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第二章 新生活、はじめるよ!

パーティー

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 なんだこれは。どうなってる。まるでお祭りじゃないか。

「すごいね。たくさんの人が集まってるよ」
「地元の住民も参加してくれましたし、まさにシーフレア全体でのお祝いです」

 いやいや、そんな大規模なことは頼んでないのだが。
 ロータ、やっぱりおまえの頭はおかしいんじゃないか。


 中庭に入りきれずに人が溢れてる。
 そして至る所で屋台が並んでいて、それらを豪快に食し、酒と音楽と踊りに興じている。皆一様に笑顔だ。

 それもそうだろう。屋台の食べ物は全てシェフリーさん監修のもとで無料で振るまわれているのだから。

「あとはレンジ様のご挨拶ですね。ビシッとお願いします」

 あほなロータが無茶振りをしてくる。

「無理だ、俺にはこんな大観衆の前で話せん。リィーナ、頼む」
「しょうがないなあ」


 なんか拍子抜けするくらいに素直に代わってくれた。
 そんな人前で挨拶ひとつ出来ない俺の情けない姿にルージュやセリーヌ達が呆れていた。


「静粛に。皆さん、これよりこのお屋敷の主人の一人である大聖女リィーナ様よりご挨拶のお言葉が、」
「そんな堅苦しいのはいいから。
 みんな、楽しんでる!」

 その一言で観衆が湧いた。

「今夜は無礼講。いっぱい食べて飲んで、楽しもうね!」

 すごい歓声だ……
 一万年に一人のスーパー美少女アイドルは伊達じゃない。

「うんうん。良いよ、みんな。
 最後にうちの恥ずかしがりのレンジを紹介するね」

 リィーナに腕を掴まれて人前に立たされた。

「こちらが女神様の勇者様のレンジです!
 どう、かっこいいでしょ。でも手をだしたら駄目だからね。
 だって、レンジは僕のだからさ!」

 不思議だ。なぜそこでさらに盛りあがるんだよ……

「なにかみんなが困った時には、僕達が必ず力を貸すからね。遠慮しないで言ってよ。絶対に一人で悩んで暗い顔なんてしちゃ駄目だからね。
 いい。僕達が絶対に、みんなの笑顔を守るからね!」

 すげえな。笑顔と話し方。手振り身振りでここまで人を魅了し熱狂させるなんて。

「じゃあ、みんな。たくさん楽しんでいってね!」

 なんだこの湧き起こる大歓声は……

 ふと横を見るとリィーナが両手をあげて手を振っている。
 その横顔が眩しく見える。

「おまえ、本当にすごいな。さすがだよ」

 思わずそう呟いてしまった。
 しかし、ほんとリィーナには驚かされてばかりだ


 ◇


「わっはははは、高貴、そして偉大なる、」

 パティーが最高潮に盛り上がっている最中、イケおじが突如空中に現れた。

「不審者」
「変態」
「変質者」

 そのイケおじの背後に拳を振りあげた神官娘が現れ、左右に同じように拳を振りあげる神官娘が続くように言葉を短く発した。

「確保」

 そして最後にその男の前に現れた神官娘が短く告げると神官娘達は一斉に拳を振り下ろし男を地面に叩きつけた。


 で、ボロボロとなったイケおじは無様に縄で縛られて俺とリィーナの前に突き出されている。

「セリーヌちゃん、なんでパパと目を合わせてくれないの。それになんで他人のふりをするのだー!」

 俺の背に隠れるようにセリーヌはそのイケおじの言葉を顔を逸らして無視していた。

「おい、セリーヌ。パパ様が泣いてるぞ」
「あんな人、私知りません」

 そう言いたくなるのもわかる気がする。
 あんな痛い登場をして、あっさり神官娘達に捕まる人を親とは認めたくないのは。

「なっぁ、そんな。パパを、パパを見捨てないでくれー!」

 髪も服もボロボロとなったイケおじは地面に頬をつけながら泣き崩れている。

「セーたん。さすがにかわいそうだよ」
「だな。胸が痛くなってくる」

 俺の背から少し顔だけをだしてセリーヌはパパさんを見た。

「誰か知りませんが何しにここに来たのでしょうか」

 それは無情にも私には一切関係ありませんと宣言したかのように棒読みで尋ねていた。

「あああ、パパはセリーヌちゃんに久々に会えると張り切っただけなのに」
「あなたにセリーヌちゃんと呼ばれる意味がわかりません。それで何をしにここに来たのですか」

 さすがに同情する。俺ももしクオンやレン、レイにそんな風に言われたら死ねる自信がある。

「あああ、ただパパはママと一緒に東の大陸にぃ、うわぁぁばばばぁ」
「号泣してるじゃないか。あまりいじめるな」
「そうだよ。僕も見てて胸が苦しいよ」


「あなた。なんですか、その情けない姿は」
「だっ、ママ!」

 その声に振り返ると短い黒髪の女性があきれ顔で立っていた。
 そしてセリーヌがその女性から逃げるように俺の背にまわり込んで隠れた。

「勇者様、大聖女様、はじめまして。わたくし、西の地で聖女を務めておりましたローゼンといいます。そしてそこで泣いているヴァンの妻でもあります。この度は夫がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 黒髪ショート、赤い眼の女性はそう言って頭を下げた。
 なんとく雰囲気はセリーヌに似てる。けどセリーヌの面差しはパパ似なのだと判明した。

「これはご丁寧にどうも」
「はじめまして。それでセーたんママ達はどうしてここへ」
「はい。女神様の神託により東の地へ行くのですが、どうしても夫がついていきたいと駄々を捏ねまして。それで娘に許可を」

 聞くところによるとセリーヌの両親は西の大陸を任されているらしく、女神様の神託でママさんは東の大陸に。そしてママさんと一緒にいたいパパさんは領地替え、もしくはママさんとの同行許可を娘であるセリーヌ女王陛下にお願いしにきたらしい。

 っというか、西の大陸の聖女ってあの!

「ママ、好きにしてください。でも出来れば同行の方がいいです」
「そうよね。領地替えなんて大変だし。セリーヌ、ありがとう」

 えええー! セリーヌのママさんがあの聖女様なのかよ!

 驚きすぎて腰を抜かしそうになった
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