湖畔の賢者

そらまめ

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閑話

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 グラディウル帝国城の玉座の間では左目を眼帯で隠した偉丈夫が足を組んで玉座に座り、配下の者より報告を受けていた。

「チッ、サントゥールも馬鹿な真似を」

 皇帝は舌打ちをした後に肘掛けに肘を置いて頬杖をついた。

「専守防衛を是としたルキアではありますが、まさかサントゥール全土を半年で落とすほどの強兵国だとは思いませんでしたな」
「騎士の練度もその数も報告を聞く限り、今のうちより上だな」
「サントゥール北部で覚醒種に遭遇しなければ互角だったのでしょうが」

 皇帝は足を組み直し、今度は胸の前で腕を組んだ。

「しかもだ。エルフィアとの不戦条約と同盟なんざ結びやがって、これじゃ事実上エルフの庇護下に置かれたことになるじゃねぇか。東は全てエルフの支配下に置かれ、今後東側に手を出すのも難しくなっちまったしよ。ほんとクソったれな状況だぜ」
「元々、東側への侵攻は覚醒種の回避行動を避けたいが為の理由でしたが、上手くはいかないものですな」
「だな。その覚醒種に軍の大半が潰されたしな。これも天罰なのか、女神の試練なのか分からんものだな」

 皇帝はその不運を吐き出すように、大きく息を吐いていた。

「それよりも、会ってみてぇと思わねぇか。湖畔の大賢者様とやらによ」
「世界樹様の加護を授かりし御仁ですな。空間魔法や転移魔法などを扱えるということですが眉唾物ですな」
「なんだ、報告を信じてねぇのか」
「転移魔法なんて御伽話ですからな」

 クッ、クックククと皇帝は笑いだした。

「爺さんも耄碌したな。迷い人なんだろ、そいつはよ。なら、なんらかの魔法法則を見つけたのかもしれねぇぞ。その可能性は充分にあり得ると俺は思うがな」
「左様ですか。まあ、エルフの知恵を得た迷い人ならば陛下の言う通り、可能性は少しあるかもしれませんな」
「爺さんもほんと意固地よの」

 皇帝の笑い声が玉座の間に大きく響いた。

「ふん、陛下は先にメルティアと国境での衝突に心配してくだされ。我が帝国が一方的に攻められる事態など許してはなりませんぞ」
「あそこには静とロイドが向かったんだろ。なら楽勝じゃねぇか。西側では名高い英雄だ。さっさと敵を送り返してくれるだろうさ」

 剣姫シズカと剣聖ロイド。帝国を代表する英雄であり、迷い人である。

「しかし、なぜ今回は魔法師団を送らなかったのです。送ればさらに短期で終わると思いますぞ」
「今回のルキア騎士団の報告を読む限り、今後あの程度の魔法では通用しない。考えてもみろ。広範囲を一度に魔法で攻撃出来なければ、縦横無尽に馬を駆るルキア騎兵にすり抜けられ、本陣が落とされるだけだ。今後は広範囲殲滅魔法の開発、習得が出来るまでは奴等に出番はない。それが出来なければ魔法剣士、魔法騎士として前線デビューしてもらうさ」

 その皇帝の言に近くに控える近衛兵が反応した。

「それはいい考えですね。あんなポチポチ火球や礫を放っても、ほぼ戦場では無意味でしたしね。あれなら速射が出来る分、弓兵の方がよっぽど役に立ちます」
「なんだよ、美緒。やけに饒舌じゃねぇか」
「ふん、脳筋野郎にもやっと現実が見えたのかと感心してやっただけです」
「相変わらず素直じゃねぇな。そんなんだから顔は良くても男に振られてばかりなんだよ」
「か、関係ないでしょ今は!」

 その二人の様子を眺めて老人は一人ため息を吐く。

「仲が良いのも程々になされ」
「よくないわ!」

 二人の男女の声が重なる。これで仲が悪いなど誰が信用するのだろうか。
 皇帝シンと共にこちらの世界に迷い込んだ、帝国最高の大魔法師ミオ。
 この若き二人が帝国の屋台骨を支えていた。
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