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二十話
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海での真夏のリゾートはいつの間にか強化合宿に様変わりしていた。
数日前のあの日。五歳の美幼女に一方的に叩きのめされたエルとエマは悔しさから大泣きし、アルトリアたち大人組は肩を落として落ち込んでいた。そんなエルとエマに悠太さんは言った。
『悔しくて泣くのはまだ諦めていない証拠だ。君たち二人はまだまだ強くなるよ』
そんな優しい言葉を掛けられた二人は新たな決意を胸に立ち直った。けど大人組は凛子さんに手厳しく叱られていた。
『負けて落ち込む暇があるなら鍛錬なさい! 自分は強者だと慢心してるから、そんな風になるの。そんなのだと悪魔を相手にした時に軽く死ぬわよ。いい。あなたが倒した悪魔の王は既に満身創痍な状態だったの。万全の状態だったなら手も足も出なかったはずよ。言っとくけど、下位の悪魔でもあなた達より断然強いからね。その足りない頭で理解したなら、さっさと行動に移しなさい!』
刀を鞘に納めた状態で凛子さんにお尻を叩かれた大人組。有無も言わさずに鍛錬を再開させていた。本気でスパルタってこの事なんだと思った次第だ。
でもあの日から僕を含めた全員が本気で全力で真剣に稽古をするようになった。悪魔の存在が確実となった今、これは良い傾向なのかもしれない。
「恐れるな、前へ踏み込め!」
「かっははは、そんな軟弱な剣では我には届かぬぞ」
屈強なイケオジと獅子頭の巨躯な男性が砂浜で僕等を相手に稽古をつけてくれていた。ちなみにイケオジは悠太さんの先生らしい。
その指導は容赦ない。というか、自信を確実に折ってくるような事をしてくる。エルザの大剣を人差し指と中指の二本で止めたり。アルトリアの素早い突きを人差し指の腹で軽く受け止めるなど。それはもう自信もプライドも折られまくりだった。また、魔法を織り交ぜようとしても、発動が遅いと叱られて余裕でキャンセルさせられる。残された道は自爆覚悟の肉弾戦なのだが、それすらも届かない。けれど、僕たちには僅かではあるが確実に強くなっている自覚はあった。
「はあ、はあ、はあ……やっと終わった」
「もう動けない」
「せんせー、歩けないよぅ」
「エマもー」
僕は大の字に砂浜に寝転がり、両腕にエルとエマ。そしてお腹にはアルトリアが頭をのせていた。そんな僕の傍でエルザたちも横たわっている。
「あの人たちが闇の大神様とその眷属の左の方かぁ。噂よりは良い人で良かった」
「でも性格は噂通り意地悪だよね」
意地悪のレベルを遥かに超えているような気もするけど。あれも折れない心をつくるためなんだろう。
「偶には一日休んでリフレッシュしようか」
「さんせいなのー!」
「やすむのー!」
「そうよね。偶には身体を休ませてあげないと」
僕等は全員一致で明日は休暇にすることにした。久々の休みになんか胸が高まる思いだった。ん……でも海にリゾートに来たんだよな。僕たちは……
ホエー村。時折立ち寄るこの村は、いかにも漁師の村という感じで中々に活気がある村だ。今日もそこらじゅうで元気な漁師たちが喧嘩をしていて、散々殴り合った後に豪快に笑いながら肩を並べて酒を酌み交わしている。とても元気の良い活気ある村なのだ。
「これを元気といえるのか」
「活気なのですか」
エルザとエルナが呆れた風に疑問を呈した。しかし、僕の漁師町に対する勝手なイメージではそうなので仕方がない。こればっかりはしょうがない。
「テメェ、うちのカミさんのケツ触りやがったな!」
「たまたまだよ!」
また僕等の側で喧嘩が始まった。そんなありきたりの場面を無視して僕等は目的の王室御用達の夏場限定レストランに向かった。
アリアを先頭にレストランの中へ入ると二階の個室に案内された。そこは豪華……ではなく。壁紙とか内装はとても洗練されているのだが調度品や装飾品の類は最低限に留められていた。
「メニューはありませんの。全て日替わりでシェフのお勧めですわ」
席に着くなり常連のアリアがそう教えてくれた。
モダンなスタイルの給仕服を身に纏った見目麗しい女性たちが僕たちの前に手際よくナイフやフォークなどを置いていく。慣れない僕は恐縮しながらその様子を眺めていた。
「あれだな。頑張ったご褒美で休みの前祝いということで……あははは」
緊張のあまり、何かを話さなければという意味不明な行動に出てしまった。
「なんだ。もしかして緊張してるのか」
「トールさんにしては珍しいですね」
「せんせー震えてるのー」
「ずっと膝の上でグーなのー」
エルザとエルナに続いてエルとエマまでもが僕を揶揄ってきた。しかし僕は知っている。僕だけではなく、アルトリアも緊張していることを。そんなアルトリアがカクカクとしたぎこちない動きで僕を見た。
「透。どうやって食べるの」
「……料理が運ばれていないから、まだ僕にも分からないよ」
そう。フォークとナイフを置かれただけで食べ方なんて分かる訳もなく。僕には答えようのない質問だった。
「あ、普通に大皿料理が並ぶだけですわ。それを給仕係が取り分けてくれますから安心してください、なのですわ」
その最後の、「なのですわ」は要るのだろうか。そう疑問に思いながらもアリアの話を聞いて安心した僕とアルトリアは視線を合わせて互いに息を吐いた。
