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第二章 新生活、はじめるよ!
密談
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私とルージュ様とでカリー自治区の避難民の収容について話し合っていた。
「ただ受け入れ先を増やすのであれば簡単に解決しますが、難民を自分達で生活できるように自立させなければ真の解決とはなりません」
「それはそうですが、自治区領を拡張するにも働ける環境を与えることも何もかも今の私達では難しくはありませんか」
結局、余所者がお金を与えて援助したところでその場凌ぎにしかならない。
けれど何か良い手があればとこうしてルージュ様に相談している。
「いっそ新たな国を起こしますか。その方が手っ取り早い」
「誰にその国を任せるのですか。それにその土地を得る為に戦争するのですか」
「なんの痛みも伴わずに事をなすことは出来ません。安心した暮らしを手に入れるのならば犠牲は覚悟すべきです」
その言い方だと難民達に自ら剣を取れと。しかしそれはあまりにも酷なのでは。
「戦乱が続く過酷な地で生き延びてきたのです。少しは戦う術も身につけているでしょう。現状を変えるために強者に庇護を求めるだけならば永遠に解決しません」
その言葉に反論すべき言葉も妙案も私には持ち得ていない。
「難民に今の現状を変える気概はありますでしょうか」
「無ければそれまでの話です。現状にただ嘆いていればいいだけです。なんの代償も得ずに利益を享受する事なんてないのだから」
自治区領を拡大し、自分達の糧は自分達で確保し、それらを自分達の手で自ら守る。
それしかありませんか。
「まずはスクルド様と凛子様にカリーの神官長に会っていただきましょう。そして彼等の真意を確かめてから食料や武器などの援助をするのかを決めるのがいいでしょう」
そのルージュ様の提案を私は受け入れて、二人でスクルド様と凛子様のもとへ向かった。
一抹の不安を抱えながら。
◇
「そろそろじゃないかな、私たちの出番」
「シェリー。あなたにしては冴えてますね」
「アンジュ。私を馬鹿にしてない」
「いえ。私だけではなく皆もそう思っていますよ」
円を描くように座している他の五人も頷いている。
「我が王の国を彼の地で。その名も、」
「待ってアンジュ。我が王って独り占めしないで。我らの王よ。もしくは私の」
激しい怒気を込めながらも静かにウェンリィが横槍を入れた。
そして案の定、他の者も騒ぎだした。
こうなるとしばらくは収集がつかない。
「今後は皆も言葉に気を付けましょう。特に王を独占するかのような発言を」
「最初に言ったのはアンジュだけどね」
シェリーがチクリと私のあげ足をとる。
「本題に戻しましょう。私がサクッと行って奪ってくればいいのね」
「ユキナ。それはそうなのですが言い方には気をつけてください。奪うだなんて聞こえが悪いではありませんか」
「人の支配地を奪うのですから何一つ間違っていないと思いますけど」
「それもそうですが、例えば不条理に苦しめられている無辜の民を解放するとかがあるでしょう」
はぁ、せめて大義くらいは唱えてくださいよ。
「そう。我らの王に相応しい大義は必要。略奪者とか簒奪者と呼ばれるのは避けるべき」
滅多に発言しないメアが私のフォローにまわる。これは心強い。
「そうね。我らが王をそんな風に呼ばれるのは許せないわね。言葉には気をつけるわ」
「アンジュ。それでどの辺りを解放するつもりなの」
「マナリア。それは西部地域一帯に決まってるわ。そこに人々の楽園を創るのよ」
「人、というよりは私のって聞こえるのは何故かしら」
ウェンリィの鋭いツッコミが入る。
「でもさぁ。王は今住んでる所で充分満足してるのに移ってくるのかな」
たしかにそうね。仮にもあの地は女王ゆかりの地ですし。その可能性は大いにある。
「それでは私達が会いたいのを我慢してきた事が無駄になりますね」
「そう。サプライズにならない」
再会を祝してサプライズ演出を。と、密かに構想を練ってきたことが破綻してしまいます。
「せっかく女王さえも出し抜いてきたのに……」
マナリアのその嘆きが皆の表情を曇らせる。
これではまた振り出しに戻るだけでは。何か良い妙案はないものなのでしょうか。
「けど、こっちの王は一途だから良いよね。少し精神面が弱いけどさ」
「そうですね。そこら辺は好感が持てます」
シェリーの言葉をフレアが肯定するもウェンリィが否定した。
「私はあちらの王の方が好きです。あの強い信念と、どんな逆境でもやり遂げる心の強さ。そして自分から進んで民に無償で畑仕事などを笑顔で奉仕する姿には強く心を惹かれます」
まぁあちらの王は折れず逃げずに進んだ御方ですからね。女王の教育が間違っただけで。
「二人を足して割れば丁度良いのに」
「そう。極端過ぎる。我らの王は」
マナリアの言葉をメアが肯定した。
「でも、どちらの王も我らが惹かれる程に良い男なのは変わりません。それで良いではありませんか。それに今までだって完璧だった事など一度もないのですから」
皆がそのユキナの言葉に納得していた。
「そうですね。その為に私達がいるのですから。これからも変わらずに王を支え続けるだけです」
そう。どんな事があってもそれは変わる事のないものなのです。
「それでどうするの」
私達は再度策を練り直すことにした。
「こうしてるうちにあっさり死ななければいいですけど」
「たしかに。王も女王もうっかり、あっさり突然死にますからね」
あああ、確かにそういった悪癖がある。
