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十話
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エンジェルポークとエンジェルチキン。それは極上の味わいだった。今までこんな美味しいお肉はあのドラゴン以来で、僕たち建設隊一行は瞬く間にその味わいに魅了された。
「光となって消えない事から。地上でも飼育と繁殖ができると僕は考えます」
「そうね。新たなエルフィアの特産にすべきだわ」
こうして大掛かりなエンジェルズ輸送隊が編成された。その隊長はメェーメの里長のラモールさん。隊員は羊人族の皆さんと護衛役のエルフの戦士たちだ。
こうして四階層では宿泊所の建設とエンジェルズの輸送が同時に行われていた。
「かわいいのです」
「癒されるのです」
僕とエルとエマはエンジェルラビットを柵の中でペットとして飼っていた。その柵の中に入り、白ウサギと戯れていた。
「ほんとかわいいよな。この子たちだけはどんなに美味しくても食べられないよ」
戯れてくる白ウサギと遊びながら僕は異世界初の癒し空間で病んだ心を癒していた。
「あ、ここで遊んでいたのですか」
ラムさんがサクヤと白ウサギのごはんを手に持って現れた。
「ごはんですよ。たくさんお食べ」
サクヤは地面に座りながら慈しむように白ウサギに野菜クズを手に持ちながら与えていた。そしてラムさんも同じように微笑みながら野菜クズを与えている。そのおかげで僕等の周りにいた白ウサギは皆サクヤたちの方に行ってしまった。
「透、私たちの家でもこの子たちを飼育しましょう」
そんな事を一度も言ったことないサクヤからの提案に少しだけ驚いた。
「サクヤがそんな事を言うのは珍しいね。僕は全然構わないよ。というか、大賛成だよ」
「では、そうしましょう」
「うさちゃんと一緒なのー!」
「しろちゃんうちに来るのー!」
しかし、この子たちは冬を無事に過ごせるのだろうか。
「家に繋げる感じで外に飼育スペースをつくろう」
「それは良いですね」
「はい。うちの中から会いにいけるのは最高ですね」
そうと決まれば僕は行動に移すのみ。さっそく設計に取り掛かると、拠点まで急いで戻った。
まずはルド村の大工職人さんに声を掛けると村の家屋の春先の補修ももう少しで終わるらしく。僕は彼に設計図を渡して依頼した。
「しかしこれはやり過ぎではありませんか」
白ウサギの飼育のためだけにと、呆れられた。まあ、雨風を凌ぐための白ウサギのモダンな居住スペースと。白ウサギがストレスなく外で遊べる庭がバリアフリーで繋がっている。しかも僕等の家とも繋がり一体となった違和感を感じさせない外観。たしかにお金を掛けすぎているような気もするが、サクヤの要望を叶える為なら全力をだす。
「え、世界樹様が白ウサギと住みたいと、そんなことを仰っていたのですか」
「はい。ですから僕は全力で応えるだけです」
大工の親方さんが僕の手を両手で包むように握ると。目に決意が表れていた。
「トール様。わしらも全力でやらせていただきます。必ず、最高の物を建ててみせますぜ!」
普段サクヤから何か要望されることはないからな。僕も含めて皆がやる気になるのは良く分かる。
こうして話はまとまり僕はダンジョンに戻ろうとしていた矢先に何者かに捕まった。頭からすっぽりと黒い麻袋を被らされ、手脚を縄で縛られて何処かへ連れて行かれた。
もっとも、僕にこんな手際よく捕縛できる人たちは悠太さんたち以外にはいない。なので、なすがままに連行されることにした。
そして一時間ほど移動した先で高いところからポトリと落とされた。おそらく天馬の上から僕は落とされたのだと思う。
「透、久しぶりだな」
麻袋を被されたまま、悠太さんに話しかけられた。
「悠太さん。これはなんですか」
「襲撃訓練だったんだけど。お前ずいぶん簡単に捕まって。俺はほんとに情けないよ」
襲撃訓練って……
「俺もなぁ。人のことは言えないけどさぁ。不意打ち喰らって死にかけたこともあるよ。確かに俺も。でもさぁ、もう少しまともだったと思うだよ」
なんか声のトーンから、かなり呆れられているような気がする。
「もう少し、ですけどね」
「似たり寄ったり。ってことっすね」
