邪神様に恋をして

そらまめ

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新婚編

閑話

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 私と悠太くん、アルヴィドの三人が追いついた時にはヒルデをはじめワルキューレ達が傷つき倒れたりしていた。
 ゼウスとの勝利で楽観視していた私は、自分の認識の甘さを痛感した。そう、ここは冥界で彼が十全に力を奮える領域なのだ。
 私はこの場での戦闘は不利だと判断して撤退を決断した。

 そんな中、悠太くんは殺されそうになった凛子をハデスから守りこちらに戻ってきた。
 撤退の事をすぐに伝えようとしたが、彼はハデスと戦うつもりなのだとすぐに分かった。
 私は仕方がなく、撤退する僅かな間、その時間稼ぎだけ、と念を押して彼を送り出した。


 ハデスの所へ、ゆっくりと歩を進める悠太くんが、私の目の前で信じられない事をしてみせた。
 あり得ない事に妖精達と同化して一つになったのだ。

「ほう、やはり彼だったか。懐かしくも美しい輝きだな」

 その知った声に振り向くと、兄フレイが街に残してきたはずのマチルダ達と共にいた。

「兄さん、なぜ此処へ」
「君に伴侶ができたと聞いてね、お祝いに来たんだよ。しかし、君の一途さというか、しつこさには舌を巻くよ。あれから何万年も想い続けて、やっと結ばれたのだからね」

 兄は私を見ずに懐かしそうに悠太くんを眺めながら、そう嬉しそうに話した。

「だからといって、なんで皆をこんな危ない所に連れてきたのですか。馬鹿なのですか、あなたは」
「久々に会った兄にそんな軽口を叩くなよ。それに私がいて危険なんてことはあり得ないだろ」

 また私も見ずに、にこやかに悠太くんを眺めながら話した。なんなのこの男は。

「兄といっても、わたし達は双子ですから。あなたは私の中では弟なの。それに、私の悠太くんを面白がらないで」
「へえ、最初に仲良くなったのは私だった筈だけどな。そうだ、そんな生意気な妹の為にあの頃の、そう彼と初めて会った頃の話を、ここで皆にしてあげようか」

 クッ、はじめて私を見たと思ったら小憎たらしい笑顔で脅して。

「あれ、フレイヤ、顔が赤いけどどうしたのかな」
「くっ、なんでもないわよ。そうね、フレイがいたら安全よね」
「そうそう、分かってくれれば、それでいいんだよ。それにしても、あの白金の美しい輝きをまた目にする事が出来るなんてね。そういえば君も、あの彼の輝きに絆されたんだよな」
「はああ、なに言ってるの。わたしは悠太くんの全てに惹かれたの、あの輝きだけではありませんから」

 つい、まんまと乗せられてムキになってしまった。
 どうも兄さんといると調子が狂う。昔からそうなのだ、そうやって面白がって揶揄ってくる。何度邪魔されたことか。

「でもさ、あれはまずくないか。あんな脆弱な身では長くは持たないだろ。相変わらず考えなしの思いつきで行動する癖は、生まれ変わっても変わらないのだな」
「悠太くんは考えなしの思いつきだけで行動する人じゃありません。失礼な事を言わないで」
「いや、そっちじゃなくて。だから、あ、もう決着がつくな。なんだ、ハデスも噂よりも大した事はないな」

 え、決着。ちょっと、悠太くんの勇姿を見逃すところだったじゃない。

 あ、確かにすごい。人の身であんな事が可能なの。
 人を超えた高速な動きと、あの完璧なマナの制御。
 あの取り込んだ精霊のマナをどうやって内包してるの。確かに彼のマナの器は大きいけれど、それだけでは絶対に不可能だ。なにもかもが説明がつかない。


「おおお、あの技は凄いな。あれに耐えられる者なんていないだろ。だが、あれで限界だな。フレイヤ、彼を助けに行った方がいいぞ」
「はあ、なんで勝ったのに助けにいく、あっ、悠太くん!」

 悠太くんが突然、糸の切れた人形のように倒れた。
 クロノアが叫びながら必死に何かをしている。
 わたしは必死に走って悠太くんを抱き起こすと彼の容態を確認した。大丈夫、たぶん身体的疲労だ。

「エイル、こちらへ! それにヒルデ、動けるなら皆を連れて竜魔族の里に!」

 わたしは急いで悠太くんを休ませる為に竜魔族の里に連れていった。



 ◇



 湖畔で水浴びをしていると木の影から少女が布を持って現れた。
 彼女は俺が服を置いた場所に座ると何も言わずに顔を赤らめてうつむいた。
 男の裸を見て恥ずかしがるのなら来なきゃいいのに、と思いながらも、俺も何も言わずに水浴びを続けた。

 身を綺麗にして湖からでると、彼女は頬が赤く染まった顔を背けながら、布を手渡してくれた。

「ありがとう」
「うん」

 なんとも短いやり取りだが、いつもの事だ。
 彼女は最近親しくなった男の妹だった。
 ただ、彼と最初に親しくはなったが、出会って話したりしたのは、彼女の方が先だった。
 俺は爪弾き者扱いで親しい者もおらず、親もいなかったので、一人でいる事が多かったのだが、彼女は初めて会った時から何故か俺の後を黙ってついてくるようになった。

 たぶん、彼女はかなりの変わり者なのだろう。

「今日は兄さんはいないのか」
「うん、お父さんと一緒に出掛けた」

 俺は服を身につけながら彼女にうなづいて答えた。
 体を拭いて濡れた布を肩に掛けて彼女の隣に座ると、また顔を赤らめて、うつむきながら少しだけ、彼女は俺から離れた。

 どうやら彼女には他人を近づけない絶対領域があるらしい。なのでいつもの様に揶揄いがてら近づくと、また、いそいそと少し離れた。
 そんな事を三度繰り返したところで彼女が頬を膨らましながら怒った。なんともたまらないかわいい表情を見せる。

「なんでそう意地悪ばかりするの」

 俺は笑って彼女の頭を撫でながら軽く謝った。
 なのに、まだ頬を膨らまして顔を背けて怒っていた。

「で、今日の昼食は何を持ってきてくれたのかな」
「そんな意地悪な人にはあげません」

 どうやらまだ不貞腐れているようだ。
 未だに顔を背けて頬を膨らましているのだから。

「そっか。なら昼寝でもするよ」

 そう言って俺は寝転んで空を眺めた。
 雲ひとつない美しい青空が広がっていた。
 瞼を閉じても暗くはならずに暖かな陽の光を感じる。

「ねえ、本当に昼寝するの。せっかく美味しい物を作ってもらったのに」

 瞼を開けると、俺の顔を上から覗き込んでいた。
 彼女は俺と目が合うとまた何故か顔を赤らめる。
 そして、その彼女の美しく銀糸のような髪が陽の光で綺麗に輝きながら俺の顔を撫でていた。

 今日の青空もいいが、これはこれでいい光景だ。

 こんな穏やかな時が続けばいいと思った。
 彼女はいつもそれを俺に届けてくれる。


 穏やかで陽だまりのようなぬくもりを


 いつもありがとう。
 そう呟いてまた俺は瞼を閉じた。
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