邪神様に恋をして

そらまめ

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新婚編

邪神様、脳内会議も人が多いとウザいものです

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 フレイと朝食後に合流し、水龍の棲家まで行った。
 皆には、ただ遊びに行くとだけ伝えて。


「あれで良かったのか。ちゃんと本当の事を言わなくて」
「ああ、あまり心配掛けたくないしな」

 しかし、相変わらず不気味な階段だ。
 また目にしてそう思った。

「これは冥界へと繋がっているのか。厄介な女に預けてくれたものだな」
「また冥界に行くのか。で、その厄介な女って誰だよ」
「行けばすぐに分かるさ。さあ、降りるぞ」

 フレイは躊躇なく階段を降りていった。
 そして俺はというと冥界と聞いて、及び腰になりながらも必死にフレイの後をついていった。


 階段を降りると薄暗い洞窟のような所で、人が歩ける道が奥まで続いていた。
 岩が剥き出しで凹凸の岩壁、生あるものなどの存在を許さないような冷たく厳かな空気。
 あのハデスの時よりも得体の知れない恐怖で背筋が寒くなる場所だった。

 そんな場所を平然と先を歩くフレイの後を自然と半腰になって歩きながらついていった。

 やばい、本気でこわい。
 見えない何かに冷たい手で全身を撫でられている、そんな感覚に陥る。

「もうユータ、しっかりしてよね。そんなにビクビクしてたらこっちまで怖くなるじゃない」

 クロノアが俺の胸元から頭をひょっこり出していた。

「あっ、なんでノアが!」
「はぁ、当たり前の事を聞かないでよ。私はユータのメインサポートなんだから一緒にいるに決まってるじゃない」

 そう言ってクロノアはニタッと笑った。

「俺とした事がなんで気付かなかったんだ。やっぱり羽より軽いからなのか」
「ふふん、ユータもまだまだだね。私を出し抜こうなんて一億年早いわよ」
「ちくしょう、すげえ負けた気になる」
「いや悠太、負けた気じゃなくて、負けたんだぞ。というか、私は気付いていたけどな」

 あん、だったら教えてくれたってよかっただろ。
 まったく、勝手についてきてクロノアにも困ったものだ。

「はぁ、ノア、危なくなったら、ちゃんと隠れてろよ」
「私がいて危なくなった事なんてないでしょ。安心しなさいよね」
「クロノアの嘘つき。悠太様をいつも危ない目に合わせてるくせに、忘れちゃったの」

 シェリーが通常バージョンで俺の顔の横に現れて、そうクロノアを揶揄った。

「あん、シェリー、些細な事でケチをつけるんじゃないわよ。本気でお仕置きするわよ」
「ふん、一度勝ったくらいで、いつまでも勝者でいられると思ったら大間違いだからね。肉食系精霊なんかに負けないんだからね!」

 おい、こんな場所で俺が恥ずかしくなるような喧嘩はやめなさい。
 とりあえず、シェリーとクロノアの頭を軽く人差し指で弾いた。

「イタッ!」
「はい、そこまで。前に仲良くしなさいって言ったよね、俺。君達、まさか忘れてないよね」

 シェリーは速攻で消え、クロノアは何事もなかったように前を向いた。ほんと、お気楽な奴らだ。

「悠太、あの娘たちのおかげで恐怖も吹き飛んだようで何よりだ」
「まあ、俺の最高のサポーターだからな。あ、羨ましくて欲しいって言っても絶対にあげないからな」
「あははは、私が望んでも彼女たちは悠太から絶対に離れないよ」

 そうだろう、そうだろう。
 うん、最高の相棒達だからな。
 そう簡単には心変わりしないさ。


 かなり進んだはずだが、まだ奥まで道は続いている。
 クロノアのおかげで恐怖も和らいだが、あの冷たい手で撫でられている感覚は消えてはいなかった。

「七つの門があると聞いていたが無いな」

 門? そんなものがあるのか。
 神社とかにあるような鳥居みたいなやつなのかな。

「悠太様、そろそろ」

 アンジュが現れて一つになるよう促した。
 ということは敵が現れるということか。
 俺は素直にアンジュの進言に従って、彼女達と一つになった。
 う、落ち着くまでのマナが全身を駆け巡る感覚は相変わらずキツイな。

「悠太、そんなに早く同化して大丈夫なのか」
「ふふふ、特訓と改良の成果をみせてやるよ。今じゃ一生合体してても平気なんだよ」

 フレイは顎に手を当てて、腰を曲げながら俺をジロジロと観察した。

「ほう、見事なものだな。なるほど、上手い対処法を思いついたものだ」
「だろ。これも俺達の絆が成せる技だ」

 得意げに自慢したが、考えたのも実際に実行しているのもアンジュ達だ。俺は彼女達のなすがままななんだけどな。

『来ます』

 アンジュのその言葉に俺は刀を抜いて、周りを警戒した。
 そんな俺を見て、フレイも剣を構えた。

「悠太、いい反応だな」

 はっきり、くっきり見える死者の戦士が四方からワラワラと現れた。
 普通の幽霊よりはマシだな。助かったぜ。

「俺の友人をなめんなよ」

 俺とフレイは背中合わせになり、剣で襲ってくる死者の戦士を迎撃する。
 刀で斬れば簡単に炎が消えるように消え去ってしまうのだが、数も多ければ四方八方と現れて襲いかかってくる。
 一番厄介なのは地面から現れて足を掴もうとする奴なのだが、うちの優秀なメインサポーターが足を掴ませるような事は許さなかった。