その後、美味しい料理に舌鼓を打って食事を楽しんだ。なんか久しぶりに和やかな雰囲気に包まれての食事で。僕等は心身ともにリフレッシュしたのだった。
数日前のあの日。五歳の美幼女に一方的に叩きのめされたエルとエマは悔しさから大泣きし、アルトリアたち大人組は肩を落として落ち込んでいた。そんなエルとエマに悠太さんは言った。
『悔しくて泣くのはまだ諦めていない証拠だ。君たち二人はまだまだ強くなるよ』
そんな優しい言葉を掛けられた二人は新たな決意を胸に立ち直った。けど大人組は凛子さんに手厳しく叱られていた。
『負けて落ち込む暇があるなら鍛錬なさい! 自分は強者だと慢心してるから、そんな風になるの。そんなのだと悪魔を相手にした時に軽く死ぬわよ。いい。あなたが倒した悪魔の王は既に満身創痍な状態だったの。万全の状態だったなら手も足も出なかったはずよ。言っとくけど、下位の悪魔でもあなた達より断然強いからね。その足りない頭で理解したなら、さっさと行動に移しなさい!』
刀を鞘に納めた状態で凛子さんにお尻を叩かれた大人組。有無も言わさずに鍛錬を再開させていた。本気でスパルタってこの事なんだと思った次第だ。
でもあの日から僕を含めた全員が本気で全力で真剣に稽古をするようになった。悪魔の存在が確実となった今、これは良い傾向なのかもしれない。
「恐れるな、前へ踏み込め!」
「かっははは、そんな軟弱な剣では我には届かぬぞ」
屈強なイケオジと獅子頭の巨躯な男性が砂浜で僕等を相手に稽古をつけてくれていた。ちなみにイケオジは悠太さんの先生らしい。
その指導は容赦ない。というか、自信を確実に折ってくるような事をしてくる。エルザの大剣を人差し指と中指の二本で止めたり。アルトリアの素早い突きを人差し指の腹で軽く受け止めるなど。それはもう自信もプライドも折られまくりだった。また、魔法を織り交ぜようとしても、発動が遅いと叱られて余裕でキャンセルさせられる。残された道は自爆覚悟の肉弾戦なのだが、それすらも届かない。けれど、僕たちには僅かではあるが確実に強くなっている自覚はあった。
「はあ、はあ、はあ……やっと終わった」
「もう動けない」
「せんせー、歩けないよぅ」
「エマもー」
僕は大の字に砂浜に寝転がり、両腕にエルとエマ。そしてお腹にはアルトリアが頭をのせていた。そんな僕の傍でエルザたちも横たわっている。
「あの人たちが闇の大神様とその眷属の左の方かぁ。噂よりは良い人で良かった」
「でも性格は噂通り意地悪だよね」
意地悪のレベルを遥かに超えているような気もするけど。あれも折れない心をつくるためなんだろう。
「偶には一日休んでリフレッシュしようか」
「さんせいなのー!」
「やすむのー!」
「そうよね。偶には身体を休ませてあげないと」
僕等は全員一致で明日は休暇にすることにした。久々の休みになんか胸が高まる思いだった。ん……でも海にリゾートに来たんだよな。僕たちは……
ホエー村。時折立ち寄るこの村は、いかにも漁師の村という感じで中々に活気がある村だ。今日もそこらじゅうで元気な漁師たちが喧嘩をしていて、散々殴り合った後に豪快に笑いながら肩を並べて酒を酌み交わしている。とても元気の良い活気ある村なのだ。
「これを元気といえるのか」
「活気なのですか」
エルザとエルナが呆れた風に疑問を呈した。しかし、僕の漁師町に対する勝手なイメージではそうなので仕方がない。こればっかりはしょうがない。
「テメェ、うちのカミさんのケツ触りやがったな!」
「たまたまだよ!」
また僕等の側で喧嘩が始まった。そんなありきたりの場面を無視して僕等は目的の王室御用達の夏場限定レストランに向かった。
アリアを先頭にレストランの中へ入ると二階の個室に案内された。そこは豪華……ではなく。壁紙とか内装はとても洗練されているのだが調度品や装飾品の類は最低限に留められていた。
「メニューはありませんの。全て日替わりでシェフのお勧めですわ」
席に着くなり常連のアリアがそう教えてくれた。
モダンなスタイルの給仕服を身に纏った見目麗しい女性たちが僕たちの前に手際よくナイフやフォークなどを置いていく。慣れない僕は恐縮しながらその様子を眺めていた。
「あれだな。頑張ったご褒美で休みの前祝いということで……あははは」
緊張のあまり、何かを話さなければという意味不明な行動に出てしまった。
「なんだ。もしかして緊張してるのか」
「トールさんにしては珍しいですね」
「せんせー震えてるのー」
「ずっと膝の上でグーなのー」
エルザとエルナに続いてエルとエマまでもが僕を揶揄ってきた。しかし僕は知っている。僕だけではなく、アルトリアも緊張していることを。そんなアルトリアがカクカクとしたぎこちない動きで僕を見た。
「透。どうやって食べるの」
「……料理が運ばれていないから、まだ僕にも分からないよ」
そう。フォークとナイフを置かれただけで食べ方なんて分かる訳もなく。僕には答えようのない質問だった。
「あ、普通に大皿料理が並ぶだけですわ。それを給仕係が取り分けてくれますから安心してください、なのですわ」
その最後の、「なのですわ」は要るのだろうか。そう疑問に思いながらもアリアの話を聞いて安心した僕とアルトリアは視線を合わせて互いに息を吐いた。
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