「全然違うわ!」
「いや、それはないかと」
「ないっすね。全ての不意打ちは悠太様に届くという格言があるくらいですから」
「ねえよ!」
どうやら悠太さんはスクルドさんとロータさんに揶揄われているみたいだ。そのやり取りが面白くてつい声に出して笑ってしまった。
「お前も笑ってんじゃないよ!」
麻袋越しに頭を叩かれた。
「まあ、あれだ。最近のお前たち戦い方を見ていたが、ちゃんと安全マージンをとって戦闘するようになったのは上出来だ。それでメルティアのダンジョンの五階層のボス部屋の前まで手脚を落とされるような無様な戦いが出来ならば、精霊たちにまた透たちに手を貸すように言ってやろう。どうだ。挑戦してみるか」
是非もない。僕は迷うことなく返事をした。
「はい、やります!」
「よし。なら今から仲間を連れてダンジョンの外まで出てきな。そうしたら俺が送ってやるからさ」
「一応、世界樹様には軽く話を通しておけよ。今回は俺たちが陰から見守るから安心してとか何とか言ってな」
「はい。わかりました」
空間が少しブレたことから転移したのは分かった。すると麻袋を悠太さんが取ってくれた。
「お久しぶりです。悠太さん、また会えて嬉しいです」
「俺は男にそう言われる趣味はないからな」
「そこまでテレなくてもよろしいのでは」
「テレてねぇよ!」
スクルドさんのつっこみに即座に反論していた。相変わらず騒がしい人たちだ。けれど、何故か僕はそんな中なのに目から涙が溢れてくる。
「あ、ロータがさっき天馬から落としたから透が痛くて泣いちまったぞ!」
「いつの話をしてるんすかっ!」
「いや、たった今だが」
「全然違いますよ! 私に押し付けないでくださいよ!」
そんな懐かしく思える雰囲気に僕は嬉しくて涙が止まらない。
「はぁ、しゃあないやつだな。まあ、不出来な弟子ほどかわいいというし」
悠太さんがハンカチを取り出して乱暴に涙を拭ってくれた。そして手脚の縄を素手で切ってくれた。
「ほら、さっさと迎えに行ってこい。俺たちも忙しいんだよ」
ハンカチを握らされて僕はダンジョンの入口に押し入れられた。僕は服の袖で顔を拭って振り返ると悠太さんたちを見た。
「すぐに戻ってきます!」
「ああ、のんびり行ってこい」
僕は振り返り駆けだした。
高鳴る胸の鼓動を感じながら。
「光となって消えない事から。地上でも飼育と繁殖ができると僕は考えます」
「そうね。新たなエルフィアの特産にすべきだわ」
こうして大掛かりなエンジェルズ輸送隊が編成された。その隊長はメェーメの里長のラモールさん。隊員は羊人族の皆さんと護衛役のエルフの戦士たちだ。
こうして四階層では宿泊所の建設とエンジェルズの輸送が同時に行われていた。
「かわいいのです」
「癒されるのです」
僕とエルとエマはエンジェルラビットを柵の中でペットとして飼っていた。その柵の中に入り、白ウサギと戯れていた。
「ほんとかわいいよな。この子たちだけはどんなに美味しくても食べられないよ」
戯れてくる白ウサギと遊びながら僕は異世界初の癒し空間で病んだ心を癒していた。
「あ、ここで遊んでいたのですか」
ラムさんがサクヤと白ウサギのごはんを手に持って現れた。
「ごはんですよ。たくさんお食べ」
サクヤは地面に座りながら慈しむように白ウサギに野菜クズを手に持ちながら与えていた。そしてラムさんも同じように微笑みながら野菜クズを与えている。そのおかげで僕等の周りにいた白ウサギは皆サクヤたちの方に行ってしまった。
「透、私たちの家でもこの子たちを飼育しましょう」
そんな事を一度も言ったことないサクヤからの提案に少しだけ驚いた。
「サクヤがそんな事を言うのは珍しいね。僕は全然構わないよ。というか、大賛成だよ」
「では、そうしましょう」
「うさちゃんと一緒なのー!」
「しろちゃんうちに来るのー!」
しかし、この子たちは冬を無事に過ごせるのだろうか。
「家に繋げる感じで外に飼育スペースをつくろう」
「それは良いですね」
「はい。うちの中から会いにいけるのは最高ですね」
そうと決まれば僕は行動に移すのみ。さっそく設計に取り掛かると、拠点まで急いで戻った。
まずはルド村の大工職人さんに声を掛けると村の家屋の春先の補修ももう少しで終わるらしく。僕は彼に設計図を渡して依頼した。