「ノア、サンキュー」
「うん、足下は私に任せて」

 クロノアは地面から湧いて出てくる敵を、あの灰色の爆炎魔法やテティスの神殿で使った収束魔法などを自在に操り瞬時に倒していく。

 やっぱ強いな、クロノアは。

「おい悠太、お前だけズルいぞ。私の方も少しはフォローしてくれ」
「あん、フレイヤの兄さんならこんなの軽くやっちゃいなよ。フレイヤなら欠伸をしながら倒してるよ」
「あんな戦闘狂と一緒にするな。私は平和主義者なんだよ」

 おい、マルデルを戦闘狂呼ばわりするな。
 たしかに強いのは認めよう。
 ハデスの所では拳一つで、華麗に俺を守ってくれたしな。

「なんかキリがなくね。全然数が減ってないような気がするんだけど」

 改良と特訓のおかげで疲れ知らずで刀を振るえるのはいいが、単調過ぎて飽きる。

『悠太様、気を抜いて油断してはいけません』
「は、はい、アンジュ様、かしこまりました」
「そうだよ。ユータの悪い癖だからね」

 怒られた。この改良版は俺の気持ちがダダ漏れになるという欠点があった。まあ、アンジュ達のもなんだけどな。
 なので、精神的疲労が激しいのだ。
 なにせ今だってシェリーは、ああ、めんどくさ、魔法で吹き飛ばしてやろうかしら、とか考えてるし。あの温厚なマナリアさえも、ウザい、地中深く埋めてやろうかしら、などと考えている。
 俺の頭の中は常に彼女達の言葉で溢れているのだ。

「フレイ、これいつまで続けるんだ。振り切って、先を目指した方が良くないか」
「どこからでも湧いてくる奴らを振り切れると本気で思ってるのか」
「まあ、無理だよな」
『あああ、ウザい、ウザいんですよ!』

 フレアがキレた。
 左手が勝手に前に突き出したと思ったら、眩いばかりの光の魔法が音もなく四方八方に放たれた。
 光が収まると、死者の戦士は全て消え去っていた。

「……おい、フレア。最初からこれを使ってれば、おまえキレることがなかったんじゃないか」
『え、だって悠太様の活躍の場を奪ったら悪いじゃないですか』
「いや、俺は活躍したいだなんて、これっぽっちも思ってないぞ」

 俺は指でその小ささを示してやった。
 フレイとクロノアはあきれて俺を冷ややかな目で見ていた。

『だって、アンジュが』
『フレア、私のせいにしないで』
『え、じゃあ、シェリーが』
『えええ、あんた達、裏切るつもりなの!』

 どうやら擦り合いが始まったようだ。
 これも朝の交流会名物なのだが、ダイレクトに頭の中に響くぶん、かなりウザい。

「はいはい、仲良くしましょうね。あまり騒ぐと俺、頭が痛くなるから大人しくしてくれよ」

 彼女達は静かに返事をして、大人しくなった。

「悠太、私のこの疲れは無駄だったのかい。最初からそれをしてくれよ」
「イテテ、悪かった、でも、俺も知らなかったんだから許してくれよな」

 俺はフレイに頬をおもいっきり引っ張られた。
 彼は最後に捻りを加えて手を離した。何気に意地が悪い。

「まあいい、先に進もう。でも次からは真面目に戦ってくれよ」
「あん、俺は真面目に戦ってたぞ。手を抜いてたのはフレアだからな、勘違いするな」
「悠太、おまえそういう時だけ大切な友を見捨てるんだな」
「人聞き悪いことを言うな。見捨てていない、真実を言っただけだ。それにこんな事はいつもの事だからな。俺達は嘘も飾ることもなく、何でも言い合える友人なんだよ」

『悠太様、それはズルくはないでしょうか。利用するだけ利用して、ポイ捨てにするつもりなのですね』

 く、泣き真似だと。アンジュめ、いつの間にこんな演技派になったんだ。

「ユータに似るんだよ」
「クロノア、きっとお前の真似してるんだぞ」
「ほら、痴話喧嘩してないで、さっさと行くぞ」

 してないわ! その二人の声が大きく響き渡った。

 あーあ、俺にとってはデカ虫ゾーンの次に恐ろしい場所な筈なんだけど、今回は余裕だな。
 まあ、彼女達のおかげなんだけどね。

 俺は先を歩くフレイに走って追いつくと隣に並んで歩いた。
 さあ、先を目指しますか。
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