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第二章 新生活、はじめるよ!

地下迷宮(ニ)

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 やばい。想像以上にミノタウロス軍団とエンカウントし過ぎだ。
 なんで地下二階に降りるまで三日も掛かるんだよ。
 それに何処からあんな数湧いてくるんだ。不思議過ぎて現実逃避したくなる。

「この地下二階に繋がる階段を降りて、しばらく進んだ先に野営に適した場所があります」
「そうか。ならそこまで進んで今日は休もう」
「なんかレンジ、疲れてない。やっぱり中年おじさんには辛いよね」

 あほか。肉体的には二十代だ。
 それに疲れてるのは俺だけじゃねえだろうが。
 前衛のルージュやロータも俺と同じように肩で呼吸してるからな。

「ルージュ、ロータ。大丈夫か」
「はい。いけます」

 俺達はなんとか背筋を真っ直ぐに伸ばし歩きだした。

「なんか数が増えてるような気がするんですが、さすがにそれはないですよね」
「いえ、ロータ。確実に増えてます」
「ああ、しかも強くもなってるな」

 ロータの質問に俺とルージュが答えた。
 とんだ糞ゲーだよ。こんな悪意の塊、難易度上げ過ぎだっつうの。

「私達後衛とポジション変更しますか」
「いや、変更しない方がいいだろう。万が一挟まれた時にエルルーン達が万全の方がいいと思うし」
「それにセリーヌ殿とスクルドが適切なタイミングで交代してくれますから」

 そう。全体の連携はかなり良くなっている。それなのに戦闘時間が徐々に伸びているから困るのであって、撃破する事自体はなんにも問題がない。

「そろそろ本気だした方がいいんじゃない。勇者モード全力全開でさ」
「とっくに本気だ。この能天気娘が」
「いやいや、勢いよく派手に魔法をドーンとさ」

 あほか。おまえはこんな所で生き埋めになりたいのか。
 なんでこう後先考えないんだろうな。

「多少埋まっても大丈夫。私が生きてる限り、みんなを蘇生するから」
「全然大丈夫じゃねぇだろ。だいたい、おまえだけが生きてる前提が間違ってんだよ、あほか」
「知らないの。一万年に一人の美少女アイドルは絶対に死んだりしないんだよ。僕は無敵なのさ、えっへん」
「なら今度、リィーナ一人で戦闘しろ。一人で勝ったらその言葉を信じてやる」

 付き合いきれないのでほっとく事にした。

「えええ、僕一人は寂しいよ」
「そっちかよ!」

 やっぱ、頭のネジが外れてんな。
 頭のおかしい子は無視に限る。

「普通一人で戦えと言われて寂しいって答えますか」
「しっ! それ以上口にしてはいけません」
「あの二人で危険なのは圧倒的にリィーナ様の方なのですから」

 皆で慌ててミストの口を塞いでいた。
 それを見てリィーナがニヤリと不敵に笑った。

「よくわかってるねー
 みんなに僕の危険さを身を持って教えてあげようか」

 その目は冷たく光っていた。たぶん。

「結構です!」

 そう言って皆一斉に俺の背に隠れた。

「リィーナ、揶揄うのはそこまでにしとけ。みんな疲れてんだからさ」
「ちぇっ、つまんないの」
「でもおまえ、本当に怖がられてんだな」
「僕の代名詞は青薔薇だよ。綺麗な花には棘があるからね。しょうがないよ」

 すごいポジティブシンキングだな。その発想が斜め上過ぎて感心するよ。

「あれだろ。ハリセンボン的な」
「ちっがうよ! 僕はあんなに丸くないよ!」
「そっちかよ!」

 俺はこめかみを抑えて野営予定地へ急いだ。
 まぁある意味、和んだからいいか。


 ◇


 それは突然の襲撃だった。
 深夜。実際は違うが寝込みを襲われたのだ。

「女の子の寝込みを襲うとは万死に値するんだからね!」

「だっ、あの頭のおかしい戦女神の再来か!」
「誰が頭のおかしい戦女神の再来だって」

 後方にいる悪魔を意図も容易く頭を鷲掴みにすると、そのまま魔法で消し去った。
 そして比較的小規模なミノタウロス軍団だったとはいえリィーナ一人で瞬く間に殲滅した。
 それはもう圧倒的強者の戦いだった。

「な、本気で怒ったリィーナはヤバいんだよ」
「そうですね。素手でぶん殴ってましたし」
「しかもワンパンでな」
「ミノタウロスってあんなに柔じゃないですよね」
「リィーナを常識で考えるな。ただ感じるんだ。深く考えたら抜け出せなくなるぞ」

 いやあ、まさか大聖女様が素手で殴り倒すとは思ってもみなかったな。
 いやあ、ほんとにほんと。良いものを見せてもらったよ。

 俺達はその凄まじい光景に軽く現実逃避していた。

「リィーナ様。お疲れ様でした」
「あ、セーたん。タオルありがとね」

 うむ。ここはセリーヌに一任しよう。
 リィーナの自慢話は疲れるからな。

「危険は去った。みんな、もう寝ようか」

 俺達はいそいそと自分達のテントに戻った。
 もちろん結界を張り直してから。

「ちょっ、なんでみんな寝るの。目が冴えたから誰か付き合ってよ!」
「セリーヌ殿、ここはお願い致します」
「え、ああ、はい。任されました」

 セリーヌは少し肩を落としながらお茶の準備を始めた。

「レンジ。僕を褒めてよ!」
「ああ、リィーナは偉いな。うん、それにとても強いよな。じゃっ、おやすみ」

 そう言って俺は眠りにつく。
 明日からリィーナが前衛でいいか。そんな事を考えながら。
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