湖畔の賢者

そらまめ

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「悠太様。ほんとに大丈夫なんですか」
「問題ない。ちゃんとマルデルや創造神様から許可は得たからな。それにだ。世界樹様から透を鍛えて欲しいと依頼されたのは俺だからな。何も心配するな」

 イマイチ俺を信用していないのか、ロータが心配を口にするも即座に一刀両断にしてやった。

「それにだ。秘密結社暁の解散後に極秘裏に結成された秘密結社暁星。暁創立メンバー四人と先生や創造神様を加えた新生秘密結社の出番じゃないか。主人公を鍛え、影から支援する。これこそ俺たち以外の誰が出来るというのか!」

 俺は両手を掲げ広げて、澄み渡る青空を見上げながら豪快に笑った。
 その様子にロータは少しドン引きしているが関係ない。俺が楽しければそれで良いのだ。

「まあ、最近冒険も出来なくて退屈そうでしたしね。しょうがないですねぇ。こんなくだらない事に付き合えるのは私、専属護衛のロータしかいませんし」
「ロータ、その肩書きまだ引っ張ってるのか。ほんとしつこいな」
「私は永遠に悠太様の専属護衛であり、伴侶の一人なのですよ。これが私のアイデンティティなんです!」

 意味が本気で分からん。出会った頃から頭がおかしいと思っていたが遂に本気でおかしくなってしまったか。

「なんで残念そうな目で、私のおでこに手を当てるのですか! 熱なんてありませんし、頭もイカれてませんよ!」

 打てば響くとはこの事だろう。異世界初の友人は今日も調子が良いようだ。

「で、なんでダンジョンに行く必要が。まぁ、理由は分かり切ってますけど。ですが、あの御方が創造したダンジョンですよ。絶対に変なのが出ますから辞めましょうよ」
「なぜ最後の方が声が小さくなる。しかも縁起の悪い事を言うな。今回はドデカゴキは居ないと言っていたから大丈夫だ」
「ドデカは居なくても、デカは居たらどうするんですか」

 ……その指摘に心がずっしりと重くなるのを感じた。さすがは俺の一番の悪友だ。危機センサーがハンパない。

「その可能性は……あるか。けれどだっ。胸踊る冒険はしたくはないか、ロータ」
「したいですけど、あれっすよね。毎回散々な目に遭ってますから。大体、悠太様はいつも思いつきで行動して痛い目に遭ってるじゃないですか」

 まあ、そうともいう。でもしょうがないじゃないか。未知が、未だ知らない世界が、俺を待っているのだから。

「さっきも畑仕事を手伝って全然先に進まないし」
「あほか。困っている人たちに手を貸すのは当たり前のことだろ」
「だからといって、行く先々で木を伐採したり。魔物を倒したりしてあげる必要がありますか。もう二日も経ってるのに、一日で着ける筈のメルティア王都に辿り着いてないんすよ!」

 確かにそれはそうだ。

「しかもですよ。秘密の里までつくるって、どうかしてますよ」

 いや、拠点は必要だろ。毎日宿屋になんか泊まっていたら金が掛かるし。俺、ヒモだしな。無駄遣いなんか絶対にダメだ。

「なあ。あっちの方、騒がしくないか」
「王都の方っすね。聞こえる感じだと、かなり大きな戦闘のような感じですね」

 俺たちは同時に仮面の左頬に素敵にデザインされた炎が紅く彫られた仮面をつけ、外套のフードを深く被ると体勢を低くして全力で駆け出した。

 そして視界に映る大量のオーガたち。その群れの中に一際大きな個体もいる。そんなオーガの群れを食い止めるべく騎士風の人たちが必死に戦っているも、かなり押されていた。その中でも白い馬に跨り、槍を手にした青髪の女性だけが唯一まともに戦っていられる程度の苦しい状況だった。

「ロータ!」
「はい、悠太様!」

 阿吽の呼吸でロータは騎士風の人たちの支援に。俺は一際大きいボスと思われる個体を倒しにいった。群れを割って突き進む一陣の風のように、自身を刃と化すように剣一つで斬り払って駆け抜けていく。