私達はサプライズ案を急いで仕上げることにした。
あああ、どうか私達と無事再会を果たすまで無茶をなさりませんように。
「ただ受け入れ先を増やすのであれば簡単に解決しますが、難民を自分達で生活できるように自立させなければ真の解決とはなりません」
「それはそうですが、自治区領を拡張するにも働ける環境を与えることも何もかも今の私達では難しくはありませんか」
結局、余所者がお金を与えて援助したところでその場凌ぎにしかならない。
けれど何か良い手があればとこうしてルージュ様に相談している。
「いっそ新たな国を起こしますか。その方が手っ取り早い」
「誰にその国を任せるのですか。それにその土地を得る為に戦争するのですか」
「なんの痛みも伴わずに事をなすことは出来ません。安心した暮らしを手に入れるのならば犠牲は覚悟すべきです」
その言い方だと難民達に自ら剣を取れと。しかしそれはあまりにも酷なのでは。
「戦乱が続く過酷な地で生き延びてきたのです。少しは戦う術も身につけているでしょう。現状を変えるために強者に庇護を求めるだけならば永遠に解決しません」
その言葉に反論すべき言葉も妙案も私には持ち得ていない。
「難民に今の現状を変える気概はありますでしょうか」
「無ければそれまでの話です。現状にただ嘆いていればいいだけです。なんの代償も得ずに利益を享受する事なんてないのだから」
自治区領を拡大し、自分達の糧は自分達で確保し、それらを自分達の手で自ら守る。
それしかありませんか。
「まずはスクルド様と凛子様にカリーの神官長に会っていただきましょう。そして彼等の真意を確かめてから食料や武器などの援助をするのかを決めるのがいいでしょう」
そのルージュ様の提案を私は受け入れて、二人でスクルド様と凛子様のもとへ向かった。
一抹の不安を抱えながら。
◇
「そろそろじゃないかな、私たちの出番」
「シェリー。あなたにしては冴えてますね」
「アンジュ。私を馬鹿にしてない」
「いえ。私だけではなく皆もそう思っていますよ」
円を描くように座している他の五人も頷いている。
「我が王の国を彼の地で。その名も、」
「待ってアンジュ。我が王って独り占めしないで。我らの王よ。もしくは私の」
激しい怒気を込めながらも静かにウェンリィが横槍を入れた。
そして案の定、他の者も騒ぎだした。
こうなるとしばらくは収集がつかない。
「今後は皆も言葉に気を付けましょう。特に王を独占するかのような発言を」
「最初に言ったのはアンジュだけどね」
シェリーがチクリと私のあげ足をとる。
「本題に戻しましょう。私がサクッと行って奪ってくればいいのね」
「ユキナ。それはそうなのですが言い方には気をつけてください。奪うだなんて聞こえが悪いではありませんか」
「人の支配地を奪うのですから何一つ間違っていないと思いますけど」
「それもそうですが、例えば不条理に苦しめられている無辜の民を解放するとかがあるでしょう」
はぁ、せめて大義くらいは唱えてくださいよ。
「そう。我らの王に相応しい大義は必要。略奪者とか簒奪者と呼ばれるのは避けるべき」
滅多に発言しないメアが私のフォローにまわる。これは心強い。
「そうね。我らが王をそんな風に呼ばれるのは許せないわね。言葉には気をつけるわ」
「アンジュ。それでどの辺りを解放するつもりなの」
「マナリア。それは西部地域一帯に決まってるわ。そこに人々の楽園を創るのよ」
「人、というよりは私のって聞こえるのは何故かしら」
ウェンリィの鋭いツッコミが入る。
「でもさぁ。王は今住んでる所で充分満足してるのに移ってくるのかな」
たしかにそうね。仮にもあの地は女王ゆかりの地ですし。その可能性は大いにある。
「それでは私達が会いたいのを我慢してきた事が無駄になりますね」
「そう。サプライズにならない」
再会を祝してサプライズ演出を。と、密かに構想を練ってきたことが破綻してしまいます。
「せっかく女王さえも出し抜いてきたのに……」
マナリアのその嘆きが皆の表情を曇らせる。
これではまた振り出しに戻るだけでは。何か良い妙案はないものなのでしょうか。
「けど、こっちの王は一途だから良いよね。少し精神面が弱いけどさ」
「そうですね。そこら辺は好感が持てます」
シェリーの言葉をフレアが肯定するもウェンリィが否定した。
「私はあちらの王の方が好きです。あの強い信念と、どんな逆境でもやり遂げる心の強さ。そして自分から進んで民に無償で畑仕事などを笑顔で奉仕する姿には強く心を惹かれます」
まぁあちらの王は折れず逃げずに進んだ御方ですからね。女王の教育が間違っただけで。
「二人を足して割れば丁度良いのに」
「そう。極端過ぎる。我らの王は」
マナリアの言葉をメアが肯定した。
「でも、どちらの王も我らが惹かれる程に良い男なのは変わりません。それで良いではありませんか。それに今までだって完璧だった事など一度もないのですから」
皆がそのユキナの言葉に納得していた。
「そうですね。その為に私達がいるのですから。これからも変わらずに王を支え続けるだけです」
そう。どんな事があってもそれは変わる事のないものなのです。
「それでどうするの」
私達は再度策を練り直すことにした。
「こうしてるうちにあっさり死ななければいいですけど」
「たしかに。王も女王もうっかり、あっさり突然死にますからね」
あああ、確かにそういった悪癖がある。
私達はサプライズ案を急いで仕上げることにした。
あああ、どうか私達と無事再会を果たすまで無茶をなさりませんように。
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