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第二章 新生活、はじめるよ!

冒険者はダンジョンに

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 リィーナからの提案で少しは実戦に慣れようとダンタリアのダンジョンへ二人で来ていた。
 あの地下迷宮の無理ゲーをクリアしたのだからそんな必要もないと一度は断ったがリィーナに押し切られてしまった。

 で、目の前には大きなムカデが進路を塞ぐように数多く蠢いている。

「やばい。これは無理だ。リィーナ引き返そう」

 その恐ろしい光景に俺は一斉に血の気が引いていくのを感じ取った。

「虫くらいで顔を青くしてさ。ほんと、情けないよ」

 なんでも好きに言うがいい。駄目なものは駄目なのだ。
 それに目を凝らして奥を見れば大きな蜘蛛も沢山いる。俺は敗北を確信した。

「ゲームでは大丈夫だったじゃん。ほら、情けないことは言わないで戦うよ」
「あ、あほか。ゲームと現実を一緒にするな。見てみろ、この俺の鳥肌を」

 服の腕をまくり、肌を見せた。

「うわっ、なにこれ。ほんとに駄目なんだ」

 だからさっきからマジだって言ってるだろうが。
 オバケと虫は本当に苦手なんだよ。

「もう。ここから魔法で吹き飛ばせばいいだけじゃん。なにそんなに怯えるかなぁ」
「馬鹿言うな。もし人がいたらどうすんだよ。ダンジョンでの人殺しは重罪だぞ」
「もう、仕方がないな」

 そう言ってリィーナは剣を抜いてムカデの大群の中に飛び込んでいった。
 リィーナが華麗に舞うようにムカデ達を倒していく。
 その剣技はルージュとそっくりだった。いつの間に会得したのだろうか。

 しばらくそのリィーナの華麗な様をただ眺めていた。そして戦闘が終わり笑顔で戻ってきた。

「終わったよ、レンジ。さあ、先へ進もう!」

 唖然としながらそのまま言われるがままにリィーナについていった。
 ダンジョンに入ってすぐにこの状況。嫌な予感しかしない。

「街に二つもダンジョンがあるなんて知らなかったね。でもここの方が難易度高いってホントかなぁ」
「高いのは間違いない。現に俺は心をすでに折られた」
「まったく虫くらいで情けない」

 虫くらいって、俺にとってはそうじゃないからな。
 死を覚悟したのはこれが初めてだよ。

 そして角の生えた兎やら、上から突然降ってくるスライムなどを倒しながら進んだ。たまに出てくる虫はリィーナが一人で倒した。
 そして目の前に強敵が現れる。

「なんだこの大きいカマキリは……」

 両の鎌を持ち上げて威嚇していた。
 その姿はまさに恐怖の大魔王だ。

「ロータの一閃!」

 リィーナは華麗に恐怖の大魔王を瞬殺した。
 その剣技はロータに内緒でつい最近二人で会得したものだが、ロータに勝るほど完璧に仕上げていた。

「ほら、行くよ」

 リィーナに腕を掴まれ俺はまた歩きだす。
 もう帰りたい。そう心の中で強く思いながら。

 その後なんとか進みながら最下層の地下十階まで辿り着いた。
 ここまで他の冒険者と何度もすれ違ったがこの階層では見かけない。
 不思議に思っていると、最大の難敵が現れる。その姿に俺だけではなくリィーナも固まる。

「やばい。なんだこの黒光りした大きな虫は……」
「わかってるくせに現実逃避しないで。ゴキブリだよ。とても大きい」

 その圧倒的な迫力に俺とリィーナの膝が笑う。思わず半歩下がるほどに。

「これはさすがの僕にも無理、かなぁ」
「おい、無理やり俺を連れてきた責任を取れ。ここであいつに殺されたら死んでも恨み続けるからな」

 ゴキブリといえば素早い。そんな相手に無事に逃げ切れるとは思えない。

「レンジ、男でしょ。か弱い乙女を護るのが真の漢だよ」
「なにがか弱い乙女だ。あれだけ無双してたくせに」

 俺達はゴキブリと睨み合いながら譲り合いを始めた。
 そんな隙だらけの二人にやつは好機だと地面を滑るように迫ってくる。

「はぁ、我らが王はここでも変わりませんね」

 目の前に赤く輝く妖精が突然現れた。

「我らが王にその汚い体躯で近寄るとは許しがたい暴挙」

 その赤く輝く妖精は前方に手をかざすと炎の槍でやつを焼き尽くした。
 その臭いがやばい。悪臭どころの騒ぎじゃない。

「もう、アンジュ。同じ間違いをしないでください」

 もう一人、青く輝く妖精が現れて俺とリィーナを結界で包んでくれた。

「あれ、臭いがしない」

 リィーナが驚いていると、俺の前に緑、橙、金、黒とそれぞれに輝きを放つ妖精が現れた。そして皆一同に大きくなり地面に片膝をついた。

「我らが王よ。あなた様との再会を心からお喜び申し上げます」
「またお側に仕えることをお許しください」
「再会した記憶はないが、許す。それと助けてくれてありがとな」

 その言葉にまた小さく姿を戻すと妖精達は俺の周りを嬉しそうに飛んでいた。
 その目の前の光景に目がまわる。

「だっ、な、なに! なんでレンジが王なの。それになんでこんなに綺麗な妖精達が!」

 言葉を失っていたリィーナがそんな風に叫んだ。

「妖精というか、大精霊だけではありません。私も王のお側に仕えることをお許しください」

 小さくとも美しく水色に輝くドラゴンが俺の肩に止まった。その美しく輝く鱗のせいなのか聖なる気配を感じさせる。

「許す。というか、頼む」

 これはひょっとして、俺は無敵になってしまったのではないか。
 このドラゴンといい、妖精といい、すごく強大な力を感じるし。

「だっ、駄目だから、僕のレンジを盗らないでよ!」
「いや、お前のものになった覚えはないが」
「いや、レンジは私のなの!」

 そんなリィーナを無視して妖精達は甘えるように頭や肩に乗っていた。

「そんな事はどうでもいい。ほら、帰るぞ」
「どうでも良くないよ!」

 リィーナの怒りの絶叫がダンジョンに響いた。
 そんな叫んでいるリィーナの手を取って歩くよう促した。

 はぁ、やっとこの危険なダンジョンから帰れるよ。
 そう心の中で呟きながら
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