ってくる。
「髪留めはこれだけ?」
「はい」
椛さんはピンで器用にわたしの髪をまとめながら、うーんとうなる。
椛さんの指先って、どうなっているんだろう。ものすごく早く、かつ丁寧にわたしの髪をまとめていく。まるで、プロの美容師みたい。
あっという間にわたしの髪はアップにされ、どこから見ても「デキる女」と言える容姿になっていた。
ちょこんと、クローバーの髪留めだけが子供っぽいのが玉にキズ。
椛さんがうなっていた理由が、わかったかもしれない。
「髪留めもそろえさせよう。可愛い系のだけじゃなくて、大人っぽいのもね」
「すみません」
申し訳なくなって頭を下げると、椛さんはにっこり微笑んだ。
「可愛いから、許す。さ、行こうか」
スーツと一緒に入っていた高級でお洒落な仕事鞄を持って、椛さんと一緒に昨日の黒塗りの車に乗り込む。
「すげぇ、椛さまにかかるとどんな女でも美人に変わるんですね。さすがだわ」
見送りにきた水口夏斗が、わたしに見惚れるようにそうつぶやいていた。
誉められてるんだかけなされてるんだかわからないけど、ちょっとうれしいかも。
車に乗ってしばらく行くと、オフィス街に着いた。
大きなオフィスビルのひとつで、椛さんと一緒に車を降りる。
玄関前に、すでに出迎えの人影があった。
「社長、おはようございます」
「おはよう、寝屋川くん」
寝屋川くん……?
って、もしかして。
「寝屋川静夜!?」
思わず声を上げてしまったのは、そこにいた出迎えのイケメン男が、あのイジメっ子同級生と同一人物だと知ってしまったから。
そういえば面影がある!
最後に会ったのは大学生のとき、同窓会に行ったときだから……
髪をきちんとセットしてるし眼鏡をかけていたからわからなかったけど、よくよく見たら、イジワルげな目元とかそのまんまだ。
一方、突然名前を呼ばれた寝屋川静夜のほうも、しげしげとわたしを見つめて驚きの声を上げた。
「おまえ……もしかして、りん子か?」
そういえば椛さん、静夜は自分の秘書をしているって言っていたっけ。
まさかこういう形で再会することになろうとは。
その椛さんはといえば、わたしの肩を抱き寄せて静夜に向けて微笑んだ。
「そうそう、寝屋川くん、紹介しておくよ。彼女は結木りん子、ぼくの奥さんだ。今日から専属秘書として働いてもらうから、ここに来てもらった。きみとはおなじ職場になるわけだけど、くれぐれもいじめたりしないであげてね」
「奥さん……? 専属秘書……?」
ぽかんと口を開けている、静夜。
彼にとっては、寝耳に水なことばかりだろう。
張本人であるわたしでさえも、この状況に若干ついていけてないし慣れてもいないわけだから、当然かもしれない。
だけど静夜は、すぐに持ち前のクールさを取り戻したように姿勢を正し、わたしに向けて一礼した。
「失礼しました、奥さま。本日からよろしくお願いいたします。──ですが、私が敬語でいるのはいまだけ。これからは仕事仲間としての態度を取らせていただきますので、あしからず」
だけど、眼鏡の奥の瞳は冷たいままで……
思わずわたしは、イジメられていた過去を思い出して背筋がゾッとしてしまった。
わたしには、わかる。
彼のこれは……
なにかを企んでいるときの、目だ。
わたしをイジメる直前の、眼差しだ。
「ふたりとも、行こうか。朝礼に遅れちゃうよ」
それを知ってか知らずか椛さんは、まるで静夜から守るかのようにわたしの肩を抱いたままビルの中に入っていく。
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