 そんな俺に気付いたボスオーガが憤怒の表情をこちらに向けた。

「遅いんだよ」

 オーガがこちらを向いた時には既に俺は奴の首を落としていた。

「桜花百閃、紅蓮」

 止めとばかりに全身を細かく斬り刻んで燃やし尽くした。すると、一際大きな鬨の声があがる。調子にのった俺はそのまま次々とオーガを仕留め、その背を守るようにロータが続く。三百以上のオーガを倒しきった頃には周囲が静かになっていた。そして背中合わせのロータに声を掛ける。

「終わったようだな」
「ですね」

 二人同時に剣を鞘に納めると、静かだった周囲から鬨の声があがり。次第に俺たちを称賛する声に変わっていく。そんな中、白い馬に乗った青髪の騎士が俺たちに近づいてくる。

「挨拶くらいはしておくか」
「え、秘密結社なのにですか」

 仮面越しでも分かる。不審な目をロータが俺に向けていた。
 青髪の騎士は馬から降りて、俺たちの前まで来ると片膝をついた。

「メルティア女王として、我が国を救ってくれたこと誠に感謝いたします」

 ……女王、だと……どうやら俺は選択を間違えたようだ。

「感謝など不要。当然のことをしたまでだ」
「……されど、あなた方に救って頂いたことは事実です。わたくしにお礼の機会を頂けませんでしょうか」
「訳あって素性の明かせぬ身。故に、そのお気持ちだけ受け取らせていただく」

 俺とロータは認識阻害の魔法で姿を隠してバレないようにロータを抱いて空を駆け、その場から逃げたした。

「空を走れるって、ほんと便利ですよね」
「そう思うならロータも覚えろよ」
「いや、普通に無理ですから。それで何処に行くんですか」
「とりあえず王都に入る。今日はそこで泊まろう」
「お風呂ありますかね」
「高い宿ならあるだろ、たぶん」
「だといいですね」

 俺たちはそんな会話をしながら空から王都に入り、宿を探した。
 色々と面倒な事になりそうだと少し思いながら。


「ほんと悠太様は」

 皆まで言わなくても分かる。貧乏性だと言いたいのだろう。

「何処にも風呂がないんだからしょうがないだろ。それに普通の方が落ち着く」
「初めての異世界デートでこれはあんまりですよ」

 おい。いつから異世界デートに変わったんだよ。勝手に目的をすり替えるな。

「なぁ聞いたか。漆黒の旋風、紅の話を」
「ああ、たった二人でオーガの大群を倒したやつだろ。ほんとスゲェよな」
「その紅様たちのお陰で命拾いしたんだ。感謝しねぇとな」

 やけに話が広がっている。しかもまだ数時間しか経っていないのに。

「噂じゃ、女王陛下が一目惚れしたって話だぞ」
「やっとか。誰も陛下の目には留まらなかったから良い話だな」

 何故に? 仮面をつけていたのに一目惚れとは、これ如何に。

「騎士様たちの話だと、左頬から鮮やかな紅のオーラが炎のように出てて、かなり格好良かったらしいからな」

(おい、ロータ。そんなエフェクト聞いてないぞ)
(言ってませんでした?)
(聞いてねぇよ!)

 なんなんだよ、それ。……でも想像するとかなりイケてるな。うん、かっこいいかもしれない。

「でもよう。名を明かさなかったってことは。その正体は湖畔の大賢者か」
「いや、違うだろ。姿を隠したり名を伏せてたなんて話を一度も聞いたこともねぇしな」
「この前女神様も現れたっていうし。なんか最近不思議なことが多いな」
「だよなぁ。ダンジョンなんてものも突然見つかるしな」

 マルデルの話も飛び出し、妙に居た堪れなくなった俺とロータは食堂から急いで出た。

「悠太様。こっちで伴侶なんかつくらないでくださいよ」
「つくるかよ!」

 そんな洒落にならないこと出来るか。それにこの世界にずっと居るわけじゃないしな。あり得んわー

「やれやれ、じゃないんですよ!」
「あ、ロータ。最悪、あれだ。透にも仮面をあげて、彼に擦りつけよう」
「名案ですけど。サイテーですね」
「うっせぇよ! 名案なら文句いうな!」

 満月の浮かぶ夜空の下。そんなあほなやり取りをしながら、俺たちは宿に帰った。

 けどさあ、マルデル。君に翼があるなんて初めて知ったよ。少しだけ羨ましいよ、俺は。
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