「しかしこれはやり過ぎではありませんか」
白ウサギの飼育のためだけにと、呆れられた。まあ、雨風を凌ぐための白ウサギのモダンな居住スペースと。白ウサギがストレスなく外で遊べる庭がバリアフリーで繋がっている。しかも僕等の家とも繋がり一体となった違和感を感じさせない外観。たしかにお金を掛けすぎているような気もするが、サクヤの要望を叶える為なら全力をだす。
「え、世界樹様が白ウサギと住みたいと、そんなことを仰っていたのですか」
「はい。ですから僕は全力で応えるだけです」
大工の親方さんが僕の手を両手で包むように握ると。目に決意が表れていた。
「トール様。わしらも全力でやらせていただきます。必ず、最高の物を建ててみせますぜ!」
普段サクヤから何か要望されることはないからな。僕も含めて皆がやる気になるのは良く分かる。
こうして話はまとまり僕はダンジョンに戻ろうとしていた矢先に何者かに捕まった。頭からすっぽりと黒い麻袋を被らされ、手脚を縄で縛られて何処かへ連れて行かれた。
もっとも、僕にこんな手際よく捕縛できる人たちは悠太さんたち以外にはいない。なので、なすがままに連行されることにした。
そして一時間ほど移動した先で高いところからポトリと落とされた。おそらく天馬の上から僕は落とされたのだと思う。
「透、久しぶりだな」
麻袋を被されたまま、悠太さんに話しかけられた。
「悠太さん。これはなんですか」
「襲撃訓練だったんだけど。お前ずいぶん簡単に捕まって。俺はほんとに情けないよ」
襲撃訓練って……
「俺もなぁ。人のことは言えないけどさぁ。不意打ち喰らって死にかけたこともあるよ。確かに俺も。でもさぁ、もう少しまともだったと思うだよ」
なんか声のトーンから、かなり呆れられているような気がする。
「もう少し、ですけどね」
「似たり寄ったり。ってことっすね」
「全然違うわ!」
「いや、それはないかと」
「ないっすね。全ての不意打ちは悠太様に届くという格言があるくらいですから」
「ねえよ!」
どうやら悠太さんはスクルドさんとロータさんに揶揄われているみたいだ。そのやり取りが面白くてつい声に出して笑ってしまった。
「お前も笑ってんじゃないよ!」
麻袋越しに頭を叩かれた。
「まあ、あれだ。最近のお前たち戦い方を見ていたが、ちゃんと安全マージンをとって戦闘するようになったのは上出来だ。それでメルティアのダンジョンの五階層のボス部屋の前まで手脚を落とされるような無様な戦いが出来ならば、精霊たちにまた透たちに手を貸すように言ってやろう。どうだ。挑戦してみるか」
是非もない。僕は迷うことなく返事をした。
「はい、やります!」
「よし。なら今から仲間を連れてダンジョンの外まで出てきな。そうしたら俺が送ってやるからさ」
「一応、世界樹様には軽く話を通しておけよ。今回は俺たちが陰から見守るから安心してとか何とか言ってな」
「はい。わかりました」
空間が少しブレたことから転移したのは分かった。すると麻袋を悠太さんが取ってくれた。
「お久しぶりです。悠太さん、また会えて嬉しいです」
「俺は男にそう言われる趣味はないからな」
「そこまでテレなくてもよろしいのでは」
「テレてねぇよ!」
スクルドさんのつっこみに即座に反論していた。相変わらず騒がしい人たちだ。けれど、何故か僕はそんな中なのに目から涙が溢れてくる。
「あ、ロータがさっき天馬から落としたから透が痛くて泣いちまったぞ!」
「いつの話をしてるんすかっ!」
「いや、たった今だが」
「全然違いますよ! 私に押し付けないでくださいよ!」
そんな懐かしく思える雰囲気に僕は嬉しくて涙が止まらない。
「はぁ、しゃあないやつだな。まあ、不出来な弟子ほどかわいいというし」
悠太さんがハンカチを取り出して乱暴に涙を拭ってくれた。そして手脚の縄を素手で切ってくれた。
「ほら、さっさと迎えに行ってこい。俺たちも忙しいんだよ」
ハンカチを握らされて僕はダンジョンの入口に押し入れられた。僕は服の袖で顔を拭って振り返ると悠太さんたちを見た。
「すぐに戻ってきます!」
「ああ、のんびり行ってこい」
僕は振り返り駆けだした。
高鳴る胸の鼓動を感じながら。
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