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第一章 未知なる世界でスローライフを!

やっと、やっとですよ

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 ふふふふふ、やっとです。
 あのゲス女の討伐も我慢し大人しく此処で待っていた我慢の時もついに終わりがきました。
 思えば長かった。あ、日数的にはそんなではないのですけど。

 いやいや、とにかく私は長い間、勇者様を、女神様の彼を、待ち続けていたのです!
 幼き頃より女神様の彼に対する恋文とも呼べる新たな落書きを探し、それに使われている古の神の言葉を解読し読み解いてきました。

 私は心血注いで女神様の想いが成就する為にこれまで努力を重ねてきたのです。

 その想いが今、成就されようとしている!


「あっ、ロータ様どちらへ!」
「決まってるじゃありませんか。勇者様の所ですよ!」
「お、お待ちください! 皆、皆総出でロータ様を取り押さえるのよ!」

 ふん、ちょこざいな。
 あなた達に私が、うげっ!

「今よ、一斉に取り押さえて!」

 十名以上の神官達に取り押さえられて、私は彼女らに押し潰された。

 くっ、やりますね。
さすがフレイヤ神殿随一の武闘派と謳われる第二神殿神官衆ね。
 この私をあっさり捕える手並みは流石としか言いようがない。

 けれどこんな事で諦めるほど私の信仰は柔じゃありませんから!

 のし掛かる神官衆を跳ね退け、再度逃走を試みるも半歩も進む事なくまた取り押さえられた。

 こんなに執念深いあなた達を見るのは初めてですね。
 仕方がありませんね。今日は素直に諦めましょう。


 ◇


 夕食の前にクオンとレン、レイを連れて散歩に出掛けた。
 夕陽に照らされた海を眺めながら浜辺に沿って南へと歩いていた。

「なんかここからお家が違うね」

 レイが言うようにガラッと雰囲気が変わった。
 建ち並ぶ家屋がとても古く歴史を感じるものに変わっていた。
 それに観光地というよりは、ここだけは漁村のようだった。

「あら、あなた達観光かい」
「ええ、そうです」
「ならここは見るものなんてないよ。ここはこの都本来の漁村だった場所さね。なんにもない、あるのは昔と変わらない景色くらいなもんさ」

 きっぷの良さそうな女性がにこやかにそう教えてくれた。

「変わらない景色、ですか」
「女神様との約束でね。
 朝日が美しく見えるこの場所を変わらずに守って欲しい。ってね。
だから私達は神官様と一緒に昔と変わらぬよう長くこの場所を守ってきたのさ。
 ほら、あそこがその場所だよ」

 女性が教えてくれた場所には石柱で造られた古さを漂わせた東屋があった。

「でも、あの場所には神官様の許可なしでは入れないよ。
 なにせ、女神様がいつも朝日を眺めていたこの大陸有数の聖地だからね」

 自慢げに話すが、それはそうだろうと素直に納得した。

「私達も他所から来た人には滅多に話さないけど、あそこの東屋のベンチには女神様の落書き。女神様がお慕いする方への恋文が書かれているってさ。見たことはないけどね」

 クスッと笑って教えてくれた。
 そんな人の良い女性と俺が話してる隙にクオン達は地元の子供達と遊んでいたので人魚伝説についても尋ねてみた。

「ああ、綺麗な月夜の晩にあの岩の上で美しい歌を聞かせてくれるよ。けどね。女神様の前でしか姿は現さずにすぐ隠れてしまうのさ。だから私達は歌しか聴いたことがないんだよ」

 東屋の前の海に大小様々な岩がある。
 おそらくあの岩の上に座って何人もの人魚が歌を歌うのだろう。
 許してくれるのならば俺も観てみたいものだ。

「あの東屋の側から上に続く道はどこに」
「あれは神殿へと繋がる道だよ。私達地元の民はあの道から神殿に行くのさ」

 神殿へか。スクルドには用事が無いとは言ったが、今、たった今その用事ができた。
 俺は女性にお礼を言って別れたあと、クオン達を連れて神殿へと向かった。



 間近で神殿を見るとその迫力と厳かさに圧倒される。
 そんな厳かな場所だというのに神殿の中が騒がしい。
俺達はこっそり中を覗いてみた。

 どうやら一人の赤髪の神官を複数の神官達が取り押さえている。
 複数を相手にしてあの大立ちまわりを演じている赤髪の神官に拍手を送りたくなる。

「いゃあ、すごいな。もしかしてあれが噂のロータってやつか」

 神殿の入り口から少し顔を出して覗いていると、その赤髪の神官と目が合った。
 まずいと思い、子供達と隠れようとするがもの凄い速さで距離を詰められた。
 というか、捕まった。

「勇者様ですね。私はロータ、あなた様と女神様のしもべのロータです。本当にお会いしたかったです!」

 いきなり抱きつかれた。
 その奇妙な行動はリィーナに通ずるものがある。
 しかも振り解こうにも解けないのもそっくりだ。

 そうこうしているうちに他の神官達が俺を助けてくれた。

「だっぁ! みんな、勇者様をお助けするのよ!」

 大勢の神官達が俺とロータを引き離そうとするが、次第にロータのせいで俺までもが神官達に押し潰されていく。

「おい、おまえ離れろ。俺まで潰されちまう!」
「私の信仰は何人たりとも妨げやしませんよ!」

 彼女は不敵にそう言って、俺の腰にさらに強くしがみついた。

「おまえ、かっこつけてる場面じゃないだろう!」

 俺の切ない魂の叫びが神殿内にこだました。
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